偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

水女(1979)


ベトナム戦争で脚を負傷して帰還したチンソクは、言語障害のある女を妻に迎え、彼女の作る竹細工を売り出して事業を興し成功する。しかし2人の間に産まれた息子には母親と同じ吃音があった。やがてチンソクは村の水商売の女と不倫の関係になり......。


妻への愛情は持っている男が肉欲に負けてエロい女と不倫をする展開は『下女』、脚が不自由な男と言語障害の女(本作の場合は吃音はあるけど全く喋れないわけではないですが)の結婚は『高麗葬』と共通していたりもしてて、基本的にはキム・ギヨン監督らしさを感じる作品。

結婚生活初期の、なんだか無駄に悲観的になって夫が妻を罵ったりしながらも米を無理やり食わせあって笑い合うような、カタワ者同士が夫婦になっていく描写がなんかエモくて好きでした。あの謎のテンションが良いですね。
子供が出来てからも、うまく喋れない子供に対して妻が「2人で作ったんだから2人で殴り殺しましょう!」とか言い出すなんやねんそれって思わされる謎のハイテンションが続いて見ていてなんか楽しいんですよね。シリアスなんだけどすげえギャグっていうか。
そして主人公のチンソクが不倫するシーンも竹林の中でしなる竹に身を凭せながらセックスするところの奇怪ない演出がカッコよくも笑えました。
話の展開もけっこうめちゃくちゃで、シンプルな四角関係なんだけど殺すとか殺さないとか殺したかと思ったら嘘でしたとかやたらと物騒で深刻ぶってる感じが常にじわじわ面白い。
その最たるものがあの結末で、あまりの強引さに呆然とするほかなかったのですが、解説のリーフレットによると当時の韓国の政治的な事情から国策映画的な要素を入れなければならなかったらしく、それを最後のあそこだけにあまりにも無理やりにぶち込んだ結果がアレだそうで......。そうと知ってみると、やりたい放題やっといて最後だけ無理筋な政治的配慮をすることで政治的な力への嘲笑を示しているようにも感じられてまた笑っちゃいます。

全体にやや地味ではあるものの、キム・ギヨンのいつもの変な演出はしっかり楽しめて、事情を知れば求められるものと自身の作家性を異形のバランスで両立させた(してんのか?)怪作なんだと分かってなかなか憎めない作品でした。