偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

スピッツ『フェイクファー』今更感想

スピッツ全作感想シリーズ(目標)第2弾でございます。
今回はファン人気の高いこのアルバム!

フェイクファー

フェイクファー

スピッツファン男子は必ずこのジャケ写のお姉さんに恋をするという......。邦ロック史上最高のアルバムジャケットです。はい。
そして、歌詞カードのデザインもかわいい。柔らかい雰囲気の写真の一部が溶けるように白抜きされていて、そこに草野マサムネの手書きの歌詞が書かれているという凝ったデザイン。最後のページのアルバムディスコグラフィーなんかも面白い。目にも楽しく、CDという形で手元に置いておきたい一枚です。

私がこのアルバムを初めて聴いたのはたぶん中学生の時。というかそもそもほとんどのアルバムを中学生の時に聴きましたね。スピッツどハマり期。
ただ、当時はこのアルバムそこまで好きじゃなかったんです。というのも、やっぱり中学生男子なんでこう、ハヤブサみたいなああいうノリノリな感じが良いわけですよ。フェイクファーみたいな冬っぽくてメランコリィな感じはそんなにピンと来なかった。
でも、大人になって自分はもう死んだ方がいいのではないかと思い始めた時にsyrup16gART-SCHOOLといっしょに『フェイクファー』を改めて聴いて、このちょっと暗いトーンがありつつも、だからこそしんどい時に寄り添ってくれるような優しさが初めて沁みてきました。スピッツはずっと好きですけどまさかの10年越しに私の中で再評価されたわけですな。

スピッツ史的なところから見ると、このアルバムは『インディゴ地平線』あたりまでで大ヒットしてしまったスピッツが、それまでのプロデューサーから離れてこれからどうするかという苦悩の中で作った作品、と、ざっくり言えばそんな感じ。
その当時の苦悩を思い出すからあまり好きじゃないとメンバーは語りますが、そういう悩みの中で作った雰囲気が本作に流れるちょっとメランコリックで切ない雰囲気の源なのかも知れないと思うと、やはりこれはこれで私は好きなのです。


では以下では全曲感想を。



1.エトランゼ

タイトルはフランス語で「見知らぬ人」という意味だそう。スピッツのタイトルのセンスって超絶ですよね。この音の響きのオシャかっこよさ。
アルバムのイントロの役割を果たす、1分ちょいの短い歌。静かなオルガンみたいな音の中で歌だけがある、聴いた感触としてはアカペラに近い印象の幻想的な曲です。
歌詞も

目を閉じてすぐ 浮かび上がる人
ウミガメの頃 すれ違っただけの
慣れない街を 泳ぐもう一度 闇も白い夜

というこれだけ。
しかし、これだけでも輪廻、運命というワードを連想させるショートムービーのような物語が幻出します。"ウミガメの頃"っていう言い方がスピッツ節ですよね!
まぁ言ってしまえば「君の前前前世から僕は君を探し始めたよ!」ってことですね!(雑)
しかしウミガメの頃すれ違っただけの見知らぬ人を探して泳ぐというイマージュはアルバム全体にもふわ〜っと溶け出して流れているような気がします。あ、タイトルに合せてフランス語でイマージュだなんて、うっかり教養を披露しちゃいましたね(。・ ω<)ゞてへぺろ


2.センチメンタル

からの、ロックなギターサウンドで始まる、タイトルとは裏腹になかなかハードな曲。
AサビAサビ間奏Aというシンプルな構成ですが、ギターの音とタラ〜〜っとしたボーカルがクセになって聴き入ってしまいます。サビ終わりの「は〜あ〜は〜はぁ〜〜」みたいなとこがエロい!
そして中学の頃はボーカルばっか聴いてましたが、改めて聞くと間奏が長くてカッコいいっす。
終わり方も潔くて「あれ、もう終わり?」という感じが良い。

歌詞は

おとぎの国も 桃色に染まる頃

とあるように、おとぎの国を信じていた子供から、エロいことに目覚める思春期に突入してしまった少年の歌、だと思います。

震えていたよ まだセンチメンタル・デイ
裸の夢が 目覚めを邪魔する 今日もまた

というサビのフレーズは、クラスメイトへのセンチメンタルな初恋と、テレビや道端に捨てられたエロ本から自分の中に入ってきた裸の夢との間で板挟みになるあの感覚、性欲と純愛の間の葛藤を思わせます。
大学時代映画部に入っていて、まぁ撮影といってもそんな真面目にやれなかったしほんのお遊びの素人のインスタのストーリー程度のものしか撮ってませんが、四年生の時にヤケクソで撮った作品(というのもおこがましいが)がエロい妄想と純愛の狭間というテーマでやらせていただいたので、余計に今聴くと響きますね。いやもちろんこの曲が月だとしたら私のはミミズのうんこですけど。


3.冷たい頬

お得意の切ないアルペジオ(最近覚えた音楽用語シリーズ)で始まるシングル曲。
始まりはシンプルな演奏がサビに向かってだんだん盛り上がって、でもどかーんと盛り上がらないままふわ〜〜っとサビが終わっていく気だるさが最高です。
間奏はギターソロだとばかり思っていましたが、誰かが言ってるのを見て改めて聴いたら、これベースっぽいですね。ギターとベースの音の違いも分からないなんて恥ずかしいけど正直素人にこのくらいの微妙なやつは分からんわ。
歌詞についてはなんだかよく分からないけど明るい歌ではないことは確か......という感じ。架空の日々、とか、手帳の隅で眠り続けるストーリーというところからストーカーの妄想みたいな印象があります。なんにせよ、平易なようでいて全ては到底理解しきれないのでこの切ない幻の恋のイメージに酔うのが一番。
個人的に好きなのは、「時のシャワー」という言い回しと、「小さな午後」というのどかな言葉が曲全体に流れるどこか不穏で切ない雰囲気を逆に強調してるところですかね。


4.運命の人(Album Version)

これもシングル曲ですが、アルバムバージョンは半音下げ......という音楽的なことはもちろん調べて分かったことで、聴いた印象は「なんかシングルより暗いな」という感じでした。
まずはキラキラしたポップなイントロが印象的で、入りの歌詞の

バスの揺れ方で人生の意味が分かった日曜日

スピッツの歌詞の好きなフレーズ総選挙したら絶対ベスト5までには入る人気フレーズです。
ちなみに他のランクインフレーズは「誰も触れない二人だけの国」「君を不幸にできるのは宇宙でただ一人だけ」「猫になりたい 言葉ははかない」「君のおっぱいは世界一」です(完全私見)。
それはさておき、こうしたなんとなく言いたくなる、ツイートしたくなる言葉の響きの魅力にはもはや太宰治を彷彿とさせます。
続く

愛はコンビニでも買えるけれど もう少し探そうよ

もあまりに強烈なパンチラインですよね。
ただ、こうした耳と頭に残る歌詞なのはいいものの、ではどう解釈すればいいのかとなると途端に難しいです。
曲全体の印象は陰キャラがめっちゃハッピー!みたいな(笑)。こう、地道にでいいから君と二人で生きていこうみたいな。手放しでパリピっぽくハピネスできないけどしみじみ幸せを噛み締めて、たまに「輝く明日!!」とかエクスクラメーションしちゃうような浮かれトンチキ感もある、明るい歌としか考えられません。
......られないのですが、いくつか引っかかる点もあり......。

まず、いちばん謎いのはPVですよ。

https://youtu.be/AMWDAuPx26Q

え、なにこれ。
死んだメンバーたちがストレッチャーで手術室(解剖室?)に運ばれてきて、医師の見てない時だけ動いて歌ったり演奏しだすっていう、なんか表情みんな楽しそうだけど完全ホラー。
で、生前の回想シーンみたいなのが入るんだけどそこは「ハチミツ」のPVみたいな、少年みたいにはしゃぐおっさんたちのこれまたおぞましい映像(失礼)。
「地道に生きていこう」というイメージの曲のつもりが、PVでは死のイメージを刷り込んでくる......。深読みしたいけど私の頭では難しいので誰か教えて......。
他にも「神様」という言葉の意味深さや、冒頭の人気フレーズの意味など、どういうことかは分からないけど何か裏がありそうな感じの曲ですよね......。


5.仲良し

素朴なアコギの音から始まる短めの曲。バンドの曲ではありますが、雰囲気は弾き語りっぽいです。
短い中にも、たら〜っとしたメロ部分から高揚するサビ前半、さらにエモの高みへ登るサビ後半と、感情が三段変速して強いドラマ性を産んでいます。
もちろん、そのドラマ性の強さの最大の要因は歌詞にありまして、冒頭の

いつも仲良しでいいよねって言われて
でもどこかブルーになってた あれは恋だった

これだけで、もう、一つの詩、一つの物語として完成されている、この凄さ!!!?
思わず「?」まで入れちゃうほど意味わかんない言葉のセンスしてますよねこの人。
この2行で私が思い浮かべるのは幼稚園から小学校低学年くらいの男の子と女の子で、周りの子や親たちから「いつも仲良しでいいよね」なんて言われて、でもその言葉に子供心ながらに「ちゃうねん!ワシは異性として見られたいねん!」の萌芽のような気持ちになる、そんな甘酸っぱい初恋のお話。
私の場合も、だいたい仲良しの女の子に惚れますからねぇ......。そしてだいたい友達としか思われてないパターンのやつでしたからねぇ......。大学の時に振られてからしょっちゅうこの曲聴きながら夜の公園で「死ね〜」って叫んで酒飲んでましたよ。はい。
ちなみに、以前ネットでショタのBL説という解釈を見て仰け反りました。しかし、私は全くそうは思わないけど、この歌詞を私というフィルターを通さずに読めばそういう解釈の余地も全然ありますよね。そんな懐の広さが草野文学の真骨頂です。
さて、私のフィルターをもう一度かけ直しましょう。

冒頭はそんな幼い恋の印象ですが、Aメロの続く何度も口の中〜というところはイメージは中学生くらい。そして、サビでは

時はこぼれていくよ ちゃちな夢の世界も
すぐに広がっていくよ 君は色褪せぬまま
悪ふざけで飛べたのさ 気のせいだと悟らずにいられたなら

と、ここまで過去形だったのが現在形に変わり、初恋に囚われた男の哀れな末路が浮かび上がってくる、このエグさよ!「気のせいだと悟らずにいられたなら」というのがとても残酷な、取り返しのつかない苦しみですよね......。
私なんかも未だにこの曲を聴くと浴衣にサンダル履きのあの子の後ろ姿をぼんやりと眺めていたことを思い出します。この歌の主人公とは違って今ではもう何とも思ってないけど、これ聴いた時だけはちょっとセンチメント。


6.楓

出ましたよ。たぶん御三家(空飛べ、ロビンソン、チェリーのこと)以外の曲では最も知名度が高い部類に入るのではないでしょうか。
ピアノの音からのイントロが「ここがアルバムの一つのクライマックスやで!」と教えてくれるかのようで、すでに名曲のオーラがぱねぇっす。

そしてメロディがエグい。
以前何かのテレビで平井堅草野マサムネの歌に対して、「ビブラートやこぶしといった技巧を一切使わず、上手そうに見せずにさらっと難しいメロディを歌いこなす上手さ」というように評していましたが(うろ覚えなので違ったらすみません)、その時例に出されていたのが(確か)この曲でした。まさにその通りで、さらっと歌ってるから俺も歌えるわと思って歌ってみた私は5分後には落ち武者みたいに無残な姿になって発見されたという......。
てか、なんなら口笛ですら音程取れない。いや、むしろ頭の中ですら歌えない。だからこそ、心の中で一緒に歌いもできずにただ聴いて、ただただ圧倒される、そんな美しいメロディです。

歌詞の内容については色々と「意味がわかると怖い話」的な通説が出回っていますが、それはそれとして、私はやっぱり恋人との死別の歌に聴こえます。

かわるがわる覗いた穴から 何を見てたかなぁ?

この"穴"というのはたぶん望遠鏡の穴のような、でも物理的な望遠鏡ではなく、二人の将来を、"一人きりじゃ叶えられない夢"の行き先を、つまりは未来を見る望遠鏡、というイメージ。でもそう言っちゃえばダセェところをこういう言い方するあたりがほんとにセンスですよね。私、スピッツのタイトルや歌詞の"言葉"でダサいもの一つも見つけられないですもん。まぁ、強いて言えば「ナサケモノ」かなぁ、ちょいダサ。
突然のナサケモノへのディスは置いといて、

さよなら
君の声を抱いて歩いていく

というのは、普通に受け取れば死んだ彼女のことを歌っているようにしか聴こえないですもんね。

風が吹いて飛ばされそうな軽いタマシイで
人と同じような幸せを信じていたのに

ってとこがめちゃくちゃ好きです。
タマシイがカタカナ表記であることにすら色んな含意がありそうですが、私はここでいうタマシイというのは自分という人間の精神性というイメージ。みんなと同じような本物の"人間"になりきれないような、レプリカの軽さ、その軽さを持った精神を、皮肉めかしたカタカナで、しかしそれが自分そのもの、まさに魂であるという意味での「軽いタマシイ」。というのは結局私はニセモノなんだという、人になりきれなかったデキソコナイの哀しみを私が抱えているから、なんて言ったらカッコつけすぎですが、要は人の気持ちが分からなくてジコチューなんですよね。そういう自己愛の強さの中で他人とちゃんと関われる他の人を羨む気持ちが私の中にあるから、こういう解釈になるんです。
などと長々とどーでもいい自分語りをしましたが、歌詞全体の意味がはっきり分からなくてもフレーズ単位で自分を投影できるのもスピッツの歌詞の魅力!と無理やりまとめてみましょう。

また、Cメロの「瞬きするほど〜聴こえる?」というところも素敵。
瞬きするほど⇔長い季節、という、一瞬なのか長いのかという矛盾が、一気にリスナーを内面の世界に連れていくかのよう。その中でこだまする声......聴こえる?

っう"あ"あ"!キツすぎて吐くわ!


7.スーパーノヴァ

そんなヘビィな「楓」から心機一転するようなハードロック調の曲。延々繰り返されるイントロのギターのフレーズがクセになります。
歌詞は抽象的でさっぱり分からないですが、稲妻、地獄、鋼鉄、革命といったハードロック歌詞辞典に載ってそうな単語(なんだそりゃ)が並び、語感がおもろい!
一方で、「膨らみもくぼみも」「オレンジ色の絵の具で汚し合う朝まで」「ひとつ残らず燃やそうよ」といった性的なイメージのあるフレーズもあって、すごい雑な言い方をすればハードコア・セックスのイメージ(!?)。
スーパーノヴァ」というのはまぁなんか星が爆発することらしくて、それもエロっぽい気もしませんか?私は男だから分からないけど、女性の絶頂というのは、それはもうまるで恒星爆発のようなエネルギーを伴う云々......(フェードアウト)


8.ただ春を待つ

なんか、みょ〜んって感じの曲。
......酷い!音楽的なことわかんないから説明の雑さが酷い!なんかギターの音だと思うけど、にょわ〜んってさせてますね。だめだ、諦めよう。
ま、とにかく不思議な音で、気だるい心地よさが素敵です。
仮タイトルは「環八ラバーズ」。最初は渋滞待ちするカップルの歌を作るつもりで書きはじめたらしいですが、実際はもっと色んなイメージを包含した曲になってます。
「春」というのが、季節としての春とも、恋愛的な人生の春とも、入試のサクラサクみたいなイメージにも取れて、人それぞれの「春」を想って聴けるんですね。

ただ春を待つのは哀しくも楽しく

というサビ。何にしろ待ってる間、実際に手に入れるまでは、まだ持っていないからこその気楽な楽しさや、待つこと自体の楽しさというのもやっぱりあるんですよね。
そういう、歌詞の上でもやはり気だるくも心地よい感じが曲調にピッタリ合った、良い味出してる名脇役みたいな曲です。


9.謝々!

イントロからしてトランペット、トロンボーン、ジャズっぽいピアノ、女性のコーラスが入ってるめちゃくちゃポップな曲。軽快なドラムの音も良いですね。
歌詞にくす玉🎊が出てくることも含めてなんかこう祝祭感に溢れていて、このアルバムで唯一手放しに明るい気持ちになれる曲です。

終わることなど無いのだと 強く思い込んでれば
誰かのせいにしなくても どうにかやっていけます

「思い込む」とか「どうにか」というちょっと自信なさげな感じもありつつ、前に進んでいく強さが感じられます。
例によってシチュエーションはよくわかりません。最初はにぎやかさから結婚のイメージがあったものの、「今度は一人ぼっちでも」のところとそぐわないような気も。
通説ではプロデューサーの笹路さんから巣立ったことについての歌と言われています。なんにしろ、聴いて元気でるし、苦悩の中にいたという当時のスピッツがこういう曲を歌っていることにも救われる気がします。


10.ウィリー

ゴリっとした感触のベースのイントロが印象的なミドルロックチューンです。
「いぇ〜〜」「うぉ〜〜」というゆるい雄叫びが心地よいです。「うぉ〜〜〜〜きな夜と(大きな夜と)」と、雄叫びを歌詞に組み込んでる遊びもスピッツには珍しいような気がします。
Cメロのとこのコーラスとか、その後のい"えぇえあ"〜〜っ!みたいなシャウトが後ろで控えめに鳴ってるのもおもろカッコいいです。
あと、アウトロの最後のとこのベースとギターのでんでーんじゃらーんってとこもイイ。

歌詞は夢を追う若者の葛藤と決意、というイメージ。
いきなり「サルが行くサルの中を」と皮肉っぽいとも滑稽ともつかぬヘンテコなフレーズがマサムネ流ですが、

だんだんやめたい気持ち湧き上がっても手に入れるまで
もう二度とここには戻らない

というところなんかはストレート。
と思いきや、

甘く苦く それは堕落じゃなく

というところは何のことやら。ただ、甘く苦く堕落じゃなくと単調に韻を踏んでいるのが気だるいというか、眠たげな感じを出していて、眠れないからいっそ朝まで踊り明かした後の眠りについて「それは堕落じゃなく」と言ってるのかなぁという印象。
個人的には「電話もクルマも〜堕落じゃなく」までにちょっとエロいイメージもありますね。電話とかクルマとか、何とは言わないけど隠語っぽいし、夜と踊り明かすのも別の隠語っぽい......
......いけないですね、スピッツ聴いてるとなんでもエロく思えてしまう......。しかし、堕落じゃなくと言い訳がましく言っているのにはエロ解釈も合うのでは。


11.スカーレット(Album Mix)

澄み渡るような音色のイントロからただならぬ名曲感ですが、一言目の「離さなーい」で早くもそれが確信に変わる名曲中の名曲of the名曲。
音的には、後ろで鳴ってるキーボードやコーラスが柔らかい印象とともに、名曲としての真摯さ(なんだそれはと思うかもしれませんが、ニュアンスです)を醸し出しています。

離さない このまま 時が流れても
ひとつだけ小さな赤い灯を守り続けていくよ

この、「赤い灯」というのがタイトルの「スカーレット」でしょう。
赤い灯とは何か。何かあったかくて、小さくても大事なもの。ここに何を当てはめるかは聴く人次第ですが、私はこれは恋の初心だと思います。時が流れても、君を大事に思う気持ちは守り続けるよ、と。
そう、私はこれはプロポーズの歌、というか、彼女とのウン周年記念日のデートの前の日に明日プロポーズしようと決意する男の歌、だと思っています。
記念日云々というのは、「時が流れても」「無邪気なままの」と、変わらないことを誓う様が記念日などの節目をきっかけに改めて君の大切さを噛み締めている、というイメージから。
「乱れ飛ぶ声」「ほこりまみれの街」と、世間の冷たさを描き、それと対比した「赤い灯」の暖かさと大切さが染みてきます。

プロポーズの前日、というのは

ありのまま全てぶつけても 君は微笑むかなぁ...

というところの不安な気持ちから。
このフレーズの後物思いにふけるような(?)感想があって、再び最初の「離さない」のフレーズに戻ってくる構成もめちゃくちゃ素敵です。
今ドキなんかはもう「恋人いりません」「結婚しません」なんてのが主流になってますが、私はそういうのは「じゃあ何のために生きてるの?」と思ってしまうタイプです。要は、結婚したい!でも、特に大きな問題はないうちの過程でさえオカンは「あんなんと結婚したのが最大の汚点だわ」とか言い出すし、「結婚は人生の墓場」っていう有名な自由律俳句もあるくらいですから不安もあり......。
でも、この曲を聴いてるとやっぱり結婚に憧れる気持ちが強くなっちゃいますよね。
とか熱く語ってるけど今のところはそんな予定はないので私のファンの女性陣はご安心ください。ふはは!

あと、アルバムの流れから見て、実質一曲目の「センチメンタル」が思春期の始まり、これは結婚と、大きく青年期のはじめから終わりまでをアルバム全体で描いているようにも聞こえます。まぁそれぞれの曲の解釈自体私の独断なので、スピッツが意図的にそうしてるとは言いませんが。個人の感想として。


12.フェイクファー

そしてアルバムの掉尾を飾るのがこの表題曲。
静かにはじまり、徐々に高まっていき高まっていき、大サビの部分で最高潮になり、最後にはまた静かな冒頭に戻ってくる、一曲の中でも行って戻ってきた感があってそれがアルバムの締めらしい余韻を残します。

歌詞はまたなんとも拗れに拗れた感じですが、どうしても「スカーレット」を聴いた後だから前向きに解釈したい気持ちになります。
タイトルからしてフェイクのファーですからね。偽物の毛皮。その温もりも偽物だよ、と言われているような......。
「たとえ全てがウソであっても」「分かち合うものは何もないけど」「偽りの海に体委ねて」と、僕と君の関係が偽りであるかのような口ぶり。
でも、これらのフレーズの続きを見てみると「ウソであってもそれでいいと」「恋のよろこびにあふれてる」と、肯定的な言葉が続きます。
こっちの方を真と取ると、一気に共感できる歌になっちゃうんです。
そうすると、

君の名前探し求めていた たどり着いて

というところも真摯な響きを持って聞こえます。私はこの部分は1曲目のエトランゼと対応しているように思います。ウミガメの頃すれ違っただけのエトランゼ(見知らぬ人)、その名前に、ここにきてやっとたどり着いた。このアルバム自体がそんな壮大な前前前世からの運命の物語に見えて、思わず

「君の、名前はーー」

と言いたくなります(僕らタイムフライヤー♪)
いやぁ、やっぱりRADWIMPSは最高だな!

いや、冗談はさておき......。
また自分語りで恐縮ですが、私はこう、毛皮のマリーズ銀杏BOYZを聴いて「あいあいあいあいしてましゅだいしゅき〜〜!」だの「君のことが大好きだからあぁぁぁぁ!」とかカラオケで歌って自分で泣くような人間です。いわば、恋に恋するってやつ。そしてそんな自分に酔ってるところがあります。
でも一方で冷静な自分は「俺は恋に恋してるだけであの子に恋してるわけじゃないな」と思ったりもする。
この「フェイクファー」という曲を聴いてると、私はそういう自分の気持ちこそがフェイクファーな気がするんです。
それでも、私は自分なりに本当に君のことが大好きだから僕は歌うよと思ってるし、それが人から見たら全てウソであっても、それでいいと思うこともあります。
なんだか最後なのにまとまらなくなってしまいましたが、要は私の恋心は偽物かもしれないけど、それでも恋のよろこびにあふれてるんだよ、という、応援歌として、私はこの曲を聴いてます。
もちろん完全に自分を投影し過ぎていて客観的な解釈からは程遠いですが、このブログはあくまで「感想」ですので悪しからず。





というわけで、全12曲書いてみました。疲れたわ。
書いたのを見返してみると思い入れの有無で分量にかなり差がありますが、そーゆー好きな曲とそうでもない曲があるのもアルバムの醍醐味。そして今回聴き直して新しい発見があったり昔はそうでもない曲だったのが好きな曲になったりと、やっぱり何度聴いても楽しめちゃったのでスピッツはすごい。そう思います。