偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

「きみに読む物語」ネタバレなし感想+ネタバレ解説


「ちゃん、ちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃん」
(宮城道雄『春の海』より)




はい、皆様あけましておめでとうございます。誰か見てる〜?


えー、みなさん昨年はいかがでしたか?新年の抱負はありますか?

私はですね、一昨年、昨年と人生最低の年を更新し続けて参りましたので、今年はそろそろ幸せになりたいなぁなどと思います。なんたって24歳、年男ですからね。

で、ど初っ端だし景気付けに王道な胸キュン・ラブストーリーでもと思って、世の中の映画で最も「王道なラブストーリー」のイメージが強いこの映画を観ました。

それがどうしてでしょう、こんな作品だったなんて......。



きみに読む物語 [DVD]

きみに読む物語 [DVD]





製作年:2004年
監督:ニック・カサヴェテス
原作:ニコラス・スパークス
出演:ライアン・ゴズリングレイチェル・マクアダムスジェームズ・マースデンジーナ・ローランズジェームズ・ガーナー

☆5点



私の今年の年賀状です。かわいくない?



閑話休題
最初に言っておくと、これはただの「王道なラブストーリー」ではありません。物凄く巧妙に作られた物語です。別にどんでん返しとかがあるわけじゃありませんが、最後まで観てその作り込まれた構成に鳥肌が立ちました。その辺、私のようなミステリファンにも勧めたい傑作だと思います。

一方で、ネットで色んな人の感想を見てると「ベタなラブストーリーでまぁ普通かな」とか、「王道の純愛もので泣けましたぁ〜😂😂」とかいう感想をよく見かけて、それは別にいいけどさ、こんな凄え話をベタだの王道だので片付けて、本当に内容わかってる?とか思ってしまった(性格悪い)ため、今回はネタバレなしの感想ネタバレ有りの解説の二段構えでつらつら書かせてもらいます。

もちろん、「ちゃんと分かってるよ」という方には今更私なんぞの解説なんざ余計なお世話だと思うので読まないでおいてください。




《ネタバレなし感想》

まずは終盤のネタバレは無しでの感想です。中盤までの展開には触れるので真っさらな気持ちで見たい人はご注意。


とある病院にて。認知症の老女の元に老人が一冊の本を持って読み聞かせに訪れます。
その本は、アリーという少女と、ノアという若者の数奇な恋の物語。

この映画は、その本の内容を中心に、ときどき枠となる老人と老女の話を挟みながら展開していきます。



まず前半は2人が出会ってから一夏の淡い恋の日々を描いた王道ラブストーリーです。

ヒロインのアリーは箱入りのお嬢様。友達の友達くらいの間柄でしょっちゅうナンパしてくる若者ノアを鬱陶しく思っています。しかし、ノアの言動には箱入り娘のアリーが今までに触れたことのないものがありました。それを意識した時、2人は一気にFallin' Love!! The ありがち!!
ありがちなんですけど、夜の街路のシーンややたらと熱いキスシーンなど2人の度を越したイチャイチャぶりはもはやファンタジーの世界の出来事で、リア充爆発しろ」とすら思わず菩薩のような微笑みを浮かべながら観てました。

しかし、そんなアツアツの2人でしたが、厳格な家に育ったお嬢様のアリーと肉体労働者の負け犬ノアでは身分が違いすぎました。
ノアは彼女が夏の間滞在する別荘で彼女のご両親に会うものの、けちょんけちょんにディスられてしまいます。ショックを受けたノアはアリーと喧嘩になって帰ってしまいます。その後アリーが大学進学のため遠くの街へ行ってしまうことで2人は引き裂かれてしまうのでした Of The ありがち!!😂😂
両親に肉体労働者のクズめ!とか言われるあたり自分を見ているようでイライラして「死ねババァっ(アリーのご母堂)!!!」と思いましたが、後のババァのとあるエピソードを見て、最終的にはババァのことも嫌いにはなれず......。


と、まぁ斯様にここまでとてもありがちな流れになっていますが、この後から本作の本領が発揮されます。



第2部(?)

大学に入って三年。アリーは、まだたまにノアのことを思い出しながらも、ロンという富豪の御曹司と恋に落ちて婚約します。

一方、ノアはもう世界の終わりですよ。紅茶飲みながら静かに待つなんてもんじゃなく、あの夏アリーが暮らした別荘を買い取って改装して人に売ると見せかけて「やっぱ売らないよ〜ん」という迷惑行為に及んじゃって街の名物おじさんと化してますよ〜。ここ泣けます。

そして、そんな名物おじさん・ノアのことを新聞で見てしまったアリーは、彼を心配して婚約指輪をつけたまま、あの夏のあの家に行き......。

その夜、何があったかは想像がつくと思います......。
そこから、この映画は純愛ものだと思っていたのにまさかのゲスな三角関係、いや四角関係へと発展していきます。これには川谷絵音もびっくり。
ただロンがいいやつなんですよね。これでこいつが嫌な金持ちだったらこいつを憎めるんですけど、誰も悪くない。だからこそこの辺のドロドロの展開は観ててつらいです。

そして終盤に至ると、ちょっとした仕掛けと感動の結末が待っているわけですよ......。


※以下ネタバレ解説に入っていきま〜す

P.S.
この解釈が制作側の意図と合ってるかどうかは分かりません。もしかして見落としてるだけで反証があるかもしれません。ただ、合ってなかったら私の解釈の方がこの映画より面白いとすら言い切る自信はあります。




《ネタバレ解説》

というわけで、ここからはネタバレ有りで私の解釈を書いてみます。
んじゃ、さっそくいきます。

まずは終盤の展開を段落ごとにざっくり文章化します。以下の考察ではこの段落の数字を使ってみていきます。


老人と老女が暗い部屋でディナーをする。読み聞かせの物語はもう終盤。
「彼女はどっちを選んだの?」と急かす老女に、老人は続きを語る。


ロンは、アリーにノアとのことで小言を言うが、そのあと「愛してる」「アリー、初恋は忘れられないものさ」と彼女の過ちを許すようなことを言う。アリーは「分かってる。私が誰を選ぶべきかは......」


そこで、老人が「めでたしめでたし」と言い、老女は「誰がよ?」と尋ねる。
少しの沈黙の後、老女は「そうよ」と言う。


家で目覚めたノア。車の音に気付き、ベランダに出てみるとそのにはアリーが。抱き合う2人。


老女は、「思い出した。それは私たちのことね。ノア......」と言い、老人を抱きしめ2人で踊る。
2人は孫の"ノア"のことなどを話すが、老女は突然また記憶をなくし、錯乱して老人に「あなた誰よ!?」と叫ぶ。


老人は2人の幸せな頃のアルバムを見る。そのあと今まで読み聞かせていた本をめくると、そこには「アリー・カルフーン著。愛するノアへ」と書かれている。
その後、老人は気を利かせた看護師に甘えて、錯乱状態の後で眠っている老女に寄り添って眠る。

朝、看護師は寄り添って冷たくなっている2人を見つける......。

まとめると、ざっとこんな感じです。


ぼーっと観てると④⑤のシーンから、一見、
老人=ノア
アリーはあの後結局初恋に従ってノアを選び、2人は死ぬまで純愛を貫いた

......という風にも見えます。

でも騙されちゃいけません。
本当はそうじゃなくて、老人はロンだという風にも観ることが出来るのです。

その根拠として、まず⑥のアルバムを見る場面で、アルバムに写っている写真がノア、ロン、どちらの顔でもない(恐らく老人役の俳優の若い頃?)ことが挙げられます。
そして、老人がロンであると思って見れば......。
③のシーンで老人は「めでたしめでたし」と物語を締めくくっています。
すると④の、アリーがノアの元へ行くシーンは、本に書かれた物語の結末ではなく、老女が思い出した(と思っている)光景であることが分かります。
また、老人と老女の孫が「ノア」という名前であることも、祖父の名前を付けたのではなく、あの後2人の共通の友人となったノアから取った、とも考えられますよね。

以上のことから、老人=ロン説を取ると、老人がノアであると考えるよりも更に切なく更に強い純愛の形が浮かび上がってきます。

あの後ロンはアリーと結婚、子供や孫にも恵まれて幸せな日々を送っていた。しかし、年老いたアリーはある時アルツハイマーになってしまう。
何も分からなくなってしまった彼女がたまに思い出して語ることは初恋の人・ノアとのことばかり。更に、ロンは入院して家からいなくなった彼女の部屋から、ノアとの思い出を描いた物語風の日記を見つけてしまう。
しかし、たとえ自分以外の男との思い出に浸っていても愛するアリーが幸せならと、ロンはノアのフリをしてアリーに合わせることにする......。


これは大変なことですよ。愛する人がボケて自分のことを忘れて他の男のことしか思い出さなくなってしまって、それでも彼女のために尽くすロン。これってものっっすごい純愛じゃないですか?
そして、この説を取ると、②のロンの「初恋は忘れられないものさ」というセリフが効いてきて、アルツハイマーになったアリーの状況と、ロンがそれに尽くそうとする心理にきちんと納得がいくんですよね。こういう伏線の巧さが私がこの作品をミステリファンにも勧めたいと言う理由なわけですが、それはともかく......。



じゃあ老人=ロンなのか?いえいえ騙されちゃいけません。

これはあくまでアルバムの写真やロンのセリフから「観客」である私が「作者の意図」に見えるものを切り取って読み取っているに過ぎません。

そう、上に挙げた手がかりは全て物証ではなく状況証拠にすぎず、このストーリー自体は、老人はあくまでノアでもロンでもあり得るという立場を取っているんです。

そして、ノアだと考えれば紆余曲折を経て初恋が実るというロマンチックでベタで王道なラブストーリーになります。
一方、ロンだと思うと、切なくて苦しい純愛ものになるわけです。

ところで、恋愛の目的って何でしょう?恋愛のゴールとは?
結婚?それも確かに一つの到達点ではあるかもしれませんが、そこで終わることもあればそこから続くこともあるような気がします(結婚どころか恋愛もロクにしたことないのによくもまぁ偉そうに言えたもんだ!)。
畢竟、恋愛のゴールがあるとすれば、それは相手のことを想って満足して死ぬことしかないのではありませんか?私は心中したい!(映画の趣旨と外れる)。

そう考えると、この物語は老人がノアでもロンでも結局のところめちゃくちゃ切ないけど最強のハッピーエンドなのかもしれません。



というわけで、結局老人がどっちなのかハッキリさせないリドルストーリーのような体裁を取り、どちらだと考えるかでそれぞれ違った味わいの、しかしどちらも素晴らしい恋愛映画になるという構成は凄過ぎます。


そもそも、「恋」と「愛」の違いってなんでしょうか?
まぁ人それぞれいろいろあるとは思いますが、私は

恋→自分の欲求を満たすために相手を利用すること
愛→自分の幸せよりも相手の幸せを優先することを幸せとすること

だと思います。

この映画の場合、老人がノアなら、自分のことを思い出してもらうために物語を読むという「恋」の物語。
老人がロンなら、アリーに幸せを感じてもらうために自分を捨てる「愛」の物語だと思います。

一つの映画でありながら同時に「ノア説」「ロン説」の二つの物語として存在するシュレディンガーの猫的映画で、二つ同時にあることで 恋/愛 映画になるのです。
さらにはノアのセフレやアリーの母親の物語も観客に想像させ、観終わった後に頭の中を様々な物語が乱反射するような、大変な傑作ですよこれは。余韻が終わりません。

歌野晶午『ずっとあなたが好きでした』読書感想文

『葉桜の季節に君を思うということ』でお馴染み、歌野晶午大大大先生による13編の恋愛小説短編集です。



恋愛小説とはいってもそこは歌野晶午で、各話にミステリらしい捻りがあったり、中にはしっかりトリックの使われたミステリ度の高い話もありと、ファンの期待を裏切りません。


また、恋愛小説としての恋愛観の部分もかなりヒネてて、人を騙すことばっかり考えてるミステリ作家ならではのビターな恋愛小説集だとも言えるでしょう。
しかし、そんな恋愛のビターな部分を多めに配合した擦れた感じの恋愛小説が多いようでいて、どの話にも恋のキラキラした輝きもちゃんと詰まっています。たとえ結末が恋愛なんてものを信じられなくなるくらいヒネてたとしても、素晴らしい恋の瞬間も確かにあったのだと思い、もう一度恋を信じてみようと思える作品集でもあるように思います。あくまで作品への批評としてであって、私はもう恋はしませんけどね。あんなクソゲーは二度とごめんだぜ。
そして歌野晶午らしいちょっとした意外性もあるので、ミステリファンにももちろん勧められる傑作であります。
ちなみに個人的に好きな話は「黄泉路より」「別れの刃」ですね。
では以下各話感想。



「ずっとあなたが好きでした」

恋とは想像の賜物である。相手のことをあれこれ考え、気分が高まったり落ち込んだりする心象風景が恋である。

中学生のストレートな恋愛を描いたお話です。
衝撃の結末......ええ、ジャンル分けすれば"衝撃の結末モノ"に含まれるとは思うのですが、正直なところこれは見え見えでした。作者が恋愛小説家だったらあるいは騙されたかもしれませんが、表紙を見ると「歌野晶午」と書いてありますもんね。それならただでは終わらないだろうと思うともうこれしかないよな、と。
問題は、ネタが明かされた時の物語的感動が薄いところで、まぁ私が(ネタバレ→)BL嫌い(とか言うと殺されそう)ってこともありますが、それ以前に(ネタバレ→)宗像のエピソード自体薄いから、彼の心根が見えたところであまり切なくなったりしないため、どんでん返しのためのどんでん返しであるように思えてしまうからでしょうか。とはいえバイトの恋というシチュエーションや、恋の一喜一憂感はとてもよかったです。



「黄泉路より」

おかしいものですか。みんな最初は初対面だったのですよ。光源氏と紫の上も、ボニーとクライドも、ジョンとヨーコも

「ネット上で知り合った人たちと集団自殺しに行く」という発端が衝撃的で、不穏な雰囲気がヒリヒリします。そんな中での主人公の愛の告白がなんとも場違いで愉快な気持ちになってしまいます。その後ミステリにシフトする展開も面白く、"何が起きたのか?"という謎が、状況や演出も相俟って強烈に迫ってきます。その真相もなかなかインパクトが強いです。
そして、そこから恋の虚しさと人生への希望を同時に見せてなんとも言えない余韻を残す終わり方も見事です。



「遠い初恋」

その晩弓木はなかなか寝付かれず、それは遠足や運動会の前日でもこれほどではないというほどであった。

歳をとるにしたがってどんどんなくなっていって、大学生になる頃にはほぼなくなった、男子・女子という感覚。それが最も根強いであろう小学生たちのお話。
東京から来た可愛いい転校生のネックレスが盗難される事件が話の主軸ですが、「男子がとったんでしょ!返しなさいよ!」みたいなノリが懐かしかったです。なんで女子っていつも男子のせいにするんだろう、嫌いだわ~、と思ってましたね、当時。
本編中、恋とか好きとかいうワードは全然出てこず、なんかもやもやとした気持ちだけがある感じも初恋の懐かしさが感じられて良かったです。何も分からないですからね、あんな頃は。まぁ今も何も分かりませんが。
ミステリとしては盗難事件の犯人当てが主眼ですが、あえて最もしょーもないオチをつけてきてますね。このミステリとしてのしょーもなさが物語に強いリアリティを与えているのでこのしょーもなさは故意犯でしょう。
一方でもう一つ捻りを加えてきてますが、こちらもミステリとしてだけ見れば特殊知識が必要なうえ脱力系のシロモノですが、結末のなんとも言えぬ余韻に繋がっているので物語としては不可欠。
要するに、ミステリとしてのいまいちさまでを見事に物語に組み込んだ実験作だと思います(※個人の感想です)。



「別れの刃」

男女の関係を神聖視するのは欺瞞だということ。それはあとづけの幻想。

これ大好き。大学のサークルの話って個人的に一番突き刺さるのです......。
一回りも年上のお姉さんに誘惑されちゃうお話。このお姉さんの変人キャラ造形がよくって、客観的に読んでる読者からするとちょっと痛いくらいですが、こんなお姉さんにちょっかいかけられたらひとたまりもないですよね。
で、展開がまた面白いんですけどそれはネタバレになるのであまり触れないことにして......。
「恋愛を神聖視するのは欺瞞」というテーマはグサグサ刺さります。今の私が「畢竟、恋など肉欲と承認欲求の合いの子にすぎぬ」といったモードになってるせいかもしれませんが、グサグサ刺さりました。ただ表題作にあったようにそれを乗り越えたところに愛があるのかもしれませんね。希望は捨てないでおきましょうよ。
さて、そんなこんなで恋愛小説として素晴らしいんですけどそれだけにラストわざわざあんな展開にしなくてもよかったんじゃないかという気もしちゃいます。精神的な怖さの後に物理的な怖さが来る必要があるのか?という。ともあれ傑作ですが。



「ドレスと留袖」

この安らぎがあるから、明日も一日がんばろうと、疲れた体にネクタイを締めることができる。

結婚して有名な会社の重要な役職に就いている平均以上に幸せな主人公が、愛する人に付きまとう謎の男の正体を暴こうとするお話。
主人公がかなり恵まれた立場にいるので正直ザマーミロ感もなきにしもあらずですが、とはいえ付きまとわれる気持ち悪さはなかなか。特に何をされるわけでもないから余計に理由も分からなくて怖いですね。
そして、その男の正体と目的には驚きました。と同時に、(ネタバレ→)結婚というものへの不信を感じさせられました。恐ろしい......。



「マドンナと王子のキューピッド」

勝ちたいのなら、自分も上を目指せ。

ラジオ番組への投稿を趣味とする、所謂ハガキ職人の高校生が、一目惚れをした同級生のために恋の応援番組「マドンナと王子のキューピッド」に投稿するお話。
転校してきて友達もできなかった主人公をラジオが救うくだりは好きです。やはり青春とラジオは切っても切り離せませんよね。
恋愛小説としては、一目惚れってのが私好きじゃないものであんまり乗れなかったですけどね。ただ分かりきったラストが分かりきっていながらも良かったです。



「まどろみ」

自分はこの女性を愛していない。

なんぞこれと思いました。なんせ、寒くてベッドから出れないカップルが裸のまま妄想お料理ごっこ(からのセックス)や、しりとり(からのセックス)をして遊ぶだけの話なんですもん。よくこんな酷えもんを書けたもんだぜとぷりぷり怒ってしまいましたが、会話のテンポと誰もさわれない二人だけの国のこっ恥ずかしいアホくささが見事です。こんだけの話で読ませるってのも文章力ですよね。
それでいてラストはビターな味わいだから上手いですよね。



「幻の女」

謎めいた女は、それだけで魅力的だ。

本書中最も普通のミステリっぽい話で、恋愛要素は薄いです。謎めいた女のことが気になるという、恋愛以前の感情ですかね。
ただミステリ部分はさすが。幻の女の正体と、自分が酔っている間に起こった殺人事件という、それぞれ別々の意味で強烈な謎が提示されます。その解決もなかなか驚かされました。なるほど。
そして、そんな事件に巻き込まれたことで主人公にある変化が訪れるラストシーンも味わい深いです。
他の短編からやや浮いているような気もしますが、普段のミステリ作家としての歌野さんを感じられる一編です。



「匿名で恋をして」

姿形がわからない女性と対面し、その姿形がどうであっても、フィーリングが合うから問題ないと恋愛を続けられるのか?

掲示板で知り合い、メールのやり取りをする女性(自称)と実際に会ってみるお話。
捻りっぽいものはあるものの、お話的にそりゃそうだよなと予想がついてしまうもので特に驚きはありませんでした。ただ、ネットで知り合った顔も知らない女への謎の期待がすごくリアルですね。正直ちょっとはそういう気持ちあると思います。まぁその後のアレは主人公がヤリ目クソ野郎すぎて呆れましたけど。結果ああなっちゃうのが意地悪ですね、読者に対して。歌野さんのドS~。



舞姫

ジョジョはフランソワーズのなにに惹かれたのかわからない。しかしジョジョはフランソワーズとつきあううちに、彼女の中に深く沈み込んでいった。恋とはそういうものなのかもしれない。

うーん、これは......。
フランスに留学(のようなもの)に行った男が現地でフランス人の踊り子と同棲することになる......という森鴎外本歌取り短編です。
主人公が働くレストランで高価なワインの盗難事件、さらに殺人事件が起こるというミステリ味の強い作品でもあります。ただその解決はそこまで捻ったものではなく、フツーだなと思っていると思わぬところからの一撃が......くるんですけど......正直こっちのどんでん返しも「で?」という感じでした......。唐突すぎてだからなんなのかが分からないとでも言いましょうか。その後を想像すると「あ~」ってなりますけどね。



「女!」

誰?

「まどろみ」に続くなんぞこれシリーズ第2弾!(?)



「錦の袋はタイムカプセル」

吉凶はすべてタイミングだ。いくもの成功と、その何百倍もの失敗の繰り返しから、そう悟るにいたった。

老いた男がひょんなことから初恋の人に再会してあの頃の気持ちを告白するという話。一度好きになった人をそう簡単に忘れられるものじゃありませんよね。詳しいことは割愛しますが、素晴らしいです。



「散る花、咲く花」

(ネタバレ→)新しい恋を見つければ、始まりの時の格別さをまた味わえる。

前話のその後のお話です。毎週花を買って病院に義父の見舞いに行く彼女と、それに付き合う彼。しかし来るたびに花が捨てられていたり義父の体に引っかき傷があったりと、病院からの虐待を思わせる出来事が続き......。
本書の最終話ですが、いい意味で脱力するといいますか、感動的にしすぎないことで逆にリアルな余韻が残るように思います。ミステリとしても予想外のところから真相が出てくる演出が良いです。そしてラストの一文が味わい深いですね。





というわけで、恋愛小説としても歌野作品としても素晴らしい本書。実は私読む前からネタバレされてたんですけどそれでもめちゃくちゃ楽しめました。
恋をしたことのある全ての人にオススメします。まじで。みんな読んでね。

2017年に読んだ小説ベスト20

明けましておめでとうございます😆😆嘘です。メリークリ🌰🐿ス🎅🎄🎁Fuck the Christmas!

さて、今日は私が今年読んだ本ベスト20(旧作含む)という非常にどうでもいいランキングをお届けします🙄🙄これが新刊ランキングなら今年のミステリ界のひとつのまとめになるんですが、残念ながら新刊はあまり読んでないのです😝😝

というわけなので9割9分は自分用備忘録、コメントも書きませんのでご了承ください。もっともこのブログを読んでいる人自体ほとんどいないだろうから関係ないですけどね🤔🤔



20位

三津田信三『どこの家にも怖いものはいる』

19位

依井貴裕夜想曲

18位

早坂吝『双蛇密室』

17位

島田荘司『奇想、天を動かす』

16位

青木知己『Y駅発深夜バス』

15位

エラリー・クイーン『レーン最後の事件』

14位

乾くるみ『匣の中』

13位

法月綸太郎『頼子のために』

12位

山田風太郎『十三角関係』

11位

陳浩基『13・67』

10位

西澤保彦『黄金色の祈り』

9位

歌野晶午『ずっとあなたが好きでした』

8位

住野よる『君の膵臓が食べたい』

7位

積木鏡介『誰かの見た悪夢』

6位

柾木政宗『NO推理、NO探偵?』

5位

七河迦南『アルバトロスは羽ばたかない』

4位

藤野恵美『わたしの恋人』『ぼくの嘘』

3位

浜尾四郎『殺人鬼』

1位

浦賀和宏『透明人間』及び安藤直樹シリーズ(1stシーズン)



以上です。総評としては今年はミステリ以外がたくさん入ってますね。ミステリ作品でもミステリ部分以外で評価が上がった作品が多かったです。まぁ色々読むようになったんですね。
というわけで2017年は色々読んだ年でした〜(雑)。
それではばいちゃ。

七河迦南『アルバトロスは羽ばたかない』読書感想文

『七つの海を照らす星』に続く七海学園シリーズ第2弾。オーソドックスな連作短編集だった前作に対し、今作は中心となる転落事件の描かれる「冬の章」の合間合間に、各季節の短編をカットバック式に挟み込んだ形の、半分長編みたいな短編集になっています。



なお、今作から読むより前作から通して読んだ方がいい作品なので、未読の方はまずは前作からどうぞ。



ではまず各短編について。



「春の章 ーハナミズキの咲く頃ー」

内に籠もりがちな少年・界が珍しく学園のピクニックに参加するという。しかし、ピクニックの最中にあるきっかけで暴れ出してしまう。春奈が話を聞くと、彼は母親に殺されかけたという過去を語り出し......。

結末の方向性こそ見えてしまいますが、(ネタバレ→)界の母親の性格までが推理に説得力を与える伏線になっています。こういう(ネタバレ→)キャラの考え方のクセをトリックに使うあたり、わたしの大好きな泡坂妻夫みが感じられていいですね。その説得力が更に(ネタバレ→)推理を語る意味という物語としてのテーマにも説得力を与えているのが見事です。重い話ですが、テーマとキャラクターたちの優しさのおかげでどこか爽やかな余韻が残ります。


「夏の章 ー夏の少年たちー」

施設対抗のサッカー大会の日、決勝戦の後、片方のチームの選手が全員失踪してしまう。しかし、会場にいた人の話を突き合わせると、彼らが会場から抜け出す隙はなかったことが分かり......。

トリック自体も面白いんですが、前作のとある短編の応用編といった感じで目新しさはありません。ただ、そのための(ネタバレ→)共犯者の多さというミステリ的には弱点になりそうな要素を物語としての感動に繋げることでカバーしているのが上手いですね。


「初秋の章 ーシルバーー」

前の学校でもらったお別れの色紙を大事にする樹里亜。しかし、その色紙が何者かに盗まれてしまう。樹里亜は学園の少女・エリカに盗まれたのだと疑うが、果たして......?

このネタをメインにされたら普通「そんだけかい!」と怒ってしまいそうですが、(ネタバレ→)隠れた文が太字で浮かび上がった時にあまりのおぞましさに鳥肌が立ってしまい、それどころではありませんでした。つらい話ですが、海王の最後の話に少しだけ救われます。


「晩秋の章 ーそれは光より速くー」

学園に突然、「娘に合わせろ」と男が押し入る。人質状態になってしまった春奈はどう危機を乗り越えるのか......?

......というサスペンスっぽいあらすじのお話ですが、春菜、侵入者、たまたま居合わせたおっちゃん、学園の幼児の4人が噛み合わない会話をしてドタバタする様はむしろユーモアミステリの読み心地です。なので「まさか春菜が刺されることもあるまいし......」と油断してにやにや笑いながら読んでいたら、自分の方がぶん殴られました。あの真相は完全に予想外。と同時に、その後さらに笑える展開になるのも凄い(?)です。最後の海王さんのセリフが刺さるものの、基本的には笑いながらも最後に驚ける傑作です。


そして............


「冬の章」

四つの季節の章が終わると、本書全体を貫いていた、瞭という少女にまつわる物語もついに結末に向かいます。
殺人事件を扱うシリーズではありませんが、転落事件の犯人当てというはっきりした形があり、オーソドックスな"ミステリの解決編"に近くなっているのが特徴的です。

ここで明かされる真相自体かなり衝撃的なもので、びっくり度だけでもここ数年で読んだ作品でも屈指でした。
(ネタバレ→)冬の章を分割することで語り手が違うことを不自然に思わせないところや、(ネタバレ→)冒頭から「北沢春菜です」という誤認爆弾を仕掛けてるあたり巧妙過ぎて引きました。ドン引き。

また、凄いのが伏線や手がかりの膨大さ。細かい部分まで拾ってるとキリないですが、大きいところでは......(ネタバレ→)夏の章と晩秋の章では人物自体の誤認や入れ替わりが、春の章と初秋の章では人物像の見え方の反転が、それぞれトリックになっていました。冬の章を見ると、被害者と語り手の誤認、モーリ像と暸から見た春菜像の反転と、それまでの4つの短編に使われていたトリックが(メタ視点からではありますが)そのまま大仕掛けの伏線/手がかり/ヒントになっているあたり鳥肌ものですね。

強いて難点を挙げるなら(ネタバレ→)上記のように各短編が全て人物/人物像の反転を扱っているため、各短編のバリエーションの豊かさでは前作に軍配が上がるかと思います。
というか前作も本作も(ネタバレ→)実は佳音ちゃんでした(。・ ω<)ゞてへぺろなのでちょっと(ネタバレ→)春菜ちゃんがハンカチ噛んでる光景が思い浮かびますね......。

ともあれ、細部までよく考えられたド傑作ではあるのですが、読み終わってちょっと放心してしまいました。この先、彼女らがどうなるのか......続編が待たれます......。

なお、本作はツイッターで読書会をやったんですが、その際に私と違って知的で聡明なフォロワーの皆様の深い読みに本作の楽しみ方を教えてもらいましたのでここに謝意を示して終わらせていただきます。メリー天皇誕生日!ばいちゃ。

2017年、私的アルバムランキング!

あけましておめでとうございます。嘘です。メリークリスマス。

2017年、いかがでしたでしょうか?
つらいことがあった?わかる、私もです。
楽しかった?そうか、楽しかったやつは爆発せよ。

というわけで個人的には踏んだり蹴ったりと泣きっ面に蜂を足したような1年でしたが、そんな中で音楽だけは今年も優しく寄り添ってくれました。
音楽って、、、擬人化すると、大好きだし一緒にいて楽しいし色んな感情を湧き上がらせてくれるし聴きたい時だけ聴けばいいからめっちゃ都合のいい恋人みたいですよね。やっぱ人間の女はクソだ。ママ〜っ!ぼく、音楽と結婚するよ〜っ!!

というわけで、今年も終わるので2017年に出たアルバムやミニアルバムの中で好きなやつをランキング形式でざっっっくり紹介していきます〜。それではまずは第10位!


10位 欅坂46「真っ白なものは汚したくなる」

真っ白なものは汚したくなる(通常盤)

真っ白なものは汚したくなる(通常盤)


はい、出ました。いやー普段アイドルって聴かないんですよ。嫌いとまでは言わないけど、2.5次元の女に入れあげることができないタチなのでメンバーへの興味も「顔が可愛い」程度にしか湧かず、そんな奴が曲だけ聴くのもなんかガチのファンの人に怒られそうだからなんですね。あと単純にキャピキャピした歌も好きじゃないっていう。
ただ、欅坂ってキャピキャピしてないしアイドル好きじゃない人でも楽しめるくすぐりが歌詞とか曲とか振り付けとかにあって、「サイレントマジョリティー」以下シングル各位をテレビで見たり聴いたりしてるうちになんとなく気になってアルバム借りてみたんです。
そしたらもうかなり好みな曲調だったので驚きましたよ。だってダークでカッコイイ系の曲や眩しすぎて死にそうな青春ソング好きにはドンピシャでしょ。
個人的には「手を繋いで帰ろうか」の爆発しろ感と、「誰よりも高く跳べ!」「大人は信じてくれない」「不協和音」の怒涛のシリアス繋ぎにやられました。でも一番好きな曲は「エキセントリック」。
名盤です。

欅坂46 『エキセントリック』 - YouTube




9位 松永天馬「松永天馬」

松永天馬 (初回限定盤)(DVD付)

松永天馬 (初回限定盤)(DVD付)

アーバンギャルドの全作詞、多くの作曲、サイドボーカルを務める松永天馬のソロアルバムです。
アーバンの方では女性ボーカルに仮託して少女の歌ばかり書いてて正直私のようなおっさんには分かりづらいところもありますが、今作はソロということでイカ臭い気持ち悪さが濃厚なアルバムになってます。
ただ歌詞も曲も気持ち悪いんだけど気持ち良い。サウンドも夜っぽさの強いディープなダンスミュージック成分が多めで好みドンピシャでした。
人前で聞くのは憚られるけど部屋でヘッドホンしてこっそりリピートしちゃう感じの名盤です。

松永天馬 - Blood,Semen,and Death. (YOUTUBE ver.)TEMMA MATSUNAGA - 血、精液、そして死 - YouTube
松永天馬 - ラブハラスメント TEMMA MATSUNAGA - LOVE HARASSMENT - YouTube




8位 RHYMESTER「ダンサブル」


いやー普段ヒップホップも聴かないんですけどね。RHYMESTERは友達が好きなのと宇多丸さんが映画の紹介をやっててそれをたまに聞いたり読んだりするので気になってました。
しかし、良いですね。いや、他の曲はベストに入ってるような有名なの数曲しか知らず(せめてベスト聴けって感じですよね)、そのためこのやアルバムが彼らの作品の中でどのような位置づけかとかはさっぱり分かりませんが、とにかく良いです。

アルバムタイトルの通り横に揺れながら聴ける、まさにダンサブルな曲が多く、その横揺れをリズミカルなラップが推進していくような......。ラップでダンスミュージックってこんなに気持ち良いんだ!と驚きましたよ。
でリリックもやっぱ凄えよ。ちゃんとストーリーになっていながらめちゃくちゃ韻を踏んでる。そりゃラップなら韻を踏むのは当たり前かも知んないし、その辺詳しいことはさっぱり分かんないですけど凄いと思いました。
とにかく突き抜けて気持ち良い名盤です。

RHYMESTER - Future Is Born feat. mabanua - YouTube




7位 syrup16g「delaiedback」

delaidback

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今年は色々と嫌なことがあって「そうだ、メンヘラになろう!」と決意した一年でした。さて、メンヘラになるにあたり、私は型から入るタイプなので、メンヘラらしい作品を摂取しようと思い立ったわけです。そうして今年ハマったのが『人間失格』、押見修造、そしてsyrup16gだったわけです。
で、一年で彼らのアルバムを全部聴いて、もう知らない曲がなくて寂しい😂と思っていたところでの本作のリリースということでソッコー買いました。
正直前作がいまいちだったので不安もありましたが、今作は全曲過去の曲ということでいまいちなハズもなく......。なんかもはや暗いのか明るいのか分かんないというか諦めすぎて前向きにも見えるみたいな感じ。あと今作はかなりボーカルが(音量の段階から)強調されていて、五十嵐隆の声が大好きな人間としては一枚通してゾワゾワしっぱなしでした。
問題はこれが全曲過去曲ということで、次の新作がどうなるか、そもそも新作まだ出すのかというところが心配な気持ちはありますが、ともあれ名盤です。

Syrup16g 赤いカラス LIVE - YouTube




6位 BaseBallBear「光源」

光源(初回生産限定盤)(DVD付)

光源(初回生産限定盤)(DVD付)

ベボベといえば青春!というのが我々世代の一般認識でしょうが、最近は青春以外にも人生のことや世間に物申すみたいな曲まで歌詞の幅が広がってる印象があります。もちろんそれは良いことですが、どこか寂しさがありました。
そんな作風の変遷、更にはメンバーの脱退も経て、今作は再び"青春"をテーマに掲げたアルバムになっています。
曲数は少ないですが、曲調はブラックミュージック感の強いものから往年の王道ギターロックまで幅広く、歌詞も青春のキラキラと痛さ暗さがどちらも詰め込まれています。また、そういう青春を過ぎたものとする視点もあって、個人的に社会人になった今年に聴くとなかなかキツいものがありました。
特に好きな曲は「逆バタフライエフェクト」。直接的に青春を歌っているわけではありませんが、"今までの全ての選択が収束して今がある"という"逆バタフライエフェクト"の発想がこのアルバム全体のテーマを貫いていますね。
いやはや、名盤です。

Base Ball Bear - すべては君のせいで - YouTube




5位 米津玄師「BOOTLEG

BOOTLEG(映像盤 初回限定)(DVD付き)

BOOTLEG(映像盤 初回限定)(DVD付き)

米津玄師、まさかここまで大々的にヒットするとは。個人的には最近ちょっと離れてたんですが、今作に収録されたシングルの「ピースサイン」をフォロワーさんがカラオケで歌ってるのを聴いたり「灰色と青」のPVをテレビで見たりして「米津玄師ええやん......!」と思い始めていたところにこのアルバム。聴いてみたらめちゃくちゃ好きな音でしたね、はい。
もちろんどの曲もいいんですが、個人的には7曲目の「Moonlight」からの夜っぽい曲繋ぎとラスト二曲のキラーチューン連打が最高だと思います。
サウンド自体の懐かしさとメロディのノスタルジーとそれでいて新しい刺激的な感じと、染み入るような歌声。
ダークな雰囲気もありつつ今まで以上に美しく今までになく開けた印象の名盤です。

米津玄師 MV「 灰色と青( +菅田将暉 )」 - YouTube
米津玄師 MV「春雷」Shunrai - YouTube




4位 ゲスの極み乙女。達磨林檎

本当は去年発売されるはずでしたが未成年飲酒により発売が延期されたアルバムです。当時は「延期だと〜💢なにやらかしとんねん💢」と思いましたが、そうして待たされた結果、行列に並んだ後に食べるラーメンのような美味を味わえました。
まずシングル曲がない全曲書き下ろし新曲のアルバムということで、今まで以上にヘンテコでマニアックな曲が多い気がします。それでいてやっぱりどの曲も頭にこびりついて離れない中毒性があって何度も聴いちゃいます。
この中毒性の秘密は曲の幅広さにもありますよね。初期のゲスっぽいわちゃわちゃした曲から最近のゲスっぽいメンヘラが踊ってるような人力ダンスミュージック、畳み掛けるような焦燥感のあるポエトリーディングから女性メンバーも交えた演劇のように展開する歌まで、今までのアルバム以上に一曲一曲の個性が際立っています。そんな幅広い楽曲たちがあるときは流れるように、ある時はギャップで驚かせるように並んだ曲順も素晴らしくて、飛ばし曲ナシ。更に最後の曲が軽妙なので絶妙にもう一回聴きたい気分にさせられる。そんな、アルバムという形で音楽を聴く愉しさを思い出させてくれる名盤です。

ゲスの極み乙女。「心地艶やかに」 - YouTube
ゲスの極み乙女。 - 「影ソング」 - YouTube
ゲスの極み乙女。「勝手な青春劇」 - YouTube
ゲスの極み乙女。 - シアワセ林檎 - YouTube





というわけで以上ベスト10〜4でした。
それではいよいよベスト3の発表............

............の前に、アルバムベスト10以外で今年の音楽についてどうしても言っときたいのが............

............そう、今年はスピッツですよ!なんと2017年はスピッツ結成30周年ということで、去年アルバム出したばかりなのに早くも新曲3曲入りの3枚組ベストが発売されました。

ベスト部分はすでに知ってる曲なのではしょりますが、新曲3曲がとても良かったです!
暖かいバラード、ミディアムなロックチューン、そしてインディーズ時代のスピッツにオマージュを捧げた疾走感のあるパンクチューンと、ガラッと曲調を変えてくるサービス精神!さらにスピッツが30年経ってまだ歌い続けていることを力強く歌った歌詞!節目の年にこんな素敵な新曲出されちゃ「ベストなんてみんな知ってる曲やしな......」と思っているファンも無理やり買わされ......失礼、楽しませてもらえました。

スピッツ / ヘビーメロウ - YouTube
映画 『先生! 、、、好きになってもいいですか?』スピッツ「歌ウサギ」スペシャルショートムービー【HD】2017年10月28日公開 - YouTube
スピッツ / 1987→ - YouTube

さらに同じく30周年記念のツアーもやってて行ったんですけどこれもよかった。ベストの曲多めの選曲でしたが古い曲も今の演奏で聞くとまた一層輝きますね......。このツアーのDVDが15,000円で出るらしいんですが、たっけーな!と思いつつも買うんでしょうね私は......。



さて、それではいよいよベスト3の発表です。いきます。






でーん!

3位 SHE IS SUMMER「WATER」

WATER

WATER

元・ふぇのたすのボーカル、MICOちゃんによるソロユニット・SHE IS SUMMER!その記念すべきファーストフルアルバムがこの「WATER」です。
もうね、好きなのか嫌いなのか分かりませんよ。というか好きで嫌い。というか嫌いすぎて好き?とにかく、SHE IS SUMMERに対してはそんなフクザツな感情を抱いています。
なんせ女性目線のめんどくせえ恋愛の歌詞ですからね。男の敵ですよこのクソ女は。「とびきりのおしゃれして別れ話をしに行こう」とか「ずっと出会ってから付き合うまでのあの感じでいよう」とかね。殴りたくなるでしょ?泣きたくなるでしょ?女ってほんとゴミだわ。
そんなファッキン歌詞をファッキンエレクトロニカサウンドでキラキラと歌われた日にゃあ死にたくもなるよ。ああ、死にてえな。名盤です。

SHE IS SUMMER 「WATER SLIDER」MV - YouTube
SHE IS SUMMER / 出会ってから付き合うまでのあの感じ - YouTube




2位 ドレスコーズ「平凡」

元・毛皮のマリーズのフロントマン、志磨遼平によるソロバンド・ドレスコーズ
その5枚目のアルバムである本作は、個性を悪とし平凡であることが求められる架空の国で、「平凡であれ」という啓蒙をするバンドのアルバムというテーマの完全コンセプトアルバムになっています。

元はバンド形態だったドレスコーズですが、3枚目のアルバムを出す前に志磨以外のメンバーが脱退、現在は一人バンドというスタンスでやってます。その特性を駆使して、今回のアルバムにはPOLYSICSのハヤシ、ZAZEN BOYS吉田一郎Scoobie Doのナガイケジヨー、在日ファンクホーンズなどなど豪華な実力派演奏家をバンドメンバーに迎えてファンク色の強いダンサブルなサウンドになっています。正直初めて聴いたときは今までの作風との違いに困惑しましたが、とはいえあまりのカッコよさにそんなことどうでもいいやと踊らされました。
そして何度か聴いて踊っているうちに、こうやって踊っていることで個性が削ぎ落とされていくような怖さを感じてしまいます。そうなりゃ志磨遼平の思惑通りで、「人は生まれながら 誰もが皆common」「正しみは 誰ともちがえないこと」「さがせ、エゴを!こわせ、エゴを!」という言葉たちが襲ってきます。
その中でも私が好きなのがラス前の曲の「おかしな歌に涙して おかしな映画を観て笑った ぼくたちも 年をとり髪を切った」というフレーズ。
ちょうど今年大学を卒業して無個性な社会の歯車と化した私には突き刺さるものがあります。

アルバムの中でなにか明確な結論や答えのようなものは提示されませんが、それだけに今の世の中へのナマの問題提起として聴くたびに色々考えさせられる作品になってます。音の中毒性も併せてこれからも何度も聴くことになるであろう名盤です。

ドレスコーズ「エゴサーチ&デストロイ」PARALLEL VIDEO from『平凡』【イヤホン視聴推奨】 - YouTube
ドレスコーズ「人間ビデオ」MUSIC VIDEO (フル3DCGアニメ映画「GANTZ:O」主題歌) - YouTube




それではいよいよ、映えある第1位を発表します......!













でーん!

1位 indigo la End「Crying End Roll」


はい、もうこれしかないです!このアルバムに関しては一応感想を書いているのでそれを貼っておきます。↓

indigo la End『Crying End Roll』の感想だよ - 偽物の映画館

川谷絵音は世間からの好感度を悪魔に売り渡し、代償として傑作しか作れなくなってしまったのではないか......?
そんなことを思うくらい、今年の彼の活躍は凄まじかったです。ゲスとindigoを掛け持ちしつつボカロPやDADARAYのプロデュースなど、人間業ではない八面六臂の活躍にもうすぐ死ぬんじゃないかとすら思います。生きてくれ。生きてもっと素晴らしい曲を聴かせてくれ。
このアルバムについて、詳しくは上のリンク先で書いてるので割愛しますが、ざっくり言うと失恋と生命という『藍色ミュージック』からの流れに、ゲス乙女のようなピアノやコーラスの要素を取り入れ、リミックスなんかも入れちゃいつつアルバムとしての曲順も完璧な、進化系『藍色ミュージック』といったところでしょうか。聴けば聴くほど味が出るのでなんだかんだリリースされて以降しょっちゅう聴いてしまっている名盤です。

ちなみに12月にリリースされた配信シングル『冬夜のマジック』もとても良かったので今年は川谷絵音の年でした(と毎年言ってる気が......)。来年も過労死しない程度に頑張って欲しいです。

indigo la End「想いきり」 - YouTube
indigo la End「鐘泣く命」 - YouTube
indigo la End「プレイバック」 - YouTube

indigo la End「冬夜のマジック」 - YouTube






というわけで、今年ハマったアルバムベスト10+スピッツでした。
他にもGRAPEVINE「ROADSIDE PROPHET」、Suchmos「THE KIDS」、パスピエ「&DNA」、ONE OK ROCK「Ambitions」、女王蜂「Q」、おいしくるメロンパン「indoor」、Hump Back「hanamuke」など、なんだかんだ名盤がたくさんあった一年でした。
個人的には人生で最低の一年でしたが、やっぱり音楽っていいもんですね〜。
来年もはやくも聴きたいアルバムが何枚か出ることが発表されているので、リアルは捨てて音楽充に励みたいと思います。
それではみなさまメリークリスマス&良いお年を〜!ファッキュー!

加藤元浩『Q.E.D 証明終了』全巻読破計画① 1巻〜10巻

Q.E.D 証明終了』、今までも気になりつつ全50巻+姉妹編シリーズやシーズン2まであって、全部合わせるとあまりの巻数の多さに読むのを尻込みしていました。しかし先日フォロワーさんになぜかいきなり23巻を貸していただき読んでみたらまぁ面白いこと!その勢いでB××K・××Fへ時速120kmで車を走らせ大人買いしました。

この作品、稀に日本三大ミステリ漫画と呼ばれますが、残りの二つ『名探偵コナン』『金田一少年の事件簿』に比べると知名度の差は歴然。ちょうど日本三大名探偵における神津恭介的立ち位置の作品ではあるのですが......。
しかし内容は劣らず、むしろミステリとしては最高では。

この作品の特徴として、単行本各巻にきっかり2話の完結したお話が入っていること、そんな短い話ながら意外性や巧みな伏線など、毎話必ずミステリとしての大きな見所があることが挙げられます。その分、多彩なキャラクターやヤバい組織との対決やお色気やストーリーのおどろおどろしさではコナン&金田一には敵いませんが、ことミステリー面だけ見ればこれだけハイペースでハイクオリティの作品を出し続けている作家が他にいますかっていねーか、はは。
今更私などが言うまでもありませんが傑作ミステリ漫画です。あと、キャラもメインキャラの人数が少ないってだけでみんないい奴ですちゃんと。

というわけで、そんな『Q.E.D 証明終了』をこれから読んで行くわけなので私的読了メモとしてこの日記を残します。


ちなみに、各話タイトル横に★で採点していますが、点数はだいたいこんな感じ。

★1 →→→→→いまいち
★★2 →→→→まあまあ
★★★3 →→→普通に面白い
★★★★4 →→とても面白い
★★★★★5 →めっちゃんこ面白い

では始めます。




1巻


ミネルヴァの梟」★★2

ゲーム会社"アークス"の社長が殺害された。事件の発生した階には犯行当時6人の社員しかいなかったことが監視カメラの映像から明らかになった。果たして犯人は6人のうちの誰なのか?


記念すべき第1話ですが、設定など特に凝った漫画でもないのでキャラ紹介もあんまり手間をかけずさらっと始まります。
キャラ紹介にページ数を取られない割には話はいまいち面白みに欠ける気がします。トリックは使い方は綺麗に決まっているものの、まぁありがちだし、何より魅力的に見えたダイイング・メッセージの真相があれでは......。



「銀の瞳」★★★★★5
人形師の七沢克美が逝去した。彼女は生前自らの人形を展示する「七沢人形館」の設立を計画していた。彼女の人形を狙う悪徳コレクターの阿久津は金の力で人形館を乗っ取ろうと画策するが、その矢先、阿久津はオープン間近の人形館でペースメーカーの異常により事故死した。しかし、事故当時人形館に居合わせた七沢の娘とその恋人、そして商人の3人の証言はそれぞれ全く食い違っていた。嘘をついているのは誰なのか?そしてこれは殺人事件なのか......?


で、第1話がイマイチと思いきや第2話で急に傑作!物凄く綺麗にまとまった端正なミステリですね。
関係者各自の証言が食い違うという「藪の中」的な展開は胸熱ですが、実のところその食い違いの真相自体は分かりやすいです。でも、そこで「へへん見破ったもんね」と得意になっていたら、そこからのサプライズがお見事!やられました。ラストは意外性と情念が共にじんわり沁みてきて強く印象に残ります。




2巻


「六部の宝」★★★3

燈馬たちはMITの考古学の教授から依頼を受け、六部伝説の残る山奥の村の琴平家に古文書の調査をしに行く。しかし、村では同じく古文書を調べていた学生が"六部の宝"である仏像に見立てて殺される。犯人は誰か?そして、六部の宝はどこにあるのか......?


村、六部伝説、財宝、美人当主と、田舎系ミステリに求める外連味に満ちたお話で、それだけでわくわくして楽しく読めました。
内容についてはゴテゴテした舞台設定のわりにはもう1つインパクトが弱い感じはしちゃいました。ただ、さらりと膨大な量の伏線を張って一気に回収する推理パートはなかなか力入ってて「あっ、そうか」といちいち納得させられちゃいましたけどね。



「ロスト・ロワイヤル」★★2

天才技術者が作った世界に6台しかない高級車ブガッティ・ロワイヤル。可奈の後輩の祖父・岩崎氏は、その幻の7台目を見つけたが富沢という男に奪われたという。しかし富沢の所有する建物のいずれにもそれらしいものは見当たらず......。果たして幻の7台目は存在するのか?あるならば富沢はそれをどこに隠したのか......?


とある伏線の隠し方はうまいですけど、正直うまく隠れすぎてて「誰もそこまで見ないよ〜」という気分にも。
また、真相はちょっとしたクイズ程度のトリックが一発だけ。とはいえ2巻は前半の「六部の宝」が長く、この話は短いので、さらっと読める箸休めとしてはなかなか楽しめました。
あと可奈ちゃん物凄くあっけらかんと重めの犯罪を犯してて笑います。




3巻


「ブレイク・スルー」★★★3

クリスマス直前の12月、燈馬たちの高校にMIT時代の友人ロキとエバが訪れる。可奈は彼らから、燈馬が何者かに論文を破棄され大学を去ることになった経緯を知る。当時、犯人はロキだと噂されたが果たしてその真相は......?


燈馬の謎めいた過去に触れるエピソードです。
ミステリーとしてはクイズの出し合いと過去の事件の真相の二本立てですね。
クイズの方はまぁ他愛ないものですけど、数学パズル的な木の問題はなるほどなと感心したし話の種になりそうですね。で、クライマックスやオチにまでこのクイズの出し合いが活かされてきてて、たかがクイズといえどここまで粋に使われちゃ楽しいですよねそりゃ。
で、そんなクイズ三昧で油断していると燈馬の論文事件の真相にも驚かされ、それぞれの思いに切ない気持ちになります。ここの伏線も粋ですね。
ええ、会話といい伏線といいアイデアの使い方といい、何から何まで今までになく粋な一編になっています。



「褪せた星図」★★★3

天文学者の月島福太郎が私財を投じて設立した雪山の上の天文台。月島が失踪して7年が経ち、月島は法的に死亡扱いに。相続の相談のため関係者が天文台に集まるが、望遠鏡を開けるとそこには黒焦げの死体が横たわっていた。さらに、関係者の1人が縊死。二つの事件には関連があるのか......?


この話には◯る巨大望遠鏡が登場します。古今東西、◯る施設には仕掛けがあるのが常で、この望遠鏡にも仕掛けはあります。しかし、この話の眼目はむしろもう1つの地味なトリックが望遠鏡のトリックへ繋がっていく推理の流れだと思います。
そして、その果てにある悲しい真相も印象的です。著者の言葉にある通り、1、2巻よりも人間模様を丁寧に描いてる感じがして好感が持てます......ってゆーかミステリーとしてもアベレージ高くて叙情性まで備えてしまったら最強でわ。




4巻


「1st,April,1999」★★★★4

世界規模の嘘つき大会"エイプリルフールクラブ"で吐くウソのネタに悩む燈馬は、アメリカ時代の友人バウムに出会う。
発展途上国・クラビウス王国で外務次官の職に就くバウムは、世界中の科学者が未だ見つけられていない物質"モノポール"を持って日本企業の資金援助を得ようと画策する。


国際ビジネスのカッチリした話と嘘つき大会というふざけた話がどう繋がっているのかという、何が起きているのか?何が起こるのか?というホワットダニット的な謎が魅力的です。
とある伏線がクリティカルに仕掛けに繋がっているので気付いたら気付いちゃいますが、それにしても話の転がし方の巧さには舌を巻きます。これで気付かなければ満点評価でもよかったくらい。
また、ミステリとしてのネタの量もさることながらスパイアクション的な要素まで盛り込まれていて、エンタメとしての圧がヤバいです。マンガ本一冊の半分という短さでよくここまで......。
これを読んでいよいよこのシリーズにハマることを確信しました。



ヤコブの階段」★★2

東京中の信号が一斉に青になり交通が大混乱する事件が発生。CIAはその原因をMITの人工生命研究室が作った人工生命「クラン」によるものだとし、研究室の主任......エバの身柄を拘束する。エバに助けを求められたロキは燈馬らと共に騒動について調査を始める。


私が文系だからかもしれないし、この作品1999年に書かれているので今読むとコンピュータに関する描写など学校で習う程度の当たり前のものに感じられてしまうという時代的なものもあり、そんなに......という印象です。
それでも最先端のコンピュータと旧約聖書との見事な融合によって現代の聖書という雰囲気を出しちゃってるあたりのストーリーの上手さは凄いです。




5巻

「歪んだ旋律」★★★3

天才チェリストの平井玲二は、楽団への資金援助を打ち切ろうとしたスポンサー企業の社長を殺害。遺体を隠し、遊びに来る約束だった高校生グループを家に上げることでアリバイを成立させる。しかし、後日、事件の日に遊びに来た燈馬というしつこい高校生に事件のことを追及され......。


↑あらすじでここまで書いちゃってる通り倒叙ものです。
犯人が最初からわかっているというシンプルな設定を、シンプルな矛盾とシンプルなトリックで彩ったシンプルなお話。ゆえにインパクトも今ひとつになりそうなところを、犯人の狂ったキャラと末路で、なんだかんだなんとも言えない余韻を残します。やっぱ1話完結の話のストーリーテリングがとても上手いなと思いますね。



「光の残像」★★★3

フリマでライカのカメラを買った燈馬と可奈。カメラには前の持ち主のフィルムが残されていて、2人はそれを返すためカメラの持ち主探しを始める。やがて2人はフィルムに写っていた蔵を見つける。鍵を壊して蔵に入ってみると、壁の中から白骨死体が見つかる。しかも死体は一つしかないはずの蔵の鍵をポケットに入れていて......。


遺体の謎、密室の謎、超能力少女の謎、写真の謎......村の独特の雰囲気の中で大量の謎が提示され、一気に引き込まれます。
それぞれの謎の答えはいずれも小ネタという感じでそこまでインパクトが強くなかったですが、量がすごいからなんだかんだ面白かったです。




6巻

Q.E.D.証明終了(6) (講談社コミックス月刊マガジン)

Q.E.D.証明終了(6) (講談社コミックス月刊マガジン)

「ワタシノキオク」★★2

燈馬の妹・優が日本にやって来た。燈馬と可奈は彼女の観光案内をするが、優が一時単独行動をした際に万引きグループにぶつかられて転倒、気絶し、その時の記憶を失ってしまう。状況から優に着せられた万引きの濡れ衣を晴らすため、燈馬は優がかすかに覚えていた「昼の始まりで夜の終わり」「あとロバがいれば音楽が出来る」という思考の欠片から彼女のアリバイを証明しようとする。


燈馬の妹初登場ということで、兄妹の会話に対して可奈ちゃんと一緒に「うわー燈馬くんの妹だー!」という風に楽しみました。ただ謎解きの方は「◯◯なものなーんだ?」レベルのクイズでありながら答えがやたら知識を問われるもので、教養が普通レベルの読者には少なくとも両方は分からないでしょう。それはそれで解説見るぶんには面白いんですが、やはり自分でも考えれば解ける問題のが好きですね。というわけで兄妹愛の物語として読むのがいいお話でした。



「青の密室」★★★★4

スカイダイビング体験にやって来た可奈と付き添いの燈馬は、世界選手権の日本代表グループによるスカイダイブを見学する。しかし、そのうち1人が空中で失神したかのように着地姿勢を取らないまま降りて来た。彼のパラシュートを外すと、背中にはナイフが刺さっていて......。


これは良いですね。じっくり考えれば分かりそうではありますが、漫画のスピード感もあってじっくり考える間もなく明かされるシンプルなトリックに驚かされました。(ネタバレ→)最初にトリックを使った場面の一部始終全部書いてあったってのが好きです。また燈馬くんによる解決シーンも鮮やかです。


7巻

「Serial John Doe」★★★★4

燈馬たちの同期のMIT卒遺伝子工学博士が極寒の森に置き去りにされ殺された。更に航空工学の分野でトップだった同期も海から腐敗死体で発見される。事件がMIT卒業生を狙った連続殺人ならば、数理分野のトップだった燈馬にも危険が......?


異色作ですね。サイコスリラーの要素が濃いお話で、上記の点数もミステリとしてではなく話の面白さによるものです。
というのも、この話、ミステリとしては見立て+ミッシングリンクという豪華なものにはなっているのですが、作中で可奈ちゃんが「宇宙人の会話だよ」と言っているように高校数学ほぼ毎回赤点ギリギリマンにとっては全て「へぇ、そうなんだ」というレベルの難しさ。それでも解説が分かりやすいのでなんとなーく出てくる数学用語が分かった気になれるのは凄いですが......(こんな数学の先生いたらなぁ......)。ただ、謎解きのカタルシスとなると知らなきゃ驚けないやといったところで。
ただ、サイコスリラーとしてはもう最高ですよね。自分の中にある"美しい規則"に従って動く犯人の異様さがいつになくシリアスな雰囲気を出していますし、なによりラストシーンが眼に焼きつきました。後味悪い系映画っぽさもありつつこのインパクトは漫画ならではですね。素晴らしい。



「憂鬱な午後」★★★3

道端に咲いていた花がアヤメかカキツバタかで言い争いになった燈馬と可奈は(かわいい)、近所の花屋に確認しに行くことに。すると、折しも花屋で店の資金の100万円......のうち5万円だけが紛失する事件が起きていて......。


前の話が強烈だっただけに、町の花屋でたった5万円の盗難という事件の規模の落差に実際以上にしょぼく見えてしまうのは事実......ですが......。さらっと忍ばせた巧妙な伏線によって「なるほど!」と手を打てる、意外な快作でした。(ネタバレ→)人のクセを利用したトリックというのは泡坂妻夫センサーが反応しちゃいますね......なんて言うと大袈裟かもしれませんが。




8巻

Q.E.D.証明終了(8) (講談社コミックス月刊マガジン)

Q.E.D.証明終了(8) (講談社コミックス月刊マガジン)

フォーリング・ダウン」★1

山奥の村へバンジージャンプに来た燈馬たちだったが、先日その渓谷で消防学校の教官が転落死した事故が起こったためにバンジーは休止されていた。


これは酷くないですか......。まずトリックの(ネタバレ→)結局そこまで細工するのが高所恐怖症じゃ無理じゃね?というところはまぁ百歩譲ってなんとかなったとして......。
......燈馬くんのスタンスがメチャクチャでは......。あんな解決をしたらああなることは当然予想されることで、赤の他人の事件に意味もなく首を突っ込んで掻き回す倫理観のない探偵にしか見えず......。しかもその解決の根拠も状況証拠程度にすぎず......。もうちょいその辺なんとかならないものですか......。



「学園祭狂騒曲」★★★3

学園祭前日、お化け屋敷、軽音部、落研、そして可奈の所属する剣道部は孤立した区画で準備に勤しんでいた。ところが夕食休憩として生徒たちが一時区画を離れた間に全グループのブースが荒らされてしまい......。さらに動機の成立するグループ同士ではなぜかアリバイも成立してしまい......。


可奈ちゃんのメイド服姿というマニア垂涎の衝撃的な幕開けですが、内容もなかなか凝ってます。事件の構図自体は分かりやすいですが、こうでこうでこう、と着実に手順を踏んだ上でそれを見せられてはやはり感心してしまいます。こういう細かい伏線の張り方にセンスを感じます。ます。
さらに今回なんか燈馬くんと可奈ちゃんの関係性がいい感じで、にやにやしつつ青春しやがって爆発しやがれという理不尽な怒りも湧きました。
尚、こんだけ人が死んでる漫画なんだから軽音部のクソ野郎を真っ先に殺してほしかったですね。それが今回に限って人が死なないミステリ......。




9巻

ゲームの規則」★★★3

燈馬たちはひょんなことから世界でもトップクラスの大富豪であるソロモン氏のゲームに参加することになる。敗者には「沈黙の掟」が課されるというこのゲームに燈馬は勝てるのか......?


ほとんどゲームの内容だけの話ですが、これがなかなかややこしくてパズルとして面白いです。こういうの自分で考えるのは苦手だけど解説読むのは楽しいんですよね〜。そして、そのパズルの裏にもうひとつ仕掛けてくるのも良いですね。



「凍てつく鉄槌」★★★★★5

30年間開かれたことのない勝鬨橋の中から死体が発見された。しかし、死体は橋が閉じた後に隠されたことが判明。見物に来た燈馬たちの前に、事件は自分の仕業だと豪語する謎の老人が現れる......。


これは凄い!
「閉じられた橋の中に死体を隠す」というかなり大規模な不可能犯罪なので、まずはそのトリックに感心しました。シンプルにして盲点、そして大胆。
しかし凄いのはこの大トリックがミステリとしての主眼ではないところ。こんな良いトリック惜しげもなく使った上に更に事件の裏の人間模様で重く遣る瀬無い気分にさせられ、そこからの意外な動機で再び驚かせてくれます。
トリックと動機のそれぞれ片方だけでもこの短さの漫画にするにはもったいないのに、こともあろうに両方ぶち込むという蛮行に及んでいやがります。そんなもん傑作と呼ぶしかないでしょう。
余談ですが、大トリックといい社会派なテーマ性といい勝鬨橋といい、島田荘司感があると思います。




10巻

Q.E.D.証明終了(10) (講談社コミックス月刊マガジン)

Q.E.D.証明終了(10) (講談社コミックス月刊マガジン)

「魔女の手の中に」★★★★4

5年前、燈馬がMITに入学したばかりの頃。
大富豪のオズボーン氏が殺害される事件が起こる。事件当時、邸宅には妻のセアラしかおらず、彼女は宗教団体に入って多額の寄進をしていることが分かった。新人検事のアニーは、セアラの犯行と確信して彼女を殺人罪に問う。
一方、研究に行き詰まった友達を助けたいと考える燈馬はアニーに出会い......。


シリーズ中唯一の1冊丸ごと1エピソードの長編作品です。
内容は、燈馬の過去編としてシリーズにおいて重要な一編で、"魔女裁判"をモチーフにした法廷ミステリでもあります。
まずアニーのパートは、キャピキャピした美人検事アニーvs冴えない顔して実はやり手の弁護士の裁判パートが面白いです。丁々発止とまでは言いませんが、互いに相手の矛盾を突こうと様々な視点を持ち出してくるのは楽しいですね。
一方、燈馬パートでは10歳の燈馬が後に本作の探偵役を務めるに至るきっかけが描かれていて、シリーズとしての重要度も高い青春ストーリーになってます。
そしてその両者が出会う時、ミステリとしての見事な反転と物語としての怒涛のクライマックスが訪れます。(ネタバレ→)結局最初から怪しかった奥さんが真犯人でありながら、事件への見方を一点変えるだけで今までの伏線が別の意味に転換されてしっかり驚けるので凄いです。
ラストも意味深な感じで良いですね......。これって、(ネタバレ→)絵葉書の送り主はセアラということでいいんですよね?このエピソードは今後出てくるんでしょうか......?単体で読むとちょっともやもやが残りつつも、今後に繋がるのならば非常に楽しみです。









というわけで1〜10巻の感想メモでした。合わせて19話分読んだことになりますが、いまいちな話はほとんどなくどの話も何か一つ、ものによっては二つ三つ四つと唸らされる部分があり、このまま一気に読んでしまいたい気持ちともったいないから少しずつ読みたい気持ちが半々であります。というわけで、まぁ一日1話か2話ずつ読んでこうと思います。次がいつになるか分かりませんがまた11巻〜20巻の感想でお会いしましょう。それでは、Quot......あれ、Quod??Era......、、、あっあっわかんな、、、きゅーいーでぃー!

陳浩基『13・67』読書感想文

超話題作です!

13・67

13・67


作者は香港人のミステリ作家で、島田荘司推理小説賞を受賞した経験もある華文ミステリの旗手......らしいです。

本書は主人公のクワン刑事が1967年から2013年までに携わった6つの事件を描いた連作短編集になっています。第1話が2013年、そこから時代を遡り最終話が1967年の話という年代記(リバース・クロノロジー)の形式になっているのが特徴です。

ツイッターで本書はあまりにも評判が良く、評判が良いというより大絶賛以外の評判を見かけませんでした。ここまで「凄い」と言われている短編集って連城三紀彦の『戻り川心中』とか横山秀夫の『第三の時効』くらいしか思いつかないくらい。私って文庫派だし海外ものはほとんど読まないんですけど、連城や横山に匹敵するかもしれないならこりゃ読むしかないぜ!と思い、今まで買ったことのない海外ものの単行本を買ってしまった次第です。

結果は、高価な単行本でわざわざ買った価値がある、むしろそれくらいお金出さないと作者に申し訳ないくらいのド傑作だったのでドケチな私としてはホッとしました。

以下、各話の感想&まとめ。



第1話「黒と白のあいだの真実」

2013年。末期ガンに侵され言葉を発することすら出来ない状態の名刑事・クワンは、病室で機械に繋がれている。機械は画面と音で「Yes」「No」の意志だけを伝える。病室にはクワンの弟子のロー警部と部下たち、そして先日起きた大企業の経営者殺害事件の関係者5人。そう、ロー警部はこれから、名刑事の「Yes」「No」の意思表示によって事件を解決しようと言うのだ......!


病人に繋がれた機械が放つ「ピッ(Yes)」と「ブブッ(No)」の音だけで安楽椅子探偵をするという設定がもう抜群に魅力的ですが、もちろん設定倒れにならず十二分に活かされています。Yes,Noで答えられるような質問からどのように事件の真相に近づくかという過程はそれ自体ミステリとしての遊戯性が強いんですよね。
事件自体は企業の経営者が自室で殺害されるだけの一見シンプルなものですが、そんなシンプルな事件への意外性のくっつけ方が凄いです。というのも、ミステリーの醍醐味って隠れていた意外な事実が明かされることだと思いますが、この短編ではその意外性の隠し方が絶妙なんですよね。
(ネタバレ→)見かけの過去のエピソードの裏に黒幕側の謀略があり、それと同時に見かけの現在のエピソードの裏に探偵側の謀略もあるという......。
そして、それによって(ネタバレ→)YesとNoしか意思表示が出来なくても物凄い存在感を放っていたクアンが、YesとNoの意思表示すらしていなかったと明かされることで却って更に存在感を増すところとか凄いですね。
第1話でこれだけ名刑事クワンの格好良さを見せられたら、この後の話を読むのが楽しみで仕方なくなりますもの。ミステリと物語、どちらの面白さも完全に熟知していないと書けないシロモノだと思います。



第2話「任侠のジレンマ」

2003年。ローは、"アンタッチャブル"とされる裏社会の黒幕・左漢強が率いる"洪義聯"というマフィアを捕まえたいと考えるが、その端緒となる作戦に失敗してしまう。その矢先、左漢強が運営する芸能事務所所属のアイドル・唐穎が殺害されるシーンを撮影した動画が警察に届く。警察は、唐穎を殺したのは、左漢強のやり方に反発して洪義聯から独立した任徳楽の手のものではないかと踏むが......。


作中で"アンタッチャブル"という言葉が使われて且つマフィアの話なので、どうしても映画の「アンタッチャブル」を思い浮かべてしまいますが、刑事が巨悪に挑む格好良さは通じるものがありますね。なかなかエモい話です。
一方でもちろんミステリとしても一級品です。前話では寝たきりだったクワンがちゃんと歩いて喋ること自体に感慨があると同時に、現役(一応退職後ですが)時代のクワンの凄さを思い知らされました。そこまでやるか!という。連城三紀彦のようなやりすぎ感と、島田荘司のような力技で何度もねじ伏せられる、そんな感じのこれまた傑作です。



第3話「クワンのいちばん長い日」

1997年。クワンが警察を定年退職する前の最後の出勤日。部下たちが彼の退職を祝おうとした矢先、半年間鳴りを潜めていた連続硫酸爆弾事件がみたび起こる。さらに同じ日に入院中の囚人・石本添が病院から脱走。2つの事件が、クワンのいちばん長い日の始まりを告げる......。


正直なところ、(ネタバレ→)逃亡事件、硫酸事件、火災事故と3つの出来事が起これば、それらが繋がるだろうことは分かってしまいますが、それでもなお伏線と大胆不敵な謀略には驚かされました。意外な事実が明かされるシーンで読者が「え、なんでそうなるの?」と思わされますが、その時には既に読者にも伏線がきちんと提示されていたことに後から気付いて驚きました。この辺になって来ると事件の構図自体はなんとなくパターンで方向性が分かってきてしまいますが、それでも小手先の驚かせだけに頼らず伏線の上手さもあるのでちゃんと面白いあたり凄いなぁ。



第4話「テミスの天秤」
1989年。警察は指名手配犯の石本勝を挙げるため、石が身を潜めているビルをマークしていた。しかし、万全の張り込み体制にも関わらず石の一味はビルから逃走を図り、阻止しようとした刑事と銃撃戦を繰り広げ、大勢の市民を巻き込んだ大惨事に発展してしまう。石たちが逃げようとした裏には何者かの密告があったようで......。


前半はサスペンスアクションといった趣で、張り込み、突入、銃撃戦というスピーディーな展開が楽しめます。そこから作戦が最悪の結末を迎えてからはミステリパートに入りますが、こちらもまた凄い。要は(ネタバレ→)死体を隠すなら死体の中というシンプルな話ですが、それだけに上手く決まった時のインパクトは絶大で恐ろしいです。とはいえそれだけではあまりに捻りがないなと思っていると更なる大胆不敵な細部の仕掛けに唸らされます。そしてそんなあまりに狡猾な犯人を更に上回るクワンは頼もしいと同時に一抹の危うさも感じます。行動原理が正義だからいいものの、一度悪に染まって仕舞えばたやすく完全犯罪も成し遂げられますからね。

犯人との対決の最後にクワンのその後を暗示するくすぐりがあるのも読者を楽しませることを分かってますよね。



第5話「借りた場所に」

1977年。ステラ・ヒルは眼が覚めると息子のアルフレッドが家にいないことに気がつく。そこに、「息子を誘拐した。返して欲しければ身代金を用意しろ」という電話がかかってくる。夫のグラハム・ヒルはイギリス人だが、香港警察の汚職を暴く廉政公署の調査員として、一家で香港に移住してきたのだ。今回の誘拐も彼の仕事に関わる怨恨によるものなのか?
グラハムは身代金受け渡しのため、犯人の指示に従って奔走するが......。


誘拐ものです。本作は今までこれだけレベルの高い短編揃いだったから、どうしても誘拐ということで連城三紀彦レベルのものを期待してしまいますが、この短編に限ってはちょっとイマイチだったかなぁと思います。
誘拐事件が集結した段階であまりの伏線の露骨さに大体のことは分かってしまいますからね。それでも事件自体とは別に(ネタバレ→)クワン闇堕ちか!?と思わせる窃盗シーンとその意味で驚かせてくれるので面白かったんですけどね。また、犯人の無茶ぶりに被害者が振り回される前半は誘拐という緊迫感も相俟ってスピード感があって良かったです。



第6話「借りた時間に」

1967年。世間では反英暴動が頻発し、香港警察は暴力と収賄で腐りきっていた。
雑貨屋の店番として働く貧乏人の私は、隣の部屋の住人が爆破テロを企てているような話し声を壁越しに聞いてしまう。正義感に駆られながら、腐った警察に訴えたら自分まで疑われると考えた私は、唯一善良な街の警官・アチャに相談するが......。


最終話となるこの話はサスペンス色の濃い話で、二十歳ごろのクワンがこれまで読んできたあの名刑事になったきっかけとなる話です。なので事件の意外性などは弱いですが、それでもテログループの計画をきちんと論理的な推理によって暴いていく、というのが全編にわたって続くので、衝撃こそ薄いもののしっかり本格ミステリになってます。また、雑然とした当時の香港の空気が飲茶店やマーケットの描写から感じられたり、テーマ自体が反英暴動を真っ向から扱っていたりと、これまでの話より香港の現代史小説としての側面が強いのも魅力的です。





まとめ

と、いうわけで、評判に違わぬ傑作でした。
ミステリとしては後半でやや減速した感はあるものの、1人の作家がなかなか生み出せるものではないレベルの傑作がゴロゴロと入った稀有な短編集であることには間違いないと思います。クワンという名探偵の人間離れした活躍を描く名探偵小説であると同時に、犯人の凄すぎる策略を描いた名犯人小説でもあり、名探偵VS名犯人の対決が毎度圧倒的な凄みと余韻を読者に叩きつけてくれます。
ちなみに個人的なお気に入り順としては
「黒白」>「テミス」>「任侠」>>「長い日」>「時間」>>「場所」
といった感じです。

また、1人の刑事と1つの都市の歴史を描いた小説としても素晴らしかったです。
人は真っ直ぐに並んだ点を見ると、その間を補足して線を想像します。この作品も、だいたい10年ずつの時間の隔たりを挟んで、クワンが20歳ごろから60代までの間に関わった事件を点として描くことで、その間にあった出来事に読者が想いを馳せて線を引いてしまうような仕掛けが随所に施されているわけです。だから、個々の話は時間的に限定された短編でしかないのに、一冊に集めることで1人の男の人生を描いた壮大な大河ドラマになるんです。
その点では特に最終話が印象的で、読了した時に意識が第1話まで飛ばされ、そこから新たな感慨を持ってこれまでの物語を思い返してしまいました。

というわけで、言われ尽くしてるとは思いますが、本格ミステリと社会派警察小説の両方を非常に高いレベルで融合させたド傑作で、個人的にも今年読んだ本で2番目に面白かったです。1番は浦賀和宏の安藤直樹シリーズ初期三作。うへへ。
あと、警察小説ということでかなり重苦しいものを思い浮かべていましたが、ユーモアもありキャラも立っていて、絶妙な軽妙さと重厚さのバランスだと思います。
海外ものといっても人名も漢字が多く日本人には読みやすいと思うので、評判を見て気になってる方は必ず読んでください。

私はこの後同じ作者の『世界を売った男』を読みます。
I'm face to face
With the man who sold the world!!