偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

アンソロジー『謎の館へようこそ 黒』

新本格30周年を記念して、気鋭の新人から既にベテランと呼べる人まで、新本格に影響を受けた作家たちによるアンソロジーの"黒"編です。


黒と白という色分けにはなっていますが、内容にはあんまり関係なく、ダークな話しか入ってないわけではありません。テーマは「館」ということですが、館ものと呼べるような館ものは白井さんくらいで、あとははやみねさんと恩田さんも館感は強めですが、高田さんに至っては館じゃなくて神社だしで、あまり館ものを期待すると肩透かしではあるかもしれません。ただ、館にこだわりすぎていない分、様々なシチュエーションの話が入ってバラエティに富んではいると思います。アンソロジーとしての統一感がないともいえますが、そこらへんはまぁ好みの問題でしょう。
個人 的にベストは井上真偽ですが、ファインプレーははやみねかおるだと思います。








はやみねかおる「思い出の館のショウシツ」

まだ読めていませんが『ディリュージョン社の提供でお送りします』のシリーズみたいです。
物語を現実世界で体験できる"メタブック"を作っているディリュージョン社。新人エディターの森永は、先輩ライターの手塚さんに自分が昔遭遇した館の"ショウシツ"事件について語るが......。

新本格30周年記念アンソロジーの第1話として見事な作品ではないでしょうか。メイントリック自体はもう分かりやすすぎるほどすぐ分かっちゃうのでアレですが、壮大な物理トリックをはじめ小ネタも満載なのでところどころで「おおっ、そういうことか」とプチ驚けました。また、ミステリファンとはやみねファンへのくすぐりはさすが。なんせ「思い出の館」ですからね。主人公たちのミステリ漫才は面白いし、私の好きなあのキャラも登場しと、贅沢な一編ですよこれは。



恩田陸「麦の海に浮かぶ檻」

要と鼎のきょうだいが住む外界から隔絶された学園の寮="檻"に、タマラという少女が転入してきた。二人はタマラの言動におかしなものを感じ、彼女の力になろうとするが......。

寮という"館"のミステリアスな雰囲気と、美しく残酷な物語。ミステリーとしての意外性はそれほどでもありませんが、そんなことどうでもよくなるくらい文章に漂う雰囲気が印象的な一編です。恩田陸、なんとなく冷たい感じがしてあまり好きじゃないのですが、こういう話ではやはりその文体が映えますね。



高田崇史QED ortus 鬼神の杜」

棚旗奈々は近所の神社の豆撒き祭事で桑原祟に遭遇する。桑原の豆撒きについての講釈を聞いていると、社殿に盗人が忍び込み、巫女を突き飛ばして逃げるという事件が発生する。

さすがにここまでくると「館とは」という気持ちになりますね。鬼に関する講釈はまぁ面白いものの、事件の方は特にどうということもなく......。



綾崎隼「時の館のエトワール」

"私"は修学旅行で時間が狂うという噂のあるホテルに宿泊する。すると、10数年後から来たという男子生徒に出逢い......。

こ~~れは好きですというべきか嫌いですというべきか。失礼ながら作者の他の作品をまだ読んだことがないのですが、(ネタバレ→)キミトケシリーズなどでSFミステリというイメージがあるだけに、自然と「あ、SF設定なんだな」という認識で読んでしまうあたりがズルいですね。からのアレによって完全に突き放すような残酷な結末になるのが心に突き刺さります。この胸のざわつきを小説を読む醍醐味とするならば好き、不快といえばこの上なく不快ともいえる作品です。畜生め。



白井智之「首無館の殺人」

過去に凄惨な首斬り殺人が起きた館。とある事情でそこに住む私立探偵たち。過去の事件について調べようとする女子高生3人組が訪れた時、館は鮮血と腑とゲロに塗れる......。

バカミス......でいいですかね?ちょっとなんと形容していいのか分からないゲロみたいな作品です。謎が謎を呼びゲロがゲロを呼ぶ血とゲロの祭宴。グロには多少耐性のある私ですがゲロはつらかったです。過多な装飾のわりにトリックは捨て推理も本命も共にシンプルですが、ゲロがかかるだけで驚きの逸品に変化するというアレンジ料理の妙が楽しめます。こういうインモラルでめちゃくちゃな話を久しぶりに読みましたが、こういうやつなんだかんだ嫌いになれませんね。



井上真偽「囚人館の惨劇」

僕と妹が乗っていた夜行バスが山奥で事故に遭う。運転手や多くの乗客が死亡。僕たち13人の乗客は仕方なく付近で発見した廃屋に逃げ込むが、そこは過去に凄惨な事件が起きた囚人館だという。そして僕たちの間でも恐ろしい事件が......。

ぐああぁぁぁっもったいない!!個人の見解であって井上真偽ファンの方がなんと言うかは知りませんが、私としてはとてももったいないと叫びたい!!
話は完璧なんですよ。好みのタイプどんぴしゃり。冒頭から強く漂う悲惨な空気感、大勢の登場人物たちの間の緊張感、妹を守ろうとする主人公の葛藤、予想外すぎる終盤の展開、はい、完璧。井上さんの作品は二つ読みましたがどちらもミステリとしては非常に凝っていながら上手く作られた話だったので、短編 もイケると知って更に上手い作家というイメージが補強されました。
それだけに、どうでもいいところで井上真偽らしいうざいノリ(個人の見解です)が出てくるのが惜しい。完全にシリアスでカッコつけてくれよ。無駄なディズニーネタとか挟むなよ。(ネタバレ→)死者がカタカナひらがな混じり文で喋るとかいうクソだせえありきたりな演出をするなよ。本筋とは全然関係ないけどそこさえなければ本当に大好きになっていただろうだけに残念。

太宰治『走れメロス』

たぶん『走れメロス』という本は色んな出版社からたくさん出てますけど、これは新潮文庫版です。


走れメロス (新潮文庫)

走れメロス (新潮文庫)

各話感想〜。



「ダス・ゲマイネ」

学生たちが甘酒屋にたむろしながら雑誌を出そうと語り合うお話です。変なやつらと集まって芸術論など謎の情熱を燃やし、淡い恋も......といったモラトリアム期の美しさ全開で楽しくもあり、焦燥感や切ない感じもあり......。そして衝撃的な結末とラスト一行にやられました。



「満願」

2、3ページほどの掌編ですが、たったこれだけの中に、爽やかに秘密を垣間見るという不思議な心地が味わえる名品です。回るパラソルの向こうにあれが見えるようです。



富嶽百景

太宰本人が井伏鱒二の世話で富士の見える茶屋に逗留した時のことを描いた随筆的小説です。今までの人生で見たいくつもの富士に対して憤ったり馬鹿にしたり頼もしく思ったり、同じ富士に色々な表情を見て一喜一憂する様が滑稽に、しかし優しく描かれています。淡々とした語り口ながら、笑える部分も多く、かと思えば遊女のシーンや見合いのシーンはぐっとくるし、一つの短編で色々な気持ちを味わえるあたり、徒然なるままな随筆の醍醐味ですよね。それでいて、吹っ切れたような爽快感のあるラストへ向けて、よしなしごとをそこはかとなく書いただけではない感動させるための構成の巧さも見られます。まさに随筆的小説の傑作ですね。



「女生徒」

再読。"意識の流れ"がテーマらしいですが、改めて読むとなるほどリアルですね。なぜか急に残酷な気持ちになったり、そんな自分が嫌になったり、そんな激しいこと考えながらすぐ忘れて楽しい気分になったり、思わず「あるある」と言ってしまいそうないい意味でのとりとめのなさ。最初と最後の一行がそれぞれキラーフレーズで、なんなら途中の文章もみんなキラーフレーズで、キラーフレーズの塊といってもいいでしょう。声に出して読むと気持ちいいです。よく言いますが、これ読むと太宰が今生きてたらコピーライターや人気ツイッタラーに向いてそうだなぁと思います。



「駆け込み訴え」

太宰が一気呵成に口述して奥さんが書記したという短編です。それを知ってなるほどと思いました。主人公が駆け込み訴えをする話ですが、その息急き切った口調が文を読むだけで声として再生されるような臨場感があるからです。
そして、そのつんのめるような焦燥感のある口調で語られる内容もまた滅茶苦茶ですがそれだけに切羽詰まった苦しみが滲み出てくるようです。作中に「私の言うことは出鱈目だ。一言も信じないで下さい」という言葉がある通り、愛と憎しみの間をゆらゆらと踊るような語りに思わず「どっちやねん!」と言いたくもなりますが、強すぎる感情ってそういう自分でもどれが本当か分からないものですよね。そういうリアルさがあるから文章の勢い に引きずり込まれて一瞬で読める傑作になってます。
あ、大変失礼な余談ですが、ミステリファン視点から読むと登場人物の正体を最後まで明かさなかったらこのラスト一行はフィニッシング・ストロークになるなとか思っちゃいました。



走れメロス

多くの人がそうだと思いますが、中学生の頃はじめて教科書で読みました。当時は「メロスの野郎、勝手にセリネのこと人質にしといてからにいい話ぶりやがって!」と思っていましたが(実際そこはそうですよね)、そんな言ってしまえばちょっと馬鹿なメロスだからこそ、その実直さに感動できるような気もします。また、基本的には単純明快な信頼の物語でありながら、王が同情の余地のない悪者ではなく、メロスも完璧な超人ではなくバックレることを考えたりするところに太宰らしい一筋縄ではいかない味わいがあるように思います。現在あまりにネタ的に使われすぎて今更感動するのは難しいですが、言い換えればネタになるくらい一つ一つの文章のインパクトも抜群です。



「東京八景」

大学に入って東京に来て、非合法の運動や心中未遂などを経て生きることを決意する中期までの思い出を描いた自叙伝的な短編です。
自分がダメなことや恋のことなど常に観念的なことで悩んでいる主人公に共感させられます。自殺未遂を繰り返し遺書のつもりで小説を書く主人公が最後に少し希望を見るところが泣けます。自虐とユーモアの裏に隠した希望。でも、それだけに作者が結局は死んでしまったことが悲しいですね。



「帰去来」「故郷」
太宰が故郷の恩人である中畑さん北さんの手引きによって故郷に帰る「帰去来」。
「帰去来」の後、母の容態が悪く、一年越しで再び故郷へ帰る「故郷」。
帰郷もの2話続きで太宰の家族とのわだかまりや家族への感情が垣間見られます。エッセイ風の作品でも、本書収録の「富嶽百景」や「東京八景」と比べて皮肉っぽさが少なく語り口が素直な感じがしなくもないですね。また、作家として成功してる時期で結婚した時期でもあり、なんとなく気持ちの余裕も感じられる語り口になってます。先入観によるものかもしれませんが。
もっとも、自虐的なところも相変わらずで、むしろわだかまりのある家族と会うということで、なかなか自虐ネタをハイペースで飛ばしてます 。
2話合わせて太宰の素顔に迫った短編でした......というのも思うツボかもしれませんが......。

井上ひさし『十二人の手紙』

これからしばらく昔読んだ本の当時の感想を載せていきます。移転。


十二人の手紙 (中公文庫)

十二人の手紙 (中公文庫)


タイトルの通り、書簡体のみで描かれた12+αの短編を収めた技巧的な短編集です。井上ひさしという名前を聞いてミステリをイメージすることは全くありませんでしたが、これは紛うことなくミステリです。しかも上質の。
全話全編書簡体というガチガチに固めた趣向の遊び心だけでも嬉しいですが、一編一編のクオリティも高く、温かい話から爽やかな話、重い話に暗い話と、同じ趣向なのに全編違った読み心地なのも素晴らしいです。さながら12色の色鉛筆のような。
一部ミステリ要素のない作品もありますが、全体として書簡体ミステリの話題が出たら真っ先に挙げるべき傑作短編集だと思います。





プロローグ「悪魔」
就職して世の中への希望を胸に羽ばたいていった女性が、知らぬ間にこの世のダークサイドに飛ばされてしまうお話。要するに不倫ものです。
純真な女の子がズルズルと不倫にのめり込んで行く展開のスピード感が凄かったです。ラストも意表を突く結末で書簡体ならではの切れ味があり、1話目にして一気に引き込まれました。傑作。



「葬送歌」
劇作家志望の女性が大作家に送った自作の脚本。大作家はこの脚本をどう評するか......?というお話。
まさにまるまる一本の短劇の脚本が入っていて読み応えがあります。この脚本自体物語としてはなかなか面白いのですが、それに対する大作家からの返信が解決編のような役割を果たしているのが面白いところ。さらにラストの大オチまで、一筋縄ではいかない人を食ったような話に心地よく弄ばれました。



「赤い手」
書簡体という凝った短篇が集まった本書の中でもこれは特に凝ってます。なんせ出生届や転入届など、作品の大部分が公的な文書から成り立っているんですから。そうした堅い文書で、主人公の人生を物語としてではなく知識としてインプットされた上で、最後にアレが来るという巧妙さ。ミステリ味は薄めですが、こんな形で物語が作れるのかと驚かされました。



「ペンフレンド」
旅行雑誌に投稿して北海道旅行の案内人を探すOLと、雑誌を見て名乗りを上げた男たちとの文通のお話。
卑猥な手紙や老害ジジイからの説教が来るのが笑えますが、個人的には老害ジジイの「男探しがしたいだけだろ。悪い男に騙されちゃえ!」という文にめちゃ同意しちゃいました。とはいえSNSの発達していないこの時代には男女の出会いも今以上に貴重なもので、出会い厨みたいなことする気持ちも分からなくはないですが、この女、露骨すぎてねぇ......。
それはともかく話は凄いです。思わぬ展開の連続の果てに上手すぎる着地。こういうシンプルで鮮やかな美しさが短編ミステリの理想ですよね。



「第三十番善楽寺
東京の障害者施設が、「四国巡礼をする」と言って去った古川さんという老人の行方を訪ねて四国の同じような施設へ手紙を出すお話。
ミステリ要素はなく、お話としてもやや着地がぼやけている印象ですが、良い話なのは間違いないです。人間やっぱり自分の労力を報わせたがるものですが、そこで他者の立場も考えてみることが大事ですね。なかなか簡単そうで出来ないから気をつけなきゃと思わされました。そんな考えさせられるお話です。



「隣からの声」
夫が単身赴任しひとり家に残された主婦が、隣家から恐ろしい声が聞こえると夫に手紙で訴えるお話。
手紙文であることでサスペンス性が増しているのがお見事です。仕掛け自体はありがちなものですが、(ネタバレ→)「地球は狭い」というセリフという思わぬ描写が伏線として拾われ、ホワイダニットのような意外性があるのには笑いました。



「鍵」
山籠りをする老画家に、未亡人のようにひとり家に取り残された妻が寂しさを訴える手紙を書くお話。
大人の男女の機微を描くのかと思いきや、いきなりオーソドックスなミステリらしい殺人事件が起こって驚かされます。その真相もオーソドックスなミステリらしいものではありますが、それにしても、犯人当てとしてのメインのネタをはじめ、タイトルの真の意味、さらなる真相と小粋なジョークのようなオチと、これだけの短さにアイデアがてんこ盛りに詰まっていて、「ペンフレンド」に続いてこれまた短編ミステリのお手本のような仕上がりです。傑作。



「桃」
婦人団体から届いたありがた迷惑なボランティアの申し出の手紙に、孤児院が「桃」という小説で返信するお話。
この話に関しては特にミステリ的な仕掛けもなく、これまでの話のような意外性を求めると肩透かしでした。
とはいえお話としてはさすがに普通に面白く。自分たちのありがた迷惑さに気付かないおばちゃんの「こういう人いるいる~」感に笑いました。作中作が訴える内容には身につまされるところもあり、説話のような読み心地で神妙な気持ちになりました。



「シンデレラの死」
人生のどん底にいる女性がつらい人生の唯一の救いである手紙を慰めに再起を図るお話。
これは良い意味で酷いですね......。仕掛けに関しては全然好きじゃないんですけど、その仕掛けによって見えてくる酷さには愕然としました。つらすぎ。



「玉の輿」
玉の輿に乗った女性が元恩師で元恋人の教師に宛てて手紙を書くお話。
どういう意味かは書きませんが、泡坂妻夫あたりを彷彿とさせる縛りのキツい実験小説です。最初から最後まで「そんなに面白くないな~」という気持ちで読んでいたら、読み終わった途端に凄い作品に化けました。



「里親」
作家を目指す青年に惚れた主人公が、青年と師匠である大作家との衝突に巻き込まれていくお話。
まずミステリ作家とその弟子の会話なんかがミステリファンには楽しく、作中で青年が書こうとしている長編のアイデアも面白かったです。オチはある種の脱力感のあるものですが、こういうバカバカしいアイデアになんともいえない滑稽な悲哀を込めて描けるのは凄いですね。



「泥と雪」
夫の浮気に悩まされる女性の元に、高校時代に自分を慕っていたという男から手紙が届くお話。
40を超えた主人公たちが高校時代に戻ったような恋をするというストーリーには文句なしに引き込まれましたし、オチもなかなか面白かったです。ただ、最後の手紙の宛先と内容は不自然な気がします。また、全体のストーリーも現代の視点から読むと男目線に過ぎて気持ち悪いと受け取る読者もいそうです。



エピローグ「人質」
立てこもり事件の人質たちが外部へ向けて救出を求める手紙を書くお話。
連作短編集の最後はこうじゃなきゃ!というお手本のような一編。これまでの短編に仕掛けられていた小ネタも回収しつつ、ミステリとしても素晴らしく物語としても感慨深い、非の打ち所のない最終話です。



本書全体を通して、各話のクオリティも高く、短編集としてもこの通り素晴らしかったです。井上ひさしがこんな凄えミステリ短編集を書いていたとは本当に驚きです。書簡体ミステリだとか、連作短編集形式のミステリが好きな方には自信を持ってオススメしたい一冊です。

島田荘司『毒を売る女』読書感想文

久々島荘。

毒を売る女 (光文社文庫)

毒を売る女 (光文社文庫)


本書は独立した短編・掌編を集めた作品集です。
そういう性質の本だから、ミステリからサスペンス、社会派、青春、はたまたシュールなお話まで......色んなタイプの作品で著者の器用さと物語作りの巧さが味わえるのが、本書の最大の魅力だと思います。
一方で、(トータルコンセプトというほどのことでもありませんが)、全体にゆるやかに「東京の町」の姿が描かれているので、一冊の本としての読み応えもあって良かったです。
また、シリーズキャラが登場する話もあり、ファンには嬉しい短編集でもありました。

それでは以下各話について。





「毒を売る女」

美人で金持ちのママ友から「夫が梅毒にかかった」と相談を受けた主人公。その日から、病気を移されるのではないかというノイローゼの日々がはじまり......。

圧が凄いです。
「病気を移されるんじゃないか」「むしろわざと移そうとしてるんじゃないか」、そんな疑心暗鬼だけで長めの短編を一本書いて、一気に読ませるサスペンスに仕上げるとは、やはり島荘恐るべし。
最初のうちは、主人公が露骨にママ友をビョーキ扱いするのに心が痛んだり、ママ友の方もわざわざ移そうとしてこなくてもいいのにと思ったりしますが、だんだんと物語に引き込まれていくにつれ、眼に見えない恐怖に晒された極限状況ではそんなこと言ってらんねえ!という気持ちになってきます。
そうなればもう島荘の思う壺で、ページを捲る手が自動運転になります。読まずにいられないぱらぱらぱら......。
そうやって読まされるうちにどんどんボルテージは上がっていって、主婦の日常にしてはド派手なクライマックスの後の余韻の残るラストまで一気読みでした。最後、(ネタバレ→)騎士道精神を発揮するのが島荘らしくて良いですね。





「渇いた都市」

冴えない中年男が行きつけの飲み屋の看板娘に熱を上げてしまう。その顛末は......。

冒頭のトイレのエピソードがまずは謎めいて魅力的ですが、それがほっぽられておじさんの話が始まっちゃうのにポカーン。しかし、本筋となるおじさんの話がまた読ませます。妻以外の女を知らない堅物の労働者が飲み屋の美人に惚れちゃって、さてどうなるか......という古めかしいお話ではあるものの、美しい女に対する畏怖の念が物凄くて身につまされましたよね。美女を前にして常に気が動転している主人公は滑稽であり哀れでもありながら、周りの見えてなさが恐ろしくもあり、なにより自分のダメなところを誇張して見せられるようないたたまれなさがあり......。
正直ミステリーとしてのオチは作者のさじ加減という感じがしてそこまで驚いたりもしなかったですが、この仕掛けも含めて都会の闇(病み)を見事に抉り出した心理サスペンスの傑作ではあると思います。





「糸ノコとジグザグ」

深夜ラジオのクリスマス企画に投稿されたのは自殺を仄めかす現代詩のような暗号。DJは生放送で聴取者たちと共にその解読に挑み......。

まさかのあの人の登場回。
「糸ノコとジグザグ」という風変わりな名前のバーを訪れた語り手が、バーテンに店名を由来を尋ねると、上のあらすじに書いたDJの話を読まされるという枠物語。
DJとリスナーたちの暗号解読の冒険と、店の名前とがどう繋がるのか(そしてあの方がどう絡んでくるのか)とワクワクしながら読み進めました。
暗号......といっても実は現代詩そのものであり、文字の配列や数字の組み合わせで解くタイプではなく、詩の文章が何を暗喩するのかを読み解く問題という感じです。島田荘司の専売特許である『眩暈』『ネジ式ザゼツキー』タイプの"謎の手記読み解き系ミステリ"(良い呼び名が思いつかなかったからとりあえず)の系譜に連なる作品と言えるでしょう。あの愉しさが、規模は小さいとは言え短編のサイズで気軽に楽しめるのだから、それだけでファンには堪りませんよね。
さらに、前話で東京という町の闇が描かれていましたが、本作は、興味本位とはいえ、あるいはラジオ番組のためとはいえ、匿名の何の関わりもないような人たちが協力して1人の(実在するのかも分からない)自殺志願者を救うために知恵を出し合うという、現代的(当時)な都市の人情物語としても読めるのが素敵なんですよねぇ。クライマックスでは怒涛の謎解きと相俟ってじーんと感動が胸に染みてきます。
そして、店名の由来のお話を聞いて、また爽やかな余韻に満たされる......。島田荘司らしい、都市の隅で生きる人を優しい眼差しを持って描いた傑作でした。





「ガラスケース」

ガラスケースでオタマジャクシを育て始めた私だったが、ケースの中ではおかしな事が起こり......。

怪奇幻想ショートショート
ガラスケースの中で起こることを描いただけのお話ですが、読み心地としては江戸川乱歩の「白昼夢」なんかをちょっと彷彿とさせる気がしなくもないです。あるいは、心情描写が薄く映像的なところは漫画のようでもあり。なんとも恐ろしくて不気味で不思議だけど、なかなかユニークでもあり、映像として頭に残るあたりが。
ともあれ、島田荘司のこういう作品はなかなか読んだことがなく、新鮮に楽しめました。なんとなーく印象的。





「バイクの舞姫

15年前に死に別れた恋人が、当時のように、バイクに乗って、私の目の前に現れた......。

こちらは島田流青春ラブストーリー。
死に別れた恋人が現れるという発端から、過去の回想と現在を織り交ぜながら描かれる正反対な2人の恋。日本舞踊の家元の娘で「私」には高嶺の花であったはずの彼女がなぜ「私」なんかと付き合っていたのか......そして彼女はなぜ死んだのか......なんていう、なかなか湿っぽい切なさが全編を覆っていて胸が締め付けられます。ミステリーとしてはあまりにも捻りが弱いですが、そんなことは置いといてラストのあの場所のあのシーンは静かにエモくて最高ですね!あんまりにも切ねえよこれは......。





ダイエット・コーラ

ダイエット・コーラを開発した富豪の不思議な体質を巡るナンセンス奇譚。

着想の奇抜さが面白い、軽ーく読めるユーモアSFです。現実感の薄さや話のヘンテコさは星新一なんかのイメージに近い気が。特に感想というほどの感想もないですが、「なんじゃそりゃ!」という呆れの混じった驚きが楽しめる小品。オチで分かるダイエット・コーラの意味(?)も非常にしょーもなくて好きです。





「土の殺意」

吉敷竹史はとある老人が殺害された事件を捜査する。飲み屋で老人と口論していた地上げ屋を取り調べるうち、東京の土地に関する諸問題に行き当たり......。

一転してシリアスな社会派ミステリー。吉敷竹史登場作品とは言いながら、内容はほぼ東京の地価高騰や土地相続についての堅い話で吉敷が出てくる必要性もそんなに感じられない......といっても、御手洗に比べて地味な役回りの吉敷にそこまで絶対的な必要性はそもそも(ry。それはともかく、特に興味もないこの当時の東京の土地問題が延々語られるのにこれほど面白く読めるのが島田荘司の異常さというか、凄さですよね。登場人物の言葉が、興味のないことでさえも読者を惹きつけてやまない、この語りの見事さ。「上手い文章」にも色々ありますが、読者を引き込んで一気に読ませるという意味では島田荘司ほど上手い作家もいないのではないかと思いますね。ちょっと褒めすぎたけど、ストーリーが地味なだけに、語りの巧さが目立つ作品でした。





「数字のある風景」

ある時突然、数字の秘密を読み解き、全てを知ることができるようになった私だったが......。

これはまた不思議なショートショート
模範的なほどにストンと落ちてるあたりはこれも星新一っぽくもありながら、雰囲気はもうちょい文系寄り......、というか、無意味な数字の羅列に意味を見出すというのが実は文系的な発想のような気がします。
他にこれといって感想もないので、正直「土の殺意」あたりをトリに持ってきた方が良かったんじゃないかなぁとは思ってしまいますが、本書自体は一冊通してとても面白かったです。

2018年に読んだ本ベスト10

とりあえず時間がないのでリストだけ。あとで追記するかも。



10.ホテル・ローヤル
9.魔法の水
8.十二人の手紙
7.半席
6.撓田村事件
5.不思議島
4.かがみの孤城
3.友情
2.こころ
1.夏草の記憶

2018年、私的アルバムランキング!!

はい、こんにちは。年末ですね。もしかしたらこの記事を全て書き上げて投稿する頃には新年かも?そうだったらあけおめ!

はい、私ももう社会人2年目なので、仕事も昨年より忙しくて映画も読書もしばらくあんまり無理状態で、仕方がないのでブログを書いて過ごしています。
そんなわけで忙しいから雑めにいきますが、今年の新作アルバムランキングです。

まず今年の一番の音楽的トピックといえば、そう、『ボヘミアン・ラプソディ』ですね!
これは一応私個人の話のつもりで書いてますが、世間的にも間違ってないような気がしちゃいます。そんくらいあのブームは凄い。「凄かった」じゃなくて未だに継続しているものとして「凄い」と書かされたのも凄い!
私も影響を受けやすいタチなので、Filmarksのフォロワーの影響でこの映画を見て、映画の影響でクイーンを聴いて、その影響で今まで避けていた洋楽に手を出してしまいました......。たぶん来年はもう洋楽ばっか聴いて、来年のこのランキングも洋楽ばっかになってることでしょう。「今年の1位はぶっちぎりでレディへですよね!」とか言ってる自分......想像つかんけどね......。

とはいえ、今年はまだまだ邦ロック優勢でお送りしたいと思いますので、ゆるりとお付き合いくださいませ〜。

ではまず第10位から!




10位 Mr.Children「重力と呼吸」

重力と呼吸

重力と呼吸

ミスチル、4年ぶりのアルバムです。
4年前の前作『Reflection』は、もう聞くや否や私の中でミスチル最高傑作の地位をほしいままにして、23曲入りというそのボリュームも併せて「こんな作品の後で何を出すんだろう」と期待と不安の入り混じった気持ちにさせられました。
あれから4年......。

なんと待望の本作は10曲入り!4年待ってそんだけ!?前は23曲だったのに!?と、収録内容が発表された段階では思わずキレてしまいました。だってそもそも私ミスチルアンチだし〜。
で、蓋を開けてみれば、装飾てんこ盛り曲調幅広贅沢全部乗せアルバムだった前作と対照的に、装飾や技巧を削ぎ落としたアルバムでびっくりというか納得というか。

しかし、色々削ぎ落としてはいるけど物足りなさはなく、むしろ「引き算の美学」と言いたくなるようなシンプル・イズ・ベストな傑作になっていました。
アンチだからメンバーの名前知らないけど、ドラムのJIMさんだかJUNさんだかの「ワンツー」というコールから、生音のように私の耳に、体に迫ってくるロックバンドの演奏に興奮せざるを得ない一曲目の「Your Song」。その歌詞も、「そう君じゃなきゃ」と歌う力強いラブソングにして、どこかバンドの歩んできた年月を想うようでもあり、ファンには感慨深いオープニングとなっているのでしょう。いや、俺はファンじゃねえからな?
その後も、歌が一歩前に出ていた今までのミスチルとは違い、バンドの演奏が力強く前面に押し出されたシンプルな曲が続き、ロックファンには嬉しいアルバムです。
そして、『君の膵臓をたべたい』のタイアップソングとして、(原作読んだだけでタイアップした映画版の方は観てないですが......)キミスイの内容とのリンクがヤバすぎて何回聴いても泣きながら鳥肌が立つ「himawari」でクライマックスを迎え、今までを総括して前に進むような穏やかな大作「皮膚呼吸」でフィナーレという、10曲しか入っていないとは思えない充実度。

これはファンから「最高傑作」「新しいミスチルのはじまり」などと讃えられるのも納得です。特に、「ミスチルのロックチューンといえば『NOT FOUND』!」みたいな人なら絶対ハマるはず。
残念ながら私はミスチルのロックといえば「マシンガンをぶっ放せ」「ニシエヒガシエ」「REM」派なので、10位と低めに置かせてもらいましたが、名盤です。




9位 APOGEE「HIGHER DEEPER」

Higher Deeper

Higher Deeper


ミスチルと同じく、こちらも4年だか5年だかぶりの久しぶりアルバムにして10曲しか入ってない腹8分目作品。
しっかし、オシャレですよねぇ。オシャレすぎてもう特に語ることもないけど、とりあえずこれ流しとくだけで毎日楽しく過ごせます。特に雨バンドと自称するだけあって、気持ちがどんよりしがちな雨の日にこれを聴くとそれだけで雨もいいかなと思えます。

とはいえ楽しいばかりではなく、中盤ではちょっとダークな雰囲気のゾーンもあったり。でもそこを抜けて最後の「RAINDROPS」を聴くとまたテンション上がりますね。
そんな、あるだけで生活が豊かになる名盤です。




8位 RADWIMPS「ANTI ANTI GENERATION」

ANTI ANTI GENERATION(初回限定盤)(DVD付)

ANTI ANTI GENERATION(初回限定盤)(DVD付)


ラッドはねぇ、今年ライブ行ったんすよ。もうね、良かった。ラッドの曲なんてキラーチューンばっかだし、今回のツアーはアルバムツアーじゃない分新旧の色んな曲を幅広くやってくれてめっちゃ楽しかったです。
とまぁ、ライブの話はいいんですが、そのライブでリリースが発表されたのが本作アンチアンタイジェネレーションでありました。
その時から楽しみに待っていたのですが、いざ聴いてみるともう大満足。

まず、曲数多い。17曲入り。イントロや幕間を除いても15曲というボリューム感。しかも、それらの中でお互いに似た曲がない......と言っても、過去の曲に雰囲気似てるとかは結構ありますが、まぁそれはそれとして、キラキラ寄りだった前作よりも、キラキラからオシャレからダークまで、幅広い曲調を楽しめました。

で、もう一つ特徴的なのが、フィーチャリングの多さ。今までラッドの曲に「feat.」の文字はなかったと思います。しかし、人間開花した今となってはもうどんどん外へ開いていこうということなんでしょうね。そんなコラボ曲たちはそれぞれコラボ相手の曲としても通用しそうだけどラッドらしさもあるという絶妙なラインの曲ばっかで、野田洋次郎のプロデュース力の高さを感じさせます。

全曲とにかくバラバラでとっちらかりそうなものですが、最後の「正解」という曲の徳が高すぎて(?)ちゃんとアルバムとしてまとまったような感じを出しているのもいいですね。通しで聞けばとんでもない満腹感のある名盤です。




7位 [Alexandros]「Sleepless in Brooklyn」

Sleepless in Brooklyn(初回限定盤A)(Blu-ray付)

Sleepless in Brooklyn(初回限定盤A)(Blu-ray付)


はい、アレキ。個人的にアレキは知ってるバンドの中で一番ちょうどよく適切にカッコいいという感じがしています。
ハードロック方面にもオシャレミュージック方面にもカッコよく、キレキレなんだけどでも完璧にキメすぎずにたまに外してくるところも含めてガンギマリな感じといいますか。

前作は一般層にまで名前が知れ渡ってから初めてのアルバムということでアレキらしい曲から今までになかった曲まで幅広く多彩なアルバムでした。一方の本作は、それとは逆に今までのアレキらしさの軸をさらにアップデートしたような作品になっています。
具体的には、濁音がついたような演奏のハードなロック、踊れるオシャレミュージック、叙情的なポップチューンの三本柱。ほとんどの曲がこの3つのどれかに当てはまりますが、曲数が(Encore Track除けば)11曲と短めだし、全曲とにかくカッコいいのでスリーパターンだけで飽きるということは全くないです。むしろ心地よすぎて一瞬で聴き終えてしまっててびびります。あれ?もうおしまい?と。しかし、そんなちょっと腹八分目くらいのところにアンコールトラックのシングル2曲が入ることで、満を辞してお腹いっぱいになるという、どこまでもカッコいい名盤です。




6位 ゲスの極み乙女。「好きなら問わない」

好きなら問わない+MTV Unplugged(初回限定盤)<CD+DVD>

好きなら問わない+MTV Unplugged(初回限定盤)


If......もしも、『達磨林檎』がなかったら......。
前作『達磨林檎』は川谷絵音があの騒動での経験をわりとストレートに表出した部分の色濃い問題作でしたが、もしも、あのアルバムがなくて『両成敗』から地続きのアルバムを作るなら......というのが本作の印象です(と、偉そうに言ってますがこれはなんかのインタビューの受け売り)。
前作のような重めのシリアスに寄りかかったアルバムではなく、川谷絵音の最大の武器の「切なさ」は当然たっぷり配合されながらも、遊び心も多めの軽妙なアルバムに仕上がっています。
例えば、同じようなテーマの曲でも、世間からの攻撃に真顔で反撃するような前アルバムの「影ソング」に比べて、本作の「僕は芸能人じゃない」は一歩引いて軽いジョークとして言ってみたような余裕が感じられます。
また、本作のもいっこ特徴としては、恋愛系の曲が多い。もっと言えば、indigo la Endっぽい歌詞の曲、といってもいいかもしれません。川谷絵音のラブソングでも随一の切実さの「もう切ないとは言わせない」や、まじでインディゴじゃん、と思っちゃう「アオミ」のような、切実で切なくも優しい視点のラブソング。こうした曲たちもまた本作にさわやかな風を運んでいます。
実はこのアルバムについては単独で感想を書きたいと思っていながら結局時間がなくて書けませんでしたが、とにかく前作より風通しの良くなった名盤です。




5位 UNISON SQUARE GARDEN「MODE MOOD MODE」

なな、まい、めっ!
という掛け声から始まる、ユニゾンスクエアガルテンの7枚目です。毎回最初に枚数を言うのが楽しいですよねユニゾン
今回も、いつものごとく、とにかく「音が楽しいと書いて音楽でござい!」みたいな、音の楽しさに満ちたアルバムです。
なんかもう、ユニゾンのアルバムってどこがどうとかでもなく、毎回フツーに楽しいだけなのであんまり感想の書きようもないのですが、まぁタイアップシングルが4枚入ってるってことで、かなりキャッチーでポップな、それでいてアルバム曲では遊んだりオシャレミュージックをやってみたりもしてる、なかなか触れ幅の広い名盤です。




4位 クリープハイプ「泣きたくなるほど嬉しい日々に」

泣きたくなるほど嬉しい日々に

泣きたくなるほど嬉しい日々に

なんか最近RADWIMPSのみならずみんな人間開花してるような気がするのですが、ついにあの尾崎世界観までが人間開花してて笑いました。
いつになく素直で前向きで、もちろんクリープらしい毒やネガティヴさもありつつ、それでも聴いた印象が「優しい」だなんて、どうしたクリープハイプ
まず、1曲目の「蛍の光からして今までのアルバムの1曲目にはない落ち着いたゆったりとした曲で、「あれ、いつもとちょっと違う......?」などと思っていると、曲も演奏も歌詞の言葉遊びも下ネタもまるっきりクリープハイプらしい2曲目で「あ、やっぱクリープだ」という安心感。
その後はコラボ曲のクリープだけVerや、タイアップ曲などキャッチーな既発曲続き、かと思えばアルバム新曲ゾーンではストリングスアレンジの曲や長谷川カオナシ渾身のボーカル曲、さらにウェディングソングまで、「あれ、いつもとちょっと違う......?」がまた顔を覗かせます。
でも、最後の「ゆっくり行こう」という曲の歌詞で、ああ、そういうことか......と、なんだか納得して、変わらずに変わるクリープハイプを死ぬまで一生愛してやろうと思える、そんな名盤です。



3位 indigo la End「PULSATE」

PULSATE(初回限定盤)<CD+DVD>

PULSATE(初回限定盤)

いきなりですが、本当はこれが1位です。
だって、好きなバンドに順位なんて付けれないけどスピッツが「別格」「殿堂入り」で、indigo la Endが「一番」であることだけは、もう決まってしまっていてなかなか覆せないから仕方がないですよ。
ただ、去年もインディゴのアルバムを1位にしたし、さすがに2年連続だと出来レースすぎるので、まぁこの辺に置いとこう、というところで。

なんせ、オシャレです。
R&Bやファンク、エレクトロといった要素を、indigo la Endというロックバンドの中に過不足なく組み込んだめちゃくちゃクールなアルバムです。
歌詞の内容はというと、「恋」と「命」という2大テーマはこれまで通り踏襲しつつも、フィクション的な曲と、川谷絵音自身の独白のような私小説的な曲が入り混ざることで、なんと言いますか、主観と客観の遠近感がふらふらと揺れ動くような、独特のメリハリが一枚を通して効いています。
とにかく、さらっと何度でも聴いてしまえるさりげない中毒性が抜群なんですね。それでいて憂いは更に色濃くなり、さらっと聴いているうちにドツボにハマっているような、とにかく地味ながらリスナーをキャッチして二度と離さない名盤です。

ちなみにこのアルバムについては単体で感想を書こうとして年内には間に合わなかったので、そのうちちゃんと書いて載せるかもしれません。




2位 ART-SCHOOL「In Colors」

In Colors

In Colors

昨年はメンヘラになるためにsyrup16gを聴いていたのですが、年末から今年の初めにかけて、そこから派生してメンヘラ御用達バンドのART-SCHOOLに目覚めるという典型的なことをやらかしていました。
その後、神様からメンヘラをやめるお許しが出たのでシロップもアートもそんなに聴かなくなりましたが、今年の初め頃に出たこのアルバムだけはそれからも折に触れて聴いています。というのも、4位のクリープの感想でも最近みんな人間開花しがちと書きましたが、本作もまた、なにやらヤケに希望というかメンヘラのその先の光を歌っています。

一曲目で「死んだ様に君は生きていくのかい?俺はそんな風に生きていたくはない」と高らかに歌いあげ、中盤の私の一番好きな「Tears」という曲では「こんなにも愛されたかった 今度から違う 愛せなきゃ変わらないだろう」と、逆に心配になっちゃうくらいの前向きな決意を歌います。
そして、最後のタイトルトラックでは「焦らず靴紐結んで 光の方へ歩き出すんだ」と、分かりやすくアルバム全体を総決算して前向きな余韻を残してくれます。

ゆーてもアートはベストとアルバム3枚くらいしか聴いてないので分かりませんが、そんな私の少ない知識の範囲においては革命的なアルバムで、彼らのファンになっちゃったとともに今後どう歩き出していくのか楽しみになる名盤です。




1位 筋肉少女帯「ザ・シサ」

はい、というわけで、映えある第1位はこちら!
筋少30周年記念アルバムです。
いやぁ、もうね、特に感想という感想もなく、ただただ30年やってるバンドが未だにこれだけ楽しくてカッコよくて笑えて切ないアルバムを作れるのがすげえ!名盤です!終わり!
と言いたいところですが、それも素っ気ないのでちゃんと書きますよ......。
筋少もなんとなーくベストと何枚かのアルバムを聴いてる程度ですが、そんなにわか知識でざっくり言うと、解散前は怪奇な世界観の切ない恋愛モノや人生観の歌、再結成後はそれに加えてバンドをやってること自体の歌が多いような気がします。
で、本作はそんなバンド、恋愛、人生というテーマがバランスよく組み込まれていて、30周年記念アルバムに相応しい作品だと思います。
個人的に好きな曲を3つ挙げるなら、衝撃的なタイトルからのナンセンスギャグに見せかけた切ないラブソング「なぜ人を殺してはいけないのだろうか?」、とにかく歌詞の世界観がヤバく好みな「マリリン・モンロー・リターンズ」、一曲の中でまさにバンドマンのこと恋愛のこと人生のことを凝縮した「ネクスト・ジェネレーション」ですかね。
ともあれ、今年を代表する名盤です。





というわけで、実はこの文章を書いている今、17時間労働を終えた上2018年ががあと2時間しかない状況でございますのでもう勢いに任せて誤字脱字どんと来いでとりあえず年内にアップすることだけを目指して適当に書いています。読みづらい点があったらすみませんでした。Yeah!
ま、今年も音楽は相変わらずよくって、ここ1ヶ月は新しく洋楽の扉も開いてしまったので、来年もどんないい音楽に出会えるのか楽しみです。などと優等生的なコメントを残して終わっときます。みなさま良いお年を!

朝井リョウ『世にも奇妙な君物語』読書感想文

朝井リョウ、なんとなーく、こう、『桐島部活〜』のスクールカースト低い人にはつらそうな感じとか、『何者』の就活失敗したゴミにはつらそうな感じとか、読んだこともないのにつらそうなイメージで勝手に嫌っていました。でも『何者』は絶対大嫌いだと思うから絶対読まないと思うけど......。
ともあれ、そんな風に勝手に苦手意識を持っていた朝井リョウですが、本作は『世にも奇妙な物語』へのオマージュ作品だということで単行本が出た時から気になっていました。この度文庫化したので買ってみました。

世にも奇妙な君物語 (講談社文庫)

世にも奇妙な君物語 (講談社文庫)


私も中学生の時分にYouTubeで『世にも』の過去作を漁っていたタイプの人間なので、『世にも』への思い入れはあるのですが、最近はどうも設定の捏ねまわしと豪華キャスト一辺倒でお話がいまいち......というところで『世にも』離れもしていました。

そんな私にとって本書はどうだったかというと......うん、本音を言えば、面白かったけどめっちゃハマりはしなかったかなぁ......というところでした。

まず、各話のタイトルが

「シェアハウスさない」
リア充裁判」
「立て!金次郎」
「13.5文字しか集中して読めな」
「脇役バトルロワイアル

と、こう、世にも感がすごいです。実際に『世にも奇妙な物語』の各話タイトルを見ると別に似てる作品があるってわけでもないんですが、それでも「ぽさ」を感じさせるあたりネーミングセンスすげえっすね。まぁ、『桐島、部活やめるってよからして印象に残りますもんね。
そして、5話という構成、内容の多様さ、冒頭のタイトルテロップが出るタイミングなどなど、本家へのオマージュに溢れていて素敵です。

一方、お話の内容はというと、スクールカーストや就活を題材にしてるっぽい作品で著名な著者だけあって、各話それぞれ「シェアハウス」「コミュ障」「モンスターペアレント」「スマホニュース」といった現代的な題材が扱われていて興味を唆られます。


第1話の「シェアハウスさない」では、シェアハウス特集を任されたライターの主人公がひょんなことからシェアハウスをする人々と知り合うお話。
設定は一見まともですが、「シェアハウスさない」の人たちが決してシェアハウスをしようと思ったきっかけを語らないのが、何とも謎めいたヒリヒリ感を演出しています。話が進むごとに出てくるちょっとした違和感は、普通なら別に引っかからないような些細な事ですが、本書が『世にも奇妙な君物語』であること自体がこれらの違和感を「嫌な予感」に変えてしまいます。
ひた隠しにされるその件について何となくの想像はしちゃいますが、それをちょっと超える結末はなかなか。さらにサブテーマの扱いも単純に見えて最後まで読むと複雑で、「世にも」テイストと現代的なテーマが見事に融合した第1話です。


続くリア充裁判」は、個人的には本書で一番好きです。
「コミュニケーション能力促進法」が制定された世界での「リア充裁判」をめぐるお話。
真面目一辺倒の非リアな主人公が、リア充裁判によって酷い目にあった姉の恨みを晴らすためリア充裁判に臨みます。
非常につらい体験が読者の神経を逆なでするようにややコメディ調で描かれるという今風なブラックユーモア。
オチは普通なら安っぽくなるところですが、これがまたとても世にもらしくてBGMまで含めて脳内再生余裕でした。この完コピは凄い。
そして、(ネタバレ→)今まで非リア側の立場で「わかるわかる」と読んでいた私みたいな奴らが、オチで、とくにラスト一行でぶち殺されて地獄に落ちるのが圧倒的に最悪ですね。結局世の中こういうことよ。やっぱり朝井リョウ嫌いだという直感は間違っていなかった。


「立て!金次郎」では、熱血な若手の幼稚園の先生(あだ名は金次郎)が、子供のことよりも親からのクレームを気にすることなかれ主義の先輩や園長に圧力をかけられながらも奮闘するお話。
フツ〜〜っに、働き始めてそんなに経たない金次郎先生の成長ドラマという感じで話が進んでいきます。
人の良い主人公が魅力的で、分からず屋の上や親たちとも対立はしたくないけど、でも自分の信念は守りたい、そんな彼を思わず応援したくなっちゃうのはいいですが、これのどこが「世にも奇妙」なのか......?
と思っていると、最後の最後になって奇妙なオチが付いて「あ、そっちからくるのね」とびっくりしました。
ただ、オチは(ネタバレ→)先生たちは親の掌の上で弄ばれているというところで本作のテーマを表している気もしますが、ここまでの2編に比べるとオチでテーマが深化する感覚は薄かったかなぁと思います。


タイトルが言葉遊びになった「13.5文字しか集中して読めな」では、「13.5文字の見出しで手早く分かりやすく」が強みのスマホニュースアプリの会社で働く一児の母が主人公。
私の大好きな川谷絵音氏がゲス不倫騒動を起こしたのもかれこれ数年前になりますが、あれ以来不倫報道は加速するとともに、だんだんと「プライベートをそこまで暴かなくても......」とマスコミに反発する意見も増えているように思います。
また、私のまあまあ好きなRADWIMPSというバンドの先日のニューアルバムに「PAPARAZZI」という、まんまマスコミ批判の曲も入っているなど、なにかと話題になるこの問題。
本作では、芸能人のしょーもないスキャンダルを記事にするライターの側からこのテーマを描いていて、主人公の仕事の内容に気持ち悪さを抱きつつも、頑張る彼女の心情が事細かに描かれ(この点は映像よりも当然小説の方が有利ですが)ているため、憎みきれないようになっているのがポイント。
その上で、あのおぞましいオチは衝撃......のはずでしたが、なんとこれ、(ネタバレ→)上に書いたRADWIMPSの歌詞の内容と結構かぶるんですよね。(ネタバレ→)別に野田がパクったとか言いたいわけじゃないけど、「お父さん(お母さん)のお仕事」という観点が一緒だから、びっくりするより先に「RADじゃん!」と思ってしまった......。
とはいえ衝撃的なお話で、個人的な好みでは「リア充裁判」が好きですが、話の完成度では本書でも随一かと思います。傑作。

↓上に書いた私の好きなミュージシャンたちの曲。読後に良かったらぜひ......。布教。
https://youtu.be/qpb26DUBL7s
https://youtu.be/tZcJRFc15LY


そして、トリを飾るのがタイトル的には一番気になった「脇役バトルロワイアル
タイトル通り、脇役専門のようになっている役者たちが主役の座を巡ってバトルロワイアルする話です。キャラたちの名前が実在の俳優をもじったものになっているので、見た目も声も脳内再生余裕......と言いたいところですが、日本の俳優にあんまり詳しくないので半分くらいしかピンと来ませんでした......。
それはそうと、内容は「世にも」に一編はある不条理コメディで、面白いけど最後にこれ?という気はしてしまいます。
帯で過剰に宣伝しているから言っちゃいますが、一応この最終話で本書全体の仕掛けが明かされる......わけですが、それはあくまでおまけ程度、ミステリーファンが「え、どんでん返しあるの?」と期待して読むようなものではないし、ミステリーとして見てしまえばありがちだしレベルはかなり低いものです。
......なんて散々ディスってるみたいですが、これはあくまで期待させる宣伝の煽り方への肩透かしであって、内容自体は面白かったです。



というわけで、感想を書いているうちに気付きましたが、「ミステリー」「どんでん返し」という売り方が悪いだけですね。
あくまでミステリーではなく世にも奇妙な物語。変な方向へ期待せず奇妙な設定やブラックなユーモアを楽しむのが吉、な一冊です。