偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

君に捧げる「青春」ミステリ10選

はい。今週もやってまいりました10選シリーズ。
今回のお題は青春ミステリです。
先週が恋愛ミステリだったのでやや被りそうになりつつ、恋愛だけではない青春の煌めきと苦悩、あるいは、青春時代だからこその切ない純愛......というところの差別化を意識してのセレクトに一応してあるつもりです。

とにかくエモい作品ばっかなのでみんな読んでね!




1.浦賀和宏『透明人間』

幼い頃に見た透明人間。雪密室での父親の不審死。そして10年後、自宅の地下にある亡き父の研究室を訪れたかつての同僚たちは次々と殺され、理美は恋人の飯島と共に地下に閉じ込められてしまう。


青春ミステリの金字塔、安藤直樹シリーズより。本当は最初の3作品を挙げたいところですが、あれは3つでセットなので7作目だけど単体で読んでも大丈夫な本作を。
とにかく、エモい!以上です!
......いや、もう、ミステリとしてのカタルシスが、青春小説としてのエモーションであり、その果てに見る純愛の美しさ。




2.西澤保彦『黄金色の祈り』

他人への嫉妬と軽蔑を抱きながら、あらゆることから逃げて生きてきた僕。アメリカの大学へ進学するが社会から脱落し、一発逆転を賭けて、旧友の死を題材に小説を書き始める。


「恥の多い生涯を送りやがって」と言いたくなるような、現代の人間失格
主人公がとにかくクソ野郎で、嫉妬、性欲、承認欲求などという歪んだ自意識を持て余してるんすよ。本当に彼を見ているだけで恥ずかしく、ああ、そうだ、これが青春のイカ臭さなんやと、そうね、うん、死にたくなるよ。ミステリ部分はまぁどうでもいいや。




3.千澤のり子『シンフォニック・ロスト』

とある中学校の吹奏楽部。ホルンの泉が想いを寄せる先輩が、「部内でカップルが出来ると、片方が死ぬ」という噂の通り、死んだ。


主人公が好きな先輩に「あいつまじキモいんですけどw」とディスられる冒頭で非モテ男子として共感したと思えば、その後のモテっぷりに一気にムカつきましたが、そんなThe青春なあれこれで一気に読まされていると、ミステリとしての真相に抜かれます、度肝を。
そして、その真相がさらに青春小説としての余韻をグッと深め、消せないアドレスMのページを指で辿ってしまいます。




4.阿津川辰海『紅蓮館の殺人』

高校生の名探偵と助手コンビは、勉強合宿を抜け出して山奥にある大物作家の館を目指す。しかし、道中で山火事に遭い、避難した館では殺人事件が起きる。


「名探偵の在り方」を描いた小説でもあるのですが、敷衍して「自分の生き方」を模索する物語にもなってますof the青春!
かつて挫折を味わい信念を捨てた女性との掛け合いは、青春の終わった人間としては非常ヒリヒリします。
またミステリとしても、膨大な量の伏線回収をしていく解決編は圧巻。
いろいろ詰め込まれてるけど、青春小説として一本筋が通ってるので気にならないですね。




5.山田正紀ブラックスワン

テニスクラブで焼死したと見られる女性は、18年前に失踪していた。当時大学生だった彼女は、仲間たちと瓢湖を旅行中、黒い白鳥を見たという。


中年になった関係者たちの日常と、たった一度の青春時代の旅の記憶が交錯。
美化された記憶が切なさをいや増し、曖昧な記憶が謎を魅力的にする。回想の手記と現在を行き来する構成に流され、ミステリとしても巧妙な結末に至って、タイトルが余韻となって胸に迫る。セツナすぎる傑作です。




6.多島斗志之『黒百合』

14歳だった私は、六甲にある父の友人の別荘を訪れる。私と、父の友人の息子は、遊んでいる時に出会った少女・香に共に淡い恋心を抱く。


夏に出会ったちょっと可愛い女の子。ひとなつの、初恋。男子は特にきゅんきゅんすること必至。
一方でその後の時系列の出来事も挿入され、初恋の思い出がより立体的に見えてきます。
結末はあまりにも意想外でパッと見どういうことか分からなかったくらいですが、少し経って真相に思い至った時に、今まで見えていなかったもう一つの物語が浮かび上がる。
子供の初恋と知られざる大人の世界が交わる傑作です。




7.トマス・H・クック『夏草の記憶』

田舎町の医師である主人公。彼は高校生だった30年前を回想する。転校生の少女への淡い恋心。そして、あの夏、彼女を襲った悲劇を......。


現在、近い過去、高校時代をカットバックで行き来する構成は、はじめはとっつきづらいですが、慣れればキラキラした青春只中と、ヒリヒリする現在の視点の交差にエモさ100倍。
謎となるのはただ1点、「あの日、何が起こったか?」。それも現在視点から回想してる時点でだいたいのことは明かされているわけですが、それでもラストでは驚きました。
青春の、そして人生の不可逆性がエグい余韻となります。




8.中西鼎『東京湾の向こうにある世界は、すべて造り物だと思う』

文化祭の最中に軽音部の部室で殺された少女・ミズ。事件を引きずりながら社会人になって虚な日々を送る井波の前に、彼女は幽霊となって現れた。


バンド、学祭、幽霊になった女の子、すなわちエモエモ!
バンド名や曲名など固有名詞がバンバン出てくることで元ネタ知らなくても青春のパーソナル感が染みてきます。
ミステリとしての解決は中盤で終わっちゃいますが、その後のいわば青春の解決編がエモ散らかしてます。追憶と情景の青い春。




9.森絵都『カラフル』

一度死んだ「ぼく」の魂は、天使の抽選に当たり、現世で小林真という少年に乗り移った。しかし、小林は家庭でも学校でも上手くいかない日々を過ごしていた。


まぁひとつくらい変化球をっていう下心もありつつ、中学時代にリアタイで読んで、恋や家族への等身大の苦悩と意外とミステリー的な要素もあるラストに心打たれた作品なので選んでみました。あと、完全に私怨ですが私の初恋の思い出にも関わっている作品なのです。と言いつつあれ以来読んでないので、久しぶりにまた読もうかしら。




10.ムラーリ・K・タルリ 監督『明日、君がいない』

最後に映画を一本。

とある高校で、2時37分、誰かが自殺した。
その瞬間に至る1日を、6人の生徒の視点から描いた群像劇。


登場人物みんなが何かしらの悩みや問題を抱えていて、見ていてとにかく息苦しくなるような作品です。
一方で、時系列が入り乱れ、誰が死んだのかが最後まで明かされない構成はミステリ的でもあり、最後になって意外性と共にやるせなさが胸に迫り、「明日、君がいない」という邦題が案外じんわりと染みてきます。ナイス邦題。