偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

井上夢人『ダレカガナカニイル』読書感想文

岡嶋二人の文章担当の人のソロデビュー作です。

 

警備会社に勤める主人公の悟郎は山奥にある新興宗教団体の修行施設を警備することになる。その夜、悟郎は自分に目に見えない何かがぶつかるのを感じ、直後、悟郎と同僚の目の前で施設から出火。焼け跡からは死体が見つかる。そして東京に帰った悟郎は、頭の中で誰かの声が聴こえるようになり......。

 

 

 

ダレカガナカニイル… (講談社文庫)

ダレカガナカニイル… (講談社文庫)

 

 

 

 

裏表紙のあらすじに「ミステリとSFと恋愛小説の奇跡的融合〜っ」みたいなことが書いてある通り、多ジャンルがミックスされた作品です。ただ、SFといってもかなりオカルトとかファンタジーに近いとは思います。

 

やたらと評判良い気がしますが、個人的には以下の2つの理由でそこまでハマれませんでした。

 

まず1つは、いや、あの、これ言っちゃ野暮もいいとこですけど......こういうファンタジー設定だと、オチに「そんなん作者のさじ加減やん」って思っちゃうんですよね、ハイ、スミマセン。
確かに序盤からきっちりと伏線が張られて、解決シーンになって解説されるとすぐに「あ!あの時のアレがそういう意味だったのか!」となる、この辺はさすがに上手いなぁとは思います。が、設定がファンタジーなので、極端に言えばいくらでも都合のいい伏線を作れるわけで......。ちょっとその辺で素直に驚けなかったのが一点です。

 

それからもう1つの減点ポイントは恋愛描写です。これもこんなこと言ったら野暮ですけど......
この女、男の欲望の産物やん?
そうなんですよね。ヒロインの晶子ちゃん、ラノベとか少年漫画に出てきて世の女性に「こんな女いねーよw」って言われる女の典型みたいな感じに見えちゃって。
特に意味もなく主人公のこと大好きだし、薄化粧でも可愛い清楚系美人のくせにちょっと好きって言えばすぐエッチなことできるし、周りに人がいないからってらんらんらん〜♪って歌い出しちゃうし......狙ってんだろ!どうせ童貞はこういう女書いときゃ喜ぶとか思ってんだろ!童貞ナメんな!......いや、喜んだけどさ......。
あと主人公も主人公ですよ。元からいる彼女のことセフレくらいにしか思ってなくて新しく可愛い子に会ったらすぐ乗り換えやがって。しかも仕事だって転職しまくってふらふらしてるような将来性のない野郎ですよ。なんでこんなんが好かれるんだよ!羨ま......じゃなくて晶子の男見る目おかしいだろ!人間が書けてない!
......ふぅ......ちょっと興奮してしまいましたが、要は、恋愛小説とミステリの融合を歌ってるくせに恋愛部分が浅いのがいまいちでした。恋ってのはなぁもっと大変でめんどくせえもんなんだよ。こんなイージーモードな恋愛にラストの切なさだけで共感しろだなんて甘いんですよ。いや、僻みじゃないからね?

 

とまぁ、個人的にそこまでハマれなかった割に世間での評価が高いので、今回敢えてディスることを目的にこの感想を書き始めたわけですが、とはいってもやっぱり面白い小説だと思います(掌 くるりんっ♡)

 

何がすごいって、700ページほどの長さがありながらさらっと一気読みさせるところ。
散々キャラをディスっといてこんなこと言うのもアレですが、読みやすさと言う意味では、分かりやすいキャラ造形と引き込まれる語り口の一人称が大きな武器になっていることは事実で......。
序盤で頭の中に他人がいる状況のディテールと、その"誰か"と「お前は俺の妄想だ」「いえ私はここにいるわ」という言い合いにかなり分量が割かれています。そのおかげで読者には体験しようもない「誰かが中にいる」現象がリアルに見に迫ってくるあたり、さすがは元・岡嶋二人。そうやって地盤を固めたからこそ、中盤以降の"誰か"の声との脳内同居生活を読者が自分のことのようにのめり込んで読めるようになっています。
また、ファンタジー設定ならなんでもありやんとは言ったものの、それでもラストで真相が明かされることで作品全体が緻密な構成になっていたことが分かるところではやっぱり唸りましたよ。よく出来てんなぁ、と。

 

というわけで、上に書いた理由からそんなに絶賛はしないけどなんだかんだ読んでてとても面白かったことは確かです。勧めてくれた某アホなフォロワーさんに圧倒的感謝。