偽物の映画館

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三山喬『ホームレス歌人のいた冬』読書感想文

えー、私が読む本って、小説が99%で、残りの1%もエッセイとかばっかで、ノンフィクションのルポルタージュなんて今まで読んだことなかったんすけど、今回はフォロワーさんに勧められたこの本を読んでみました。
めちゃ面白かった。教えてくれたメガネおじさんサンキュー!

ホームレス歌人のいた冬 (文春文庫)

ホームレス歌人のいた冬 (文春文庫)

  • 作者:三山 喬
  • 発売日: 2013/12/04
  • メディア: 文庫


2008年の冬、朝日新聞の歌壇コーナーに、ホームレスを自称する公田耕一という人物の短歌が掲載された。
その後もコンスタントに入選を重ねる公田。その境遇の珍しさと、それだけに頼らない作品自体の質が相俟って一躍歌壇の人気者になるが、彼は朝日新聞側からの呼びかけにも答えず謎の人物のままで2009年の半ば頃に歌壇から消えた。

......そして、2010年、彗星のように現れていなくなった幻のホームレス歌人を、著者が追ったルポルタージュが本書ってわけです。


そもそも勧められた理由が「意外とミステリーっぽいから好きそう」ってことだったんですが、なるほどドンピシャでしたわ。

まずはホームレス歌人という題材が魅力的すぎます。
ホームレスと短歌という、なかなか違和感のある組み合わせに不謹慎かもしれませんが野次馬的好奇心を感じつつ、私だって世渡りめちゃくちゃ下手だからいつそうなるとも分からないという少しの共感もあり、二重の意味で興味を惹かれました。

もちろん実話なので実際の公田耕一による短歌もいくつも載っていて、これがまた良いんですね。
例えば、歌壇に採用された1作目が

柔らかい時計を持ちて炊き出しのカレーの列に二時間並ぶ

という歌。
ホームレスの日常を淡々と詠んでいく作風が魅力的で、彼の歌を読むだけでも面白かったですね。



で、本筋はそんなホームレス歌人を探すことですが、なんせ手がかりは短歌だけですから、なかなか捜索が進まない。
進まないんだけど、調査をする中で出会うホームレスの人たちや福祉施設の人との対話もまた読み応えがあるんですよね。

一口にホームレスと言っても本当に路上で暮らす人もいれば、定住所はないけどドヤに住んでる人まで様々で、そうなるに至る事情もまた様々。働けない理由、働かない理由も、自らの境遇に対する捉え方も当たり前ですが人それぞれで、彼らの話を著者を通して聞いているだけでも貴重な読書体験が出来ました。
また、後半で出てくる獄中歌人さんや、某大物の元同志のホームレスの方は、彼らの人生だけでも一冊の本になりそうなくらい印象的。
「ホームレス歌人公田耕一」を探す本ではありながら、その過程で出会うさまざまな人々のドラマでもあるんですね。

さらに、最初はそこまで明確な意思を持っているわけでもなかった著者も、取材を進めるうちに公田と自分を重ねるようになったりと、著者自身の物語としても読めて、非常に読み応えがありました。

そして、こういうルポだとどうしても「公田さんが見つからなかったらどうするんだろう?」と終わり方を心配してしまいますが、そこんとこの心配は杞憂でした。
見つかるかどうかは言いませんが、どっちにしろ納得感と満足感のある結末で、素直に読んで良かったと思えました。



そんな感じで、非常に珍しくこういう本を読んでみたんですがめちゃくちゃ良かったです。
もっと読書の幅を広げないとな、とも思いましたね。はい。