偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

西澤保彦『ソフトタッチ・オペレーション』読書感想文


続いてチョーモンインシリーズ、現在のところ最後の作品となるこちら。


やはりシリーズキャラはどんどん出なくなってきてるし、ミステリとしての質もどんどん落ちていってる気がするのが残念なところ。
この分だともうシリーズの完結さえ望めなそうなので、なんとも尻切れトンボですわね。

以下各話感想を。




「無為侵入」

3件連続して起きた、サイキックによる住居侵入。盗難や盗撮などの被害はなかったが、侵入された部屋の住人たちは全員、なぜか自らの意思で引越しをしたという......。


超能力で不法侵入しておきながら何もしない、そのくせ侵入された住人たちは全員が間を置かずに引っ越している......という不可解な謎は非常に魅力的。
しかし解決は非常につまらないです。
推理の過程でのとある発想の転換が面白さのピークで、ミッシングリンクは特に意外でもなく、動機なんか三文ドラマみたいな、それでいて著者のメッセージだけは強く感じるもので「てかそれ言いたいだけやん!」と呆れてしまいます。





「闇からの声」

真っ白な雪を染める鮮血の夢。目覚めると、母はいなく、父の様子はおかしく、私の記憶は曖昧だった。どうしてお母さんはいないの?1年前のあの日に私は......。


からの、これはめちゃくちゃ好き。
まぁ、もはやこのシリーズじゃなくてもいいどころか、シリーズの世界観を完全にぶち壊している気さえしますが、単体の短編として読めば普通に面白い。
曖昧な記憶、胡乱な母娘関係の気持ち悪さと、雪に落ちる鮮血の光景が幻想的な不穏さ。(ネタバレ→)純白の雪に落ちる血がそのまま、処女を喪うイメージに重なるのも綺麗ですね。
あるいはもうちょい長いとツッコミどころが目に付きだしそうですが、みじかく纏まってることで鮮やかに感じられました。怪奇幻想味のある良作です。





「捕食」

大学生の保科は、友人らとスキー旅行に行った際ひとりではぐれてプチ遭難した。
歩くうちに見つけた宿に泊まるが、主人は自分の手料理は絶対に他人に食べさせられないと語り......。


これも雪山というロケーションもあってちょっと怪奇幻想の香りがしますね。あるいは世にも奇妙な物語、的な。
シリーズもここまで来ると、こういう捻った超能力の使い方してくれた方が(超能力いらんやんってやつより)良いですね。
真相は結局それかよという気もしつつ、伏線は回収され、意外性もそこそこあっていいと思います。





「変奏曲〈白い密室〉」

知人の結婚式の余興で演奏をすることになった優子と友人たちは、練習場所である条治の家を訪れるが、邸内に彼の姿は見当たらず、作りかけの料理だけがポツンと残されていて......。


なんだろう、つまんないわけじゃないんですけど、ちょっとお話の焦点がぼやけた印象と言いますか。
楽団の仲間たちのキャラが濃さそうなわりにはそんなにキャラが活かされずに終わるし、いろんなことが絡み合いすぎてややこしいわりには犯人を指摘する根拠はめちゃくちゃシンプルだったりと、なんとも捉え所がなく、どういう話だったか一言で説明しづらい感じなんですよね。
あと、タイトルはさすがにハードル上げすぎでは。





「ソフトタッチオペレーション」

居酒屋〈ぱられる〉に名物店員のマイさん目当てで通う浩美。ある日、マイさんに休業中の店に誘い込まれ、意識を失う。気がつくと、2人の女性とともに窓のない部屋に監禁されていて......。


とりあえず、キャラはめっちゃ良い。
脚フェチの主人公浩美くんの脚への情熱が迸りまくるハーレム状況が羨ましすぎて、一応ソリッドシチュエーションスリラーっぽいのに全然そういう緊迫感はなかったですね。
私も知り合いなら脚だけで判別できなくもないと思うけど、彼ほどの脚識別能力は持ってないっすからね。悔しいけど負けたよ。
ただ、ミステリとしてはあんまり、なんつーか、無理がありすぎるのでは、という気がしちゃいます。キャラクターを戯画化することで心理的説得力のなさをなるべく減らしているのは分かりますが、そこにさらにすごい偶然が重なるとなんかもうどうでもよくなってしまうというか......。