偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ハイテンション

2回目観ました。2回目でも口から心臓吐いたくらい緊迫感のエグいフランス産スプラッタホラーです。

ハイテンション [DVD]

ハイテンション [DVD]

製作年:2003年
監督:アレクサンドル・アジャ
出演:セシル・ドゥ・フランス、マイウェン・ル・ベスコ

☆4.0点

〈あらすじ〉
大学生のマリーは試験勉強のため親友のアレックスの実家へ泊まりに行く。その夜、家に殺人鬼が侵入し......。



......やっぱり雰囲気がいいですわ。冒頭の、まだ何も起きていない段階から、親友同士の2人が仲良く車で家へ向かうだけなのにもう隠微でシリアスな雰囲気が出てて「この映画はなんかヤバいゾ......」という気持ちにさせられるんですね。
その後も子供がはしゃいでたり主人公がオナニーしてたりするだけの場面でもいちいち「なんかヤバいゾ」という空気、具体的に何があるわけでもなく音や映像から漂って来る匂い(やけに静かで暗い......)が期待をそそりまして......。

そしていよいよ殺人鬼おじちゃんがビビーッ、ビビーッと呼び鈴を鳴らしますと、観客はおよそ1時間の呼吸我慢大会に強制参加させられます。

がしゃーんからのだーんからのずずずーぶしゃっ!ぴゅ〜〜っ!と、私のほとんどないような良心にすら具体的に描写するのを憚らせるような残虐な殺人シーンの連続!
そして、ものすごく悪いタイミングでそれを見てしまう主人公の視点を観客も共有させられるのがこの映画のエグいとこです。見たくもないのに見せられてしまう、このおぞましさよ!
この時点で既に最低ですよこの映画。

こうして友人以外の家族全員を惨殺した殺人鬼。しかし、友人宅に泊まりに来た主人公の存在には気づいていません。
実はここまではまだ序の口で、エグいのがこの後なんですよね。なんせ殺人鬼は主人公に気づいていないんだから、普通なら主人公は「こりゃラッキー♪」と逃げればいいところですが、なんと殺人鬼は親友を攫ってしまうのです!
こういう時のお約束として電話線は切られており、今から助けを呼びに行けば殺人鬼は友人を攫ってどこかへ逃げ去ってしまう......。こうした状況で、男勝りの主人公はなんと友人を助けるため殺人鬼を追いかけることを決意しちゃうのです!
というわけでここからが謂わば第2部。
親友を助けようとする主人公も自ら敵の手中に入らなければならず、「逃げれるし逃げたほうがいいけど逃げられない」というアンビバレントな不条理劇になる、この設定の作り方が天才的です。心臓吐きました。
追いかけながら隠れるという鬼ごっことかくれんぼを混ぜた上、罰ゲームは死という、これまさにHigh Tension、極度緊張(しなさい)ですね。
そして、徹底してシリアスな緊張感が続き、隠れながら追いかけた果てにある、あのラストがまためちゃくちゃいいんですよねぇ。

後でネタバレコーナーで詳しく書きますが、最後にきて恐怖の質がふわっと変容してよりおぞましい恐怖のズンドコに突き落とされる感じ......とでも言えばいいのか。しかしそこに一抹の切なさすら漂わせて、最後の最後までサブカル好みのするヤバい雰囲気を出しきっているのがクールですね。90分しかないのに見終わってどっと疲れますが、「はぁ、良い(嫌な)もん観たわぁ」という、それは満足感というよりは後悔に近い、でも後悔し尽くすことに満足するようなわけわからんどんよりした満足感を残してくれます。

とにかく嫌なものを見たい人、緊張したい人、血が好きな人、変態な人などにオススメしたい傑作フレンチホラーです。要はあんまりマトモな人にはオススメしません見ないでください。



では以下ネタバレで結末について......といっても考察とかじゃなくて一言叫びたいだけですけど......。






























良い百合!!!!!泣ける!!!!!

あい、すんません。最後の最後にきて、実は殺人鬼は主人公の別人格でした!という大どんでん返〜〜し!があるわけですね。正直最初に見たときは「は?」と思いましたが、今回の再鑑賞でようやく良さがじわじわと分かってきました。
たしかに、矛盾っぽく見える点は多々ありますが、この映画で描かれていること自体全て主人公の妄想、あるいはラストで檻に入れられた主人公の回想と取れば、そもそも視点が歪んでいるわけだから矛盾っぽいことも全て矛盾ではないとも言えるのではないでしょうか。それを言ったらおしまいな気もしますが......。
というか、そんな細けえことは気にせず「ぎゃー殺人鬼だコワイヨー!」「うひゃー!どんでん返しだ!!」「百合!!百合!!」と頭空っぽで楽しむのがB級ホラーの楽しみだと思います。
そういう意味では、本編はホラーとしてめっちゃ怖くて、ラストではどんでん返しと共に、実は決して叶うことのない想いが暴走するトラウマ恋愛映画だったという実態も現す、一粒で3度美味しい的な傑作だと思うんですけどねぇ。わりと評判悪いよね。どうでもいいけどちょっと悲しい......。

トマス・H・クック『夏草の記憶』読書感想文

チョクトーという田舎町で診療所を営む医師のベン。彼は今でも30年前のことを思い出す。高校生だったあの頃、転校生としてチョクトーの町にやってきた少女・ケリーに恋をしたこと。そして、あの夏、ケリーの身に起こった悲劇のことを......。

夏草の記憶 (文春文庫)

夏草の記憶 (文春文庫)


海外ものの(失われた)青春ミステリです。
普段海外ものはあんま読まないんですが、『撓田村事件』を褒めてたら、フォロワーさんに「これも暗い青春ミステリやで」と勧められたので読んでみたわけです。はい、暗い青春ミステリでした。

あらすじにも書いた通り、中年の医師が高校時代を回想するお話で、カットバックが多用されてなかなかややこしい構成になっています。
というのも物語に出てくる時間軸が
①現在
②高校時代
③高校時代の話に登場した人たちのその後という、近い過去

と3種類あって、それらをパッパッと行き来する構成だからややこしいんですよ。
ただ、その行き来の仕方が鮮やかで、カットバックが多用されているわりに話の流れが停滞した感じがないのが見事です。最初こそ人名を覚えるのとちょっと地味なので読みにくいものの、慣れてこれば一気に読むことができました。

ミステリとしての「謎」はただ一点、「あの日、少女の身に何が起こったか?」ということ。しかも、その顛末もだいたいは書かれてしまっていて、隠されていることはほんの一部。しかし、それでも最後まで読んでみるとその「ほんの一部」に仰天させられるから凄いです。
そして、ラストまでの展開は、ミステリとしてみると密室とか見立てみたいなギミックがあるわけでもなくかなり地味ですが、それでも読まされる要因は、青春小説としてのリアリティにあるでしょう。



そう、ミステリとしての真相も確かにインパクト大でしたが、それ以上に青春小説部分こそが本書を忘れがたい物語にしているのです。
......が、その辺を詳しく書くとややネタバレ気味になるのでそれは後回しにして、まずはかるーく本書の青春小説としての魅力を紹介します。

本書の面白さは、奥手な少年が味わう上手くいかない初恋のもどかしさにあります。

転校してきた少女と共に学校新聞を作ることになった主人公。
新聞に載せるため彼女が書いた詩を読んだり、一緒に取材をするうちに、彼女に惹かれていることに気づきます。その、恋愛特有の一喜一憂感がリアルなんです!

ちょっとしたことで彼女が自分のものになる予感がしたり、かと思ったらちょっとしたことで自分が彼女には似合わない卑小な存在に思えたり、そんな躁鬱的心理を見事に描き出していて共感してしまいます。作中に、ヒロインのケリーの、「この町で起こることは、世界中のどこでも起こる。いずこも同じよ」というセリフが出てきますが、人の心というものもいずこも同じ。日本とアメリカでも別にそう違いはないわけですね。
そして、中盤以降になると、どんどん躁部分が減っていって、終盤はもう身を切られるような鬱だけが残ります。で、読んでいくにつれ、ケリーという少女の魅力がどんどん増していくから余計につらいんですねこれが。
それはもう、運命というものの存在を仮定して、そいつを仮想敵として憎まなければやりきれないくらいに、残酷なお話なのです。


むかしむかし、先生は私に、「しかし君、恋は罪悪ですよ」と言いました。でも私は「罪悪っつうか、最悪じゃねーか」と思いました。かくして私は、恋をすることを辞めたのです。
しかし恋というクソゲーから降りてからも、あの喜び、そしてそれ以上にあの痛みは、決して忘れられません。本書は、そんな恋愛の痛みを知る全ての人に、特にモテない草食系男子には一層突き刺さる最高最悪の恋愛小説なのです。

というわけで、以下で、本書に描かれる恋の痛みについて書いちゃいます。致命的なネタバレはありませんが、だいたいの流れに触れちゃうので気になる方は読まないでください。あと恥ずかしいからあんま読まないで。















さて、本書は青春時代の恋愛が失敗に至るプロセスがまるっきりそのまま描かれていると思うのですが、いかがでしょう?
私はこれを読んで「なんでこんなに俺の気持ちが分かるんや!」と思ったものですが、きっと多くの人が若い頃にこういう気持ちを体験しているということでしょう。


まず序盤では、ケリーと出会ったベンが恋に落ち......というか、恋って落ちるというより少しずつ沈んでいって気づけば首まで浸かっているものだと思いますが、それはどうでもよろし、とにかく恋をして毎日ハッピー騎士道精神〜という感じで、(カットバックで行き来する「悲劇が起きた後の現在」さえなければ)わりかし明るい感じなんですよね。
しかし、それでも僕らオクテ男子がやってしまう全ての失敗の源、「拒絶されるのを恐れて踏み出せない」をギャグかと思うくらいベタに実行していくわけですよ。
この辺で好きなのが、親友のルークがベンに言う「好きになった女の子のことは、誰だって恐がるもんだよ」というセリフ。私もだいたい好きになった人のことは悪魔みたいに感じて怖くて話しかけれないので分かりみが強いですね、はい。


で、そんな好きな子できちゃったうふふ的な展開が起承くらいの間続くので、色んなイベントがあるにせよ、前半はやや単調であることは否めません。
しかし、物語が転を迎えるとベンへの感情移入度が加速度的にうなぎ登ります。
その転というのがそう、ケリーからの緩やかな拒絶と恋敵の登場なのですつらい!えぐい!死にてえ!うひゃー!!!
......はい、深呼吸。



恋愛において最高級につらいことは、好きな人が自分を好きじゃないということです。何をあんたは言ってるのよそんな当たり前な......と思われるかもしれませんが、実際渦中にある時にはそれはありきたりな悩みなどではなく地獄みたいな取り返しのつかない最悪な苦しみを伴うものなのであります。そして、例えば本を読んだり音楽を聞いたりと趣味の時間を取ろうとしても頭の中で希死念慮がどんどん増殖していって、そのほかの思考はオセロが下手くそな人の陣地みたいにパタパタとひっくり返されて死にたみに変わっていってしまいそれを成すすべもなく見ているほかないものなのです。
しかも、作中に

愛してくれない相手を愛する悲しみは、悲しみは悲しみでも、なぜか人の笑いや嘲りを誘うものだ

とあるように、それはどんなにつらくても他人からしたら滑稽なものでしかなく、それを自分も分かっているからこそ余計につらいという、もう自意識と相手からの拒絶と世間の目の三面楚歌。そして、残った一面に逃げ込むと、そこには相手への殺意が待っているのです。

自分のものにならないのなら、ケリー・トロイなどこの世から抹殺してしまいたい

冒頭から、ベンが事件において何かしらの加害者的役割を果たしたことは書かれていますが、終盤でケリーが恋敵と仲良くなっていく場面に至って、ついに明確な殺意が地の文において語られることになります。ここで一気に最初から隠されている「ベンが何をしたのか?」という本書最大の謎に読者の関心がリバイバルするとともに感情移入しすぎて苦しくなり、この苦しみから解放されるために早くこんな駄本は読み終えなければという焦燥に駆られてページをめくる手が倍速になります。今まで恋することで湧き上がってきた強い光の気持ちも殺意の前ではチリのように吹き飛んでしまうあたりがすげえリアルですよね。
しっかし、たしかに好きな人が他の人と仲良くしてたら、死んで欲しい気持ちにもなりますよね。私も若かった頃は夜中にコンビニで買った酒を飲みながらあの子をぶち殺すためにふらふらあの子の家まで行こうと彷徨い歩いて公園で寝たりしましたからねぇ。懐かしいなぁ。
......という感じで、本書は恋する感情の流れを描くことで、読者の実体験を想起させてつらみをマシンガンの如くぶっ放してくるのが特徴です。つまり、描かれる感情は多くの人に当てはまる普遍的なものでありながら、読者のそれぞれがそこに忘れられない思い出を持っている限りにおいて「この本あたしのこと書いてる!」と叫んじゃうほど個人的な作品でもある。この辺のバランスがめちゃくちゃ上手えと思いました。

また、ここまでベンの視点に寄って書いてきましたが、本書の凄いのはここまで主人公に感情移入させながらも脇役の描き込みにも手抜きがないところです。ベンの恋敵の男に惚れる女の子の同じような嫉妬心や、ベンの父親やケリーの母親の存在感、そして何と言っても、ベンの妻・ノーリーンの気持ちを想像するとそれもまたつらく、結局世の中何も上手くいかないし恋愛ということが世の中にある時点でもう人間はおしまいなんだよまじクソゲーかよと思わされますね。思う!

ただ、第三部の最後に「そんな話(=よくある失恋談)として、終わっていた可能性もあったはずだ。しかし、そうはならなかった」とありますが、読者の私にとっては初恋の思い出は苦いながらも「そんな話」として終わったものであり、多くの人の場合もそんなものなんでしょう。
失恋の苦しみなんてずっと抱えていたら重くて仕方がないもの。渦中にいる時こそ「いつまでこの苦しみが続くのだろう早く死にたい」と思うものの、それこそ、この小説で起こるような「悲劇」でも起こらなければ永遠に抱き続けるのは難しいのもです。
だからこそ、本書で起こる悲劇は、「自分に起きていたかもしれなかったけれど実際は起きなかったこと」として、身を切られるほど痛切でありながらギリギリで他人事としてエンタメに出来るわけです。

だから、ラストでミステリとしての真相が明かされた時も、めちゃくちゃつらいしつらさは"解決編"のせいで当社比1億万倍にまで膨れ上がりましたが、それでも上質などんでん返しを食らった時の「おお、まじか!」という知的興奮もしっかり味わえて、結局苦しい苦しいと言いながらミステリとしても青春小説としてもめちゃくちゃ楽しんでいる自分がいることに気づかされました。

はい、長くなりましたが、そんなわけで、本書は失恋を体験したことがある人なら必ずや当時を思い出してしんどくなる、そして今その渦中にあったらまじで死にたくなるんじゃないかなぁという危ない本です。が、それでいて素晴らしいミステリでもあるので、ぜひ暗い青春小説が好きな青春拗らせクソ野郎に読んでいただきたいです!

‪私としては、死にたい死にたいとだけ延々と、むしろ永遠と繰り返しながら何も手につかないから近所をただ泣きながら歩き回ってたあの頃の自分に「じゃあ死ねええぇぇ!」と叫びながらこの本の角で頭ぶん殴ってやりたいですね。あ、物理攻撃で殺しちゃった。

海猫沢めろん『愛についての感じ』読んだ記録

三大奇書としてお馴染み(?)の『左巻キ式ラストリゾート』の著者。まさかもう一度この人の作品を読むことになろうとは思いませんでしたが、今作は普通に面白かったです。


まさに、愛についての、感じ、という感じですね。本作は5編収録の短編集ですが、各話で「愛」に近づいていながらまだ「愛」を知らない人たちが出てきます。

しかし、そうしたテーマの共通性がありながらも、各話の内容は設定もジャンルも文体すら丸っきりそれぞれ違うのが凄えんですよ。
ケータイ小説かブログかみたいな軽薄な文体のドタバタサブカルホスト小説から、著者自身の随筆風のもの、ファンタジー風味のものもあればヤクザと風俗嬢のレトロな悲恋ものまで、とにかくあの手この手で「愛」についての感じを描き出して飽きさせない。しかもどれも読みやすいので一気読みでした。

で、この本の感想を書こうと思ったのですが、はっきり言って夢眠ねむ氏による解説(文庫版)が本書の魅力を全て言い表しているので、気になる人は立ち読みで解説だけ読んでください。私から言えることは以上です。

あ、ひとつ、印象に残ったのが、レザーフェイスの話の「どこまで理解すれば本を読んだ/映画を見たことになるのか問題」です。文字を追えば読んだことになるのか?作者と同程度まで作品を理解したら読んだことになるのか?ということを考え出すともう読んだなんて言えないっていう、アレ。こんなブログやっといてからにあれですが私もたまに思うことがあり、でも最終的にはなんも考えずに読んだことにして「読書感想文」などと銘打ってインターネットに載せることで溜飲を下げているフシがあるので身につまされました。
というめっちゃ細部の感想だけ書いて今回は終わります。

今月のふぇいばりっと映画〜(2018.9)

はい、突然ですが新コーナー?的なのです。

このブログ、一応映画ブログのつもりで始めたのに、最近は読書感想ばっかで映画についての記事がどんどん少なくなっているのに忸怩たる思いなわけですよ。でも実はちゃんと毎日映画自体は観てて、でもブログに書くほどの気力が湧かないから載せてないだけってのが正味なところなんですよ。そこで、今月(先月分)から、その月に私が観た映画の中からMy Favoriteだった作品についての短文感想(という名のFilmarksからの転載)をまとめていこうと思います。ちなみに来月まで保つのかは神の味噌汁。

というわけで、9月に観たふぇいばりっとな映画がこちら〜↓

ジャンゴ 繋がれざるもの
レディプレイヤー1
P.S.アイラブユー
禁断の惑星
巨大クモ軍団vs GoGoダンサーズ




ジャンゴ 繋がれざるもの


1850年代くらいのアメリカ。黒人奴隷のジャンゴは、賞金稼ぎの白人医師に助けられ、生き別れた妻が奴隷として酷使されているらしい農園に、妻を取り戻すため向かう......というお話。


とにかくね!スカッとするんですよね!
悪いやつが出てきますね。悪いんだぁ、これが。「ニガー」への差別的言動、人として扱わない奴ら。そんな奴らにね、ぶっ放すんですねぇ、銃弾を。これですよ〜。
テレビでね、スカッとジャパンってありますけどね、あれ見てて思いますよね。「殺さなきゃスカッとしねえよ!」って。この映画では殺すんだぁ。やっぱりね、スカッとジャパンよりスカッとアメリカンですね。死ななきゃ治りませんから。

そんでね、ぶっ放すタイミングも分かってらっしゃるんだなぁこれが!さすがタラちゃんさんですよね。悪いやつがね、俺は悪いぞお〜って悪さを極限まで出してきて見てる僕らがイライラ最高潮に達した時にズドンってね。まぁ〜〜痛快ですね。エモですよこれが。
農園主のラスボス・レオディカちゃんがね、また一段と嫌なやつでして、こいつがまぁなかなか死なない。ジャンゴたちもさすがにこいつの領地で下手なことできないですから、さっさと始末するわけにもいかず奥さんを助けるために耐え難きを耐えるわけです。泣けますねこれ。そんでもうこいつまじはよ死ね死ね死ね死ね死ねズドンうほっ死んだぜざまぁみやがれうひゃ〜〜っ!とこう、これがエモですねぇ。はい。

ただね、気持ちよく悪いやつが死ぬだけでもストレートな痛快エンタメ超大作ですけども、この映画はまた展開が面白いんだ。基本的には勧善懲悪一直線なんだけど、細かいところで「え、そうなるの??」というズラしが効いてきましてね。これが3時間近くある作品ですから、尺が長いぶん曲折もさせやすいときまして、真っ直ぐだけどロング&ワインディングロードって感じなんですね。

それでもね、ラストシーンはもう、これぞ!っていう分かりやすい終わり方でね、その分ここに来るまで色々あったなぁという余韻が走馬灯のように駆け巡りますね。満足感でそのまま召されるかと思いましたよ。はぁ、気持ちよかった。




レディ・プレイヤー1


VRで行く仮想世界「オアシス」。
亡き創設者は「この世界にある3つの謎を解けば私の遺産をあげるよん」と遺言した。
クソみたいな現実を逃れオアシスで賞金稼ぎをする主人公は、仲間たちとともに謎に挑む。


半分以上VR世界が舞台の、スーパーSFファンタジックミステリアスアクション風ラブストーリーです。

最初のうちこそ、「あ、僕VRとかそういうのいいんで✋」と思っていましたが、現実世界との絡みが出てくるあたりから「おっ」と思い始め、パーティを組んで大企業とバトりだすに至って遅ればせながらこの世界観にハマってしまいました。
もうスピルバーグらしく、誰が見ても同じところで笑って同じところで泣ける映画です。こないだ北野武の映画を見たのでつい言ってしまいましたが、私はそれはそれで悪いとは思わず、エンタメとしては最高だと言わざるを得ないなぁと思います。

また仮想現実が舞台ということで何でもありではあるのですが、その「何でも」をまさかサブカル・オタクカルチャー方面にブチあげるとはどんだけ日本での興行収入を見込んでいるんだ!!!ハローキティ!!!「僕はガンダムで行く」ってなんや!!!
はっきり言って、制作費の半分は著作権使用料では?ってくらい有名なキャラや作品をあれもこれも入れてます。某映画に至ってはまんま映画の舞台がアトラクションとして使われています。いやUSJかよ!USJ行ったことないけど!行きたい!


しかし、そんなわちゃくちゃの先には、鋭くも優しいテーマも込められているのです。
現実から目を背けるために仮想現実の世界に入り浸る主人公が、現実世界をも巻き込む事件に巻き込まれる。そして現実世界の大切さを知るというのはまぁ普通ですが、かといって逃げることも否定しない。現実とオアシスをどっちも同じウェイトで肯定するあの結末、なんてオタクに優しいんでしょう。
私も小説に映画に音楽にツイッターにと現実から目を逸らしまくっていますので、この粋な結末にうーん最高っ!と思いました。最高です。

そしてラストの一言が良い!ちなみに私は月曜日に仕事が休みです。




P.S.アイラブユー

ついに見ました。なんせ泣けるラブストーリーといえばこいつか「きみ読む」かの二択と言っても過言ではないくらいの金字塔にしてネオクラシック。要は超有名作だから身構えて観たわけですが、うーん、良い......。

喧嘩が多くもラブラブのホリーとジェリーの夫婦。しかし、結婚生活は長くは続かず、ジェリーは病死してしまいます。夫を亡くし哀しみで腑抜けてしまうホリーですが、ある日死んだジェリーからの手紙が届き......っていうストーリー。

もうね、急なんですよ、亡くなるのが。作中人物からすれば闘病とか色々あっただろうけど、こっちは「実はもう死んでました〜」みたいな感じでいきなり言われても戸惑う一方で、最初は唐突すぎて正直そこまで感情移入できないかなー......なんて思ってましたが、違うんです。そこから回想と妄想と現実の3つが入り混じるややこしい構成で少しずつ2人のこれまでのことが描かれていき、観客も徐々に哀しみを実感できるという仕掛けになっているわけです。
そして、哀しみに暮れながらも友達やいい感じの男や母親たちと過ごして前を向くために奮闘、時には迷走するホリーの姿に元気をもらいます。
しかし夫からの手紙はそれからも容赦なく届き続け......これじゃ忘れられないじゃない!というアンビバレンスと、その着地点こそが本作の見どころであります。最後は「え、え〜〜??」となりましたが、案外そんなもんかも。なんにしろ美しい結末を見せていただきました。

ところで、やっぱりフラれるのと死別とは丸っ切り違うわけですな。普段フラれるタイプの失恋ものの映画は好んで見るのですが、ああいうのはわりとこううじうじした陰鬱な感じなんですよ。それに比べて、今作は前を向くより他にしょうがないというところで悲しい話ではありながら結構明るくて笑えたりもするんです。
そうやって頑張る主人公を見てると自分を省みて恥ずかしくもなりましたが、本来人間はこうあるべきなんでしょうね。今さらですけど大事なことを教えてもらった気がします。今度フラれたらこういうステキな対応が出来るようにしたい。



禁断の惑星


23世紀、宇宙に移民し行方不明になった一団を探すため、捜索隊が惑星アルテアに着陸する。惑星にはモービアス博士と彼の娘アルタの2人。そして博士が作ったロボットのロビーしかいなかった。ほかの人たちはどこへ行ったのか?そして博士たちはどうやって生き延びたのか......?


It's A 怪奇 Science Fiction 大作戦!!
もうね、Atmosphereがヤバいっすわ。
ものすごく作り物っぽいセットは、しかし作り物であるが故のカッコよさでワクワクさせてくれて安っぽさは感じさせません。そして出てくるものたちが魅力的......宇宙船、ロボット、ロボット三原則、謎の博士、謎の装置、謎の先住民、謎の怪物、謎の虎 and the 謎の美女 Oh!Yeeeeeah!
もうね、わくわくするもの全部乗せでどれもこれも最高なんです!

特にヒロインのアン・フランシスがめっちゃ可愛くて、「古典SF映画に出てくる美女」の理想形みたいな!CuteでSexyでBeautiful!彼女はこの惑星で生まれ、父親以外の人間と会ったことがないから、ものっすごいど天然っぷりを発揮してそれもまた可愛いあざとい大好き💕
もうね、結婚します私この人と。60年前だけど。しかも故人だけど。でもそんなこと愛の前では無問題ですよねっ!口元にほくろあるのズルすぎますよねっ!

で、そんなヒロインに負けず劣らず可愛いのがロボット界の最長老、ロビーくんことロビー・ザ・ロボット氏!Ray Gunを片手に携えたジャジャ馬さんですが、ロボット工学三原則に則って人間を打とうとするとコンフュかかってバグっちゃうような可愛い一面も覗かせます。そもそもデザインがもこもこしてて可愛い。後のSF映画にも大きな影響を与えたらしいです。R2D2氏とか。

まぁはっきり言ってこの二大ヒロイン(?)の共演を見るだけで十分楽しいのですが、ストーリーもなかなか面白かったです。
最近ではこういう作品ばっかですが、当時としては哲学的なThemaを含むSF映画というのはわりと珍しかったのではないでしょうか。さらには、"アレ"が登場するまでの過程は、「なぜ博士親子以外の人が消えたのか」という謎を探るSFミステリの結構になっております。その真相としての"アレ"がそのままラスボスになって、なおかつああいう工夫を凝らした描き方をされているのも面白く、うん、ヒロインだけじゃなくてやっぱストーリーもいいですよ。

というわけで、美女と激かわロボットに加えて全編に漂う謎と不穏の香気にも酔える贅沢な作品なのでありました。

惜しむらくはそこいらのツタヤに置いてないこと。でももっかい観たいしDVD買おうかな〜悩む〜。

(ちなみによすぎてスマホの壁紙にしました)




巨大クモ軍団vs GoGoダンサーズ


ほぼタイトルの通りですのであらすじは省きます。ただし、「巨大」は半分詐欺なので悪しからず。

タイトルの通り、エロとパニックを抱き合わせにしたB級映画ではあるのですが、意外にもかなり楽しめました。

というのは、1つには女の子の魅力が大きいところです。GoGoダンサーの三人組はそれぞれ貧乳ちゃん、クールなお姉さん、ドジっ娘メガネっ娘で、さらにバーテンのエロいお姉さんと警備のエロいお姉さんと、個性的なヒロインが5人もいるハーレム状態。しかも全員素人っぽさもありつつB級映画にしては綺麗でどストライクだったのでそれだけでもう観てて幸せでした。
まぁストリッ......GoGoダンスのシーンなんか撮り方とかはぜんっぜんエロくなくて脱力ですけどね。素材の良さだけっていう。
で、そんなお姉さんたち、見た目が可愛いだけじゃなくちゃんとキャラ立ちもしてたし、おっさんもメインで三人くらい出てきますがそれぞれ極端な人たちで笑えました。

そしてもう1つ良かったのがヘンテコなものがたくさん出てくるとこ。店の地下のお化け屋敷みたいな感じとか、クモのお腹のふくらみとか、ゴジラとか、そういうヘンなものを見るためにこういうヘンな映画を見るわけですからね。その辺は満足。

まぁもちろんC級映画なのでツッコミどころというか意味不明なところも多いし、最後もなんか「え、終わり?」みたいな感じですけど、そういうところも含めてZ級映画が好きな人にはぜひともオススメしたい掘り出し物でした。

小川勝己『撓田村事件 ー iの遠近法的倒錯』

『眩暈を愛して夢を見よ』に続いて読むの2度目の小川勝己



舞台は、岡山県香住村の撓田地区。村落合併以前からの閉鎖性から、香住村に吸収された後の現在も「撓田村」と呼ばれることもあるこの地区で、下半身をちぎり取られ不気味な装飾が施された遺体が発見された。そこから撓田で怪事件が続発し、さらに過去の未解決事件も現在に影を落とし......。

という風に、ミステリとしての本書は見立てのような事件、村の言い伝え、変人な探偵役、過去と現在のリンクと、おどろおどろしい横溝正史風の設定が魅力的です。

しかし、主人公に童貞少年の智明くんを据えていることで、やはり『眩暈〜』にも見られたような自意識や性欲についての煩悶、つまり解説の杉江松恋氏言うところの「童貞」性が強く出た小川勝己らしい(2作しか読んでませんがそうであろう)作品にもなっています。

本作のミステリとしての筋は上に書いた通りですが、童貞小説としてはこうなります。

......中学生の智明くんには、好きな女性が2人います。1人は同級生のゆりちゃん。しかし、ゆりちゃんは智明くんの親友と付き合っているのでした(つらい)。
そしてもう1人は近所のアラサーお姉さんの千鶴さん。大人の千鶴さんがぼくみたいなガキを相手にしてくれるわけないと思いつつ優しくて綺麗な千鶴さんに淡い憧れを抱く智明くんでしたが、ある夜、千鶴さんが男といちゃついてる影を見てしまうのです(つらいつらい)。

かように、童貞小説としての青いつらさしんどさ死にたさで童貞および童貞経験のある読者をぐいぐいと牽引していきながら、その裏でミステリとしての手がかりや伏線も暗躍している、(精神的童貞にとっては)贅沢な一冊なのです!


撓田村事件―iの遠近法的倒錯 (新潮文庫)

撓田村事件―iの遠近法的倒錯 (新潮文庫)


というわけで、私は本書をミステリ2:小説8くらいの比重で読みました。
そこまで本書のストーリーにハマってしまったのは、やはり本書が非モテ・精神的童貞の在り方を見事に描き出した、非モテあるある小説だからでしょう。

杉江氏は解説で童貞の本質は「肥大した妄想力」だと鋭く指摘していますが、まさにその通り。付け加えるなら、そうした妄想力の根底にあるのは肥大した性欲と肥大した自意識でありまして、なんにしろ内面が肥大している状態なんですね。
で、その性欲と自意識というのがなかなかややこしくて、自分はモテる人たちみたいに体目当てじゃなく純粋な恋をしているという自負を持ちながらも本当は女なら誰でもいいというところもあり、それが主人公の智明くんの「好きな人が2人いる」という状態に表れているわけですねぇ。
自分は本当はゆりちゃんを千鶴さんの代わりにしている......いや、千鶴さんをゆりちゃんの代わりに......みたいな、でもどっちも本当に好きだからしょうがない的なアレ、中学生くらいではよくありますよね。

で、本書は童貞あるあるネタでありますので、好きな人が2人いることで恋の失敗も2倍味わえるとこうくるわけです。
しかも相手は同級生と年上のお姉さんですから、全然別のパターンで、うん、つらいです。とにかくそういうつらみ描写が怒涛に迫ってくるので、ミステリとしての事件はけっこう遅いタイミングで起こるのですが、それまで飽きさせません。
で、そんな童貞小説としてのクライマックスは、智明くんがとある人物にブチ切れられる形で訪れます。正直、ここまで智明くん視点で読んで来ただけに童貞経験のある読者はさも自分が責められているようなどきどきを味わう羽目になるわけです。そんな、僕だってつらいんですよ!的な、でも自己嫌悪で線路に飛び込みさようならしたくなる感じの。

しかし、一方で大人になった私は青春時代にこういう経験をしていた方が、将来的に愛を知ることができるんだろうなぁと、自分の経験していない苦悩に一抹の羨ましさを抱いてしまうのも事実。実際に、その後智明くんにちょっと成長が見られ、色々色々色々な意味で悲しい物語でありながら本書の読後感は悪くないものになっています。
こういうところも、杉江松恋氏が童貞も元童貞も読めと言っているだけある、素晴らしい童貞小説だと思います。



さて、私は一応元々はミステリファンですので、ここらでミステリ部分にも少し言及しておきましょう。

本書の凄いところが、智明くんの視点がメインでありながら、伏線はしっかり貼りながら解決編では大人数の関係者たちの群像劇になってしまうところですね。
童貞小説としてぐいぐい牽引しつつも、智明くん視点の中に、また不足ならば他の人物、さらには犯人視点まで加え、読者に対してしっかり「伏線」という義理を果たしてくれる律儀さ。
そして、トリックとしてはやはり見立ての扱いが素敵ですね。読んでいる間は「横溝オマージュ」だった本作ですが、この見立ての扱い方はむしろ「パロディ」の趣で、見立て殺人もののミステリに期待するものとは全く違いながら斜め上からの驚きをぶちかましてくれるので、ある程度横溝系(?)に慣れた読者の方が楽しめるかもしれません。

もう一点、本書でこだわられているのが動機でしょう。
狭い意味での事件の動機のエグさはもちろん、それ以外にも色んな人物の色んな言動の動機・真意というものが解決編で怒涛のように明かされるのは圧巻。この辺は本編が智明くん視点であるゆえにやや他の人物の内面描写が終盤で駆け足になってしまっている感もありますが、それでもここまでの情念の連打を見せられれば十分「人間やべえ」となるので面白かったです。
結局のところ、(ネタバレ→)山田くんと智明のクズっぷりが近似していて、この事件を経験しなかったら智明の末路は山田くんだったのかも......というのが一番グッと来ましたね。



そんなこんなで、秀逸な童貞小説にして、童貞のあずかり知らぬところでさらにヤベェ大人たちの情念が渦巻くおどろおどろ村ミステリであり、見立てパロディの側面も持つ、長さに見合ったいろんな意味での満足感が味わえる力作です。
童貞、元童貞および横溝系ファンには自信を持ってオススメ、その他の人にはちょっと勧めづらい、そんな一冊でした。

ベイビー・ドライバー

まあその時々の気分もありますが、基本的に「一番好きな映画」にはこれを挙げております。

3回観ました。劇場公開時、DVD、そして先日の爆音映画祭での、計3回。一番好きのわりに少ないようですが、同じ映画を2回観ることもほぼない私としては快挙(?)。そしてこれからも何度でも観ると思います。

そんで、今回爆音で観たことでまたこの映画への愛がぐわーっと湧き上がってきたのでブログに書こうと決意したものの......。
好きすぎてもうどう書いていいか分かりません!言葉がエモに追いつかないのです!
仕方がないのでとりあえず記事をネタバレなしとネタバレありの2部構成にすることにしました。
ひとまずちょっと落ち着いて、これからネタバレなしでの紹介をしますね。
で、続くネタバレありのコーナーで、具体的に好きなところとかラストの自分なりの解釈とかをエモに任せてガーッと書いていきたいと思います。


ネタバレなしコーナー!

はい、ではまずネタバレなしコーナーです。

本作のあらすじですが......

主人公の"ベイビー"は、ワケあって強盗グループの"逃がし屋"の仕事をしています。
幼い頃に遭った事故の後遺症である耳鳴りを消すため、常にiPod音楽を聴いている変人ですが、車の運転に関しては誰もが認める天才です。
そんなベイビー、ある時カフェエの女給のデボラというGIRLに出会いをします。そして、彼女のために犯罪組織から足を洗おうと決意して......。

......というお話です。

太字で示したことからお分かりの通り、本作の軸は「音楽」「運転(=アクション)」「恋(および人間ドラマ)」の三本柱です。

私はこの映画を3回見たと書きましたが、この三本柱がまさに、何度見ても楽しめる要素として見事に機能しているからこそ何度も見てしまったのです。
細かくいうと、音楽とアクションは「何度見ても飽きない」要素で、ラブストーリーや人間ドラマは「何度も見ることで深みを増す」要素なのです!
つまりこの映画、何度見ても飽きない上に何度も見ると深みを増す、何度も見るために作られたような映画なのです!何度何度うるさくてすんません!

そこにはきっと自身が映画オタクであるエドガー・ライト監督の、「何度も見てくれるオタクを楽しませよう」という気概が込められているのでしょう。知らんけど。
ちなみに監督のそうしたオタク趣味は、「ショーン・オブ・ザ・デッド」「ホットファズ」「ワールズエンド 酔っ払いが世界を救う」の3部作でも全開です。それぞれホラー・ミステリ・SFにコメディをぶち込んだヘンテコ面白ムービーなので併せてお勧めさせてください!





さて閑話休題
上にあげた三本柱について語っていきます。



まず、本作の特徴は何と言っても音楽とアクションの融合です。
かっこいいアクション映画も選曲がハイセンスな音楽映画もごまんとあるでしょうが、音楽とアクションをここまで見事に融合させたのはこの映画が初めてなのでは?

というのも、この映画では音楽がただのBGMではなく、映像と完全にシンクロしているのです!

例えば、冒頭がエグいです。
車で待機しながら音楽に合わせてハンドルぺちぺちワイパーきゅっきゅっエアギターぎゃんぎゃんエアヴォーカルうわんうわんとはしゃぎまくるベイビーの姿は、そのまま曲のPVのよう。
というか、監督が以前撮ったという何かのミュージックビデオを前見ましたが、ほぼこんな感じでした。
さらにそのままエゲツないド派手なカーチェイスになだれ込み、「Bellbottoms」を一曲まるまる使って観客を音と車の世界に強制連行してくれます。

で、百聞は一見に如かず。冒頭のシーンの動画があったのでそのまま貼っときます。
https://youtu.be/6zuamtyFyKs

でもそれって別に主人公が聴いてる音楽に合わせて動いてるだけだから普通じゃ〜ん、って?
いやいや、たしかにその通りですが、これはまだまだ序の口。
本当に凄いのは、キャラクターの動きだけに限らず、全編に渡って映像と音楽が緻密にシンクロしていることなんです!
歩くテンポ、コーヒーのカップを置く音、車のアクセル、銃声などなど、映画の中で起きるあらゆる物音が音楽に組み込まれているんです。音楽に合わせて体を揺らしながら観ていたのですが、その自分の揺れに合わせて銃声などが鳴り響くという体験はカタルシスでした。

私は映画監督じゃないので実際どうやって撮っているのか知りませんが、絵コンテなりなんなりで秒単位のシミュレーションをしなければこんな映像は作れないです。そんな細かいことをやってのける監督の熱量、これぞオタクの鑑ですよね。

で、音と映像の「合わせ方」が本作の特徴ではありますが、もちろん選曲自体もステキですよ!

私は洋楽はもうダフト・パンクビートルズをちょっとだけ齧った程度で丸っ切り聞かないから、正直この映画に使われている曲で知っている曲はひとつもありませんでした。
しかし、そんな私でもサントラ買うくらいステキなので、洋楽聴かない人こそ観てほしいです!

アクションでラブストーリーなので基調はわくわくするロックときゅんきゅんするバラードが多め。
それぞれの曲について書いていくともはやサントラのアルバムレビューみたいになってしまうので端折りますが、とりあえず「Never, Never Gonna Give Ya Up」と「Brighton Rock」が曲もかかる場面も大好きで何回も聴いちゃってます(推しキャラがバレる二曲ですね)。
https://youtu.be/JXQ-qs5bDkI
https://youtu.be/WOlN2a5jPhM



さて、そんな感じで音楽と映像のかっこよさで何度見ても飽きない本作ですが、上にも書いたように、ストーリーは何度も観ることで深みを増していきます。
こっからはそんなストーリー部分についてネタバレにならない程度にその見所を紹介します。

まず凄いのは、どこまでも映画が好きな人間のツボを突いてくる伏線の置き方と脇役の魅力なんです!

伏線といっても別にミステリじゃないので「怒涛の伏線回収」みたいなものではないのですが......。
前に出てきた事柄やセリフが気持ちいいタイミングで繰り返されたりだとか、主人公がテレビで聞いたセリフを少しずつ使っていくという遊び心など、絶妙にオタク心をくすぐる伏線の置き方がステキです。
そして、それがただの遊びに終わらず、人間ドラマを強調する役割を果たしたり、はたまた本作のテーマ自体を示唆していたりと、非常に有意義な使われ方をしているのがお見事。何度見ても細部に新しい発見があって飽きさせません。

そして、脇役さんたちですよおおぉぉぉ!!!(すみません推しキャラを思い出して興奮しました)

ベイビーの養父のジョー、強盗チームのボスのドク、サイコ野郎のバッツに、ラブラブ犯罪者カップルのバディとダーリンと、とにかく脇役さんたちが濃いんです。
しかも、ただ濃いんじゃなくて、主人公たち2人の恋愛模様の脇で彼らのこれまでの人生についても最低限の描写で仄めかされていることで、それぞれの過去を持つリアルな人間としてその姿が浮かび上がってくるんです。
そして、全員に見せ場がしっかりあるんです。だから見終わった後に、主人公たちの恋模様と共に、あの場面でのあの人カッコよかったな......という脇役さんへの愛着も溢れてくるんですね。
というかぶっちゃけ、私が個人的にイケオジのバディさんが大好きなんです!それだけですすんません!その辺のことはネタバレ感想の方で詳しく書きます。
そしてそして!本作で何と言っても大好きなのがラストの展開なんです!!

伏線や脇役などのいろんなおもしろギミックはあるものの、やっぱりメインは主役の2人ですよ!ほい!

本作のストーリーの軸って、ホントに、主人公のベイビーが好きな女の子のために犯罪稼業から足を洗おうとするって、そんだけのシンプルなお話なんですね。
でも、シンプルなだけにストレートに心を打つんです。そもそもキャラクターが魅力的なので、観ている人はベイビーとデボラの恋路を応援したくなること請け合い。ラストの展開も、某有名映画をアップデートしたもので、古典的ないい話でありつつ今の時代に求められる物語でもあるという......。
あの結末にもう、人生の全てが詰まっているといっても過言ではないと思う気がしなくないこともないんです!
まぁ要は完璧な筋立てなんですよおおぉぉぉ!!!(すみませんラストを思い出して興奮しました)
この辺こそはもうネタバレ感想で詳しく書きますが、とにかくもはや涙しか出ません......。てかそんなラストまでにもすでに4回くらい泣いたんですけどね。デトックスや〜。

というわけで、音楽と映像が完璧に融合したアクション映画にして、恋と人生を完璧に描き出した人間ドラマで、つまるところ完璧な映画です。今まで観た映画で一番好きです!

というわけで、ネタバレありコーナーへ続きます。









ネタバレありコーナー!!

はいそれでは!ここからはネタバレありでラストのことなどを書いていきたいと思います。



まずはいきなりですがラストについて。

この作品、終盤でベイビーが若者たちから車を奪う際に「ボニーとクライドかよ」と言われるように、『俺たちに明日はない』的な逃避行ラブストーリーの様相を途中までは呈すのですが、最終的にはベイビーは自ら投降し、罪を償って再びデボラに会う......という超絶怒涛に感動的なオチになってます。おっと強い主観が混じった......。

で、この流れだと『俺たちに明日はない』のようなラストとか、2人で首都高を走ってる映像でジ・エンドとかでも良さそうな気がするのになんでこうなるのか、というところに、本作のテーマである「愛」と「アイデンティティ」というものがある気がします。

話は遡りますが、そもそもこの映画では序盤から登場人物の本名が一旦伏せられる形をとっています。
強盗チームの人たちがみな通称(コードネーム)で呼び合っているのは犯罪組織だからにしても、養父のジョーも本名ではありますが愛称ですし、ヒロインのデボラも名札を読む場面で一旦「あ、この制服は友達のなの。私はデボラよ」みたいな小芝居が挟まれます。
これはもちろん、気になる女の子の名前を知ることのトキメキでキュンキュンさせる手法であり、分かりやすい通称を付けることでキャラを手っ取り早く立たせる手法でもあると思うのですが、それ以上に名前というものが「アイデンティティ」の象徴として扱われているからだと思われます。
デボラの名前を知るシーンは、彼女の個に初めて触れたということ。「デボラ」の歌を紹介するシーンは彼女に向き合おうとすることではないでしょうか。
そして他のキャラクターたちの本名も、それぞれの見せ場の近くで明かされます。もちろんそれが自然でもあるんですが、それによって彼らが偽名や愛称という記号から、生きた人間になって存在感を増すような感覚があります。
そして、最後の最後までベイビーが「ベイビー」なのは自分がなかったから。だから彼は音楽で耳を塞ぎ、映画の中のセリフで喋っていたのではないでしょうか。そう、映画のセリフを引用するのは、ただの伏線遊びではなく、彼がまだ自分を確立していないことを表していたのですね。こういう分かりやすい暗示も本作の「深いけどエンタメとしてシンプル」という魅力を体現しています。
で、ベイビーの話に戻りますが、そんなアイデンティティのなかった彼が、デボラを危険に巻き込まないために投降するに至って、彼女への「愛」という絶対的に確かな存在証明を手に入れた......そこで、最後の最後になってようやく彼の本名が「マイルズ」であると明かされるのです。いや、知りませんよ?私はそう読んだということです。はい。
つまりそう、この映画は恋が愛に変わり、"ベイビー"が一人の人間に変わるその瞬間を鮮やかに描き出した、とても美しい物語なのです。

そんなわけで泣きましたよラスト。
2回目以降は後の展開を知っているだけに、ベイビーが助手席で目覚めたところでもう泣いて、スピーカーに手を当て(ううっ......)車を止め(うえっ、うえっ、)鍵を(ひっく、ひっく)抜いて投げ捨(うぅ〜〜っ!)てたところでもう涙を呼び出すエモが最高潮に達して水で画面が見えなくなるため、実はラストシーンをまともに見たことがないくらいですよ。



で、まぁラストはそんな感じで号泣ですが、実は今回の3度目の鑑賞では、そこ以外にも泣いた箇所が4つほどあります。多いなおい!

......あ、すいません、ラストの解釈という一番大事なところは書き終えたので、あとはもう徒然なるままに適当に何も考えずにエモを吐き出すだけのゲボみたいな駄文になるので読んでもらわなくても結構です。ただ感情が抑えきれないから書かせてくれ!

で、4つの泣いたシーンの話でしたね。
まず1つは、ベイビーとデボラがダイナーでデートした後の車の中での会話。
「君は僕にとって奇跡なんだ」「ふさわしくない」ってとこ!
私も人に対してふさわしくないような人間なので......などとベイビーちゃんと同一に語るとファンの方に怒られそうですが、常に「ふさわしくない」という気持ちで生きているのでとてもなんかこう、泣いたよ。泣いたよーん。でろりろりーん。

で、ふたつめとみっつめはどっちも養父のジョーにまつわるシーン......というより、そうですね、まずジョーを施設に置いて行くシーンですよね......。純粋に「泣ける」という意味ではもうここしかないですよね。 はじっこまで、グッドラック、はぁ......。
で、そうなることを知ってから観たもんですから、今回はなんとジョーがベイビーを心配してピザ屋の仕事を紹介するシーンすら泣きました。もう完全なとばっちりですが(?)、ジョーが出て来るだけで涙腺が緩む身体になってしまったのです。どうしよう、こんなんじゃお嫁に行けないよぉ......😢

で、最後の1つですが、これがねぇ、私の推しキャラのバディさんのシーンですよ。そう、ダーリンを失ったバディさんがデボラの店で拳銃を持って待っているところ。「Never,Never Gonna Give Ya Up」という名曲のおかげもあるでしょうが、「いい女だった」「愛していた」と語るバディの喪失と狂気に悲しいやら怖いやらでどっちなのか分からない涙が溢れました。
一応アクション的に見るとこの人はラスボスなんでしょうけど、バディとダーリンが2人で経験してきたことをここまでに上手いこと想像させてくれていたから、彼の喪失感が痛いほど伝わってきてなんかもう彼とベイビーが戦うこと自体がつらいと思いつつブライトン・ロック最高Yeeeeeah!!!というエモの空回りのようなクライマックスも含めて、やっぱバディさん好きですわ......。
彼はきっとラストで投降しなかったベイビーの行き着く先の姿なのでしょう。ラストバトルはいわば、バディの過去と、ベイビーの未来との戦いなのです。

あ、ちなみにゲヴィン・スペイシーことドクの最期もなかなか感動です!じゃあなんで「ウェートレスの彼女かわええやん大事にしろよ〜(脅)」とか言ったんやひどいやんとかは思うものの、甥っ子の面倒を見てたり案外優しい人だったのかもとも思ったりして。本作に続編は絶対いらないけどドクのスピンオフとかなら観たいなと思ってしまいました。まぁゲヴィンスペイシーがどうなるのか分からんしアレだけど......。



はい、まぁそんな感じで、何回見てもアガって泣ける良い映画なんですよこれ......。
まだまだ細かいところで書きたいことがなくもないけど疲れたし収拾つかなくなってきたのでこの辺で打ち切ります。一回しか見てない人はとりあえずもっかい見てみてください!
じゃ、ばいちゃ!

桜木紫乃『ホテルローヤル』読書感想文

北海道東部にある『ホテルローヤル』というラブホテルに関わった人たちの人生を切り取った連作短編集です。

直木賞を受賞した際に話題になりましたが、著者本人の実家がそのまま「ホテルローヤル」という名前のラブホテルで、そういう家に生まれた人が、ラブホテルを舞台にどんな物語を書くのか......と気になったので読んでみました。


ホテルローヤル (集英社文庫)

ホテルローヤル (集英社文庫)



まず構成が変わっていて、第1話で廃業して廃墟と化した「ホテルローヤル」が登場し、そこから時系列が戻っていく形式になっています。
作品全体に共通して切なさや虚しさが強く漂っている本書ですが、終わりから始まる構成がそんな切なさ虚しさをより強めているように感じました。

また、ラブホテルが舞台ということでセックスについてが一つのテーマにはなっていて、特にセックスにまつわる虚しさや後ろめたさが強調されています。恋愛の後に来る体の繋がり......とでもいったような。それが北海道の片田舎の寂れた風景と相俟って、寂寥感もまた濃密です。
しかし、セックスよりもむしろ、社会の真ん中より少し外れたところにいるような人の「生活」というのが本書の大きなテーマになっています。解説にもありますが、金銭についての描写の細かさなどが、普通より少し下の人たちの日々をリアルに切り取っています。

そうした虚しさ、寂しさ、貧しさを描いて胸が苦しくなるような作品ですが、淡々としていながらもそんな人たちへの優しさも垣間見える描き方のおかげで、読後感はそう悪いものではありません。
各話で、また本書全体でもそんな繊細微妙な余韻を味わえるいい短編集でした。

それでは以下各話の感想を少しずつ......。





「シャッターチャンス」

廃墟となったラブホテルでヌード写真の撮影をしようと言い出す恋人と、それに付き合わされる主人公のお話。


この第1話の時点ではホテルローヤルはもう廃業していて、営業時のローヤルが出てくるこれ以降のお話とは少し雰囲気が違いますが、それでも愛の不毛(?)と生活という2大テーマを端的に描いている点では第1話に相応しいお話だと思います。

主人公は地元のローカルなスーパーで働く、もう若いとは言えない年頃の女性。「恋愛に対して無駄な夢をみなくなった」彼女が、しかし「俺、もう一回夢を見たいんだ」などと言う男に惹かれてしまうのが痛いくらいリアルな感じがしますね。
そんな彼らが廃墟でのヌード撮影を通して"ズレていく"様が、これまた徹頭徹尾リアルに描かれていて、その一文一文にぐわーやめれー!と内臓が口から出てきそうなエグさがあります。
そして、"ズレ"の物語の着地点をここに持ってくるのもリアルで内臓が口から出ました。
もはや「男」という存在自体が悲しくなりますね。女に生まれたかったよ俺は。

ちなみに廃墟でヌードというジャンルを初めて知ったのですが、検索してみてまた切ない気持ちになりました。





「本日開店」

経営難の寺の住職の妻である主人公は、布施を集める名目で檀家の男たちへ"奉仕"をしていた。ある日、父親の後を継いで檀家総代となった男を同じようにホテルに呼び出すが......というお話。


設定がとても古風な官能小説風でびっくりします。お布施のためにご奉仕......。いつの時代だよ......。
しかし、もちろんただの官能小説にはならず、複雑すぎて私みたいな若僧には理解しきれない心理描写、そして生々しいリアリティに圧倒されました。
ホテルローヤルの絡み方も、当然こうだろうというところをちょっとハズしてきてて面白いですね。





「えっち屋」

ホテルローヤル」を廃業することにした創業者の娘が、使われなかった"大人の玩具"を返品するためにアダルトグッズ会社の営業の男・通称"えっち屋"を呼び出すお話。


"えっち屋"という通り名に反して生真面目に過ぎる宮川という男のキャラクターがまずは魅力的です。「仕事ですから」「自分不器用ですから」みたいな。萌えますね。私も好きになっちゃいそう......。
そんな彼が淡々と職業柄の奥さんとのギクシャクエピソードを語るのでなんとも不思議な切なさがあります。
そして、クライマックス(?)のシーンの儚さもまた性的嗜好に刺さりましたが、そこから本書の中ではかなり良いあと味のラストでの、久しぶりに青空を見たような少し眩しくて切ない爽やかさが心地よいです。





「バブルバス」

家族で法事に参加するはずが、頼んでいた住職がすっぽかした。浮いた布施の5000円で、妻は夫をホテルに誘う......というお話。


大きな子供もいる夫婦が、久しぶりに人目を憚らずにするためにラブホテルに行く、それだけのお話ですが、本書で最も生活の生々しさが出た一編です。
ギリギリでなんとか保っている「普通」の生活のリアルが、5000円という金額への感慨や赤裸々な給料と家計の描写からヒリヒリと伝わってきます。
バブルバスというモチーフが、そんな日常からふと離れた泡のような時間を見事に象徴しています。そして最後の主人公のセリフが続いていく日常に対するちょっとした救いになっていて、これだけの話なのに印象的でした。





「せんせえ」

高校教師の男は、妻が結婚前から別の男と付き合っていたことを知ってしまう。しかも、その相手は自分に妻を紹介してくれた恩人の校長先生で......。絶望しながらも帰宅しようとする彼に、「せんせえ」と頭の悪そうな声をかけて来る女生徒が付きまとい......というお話。


これですよ!!この本で一番好きな話を選ぶならもう間違いなく段違いにこれ......。
不倫もので、先生と生徒ものという、本書の中でちょっと浮いてるマンガみたいな設定の物語ではあるのですが......。しかし、その分分かりやすいえげつなさに満ちていて泣きました。泣きます。泣きました。😭。
私なんかそもそも恋愛経験が少ないから失恋経験も少ないのでアレですが、この主人公の圧倒的つらみ体験を読むと過去の失恋の思い出が増幅されて襲って来るような読み心地でTSU・RA・I !!!なんでこんな酷いことを思いつくんだ!作者は人の心がないのではないか!
......はぁ。で、読んでるうちはこの2人の関係性にけっこう萌えたりもするわけですよ。特に女の子が一瞬女になるシーンにはドキッとさせられたりもするわけですよ。
しかしだ!!!(一応→)
ホテルローヤルが出てこないことに違和感を持ってよく考えると、この2人はホテルローヤルの3号室で心中した教師と高校生なんですよね!!!読者にだけこれが分かるようになっているのが上手いですけど、つらい!!!
これ、普通にこの短編だけを読んでいたら、「孤独な2人が手を取り合ってこれから生きていくんだろうな」という読み方が読者の人情として自然だと思うんですよね。......それが短編集の中では正反対になるというサディスティックなギミックがしんどいです。
丸っ切り救いのない話ですが、せめて孤独に野垂れ死ぬのではなく2人でいられたことを良しとする以外にちょっと気持ちのやり場がないですよね。あーつらい。





「星を見ていた」

ホテルローヤルで部屋の掃除のパートをする初老の女性のお話。


若い2人の話から一転、ラブホの掃除のおばちゃんが主人公。
一生脚光を浴びることなく、頑張っているという自覚もないまま懸命に淡々と生きている人間の人生を掬い上げる、切なくも優しさに満ちたお話です。
60歳のおばちゃんが、いつでも母親に昔言われたことを指針に生きているというそれだけで胸に迫るものがありますし、長い人生経験で彼女が正しいと実感する母の教えの説得力もすごくて、特に捻った感想もなく、ただ出てくる人と言葉が愛おしいお話でした。





「ギフト」

愛人を連れて「ホテルローヤル」を創業しようとする、創業者・田中大吉のお話。


最終話のここに来てようやく登場しました、ホテルローヤル創業者の田中大吉氏。
廃業後からローヤルの歴史を遡って来た本書ですが、最終話=最初の物語はホテルローヤルがまさに今から創られる時のお話です。
主人公がとにかく昔ながらの馬鹿な男で、ロマンだけを追いかけて大きな夢を見たり、不倫しておいて家族も不倫相手も背負った気になったりと、なんとも嫌いなタイプの人間なのですが、それは私にはないものへの反発ということもあるでしょう。ただ団子屋の娘が可愛いから不倫をし、ただ夢を見たいからラブホテルを建てようとする、そんな彼のある種の純粋さ。それがあるから、馬鹿だなクズだなと思いながらも気付けば応援したくなってしまう......彼にはそんな主人公気質があると思います。ホテル命名の由来となった"あるもの"の場面では不覚にもジーンときたり......。

......しかし、読者はその後の成り行きを全て知っているから、「えっち屋」や「本日開店」を思い出してなんとも切なくなる。しかし、ここで「本日開店」という言葉が効いてきて、まぁ人生そんなもんか、という、案外悪くない余韻に浸ることができました。それもこれも、やはり本書に通底する、「日陰者を物語として掬い上げて描くこと自体の優しさ」によるものでしょう。

読み終わってしばらくしてからも、あの人やあの人やあの人......登場人物たちのことをふと思い出してしまうような、そんな良い小説でした。