偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ジャンゴ 繋がれざる者(2012)


1850年代の南部アメリカ。黒人奴隷のジャンゴは、賞金稼ぎの歯科医シュルツに助けられ、生き別れた妻が奴隷として酷使されているという農園に、彼女を救い出すため向かう......。


テーマ曲の「ジャンゴ〜♪」に合わせてデーンとタイトルが出るオープニングからして「映画!」って感じが強烈な、最強娯楽映画。
西部劇はあまり観ないから分からんけど色々とオマージュっぽい部分も多く(元ネタ知らないけど「なんかのオマージュだろうな」と分かるレベル)、とにかく楽しい作品です。私はタランティーノ作品の中でもこれが一番好き。

なんせ賞金稼ぎの歯科医シュルツと主人公のジャンゴのコンビが、とにかく躊躇なくムカつく奴らをぶち殺していくわけですから楽しくないはずがない!
観てる私がクソ野郎どもにイライラしてきて「あーさっさとこいつらぶっ殺しちゃってくださいよ〜」と思う0.5秒前くらいにズドン!ってやっちゃってくれるので事あるごとに快哉を叫びました。
ほら、テレビでスカッとジャパンってあるじゃないですか。今もやってるのかは知らんけど。子供の頃あれ見てて「いやいや殺さなきゃスカッとしねえだろ」と思ってんですが、本作はもう銃弾と流血に満ちたスカッとアメリカンですよ。
『デスプルーフ』の感想にも書いたけど現実がクソだからせめて映画の中ではこんくらいシンプルに「悪いやつは皆殺しだぜ!!!」ってのを観てスカッとしたいんすわ。
そんでその殺しのシーンも、緊迫感がある状況から一旦ちょっと脱線してゆるい無駄話が続いてダレそうになったらドカン!みたいな緩急も非常に上手いし、緩急の「緩」の部分ではいつものタランティーノ作品のどうでもいい駄弁りの面白さも存分に味わえて最高です。白い覆面被ったKKKみたいな集団が、「この覆面ぜんぜん前が見えねえ誰が作ったんだよ」「あいつの嫁だよ」みたいなことを延々言ってるシーンのアホくささとか爆笑したし、爆笑しつつ覆面で前が見えないことが彼らの黒人蔑視への盲信を表しているようで悍ましくもあり、だからこそその後の展開が痛快すぎます。

基本的にはそんな感じで差別主義者どもをぶち殺していくシンプルで痛快な映画なんだけど、ところどころで「えっどうなるの〜!」みたいな展開もあって3時間を飽きさせないのも凄い。
また、そもそもが白人男性至上主義的なところのある西部劇というジャンルをあえて黒人主人公でやってしまっている本作は、西部劇への愛に満ちたオマージュに加え、これまでの映画史への批判も含まれていて、愛と反省を両立させるところに映画オタクとしての誠実さを感じます。この辺はエドガー・ライトの『ラストナイトインソーホー』にも通じる感がありつつ、あっちはどうもメッセージと手法がチグハグなところはあり本作の方がスマートに見えますね(ラストナイトも好きなんだけどさ)。

中盤くらいから、ジャンゴの妻を奴隷として"所持"している農園主(ディカプリオ演)の屋敷に行くんですが、このディカプリオの悪役っぷりがまた凄い!憎たらしいんですよね〜。あぁ〜こいつムカつくよ〜タイタニックの時はあんな美青年だったのにさ〜とディカプリオへのヘイトがぐんぐん高まります。
しかし相手のテリトリーに入ってしまっている以上、目的を悟られれば多勢に無勢、表面上は友好的にせざるを得ないことのフラストレーションがぐんぐん高まっていき、最高潮に達したところから一気にアクションに転じるあたりがまたテンションぶち上がりますよね。
そっからはまぁネタバレになるから詳しくは言えないんだけど、ラストまでにかけて喜怒哀楽の間をぶんぶん振り回されるような展開の連続で、ド派手なアクションも連続して愉快痛快でもあり、何よりラストが最高で、これまた『デスプルーフ』の感想でも同じこと書いたけどこれは今まで観た全ての映画でもトップクラスに好きなラストシーンっすわ。
一緒に観てた妻と一緒に「惚れるわ〜!」と叫んでしまいました。

まぁそんな感じで、一般的な反差別だけでなく映画史の差別的側面にも鋭く切り込みつつもただただ娯楽映画として最高に面白く、ピザとハンバーガーを同時に食べるような超満腹感のある傑作でした。