偽物の映画館

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連城三紀彦『明日という過去に』読書感想文

全編が二人の女性の手紙のやり取りという体で進行していく書簡体の長編小説。
連城作品の中では無名な方だと思うのですが、なぜか今も絶版を免れてAmazonとかでは新品で入手可能という不思議な作品です。

20年来の友人の綾子と弓子は、しかしお互いに大きな嘘を隠していた。弓子から綾子への手紙をきっかけに、女たちの戦いが始まる......。


書簡体。
地の文で嘘を書いてはいけないミステリの世界において、書簡体というのは嘘書き放題=どんでん返しし放題という最強の武器であり、下手にやると後出しジャンケンばかりの興ざめなものになってしまう扱いづらい道具でもあると思います。
ただ、少なくとも中期以降の小技を連発する作風の連城作品にとっては白米と明太子くらい相性ぴったりなんですよね。
なんせ、連城三紀彦といえば心理描写を極めすぎて異次元の心理が現れる作風(私が勝手にいってるだけ)なので。
第一の手紙から途切れることなく毎度嘘や新事実を積み重ねる小どんでん返し連発の構成は、最初の方こそ予想の範囲内にとどまるものの、「この調子が続くのかな......」と思ったところで新展開を迎えたりするので面白いです。

それ以降のことはもうネタバレが怖いので特に書けませんが、終盤のわりかし大きなどんでん返しと、さらにもう一発余韻を残す終わり方によって登場人物たち、特にとある人の姿が印象に残ります。
短いながらもしっちゃかめっちゃかした挙句最後は綺麗にまとまった、連城長編の王道な傑作。オススメです。