偽物の映画館

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朝井リョウ『世にも奇妙な君物語』読書感想文

朝井リョウ、なんとなーく、こう、『桐島部活〜』のスクールカースト低い人にはつらそうな感じとか、『何者』の就活失敗したゴミにはつらそうな感じとか、読んだこともないのにつらそうなイメージで勝手に嫌っていました。でも『何者』は絶対大嫌いだと思うから絶対読まないと思うけど......。
ともあれ、そんな風に勝手に苦手意識を持っていた朝井リョウですが、本作は『世にも奇妙な物語』へのオマージュ作品だということで単行本が出た時から気になっていました。この度文庫化したので買ってみました。

世にも奇妙な君物語 (講談社文庫)

世にも奇妙な君物語 (講談社文庫)


私も中学生の時分にYouTubeで『世にも』の過去作を漁っていたタイプの人間なので、『世にも』への思い入れはあるのですが、最近はどうも設定の捏ねまわしと豪華キャスト一辺倒でお話がいまいち......というところで『世にも』離れもしていました。

そんな私にとって本書はどうだったかというと......うん、本音を言えば、面白かったけどめっちゃハマりはしなかったかなぁ......というところでした。

まず、各話のタイトルが

「シェアハウスさない」
リア充裁判」
「立て!金次郎」
「13.5文字しか集中して読めな」
「脇役バトルロワイアル

と、こう、世にも感がすごいです。実際に『世にも奇妙な物語』の各話タイトルを見ると別に似てる作品があるってわけでもないんですが、それでも「ぽさ」を感じさせるあたりネーミングセンスすげえっすね。まぁ、『桐島、部活やめるってよからして印象に残りますもんね。
そして、5話という構成、内容の多様さ、冒頭のタイトルテロップが出るタイミングなどなど、本家へのオマージュに溢れていて素敵です。

一方、お話の内容はというと、スクールカーストや就活を題材にしてるっぽい作品で著名な著者だけあって、各話それぞれ「シェアハウス」「コミュ障」「モンスターペアレント」「スマホニュース」といった現代的な題材が扱われていて興味を唆られます。


第1話の「シェアハウスさない」では、シェアハウス特集を任されたライターの主人公がひょんなことからシェアハウスをする人々と知り合うお話。
設定は一見まともですが、「シェアハウスさない」の人たちが決してシェアハウスをしようと思ったきっかけを語らないのが、何とも謎めいたヒリヒリ感を演出しています。話が進むごとに出てくるちょっとした違和感は、普通なら別に引っかからないような些細な事ですが、本書が『世にも奇妙な君物語』であること自体がこれらの違和感を「嫌な予感」に変えてしまいます。
ひた隠しにされるその件について何となくの想像はしちゃいますが、それをちょっと超える結末はなかなか。さらにサブテーマの扱いも単純に見えて最後まで読むと複雑で、「世にも」テイストと現代的なテーマが見事に融合した第1話です。


続くリア充裁判」は、個人的には本書で一番好きです。
「コミュニケーション能力促進法」が制定された世界での「リア充裁判」をめぐるお話。
真面目一辺倒の非リアな主人公が、リア充裁判によって酷い目にあった姉の恨みを晴らすためリア充裁判に臨みます。
非常につらい体験が読者の神経を逆なでするようにややコメディ調で描かれるという今風なブラックユーモア。
オチは普通なら安っぽくなるところですが、これがまたとても世にもらしくてBGMまで含めて脳内再生余裕でした。この完コピは凄い。
そして、(ネタバレ→)今まで非リア側の立場で「わかるわかる」と読んでいた私みたいな奴らが、オチで、とくにラスト一行でぶち殺されて地獄に落ちるのが圧倒的に最悪ですね。結局世の中こういうことよ。やっぱり朝井リョウ嫌いだという直感は間違っていなかった。


「立て!金次郎」では、熱血な若手の幼稚園の先生(あだ名は金次郎)が、子供のことよりも親からのクレームを気にすることなかれ主義の先輩や園長に圧力をかけられながらも奮闘するお話。
フツ〜〜っに、働き始めてそんなに経たない金次郎先生の成長ドラマという感じで話が進んでいきます。
人の良い主人公が魅力的で、分からず屋の上や親たちとも対立はしたくないけど、でも自分の信念は守りたい、そんな彼を思わず応援したくなっちゃうのはいいですが、これのどこが「世にも奇妙」なのか......?
と思っていると、最後の最後になって奇妙なオチが付いて「あ、そっちからくるのね」とびっくりしました。
ただ、オチは(ネタバレ→)先生たちは親の掌の上で弄ばれているというところで本作のテーマを表している気もしますが、ここまでの2編に比べるとオチでテーマが深化する感覚は薄かったかなぁと思います。


タイトルが言葉遊びになった「13.5文字しか集中して読めな」では、「13.5文字の見出しで手早く分かりやすく」が強みのスマホニュースアプリの会社で働く一児の母が主人公。
私の大好きな川谷絵音氏がゲス不倫騒動を起こしたのもかれこれ数年前になりますが、あれ以来不倫報道は加速するとともに、だんだんと「プライベートをそこまで暴かなくても......」とマスコミに反発する意見も増えているように思います。
また、私のまあまあ好きなRADWIMPSというバンドの先日のニューアルバムに「PAPARAZZI」という、まんまマスコミ批判の曲も入っているなど、なにかと話題になるこの問題。
本作では、芸能人のしょーもないスキャンダルを記事にするライターの側からこのテーマを描いていて、主人公の仕事の内容に気持ち悪さを抱きつつも、頑張る彼女の心情が事細かに描かれ(この点は映像よりも当然小説の方が有利ですが)ているため、憎みきれないようになっているのがポイント。
その上で、あのおぞましいオチは衝撃......のはずでしたが、なんとこれ、(ネタバレ→)上に書いたRADWIMPSの歌詞の内容と結構かぶるんですよね。(ネタバレ→)別に野田がパクったとか言いたいわけじゃないけど、「お父さん(お母さん)のお仕事」という観点が一緒だから、びっくりするより先に「RADじゃん!」と思ってしまった......。
とはいえ衝撃的なお話で、個人的な好みでは「リア充裁判」が好きですが、話の完成度では本書でも随一かと思います。傑作。

↓上に書いた私の好きなミュージシャンたちの曲。読後に良かったらぜひ......。布教。
https://youtu.be/qpb26DUBL7s
https://youtu.be/tZcJRFc15LY


そして、トリを飾るのがタイトル的には一番気になった「脇役バトルロワイアル
タイトル通り、脇役専門のようになっている役者たちが主役の座を巡ってバトルロワイアルする話です。キャラたちの名前が実在の俳優をもじったものになっているので、見た目も声も脳内再生余裕......と言いたいところですが、日本の俳優にあんまり詳しくないので半分くらいしかピンと来ませんでした......。
それはそうと、内容は「世にも」に一編はある不条理コメディで、面白いけど最後にこれ?という気はしてしまいます。
帯で過剰に宣伝しているから言っちゃいますが、一応この最終話で本書全体の仕掛けが明かされる......わけですが、それはあくまでおまけ程度、ミステリーファンが「え、どんでん返しあるの?」と期待して読むようなものではないし、ミステリーとして見てしまえばありがちだしレベルはかなり低いものです。
......なんて散々ディスってるみたいですが、これはあくまで期待させる宣伝の煽り方への肩透かしであって、内容自体は面白かったです。



というわけで、感想を書いているうちに気付きましたが、「ミステリー」「どんでん返し」という売り方が悪いだけですね。
あくまでミステリーではなく世にも奇妙な物語。変な方向へ期待せず奇妙な設定やブラックなユーモアを楽しむのが吉、な一冊です。