偽物の映画館

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山田正紀『ブラックスワン』読書感想文

実を言うと山田正紀氏は私の通っていた学校のOBで、50近く年が離れているとはいえ同窓の人間としてシンパシーを抱いていたりしまして。
とは言いつつ、『ミステリ・オペラ』を読んだ時に長い割にあまりハマれず、それ以来きちんと読んでこなかったのですが、本書はかなりタイプなお話でとても楽しめました。

ブラックスワン (ハルキ文庫)

ブラックスワン (ハルキ文庫)


世田谷のとあるテニスクラブで女性が焼死する事件が発生。しかし焼死したと見られる橋淵亜矢子は、18年前に失踪していた。
当時大学生だった亜矢子は、友人らと7人で瓢湖を訪れ、そこで"ブラックスワン"に出会っていたという。
自費出版の事務所を営む桑野は、当時の関係者たちの手記を集めながら失踪事件の謎を追うが......。


というわけで、白昼堂々のショッキングな焼死事件と、若者たちの刹那の青春とが交錯する、非常に私好みの作品でした。



青春がテーマの作品ではありますが、それが直接描かれるのではなく中年になった関係者たちが当時を回想する"手記"として描かれるのが良いと思います。回想だから曖昧なところや美化したようなところもあって、どこかおぼろげに霞んでいるような青春の描き方。それが逆に刹那を思わせて情景や心情を印象付けます。
また、手記の文章自体も絶妙にリアルに素人が描いた臭くて、でもちゃんと読みやすいので凄いです。

そして、今風に言うとリア充組が半分に非リア組が半分みたいな7人の若者たちのメンバー構成が秀逸。
特に第一の手記を書いてるのが非リア側だけど一番下ではない感じの男の子なので、非常に感情移入しちゃって。チャラ系男子に誘われて旅行に行ったら綺麗な女の子が2人もいたらね、そりゃあね。惚れてまうやろ!
......の後に今度はあの人の手記が続くあたりはずるい。やり場のない切なさに胸を締め付けられます。若いって、切ない。

と、そんな感じで、青春小説としての魅力に酔っていたら、ミステリとしての真相にガツンとやられちゃいました。
まぁ、つっこみどころというか、やや腑に落ちないところもあるにはあるし、それを全部「青春だから......」で済ますのは乱暴だとも思いますけど、でも青春小説として素晴らしいからその辺のつっこみどころもそこまでは気にならず。
それまでは手記で語られる青春にばかり感情移入してたのが、ラストに至って思わぬ別のストーリーのエモさに不意打ちされるという、ミステリと物語の融合がね、やばたにえんです。
しかも、(ネタバレ→)手記自体には何のトリックも仕掛けられていないのがまたうまくて、物語の余韻を殺さずにサプライズを決めることに成功してます。

そして、作中でも何度か言われているように、読み終えてみるとそれぞれの青春模様がブラックスワンに象徴されているような気がして、タイトルと共に過ぎ去りし青春への追慕が胸に残る、うん、やはり私好みの傑作なんでした。