《収録内容》
50 on 5/同音異義の交錯/不透明な会話/条例/スーパージョッキー/銀河鉄道の夜のような夜
第16回にして『TEXT』をタイトルに冠したこの公演は、タイトルの通りこれまで以上に言葉遊びにこだわって芸術性を感じる域にまで高めたコンセプチュアルな公演です。
また、最終話では(ひさしぶりに)ガッツリとこれまでのお話の伏線を回収してたりもして、そういう点では釈然としなかった前作とは対照的なようにも思います。
ただ、伏線が回収されたからといって釈然とするわけではなく、最終話の結末もやはり釈然としない(人によっていかようにも解釈できる)という意味では前作同様のいい意味で突き放した感じもあって、ともあれこのくらい知的ぶってる方が好みではあるので大変面白かったです。笑えるというよりは興味深いという意味あいで。
「50on5」
シン・五十音ポスターを制作しようとする男たちの物語。
役柄の入れ替わりの激しさは「レストランそれぞれ」を、要はあいうえお作文に趣向を凝らしていってるという点では「ドラマチックカウント」なんかを思い出す、ラーメンズらしい気がするお話です。
役の入れ替わりが横一列で整然としているので、どこか作り物めいているというか、舞台を見ているということを自覚させられるような感覚がありました。
タイトルの50はそのまま五十音のことですが、5の方について最後に明示される構造は"収束"感があり、これまた作り物めいて感じられます。
言いたいことは分かりやすいんだけど意味は分からなくて得体の知れないオチも良いっすね。奇妙な味。
「同音異議の交錯」
2人がそれぞれ全く別のお話を並行して演じつつ、ところどころで同音異義語が交錯するというタイトルまんまの作品です。
同じ言葉の二重の意味を笑いに変えるところはアンジャッシュっぽさも感じますが、会話のすれ違いとかじゃなくてそもそも2人が会話すらしていないあたりの実験的というか、捻くれたやり口はラーメンズらしい気がします。
最後の『カメラを止めるな』みたいなやつでは、膨大な量の拾いやすい伏線にうんうんと頷いていると時々拾えてなかったやつがあってそう来たかと笑わされてしまいました。
変わったことをやっといてオチはアホみたいにベタなのも面白かったです。
「不透明な会話」
比喩としての不透明と物理的な不透明をかけたナイスタイトル。
徹頭徹尾に概念を弄ぶような会話の愉快さは、レベルは違えど大学時代に部室で友達とくだらねえ議論を繰り返していたことを思い出さされて心地よいです。
なんつーか、こういうドヤ顔で詭弁を弄してる時の小林賢太郎がめちゃくちゃ好きだし、それに騙されちゃう片桐さんも別に好きではないけど可愛いと思います。
「条例」
コンセプトアルバム好きマンとしては、こういう前の話との意外な繋げ方とかめちゃくちゃ好きなんすよね。
凡例が終わった後の2周目でこれから何が行われるのかが分かった瞬間「ふへへ〜これがやりたかったのか可愛いな小林は〜」と萌えてしていました。
また出すけど『カメラを止めるな』が好きなので、こういう「何が起こるのか分かった上でそれが実際に行われていく」ことによる笑いが好きなんですよね。
最後の条例は存在を忘れてたんで「そういえば」というのもあってさらに面白かったですが、やはり吹き替えのやつが好きです。
「スーパージョッキー」
ギリジンものですが今回はギリジンじゃなくてスーパージョッキー片桐(ほんとは片桐じゃなくてなんとかいうキャラ名だったけど忘れた)。
なんというか、ギリジンはキャラ自体がわけ分かんなくて面白いんだけど、スーパージョッキーは実在の職業なのでどうしてもちょっと普通に感じてしまってそんなにめちゃくちゃ面白くはなかったです......。
とはいえやや滑ってること自体をネタにしてくるアドリブなのか台本なのか分からないあたりはさすがに笑いました。
それより何より小林さんがめちゃくちゃ可愛いのでそれだけでも得した気分になります。
「銀河鉄道の夜のような夜」
これまで観てきたラーメンズの公演の中でも最も最終話らしい最終話。
ここまでのほとんどのコントから少しずつ要素が入っていて、それは伏線回収スゲーというよりはみんな繋がってるんだという心地よさに近い感覚にさせてくれるものです。
実は恥ずかしながら「銀河鉄道の夜」を読んだことがないのですが、Wikipediaであらすじを調べたところかなり忠実に筋をなぞっているらしいと知って驚きました。
そんで、原典に出てくるらしいキーワードを軸に各パートがそれぞれ「活版印刷」「牛乳屋」などと題せるような一つの短いコントになっていて、それが連なって全体が構成されているのでいろんなアトラクションがある遊園地みたいな楽しさがあります。
また、出てくるワードがいちいちノスタルジックなのでエモいし、これが原典に沿ったものなら「銀河鉄道の夜」も読んでみなきゃと思いました。
しかし、そんな楽しさの中にもかなりの頻度で不穏な空気が挿入されるので所々でハッとさせられます。こういう、笑えるコントとシリアスな演劇との間をフラフラと蛇行するようなところもラーメンズの魅力であり、この話ではそれが最大限に出てると思います。
そして、"銀河鉄道"に乗る最後のシークエンスではいよいよそのシリアスさが前面に押し出され、笑っていいのかどうなのか、笑ったと思ったら次の瞬間ヒェッ!とかそんな感じのヒリヒリした感覚がめっちゃ良かったです。
これまでのコントのあのワードやあの趣向が今度は切なさのために再演され、"その時"がやってくるに至ってふえぇ〜っ😂ってなっちゃいました。
ラストについては色々と解釈がありそうだし、はっきりさせずに観客にもやもやと考えさせることが狙いなんでしょうが、個人的にはすごくざっくりなんですが(ネタバレ→)2人は元々別の世界の住人だったという印象を受けました。
というのも、(ネタバレ→)この物語は小林さん=トキワの視点で進むのに、最後に自分がここにいないことに気付くのは片桐さん=カネムラの方。だから単にカネムラの存在がトキワの夢やイマジナリーってわけじゃなくて、それぞれが孤独を抱えた関わりのないはずの2人で、そんな彼らが祭りの夜、銀河鉄道の乗客になることで一瞬だけ交錯したっていうことなのかなぁ、と。
それは(ネタバレ→)「同音異議の交錯」で2人が全く別々の物語の中にいながらも同音のワードだけで繋がっていたように。
頭が悪いのでこういう感覚的というか印象レベルの解釈しかできないんすけど、そんな2人に切なくなるとともに、それでも孤独じゃなかったんだという優しさも感じさせる不思議な余韻の中を銀河鉄道が走っていく、素敵すぎる終わり方だと思います。