偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ラーメンズ第15回公演『ALICE』

前作『STUDY』からよりアートっぽさや知的な印象を増しつつ、バニーや甲殻類やイモムシみたいな頭おかしいネタも並ぶ一本。個人的にはこのくらいが一番ちょうどいい気がします。好き。



収録内容
モーフィング/後藤を待ちながら/風と桶に関する幾つかの考察/バニー部/甲殻類のワルツ/イモムシ/不思議の国のニポン



「モーフィング」

タイトルの意味をググってようやく腑に落ちました。
2人の立ち位置と一緒に言葉が少しだけずれていって、ぬるっと別の世界線へと平行移動を繰り返す様はわけわからんながらも見ているだけで変な気持ちよさがあります。プログレってやつですかね。
それぞれのシチュエーションにそれぞれ特にオチもないのでちょっとまとまりが悪くは感じてしまいました。
まぁ、それこそが狙いなんでしょうけど。
「釈然としたいか?」っていう、観客への挑発というか、釈然とするものばかりを求めてしまうことへの皮肉なり警鐘なり、そんな感じなのかもしれないですね。
ちなみにこの公演、「後藤を待ちながら」はちゃんとオチがキマってるものの他の話はみんなあんま釈然としないっすからね。それがテーマなのか......?



「後藤を待ちながら」

文学作品もじりシリーズ。まぁ元ネタは読んだことないけど。
どういう状況なのかよく分からないながらに不穏な空気を感じさせ、少しずつ分かってくるとシンプルな"上下関係"のおかしさで笑わせてくれます。
しかし笑いながらも片桐さんの扱いにつらくなってきちゃいます。片桐さんのこういう役好きです。
そして、絵として印象に残るオチもインパクト大。小林さんの顔がめちゃくちゃ良いんですよね。もはや顔のファンです。



「風と桶に関する幾つかの考察」

風吹けば桶屋が......というやつの何パターンかの実演。
オリジナルの「風吹けば桶屋が儲かる」がそもそも面白いので、正直なところそれを超えるくらいハッとさせられるようなものはなかったかなぁと思います。
最初はパターンに忠実に、終盤でだんだんと崩していく流れは好きですけどね。



「バニー部」

ギリジン枠の片方が黙ってて片方が笑わせるやつですが、珍しく小林さんが喋るパターン。
「バニーボーイ」というコントもあったし、どうしてもバニーになりたいのかこの人は......。
このシリーズはどうしても片桐さんの勢いが欲しくなってしまうんだけど、小林ファンなので小林さんが頑張ってる姿が見られるだけで多少滑っていようがなんだろうが幸せな気持ちになれました。



甲殻類のワルツ」

アドリブ感がないのでギリジン枠ではないんだけど、こっちは片桐さんが一方的にしゃべって小林さんは表情と動きで多少のリアクションをするだけのお話。
やっぱこういう変なことするのは片桐さんですよね。片桐さんから漂う謎の滑稽さや情けなさが見事にハマってます。
一本のコントでいろんなキャラを演じる器用さを、しかし全然感じさせないくらい情けなさが先に立ってて、凄いのに凄く見えないのが凄いです。器用だなぁ。
オチもちょっとほっこりで好きですね。



「イモムシ」

これは頭おかしい。
奇しくも今オリンピックやってるので、オリンピック観ない代わりにこれ観れて良かったですけどね。
虫の動かし方が小林さんの得意なパントマイムにも近くて、頭おかしいんだけどちゃんとイモムシに見えて凄かったです。しかもちゃんと感情まで動きに現れてる(まぁ言葉も話すんですけどね虫のくせに)。
ストーリーがベタなスポ根青春恋愛ドラマだからこそ、この異様な設定をどう受け取って良いのか分かりません。愛の多様性を説く高尚な作品なのか、単なる悪ふざけか。まぁたぶん悪ふざけでしょうね。面白かったです。



「不思議の国のニポン」

日本語学校」シリーズに連なる日本地理学校。
47都道府県を順番にディスっていくというただそれだけの内容で、たまに伏線めいたことはするもののやはり特にまとまりもなく最終話としてはやや物足りないというか、釈然としない感じです。
とはいえ一つ一つのディスはやっぱり面白く、私の住んでる名古屋が結構長めにディスられてたのも嬉しかったです。それに比べて何も言及されない県もあったりするのは可哀想。
まとまりはないけどこういう趣向を決めて淡々とやりきっていくのも好きではあります。

ラーメンズ第10回公演『雀』

見てます見てます。もはや見すぎててだんだん記憶が朧げになってきてるので感想はざっくり適当に書くことにして代わりにオリンピックについて愚痴りたいんですけど。
事実かどうかは今となってはわからんとはいえあれだけ壮絶ないじめを自慢してた人が「反省してるけどやります」とか言ってからに、良くないことではあるけど若気の至りで何十年も前にコントの中でだけ不謹慎なこと言って今は反省して誰も傷つけない笑いを作りたいと公言してる人が即クビってのはファンのよく目を抜きにしてもおかしいと思うんすけど。

この国が恥を晒しまくってるのは今に始まったことじゃないし私のせいでもあるんだけど、小林の件だけはちょっとむかつくなと思いました。


《収録内容》
お時間様/音遊/プレオープン/許して下さい/人類創世/ネイノーさん/男女の気持ち/雀



「お時間様」

時間を戻せるお時間様の元を訪れる小林さん。
時間を戻す以前にこの会話自体が時間の無駄だろと思うような噛み合わない2人の会話が楽しく、オチもちょっとブラックで良かったです。



「音遊」

タイトルで何だっけってなるけど広告代理店のお話。
ダメなキャッチフレーズが軸になるんですけどこの辺の言葉のセンスは流石です。
音遊の部分は印象薄いかも......。小林に恋してるし、わたし小林しか見えてないからなぁ......。



「プレオープン」

珍しくというのかなんなのか、人間観察系のネタです。
小林さん演じる遊園地のアトラクションのお兄さんがめちゃくちゃいそうな感じで、奇抜さは薄いものの王道すぎてラーメンズとしては新鮮に感じられて楽しめました。いや、まぁ片桐さんの顔芸だけでも十分奇抜ですけども......。



「許して下さい」

小林さんがひたすら許しを乞うお話。
どう見ても親を怒らせた子供で可愛いですね。小林さんが1人でわちゃわちゃして片桐さんが黙ってる珍しいパターン。
オチの意味が微妙に分からなかったので調べたけどあんまり分かってる人いなかったのでそういうものなのかな......?
(ネタバレ→)最後に渡されるのが"普通の斧"なら分かるんだけど、"金の斧"なのが引っかかります。
深い意味はなく、泉の神様の昔話がモチーフだと観客に伝わりやすいように金を選んだだけならそのまんま受け取ればいいんでしょうけど。



「人類創世」

「人類創生体験」という設定からしてもうラーメンズ節というか小林節な感じでいいっすね。
そこから何故か人間力バトルになるのも面白いですね。東大じゃなくて一橋大学みたいなリアルなラインを狙ってくるのが上手い。



「ネイノーさん」

普段なら絶対片桐さんがやりそうな強烈キャラを小林さんがやっててファン人気も高いらしい1本。
小林ファンとはいえ別にこういう小林さんを見たいわけではないので個人的にはちょっと引きましたけど、「ネイノー」という音は非常に印象に残ります。



「男女の気持ち」

ベタな漫画かドラマっぽい要素を取り入れつつフラれるシミュレーションというシチュエーションから繰り出される小ボケの数に驚かされます。
私って本当に失恋ものなら音楽でも小説でもコントでも何でも好きなのでこれも好きです。



「雀」

最後の話っていつも友達同士というキャラ設定のものが多い気がします。
子供たちからのメールには笑いましたし全体に笑いましたが、その中にもシリアスな言葉が時々顔を覗かせてハッとしたり切なくなったりしてしまいます。
こういう、笑っていいのかどうなのか......みたいなのやらせたら上手いっすよね。地味ながら余韻の残る最終話でした。

相沢沙呼『マツリカ・マトリョシカ』感想

マツリカシリーズ第3弾にして初の長編。



密室状況の美術準備室で、女子生徒の制服を着せられたトルソーが蝶の標本とカッターナイフと共に発見された。
2年前、同じ場所で1人の女子生徒がカッターナイフで腕を切りつけられ、その現場にも蝶の標本が散らばっていたという。
ひょんなことから濡れ衣を着せられそうになった変態・柴山は、汚名挽回のために事件の真犯人を探し始めるが......。


はい、めちゃくちゃ面白かったです。
前作も1作目と比べてかなり面白くなってましたが、今作に至っては個人的には著者の最高傑作だと思うし、大ヒット作『medium』が産まれる前兆でもあったんだなぁと思います。


事件は2つ。
過去の密室傷害事件と、現在の密室殺トルソー事件。
これらを巡って、本作ではなんと第1章とクライマックス目前の1章を除く全ての章で様々な人物による推理が繰り広げられるんです!
作中でも著者がドヤ顔でキャラクターに言わせている通り、日常の謎としては珍しい密室事件に、日常の謎としては珍しい多重解決が加わり、「日常の謎ってなんか地味だよね〜」と思ってる読者を何としても楽しませようという気概に満ち満ちています。
そのそれぞれの推理自体も物理トリックから心理トリックから意外な犯人など(いくつかは察しがつくものもありつつ)、バラエティ豊か。
ただでさえ不可思議に見える密室が、こうしたダミー推理でどんどん穴を塞がれて強固になっていく様には興奮せずにはいられないってもんですよ!
日常の謎で多重解決というと、米澤穂信の『愚者のエンドロール』なんかが代表的な傑作ですが、本作もあれに並ぶくらいの新たな金字塔になっとると思います。というか、文化祭という背景や、キャラに合った推理など、本作のところどころに『愚者』の影響が垣間見られるようにも感じます。

さて、そんな不可能密室の解決ですが、これがまた面白い。
まずもって名探偵の登場シーンがもう最高にカッコよくてその時点で術中にハマってるようなもんでして。
とある一つの物体から繰り広げられるガチガチのロジックで一気に推理に引き込まれ、そこからのシンプルにして意表を突くトリックにもやられちゃいました。
さらに、謎が解明された後は、悩みながらも前作のラストで一つの答えを見つけつつ本作でもまた悩みまくっていた柴犬が犯人に語る言葉に泣かされたりと、シリーズものの青春小説としてのキャラの成長とかもしっかりあって、まさに青春ミステリの傑作なんです。

ただ、1つだけムカつくのは、柴犬がめちゃくちゃモテてるみたいに見えるところ!
私が童貞だからかもしれませんが、出てくる女性キャラのほぼ全員が柴犬のこと好きっぽい描写があって読んでる私の方が勘違いしそうになっちゃいますやん。それとも勘違いじゃない............??
前作まではマツリカさんがエロいだけのエロ小説だったのが、今回はもう全員エロい堂々たるエロ小説になってましたもんね!やりすぎでしょ!
やりすぎといえば、解決編で急に挟まれるメタなギャグとかも。この辺の要素が翡翠ちゃんに繋がってる気がしますよね。

ラーメンズ第9回公演『鯨』


収録内容
ことわざ仙人/超能力/バースデー/壷バカ/絵かき歌/count/アカミー賞/器用で不器用な男と不器用で器用な男の話


はい、観ました。
今回はわりとバラエティ豊かといいますか、ストーリー性の強いものから、馬鹿馬鹿しい系、実験作、サイレントと幅広く取り揃えられています。
中でも、シリアストーンじゃないのにどこか哀しさの香る表題作と、エモくて泣ける最終話がやはり印象的でした。

以下各話の一言感想。



「ことわざ仙人」

ことわざを元にして色々言い換えていくお話。
日本語学校」のシリーズは好きなんだけど、これはあんまりなんですよねぇ。どちらも連想ゲームのように無意味に言葉を連ねていくやり口で、なんで両者の評価が違うのかは自分でも分からないんですけど。まぁ、勢いの差か、小林さんか片桐さんかの違いか......。



「超能力」

ラーメンズのこういう仲のいい友達同士できゃっきゃする系のネタは大好きです。
意外性はないんだけど、緊張と緩和とが反転を繰り返す展開には、分かっちゃいるんだけど手に汗握っちゃいますよね。
別にメタ的演出とかはないんだけど、奇妙に2人が共謀して観客を騙そうとしている感覚が不思議で面白いです



「バースデー」

サイレントで芝居をしつつ、ナレーションで心の声が入るというラーメンズらしい趣向の作品。
小林さんのパートでは、馬鹿丁寧なまでに心の声と動きや表情を合わせるわざとらしさが笑いになり、一方の片桐さんはギリギリ合わせてるというかもはやズレてるアクロバティックな動きが笑えるという、2人の個性がそのまま面白さになっているところが好きです。
心理戦みたいなノリなんだけど、内容はほのぼのなギャップも良いっすね。



「壺バカ」

お得意のパントマイムによるサイレント劇。
壺と効果音だけで見えないボールを想像させ、想像と現実(?)とのギャップなんかも駆使して魅せてくれます。
これはもう笑いとかではなく(まぁ笑えもするんだけど)見ていて気持ちいいパフォーマンスでした。



「絵かき歌」

表題作に当たるのかな?
片桐さんのキャラの濃さがヤバいんだけど、話の内容自体にはどことなく悲しさが纏わりついているようなところもあって嫌いじゃないです。
ただ、最後はちょっとやり過ぎでは。いや、小林ファンだし笑ったけども!



「count」

数字と静止画から成り立つ、コントとも言えないし何て言うんだろうって感じのやつ。
Eテレにありそうですよね。「デザインあ」とか「ピタゴラスイッチ」みたいな。
ほんの少しだけ下ネタやブラックなネタが入ってくるのが良いアクセントになっていて印象的でした。オチはあれどういうことやねん?



「アカミー賞」

吹き替え調で受賞作を発表していく小林さんと、アホでしかない片桐さんのバトル(?)が繰り返されるだけのよくわかんないやつ。
最初はめちゃくちゃ笑ったけど、濃すぎて後半ちょっと飽きてきちゃうのはありますね。
しかしこれは完全にアメリカ人を馬鹿にしてるようにしか見えねえし、こんな差別的なネタばっかやってるからオリンピック降ろされるんやぞ小林......。



「器用で不器用な男と不器用で器用な男の話」

四角が多すぎて読む気にならないタイトルですが、実際のところタイトルの通りの内容でした。
器用さと不器用さが正反対に出ちゃった2人はどっちも世の中の色んなところにいそうだし、もっと言えば私の中にも彼らのような部分が少しずつあったりするし(自分、不器用ですから)、誇張気味ではあるもののどちらにも感情移入してしまってかなり泣けました。
こういう刺さるやつが時々あるからラーメンズはやめられねえよな。

相沢沙呼『マツリカ・マハリタ』感想

『Invert』を読んだついでみたいな感じで、今まで積んでいた相沢沙呼作品を読むことにしました。
なんだかんだこの人の作品はほぼほぼ買ってるし、本作を読んだらやっぱり好きだなぁと惚れ直しました。
話題になってる城塚翡翠シリーズも良いんだけど、あれは相沢作品の中でもあらゆる意味で異色作なので、やっぱしこの辺の「らしい」作品ももっと売れてほしいなと思います。


で、本作ですが、廃墟に住み着く身元不明の美少女"マツリカさん"と、その忠実な犬の柴山くんを描いたシリーズの2作目。
前作『マツリカ・マジョルカ』を読んだのが遥か遠い昔のことなので、正直あんまりキャラとか覚えてなかったけど読み始めたらなんとなく思い出しました。
そんな感じなので前作と比べてどうこうとかも言えないけど、朧げな印象ではたぶん本作の方がより面白くなってる気がします。

一編ずつがそれぞれ異なる人物の異なる悩みをクローズアップする青春小説であり、地味ながらマジシャンらしい魅せ方の巧さが光る日常の謎ミステリでもある。そして、最終話まで読むと「1年生のりかこさん」という学校の怪談を中心とする長編にもなる......という盛りだくさんな一冊。
もちろん、マツリカさんのあり得へんエロさと、根暗陰キャ童貞クソ野郎の分際で女に囲まれてる柴山のダメっぷりも楽しく、面白かったです。

以下各話の感想。



「落英インフェリア」


写真部の部室から突然逃げ出した仮入部生がそのまま消失してしまう。クラス名簿や集合写真を見ても見つからない彼女は、校内で噂の幽霊「一年生のりかこさん」なのか......?

どうでもいいけどとりあえず「松本まりか」さんが出てきて偶然なのか相沢先生がファンなのかなんなのか気になります。偶然かぶるにしては変わった名前だけどあり得ないとも言い切れない微妙なラインなので......。

それはさておき、久々にこのシリーズ読みましたがそういえば柴山くんこんな感じだったわというウジウジっぷり。カースト的には私の高校時代とほぼ同じ境遇なので同族嫌悪的な鬱陶しさと共感とを同時に感じてしまい、好きにはなれないというか嫌いだけど応援したくなってしまうキャラっすよね。

それもさておき、消失事件については、細かいファクターを組み合わせていくことによって不可解な状況が現れるというのがよく出来ていて、さらに物理と心理それぞれのトリックが物語としてのテーマそのものになるあたりも綺麗です。



「心霊ディテクティブ」


小西さんが撮影会で撮った写真が全て黒く感光してしまった。しかし、フィルムは鍵のかかった部室に置かれ、誰かが細工できる機会はなく......。

地味だし使い古されたトリックではあるものの、ただ一点(ネタバレ→)「密室殺フィルム事件」というミスリードだけで簡単に欺かれてしまったので悔しいです。
一言では言い切れない動機も印象的。犯人がしたことは良くないことだけど、私からしたらそれでもやっぱり眩しいような、青春ですね。
そしてニヤッとしちゃうオチも素敵でした。

それと、マツリカさんエロすぎませんか?



「墜落インビジブル


マツリカさんの指令で休日の教室のロッカーに潜んでいた柴山。そこへ2人の女の子が入ってきて大ピンチ......と思いきや、彼女らのうちの1人は柴山の視線をくぐり抜けて消失してしまい......。

タイトルの意味合いも起こる現象も1話目と似ていますが、トリックは違ったので安心しました。
それよりなにより、マツリカさんによって変態みたいなことをさせられる柴山が面白すぎて終始ニヤニヤしながら読んでしまいました。

しかし本筋のインビジブル事件の方はこれまでの2篇とはまた違った方向でのシリアスさがあり、シンプルすぎて盲点のトリックとセットになって印象に残ります。

それと、マツリカさんエロすぎませんか?




「おわかれソリチュード」


マツリカさんがいなくなった。
廃墟には「松本梨香子」の生徒手帳が残されていた。戸惑い悲しむ柴山の元に、さらに「りかこさん」の情報が集まり......。

本書全体に名前の出ていた「1年生のりかこさん」の謎に迫りつつ、柴山の前から突如消えてしまったマツリカさんの秘密にも迫っていく最終話。

最終話に相応しく、マツリカさんと柴犬自身の物語になっていて、シリアスな空気感も増し増しです。
ああなること自体は分かりきってはいるものの、それでも大きな2つの心理的盲点(ネタバレ→)高梨くんの廃墟レポートと、先生の「松本さんの写真」発言の突き方が巧く、りかこさんの正体も意外でありながら明かされてみれば伏線の多さに唸らされます。そう、相沢沙呼ミステリの一番の魅力はやっぱり覚えやすくて量が多い伏線っすよね。これがそのまま『medium』のヒットにも繋がってる気がします。

そして、全ての真相が明かされることで立ち現れる(ネタバレ→)マツリカさんと松本梨香子の百合的関係性に萌えるとともに、柴犬とマツリカさんの関係性も微妙に変化していきそうな余韻が良いっすね。

本作の後しばらく間が空いてからの次作は非常に評判もいいので続けて読みます!楽しみです!

相沢沙呼『Invert 城塚翡翠倒叙集』感想

ミステリランキング五冠とかゆって話題になった『medium』の続編。本作の方もすでに超話題作となっていて、最初は文庫待つつもりだったけど周りが全員読んでるので読んでしまいました。


さて、本作ですが、前作『medium』の結末が前提の、もはや存在が前作のネタバレみたいな続編なので、前作を読んでいない方はまず前作を読んでいただきたいと思います。

そのため感想を書くのも難しくなってきますが、まずは前作のネタバレも今作のネタバレも無しで少しだけ。


本作はタイトル通り倒叙をテーマとした連作中編集となっています。
そして、著者は倒叙の面白さをなんとか世に広めよう!という使命感を持っているらしく、「犯人が最初から分かってるのに何が面白いの?」と思っちゃう読者にも分かりやすいように、「読者への挑戦」が各話で挟まれます。
これがあることによって、犯人は分かっている、じゃあ後は何を推理すれば良いのか?という面白さの要が見えやすくなって、犯人が分かってても面白いミステリは作れるんだということを教えてくれます。
また、各話の犯人特定のロジックも、(解けなかった私が言うことじゃないけど)あまり難しすぎず、読者もじっくり考えれば解けそうなレベルに設定されていて、解決編の前にちょっと立ち止まって考える楽しみ。それが当たってて喜んだり外れてて悔しがったりする、"推理"小説らしい楽しみ方をもう一度我々に提示してくれます。

一方で、ときおり著者が主人公に憑依して急に読者への暴言を吐き始めるあたりも面白く、著者にとって初の殺人が起こるミステリであり、出世作でもある本シリーズが良いガス抜きになってそうで微笑ましく思います(笑)。

また、各編はクロースアップマジックのように地味ながらシンプルにミステリの醍醐味を楽しめるものでありつつ、最後まで読むとイリュージョンに変わってしまうあたりも、たしかに「全てが、反転」のコピーに恥じない作品に仕上がってます。

また、翡翠ちゃんの可愛さもパワーアップ!
前作で彼女に夢中になった我々は、本作でもまたその魅力にバチコンとやられちゃうわけですね......。

って感じで、前作と比べてどうこうみたいなのは出てきちゃうとは思いますが、前作が楽しめた人なら今作もかなり楽しめるんじゃないかと思います。


それでは、ここからは前作のネタバレだけ有り、本作のネタバレは無しの感想コーナーに移ります。
前作未読の方はご注意を......。


































































































というわけで、前作のネタバレありコーナーですが、とりあえずここまで我慢してたので一言叫ばせてください。

すぅ〜っ......

翡翠ぶん殴りてえぇぇぇぇ!!!!!


ふぅ......。
そうなんすよね。前作では翡翠ちゃんの「可愛いは作れる!」自体が最大のどんでん返しだったからギリギリバレない程度のあざとさで済んでたんですけど、今作に至ってはもう著者も開き直ってあざといを通り越してただウザいだけのいっそギャグみたいなクソ女として描いてくれているので、読みながらガチでイライラしちゃって全然読み進められませんでした。なんだよ「はわわわ」って!やりすぎです!
そんな振り切ったぶりっ子の翡翠ちゃんを犯人の立場から見ることになるわけですが、その犯人の方も第1話は絵に描いたような童貞なのが第2話以降はだんだんとレベルアップしていき、ぶりっ子を見破ったりもして、丁々発止のバトルを繰り広げるのも本書の楽しみの一つかと思います。
特に第2話の犯人にはかなりなところ同情できる部分があるので、翡翠ちゃんがめちゃくちゃ憎たらしく感じます。それだけに、戦いの後、2人が腹を割って話す場面は印象的でした。

そして、本書の半分ほどを占めるメインコンテンツの第3話では、翡翠ちゃんが元刑事の職業探偵という強敵と対峙するわけですが、これまたネタバレなしにはなかなか何も言えないので、以下では本書『Invert』のネタバレも込みでの感想を書いていきます。















































































というわけで、いんばーとネタバレ感想です。
とはいえ既にここまでで一番言いたいこと(=翡翠ちゃんうぜえ)は言ったのでもうあまり書くことも残ってないですが。

とりあえず、今作も前作とほぼ同じ、ナメてた翡翠ちゃんが実はヤバいやつだった系トリックなわけですが、そこに半叙述トリックでもある入れ替わりトリックが絡まることで簡単に騙されてしまうのはまさにイリュージョン。
雲野パートが三人称雲野視点なので微妙にずるい気もしてしまうものの、こっちで視点人物による誤認を描き、真パートで読者だけを誤認させる真実を描くことのズレで騙すってのは上手いとしか言えないです。
やはり手法はシンプルながら見せ方で騙す、奇術師らしい大どんでん返し。

作中で言及されるマジックの繰り返し(てか酉乃先生やないか!?)をそのまま使った、連作としての繰り返し、そしてシリーズとしての繰り返しを踏まえた大技!
読み始めた当初は、中編集だし正直シリーズ的にはオマケみたいなものなのかもと思っていたのですが、なんのなんのガッツリ続編だしガッツリ反転したし、楽しかったです。

翡翠ちゃんシリーズの長編もいずれは出そうで楽しみですが、それとは別に酉乃さんらしき人が本作に出てきたということはあっちのシリーズも......なんて期待もしてしまいますね。

空気階段『anna』感想

空気階段、テレビでたまに見ると毎回面白くて結構気になってはいたんですが、この度友達から貸していただいたので初めてライブを観てみました。


収録内容
noriko/27歳/SD/メガトンパンチマンカフェ/コインランドリー/銀次郎24/Q/anna


めちゃくちゃ良かったです!
めちゃくちゃ面白かったというのはもちろん、こんなにエモかったのか!?っていうのはテレビでは分からない、単独ライブ一本を一つの作品として通しで観たからこそ味わえた感動!
なんせ、作中でオープニングのYMO「東風」を含む3つの楽曲が流れるのですが、どれも好きなバンドの好きな曲で、特に挿入曲は私にとってアンセムでしかないので、イントロが流れた瞬間鳥肌が立ちました。もちろん、使い方の上手さも込みで。

さらに、最終話では、とあるミステリ的な仕掛けまで施されています。しかもそれがただ観客をあっと言わせようというだけのものではなく、それがあることによって物語の感動を増すものであり、私が今年読んだミステリの中で本作が暫定1位と言っても過言ではありません。

音楽とミステリという私の2大好きなものがバチコンとハマる形で入ってて、もはや私のために作られた作品なのではないかとすら錯覚してしまいます。

さらには、作中に出てくる登場人物はやばい人ばかり(もぐらさんはもちろんかたまりの演じるキャラも含めて)なんですが、その描き方に日陰者への優しい視線を感じるあたりは、同じく大好きなコント屋さんのシソンヌにも通じるところがあり、それも好きな要因の一つだと思われます。

そんな感じで、それなりに期待はしていたものの、こういう運命を感じるようなハマり方をするとは予想外でしばらく余韻に浸ってしまいそうです。

以下各話の感想を少しずつだけ。



「noriko」

イントロダクションのような位置付けの短めのお話。
初めてライブ映像を見る芸人の1本目って、これほんとに面白いんだろうな......大丈夫かな......という不安をかなり強く抱いてしまいます。映画とかだとそんなことないんだけど、お笑いって笑うために見てるのに笑えないとめちゃくちゃ気まずい空気になっちゃうので。
それでドキドキしてると、思いの外バカバカしいアレがきてめちゃくちゃ笑っちゃいました。
1本目のネタへの笑いだけは、安堵と疑ってごめんと次以降への期待とが入り混じった特別な笑いなんですよね。


「27歳」

私が今年ちょうど27歳なのもあって、笑いつつも身につまされてしまうお話でした。
シリアスな空気で溜めて溜めてからの一言ってのがほんと好きで。そこで一発決めてからはもうギャグのオンパレードなんだけど、しかし人名の使い方がズルすぎますでしょ。人の名前が出てくるたびにうひゃひゃって変な声出ちゃいました。
しかしかたまりはミュージシャンの役やるとほんと川谷絵音に見えますね。


「SD」

ミステリのトリックもお笑いも意外なもの同士が繋がることによる快感が肝......ってのは私の憧れる書評サイト『黄金の羊毛亭』氏の言葉ですが、このシチュエーションからアレが出てくる意外さと説得力なんかはそれこそミステリのカタルシスにも近いものだと思います。
もぐらさんがつっこみ(?)の立ち位置なのも新鮮で良かったです。


「メガトンパンチマンカフェ」

ミュージシャンの苦悩、サイバーテロリストと、題材的にはシリアスな話が続きましたが、これはもうタイトル通り最初からアホみたいな話です。
もぐらさんの外見含むキャラの作り込み方と、かたまりの素みたいな喋り方とのギャップが良かったです。あとアイホープが最高でした!


「コインランドリー」

もぐらさんのヤバいキャラがめちゃくちゃ堂に入ってるというか本人にしか見えないくらい似合ってるのに対し、かたまりのヤバいキャラはなんか作ってる感じがするけど、普段地味なオタクが文化祭で頑張っちゃったみたいな可愛さがあって良いと思います。
でもランドリーマン、こんな風なのにちゃんと仕事してて凄いと思う。


「銀次郎24」

ここまでモロにガチな下ネタもやるんだ!と驚いてしまうくらいの下ネタ。
着想そのもののアホくささと、始まりからは予測できない展開が素晴らしいっす。
あのいかにもありそうなVTRに子供の頃を思い出して懐かしくなりました。授業でああいうの見るの結構好きだったんですよね......。


「Q」

最後のネタの前のインタルード的なやつ。
ここまでかなりしっかりしたストーリーのあるお話ばっかだったところにこのシュール系のが来るのが新鮮で良いっすね。
まぁ正直無理やりわけわかんないことやろうとしてる感じがしてあんまり笑えなかったし、オチもすげえざっくりしてるように感じてしまったのですが、最終話の前に奇妙な空気感を出すのには成功してると思います。


「anna」

あー、もう、好き。最高。惚れました。
私自身はラジオにそんなにめちゃくちゃハマってたわけではないんですけど、それでもお年頃の時分にはラジオで初めて知ったミュージシャンのファンになったり、夜中の下ネタ満載の番組をドキドキしながら聴いたりした経験はあるんで、ラジオという題材とその愛ある描き方だけでもかなりグッときちゃいました。
その上、ラジオが発端の淡い青春の恋模様を描いていたかと思えばどんどんドラマティックな展開になっていきながらミステリ要素もぶっ込まれつつ大好きな曲が流れつつ余韻しか残らねえラストと、素晴らしい映画を一本観たような満足感があってもう最高っすよね。
これまでも「空気階段結構好きかも〜」とか思ってましたが、これを観てもう完全に大好きになりました。
(ネタバレ→)これまでのネタに出てきた色んな人が本人たちも知らない間に少しずつ繋がっているという伊坂幸太郎みたいな伏線回収が、気持ちいいだけではなく彼らの存在が肯定されるような優しさにも繋がっている気がします。
そして、あの叙述トリックも身構えていれば見破れそうなシンプルなものではあるのですが不意打ちだったので完全にやられたし、あれがあることで、それまでもぐらさん視点で見ていたのが一気にかたまり視点も見えてきて、物語の枠が広がるような爽快感と感動があるんすよね。
泣ける。

もうほんとハマっちゃったので、とりあえずYouTubeに過去のライブのがいくつか上がってるみたいだから見てみます。貸してくれた本多さんありがとう。