偽物の映画館

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石持浅海『相互確証破壊』読書感想文





ひゃうっ!





フォロワーの藍川ちゃんに、「この本気になるけどヤバそうだから毒味して」と頼まれて読んでみた、石持浅海によるエロミス短編集です。

相互確証破壊

相互確証破壊


「官能ミステリを描いてくれ」という編集者からの要望に石持先生がお答えした、全6話入りの1冊。
各話で描かれることの大半はベッドシーン。状況説明や回想シーンも結構な割合でセックスの最中の会話やモノローグとして語られるため、実質ほぼヤってます。

帯の惹句には

前戯からはじまる伏線、
絶頂でひらめく名推理。

とありますが、まさしく言い得て妙。
ネタバレになるので詳しくは書けませんが、やってる最中のちょっとした出来事や、体位がどうだったといったエロ描写がそのままミステリとしての謎解きのヒントになっていたりして、「それをそう使うか!」というセックス・オブ・ワンダーが愉しめます。
こうしたエロとミステリが不可分に融合しているあたりは生真面目に王道のエロミスをやっている感じですね。


エロ小説としてみると、自分が男なのもあって全話が女性視点のお話なのが良かったです。
やはりセックスによる快感の度合いは女性の方が圧倒的に高いはずなので、自分では感じられないことまでが描かれていて興奮しましたね。はい。
ただ、けっこうノーマルなセックスしか描かれず、ワンパターンなところは物足りない。
なんせ、どの話でも必ず主人公が「ひゃうっ!」って言いますからね。そりゃ「ひゃうっ!」って言う女がいてもいいけど、全員が全員言うのはちょっとなぁ......。
体位についても、必ず女性の片足を上げさせて横から入れるやつが出てきて、石持さんはよっぽどそれ好きなんかいと変なことを考えちゃって集中が削がれたり。
もう少し、シチュエーションに変化があると良かったかなぁ、と。

ミステリとしても、真相の意外性、説得力ともにやや物足りず。
なんせほとんど濡れ場、男と女の会話劇みたいなものなので、2人の間で、または主人公自身の間で結論が出てしまえばそれで十分な話ではあるので......。読者をもなるほどと言わせるほどの説得力には欠けるというか、謎から解決までが飛躍しすぎている感じはあるんですよね。
これは第一話と第三話に顕著ですが、「いやいや、そんなことある!?」って思っちゃう。とはいえ、飛躍してるわりに既視感はあったりして驚くほどではなく......。

ただ、前半の話がイマイチなのに反して後半はぐっと面白くなり、特に最後の二話分はミステリとしても物語としても満足できました。
まぁ、最初はじわじわでだんだん上がっていくという収録順もセックスのメタファーなのかもしれませんね(適当)。


そんな感じで、わりとノーマルなのでエッチな人には物足りなさがあるかもしれませんが、さらっと読めてそれなりに愉しめる良作だと思います。

少しだけ各話の感想。↓





「待っている間に」

会社の寮で不倫セックスに耽るというのはエロいですね。
そんな中で起こる事件がクローズドサークルの様相を呈するのは面白く、被害者のミッシングリンクもなるほどと思いましたが、しかしちょっとなんか説教臭さを感じてしまう結末でノリきれなかったですね。



相互確証破壊

タイトルは敵対する国同士がお互いに核兵器を持つことで牽制し合って平和を保つ、みたいなこと。
この小難しい用語を不倫カップルに応用する着想は面白い。
しかし、さすがにそんなことするかなぁ......と思ってしまい、着想のために話を盛ってる感じが否めませんでした。とはいえあっさりした読後感が怖いってのは面白いですね。



「三百メートル先から」

引きこもりの兄が狙撃されるというインパクトのある謎の提示が面白く、それ以上にインパクトのあるクライマックスのシーンは素晴らしい!
引きこもりが狙撃されるなんてどうして?というとっかかりから組み立てられるロジックも良いし、セックスの中に潜む伏線も見事。
お話として非常に面白いんですが、ただ、これもセックスの生々しさと真相の突拍子もなさのギャップに戸惑いを感じてしまうところはありました。



「見下ろす部屋」

窓から線路を見下ろせる部屋で逢瀬を重ねる不倫カップルのお話。
てっきり鉄道ミステリみたいになるのかと思いきや、思わぬ方向へ。
提示される謎と結末にそんなに関連がないのが物足りなくはありつつも、何かの本で読んだ(ネタバレ→)戦場に向かう兵士は種を残したいという本能から無意識に勃起するというような逸話(?)を思い出しました。うろ覚えだけど。
ラストの切り替えがまた本当は怖い愛とロマンスですね。



カントリー・ロード

本書でもこれがダントツに好き。
ヒッチハイクする女を乗せる男。もちろん、ラブホテルに泊まってやりまくる。これはもう男のロマン以外の何物でもないですね。
しかも、一回やってからは堰を切ったようにあんなところでも......///という。
しかしロードムービー仕立ての、しかも主人公は見るからにワケありなこともあって逃避行型のロードムービー風味になってるおかげで雰囲気はムンムン。
オチも論理の面白さから意外性、そしてそれが物語としての深みを増しているところまで完璧。またエロ描写の中の伏線の決まり具合も見事なもので、非常に印象的な一編です。



「男の子みたいに」

最後にこの話を持ってくるのが素敵ですね。
彼氏のために毎回男装で抱かれる主人公。しかし、彼はなぜそんなことを望むのか......。というぼんやりとした謎から、彼氏の性的嗜好を探っていく展開が楽しい。そして女友達がめちゃくちゃ良い。これはエロいっすわ。
なんて思ってたら、最後は衝撃の(ネタバレ→)スーパー・ハッピーエンドでびっくり。
うん、この話を、「カントリーロード」に続けて最後に持ってくるという収録順がめちゃくちゃ良い。
そんな、短編集の中での配置も込みで印象的な最終話。これだけで、本書を読んで良かったと思っちゃうからずるいっすわ。終わり良ければエクスタシィ。