偽物の映画館

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西澤保彦『春の魔法のおすそわけ』読書感想文


盛大に酔っ払い、昨夜の記憶を失くした作家の小夜子。ふと気付くと自分のバッグの代わりに見知らぬセミショルダーを抱えていて、その中身はなんと2000万円の札束!
酔いまかせにヤケクソになった彼女は、偶然見かけた美青年・優弥をその金で買うことにし......。


春の魔法のおすそわけ (中公文庫)

春の魔法のおすそわけ (中公文庫)


西澤保彦らしく酒から始まるノンシリーズ長編ですが、良くも悪くも短編のような気分で読める作品です。
そう、良い意味では、サクッと読めて手軽に楽しめる、悪く言えば薄味、という感じですかね。

一番の見どころはやっぱり主人公の大暴走っすよね。
なんせ、上からも下からも汚物を撒き散らしながら美青年を他人の金で買って酒を飲みまくるという何らかの妖怪かのような行状!
最初はトホホ......という気持ちで読むんですが、人生の先が見えてしまって自棄になる彼女の姿にだんだんと共感していってる自分に気付いて驚かされます。汚さや愚かしさも含めて人間味のあるキャラクターですね。


ミステリとしてはご都合主義的な偶然を積み重ねた上で予想の通りの真相に至るもので特に面白みはありませんが、とはいえ、すっきりと軽い読後感は素晴らしいですね。

で、タイトルがこの読後感を見事に言い表しています。たしかに、春の魔法をちょっとだけおすそわけしてもらうように、ひとときの非日常を味わわせてもらえました。
決して明るくはないけど、後味は爽やか。ちょっと気分が落ちてる時なんかにオススメの一冊です。