偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ゴールデンスランバー(2009)


仙台駅での凱旋パレードの最中に首相が暗殺された。宅配ドライバーの青柳は友人の森田に現場付近に呼び出されるが、森田は「お前が犯人に仕立て上げられる」と言い遺して爆殺される。やがて青柳は指名手配され、わけもわからないまま友人知人や偶然出会った人たちの助けを借りて逃亡生活を続けるが......。


中学生の時にテレビで『アヒルと鴨のコインロッカー』の映画を観たことが伊坂幸太郎との出会いでした。
その後本屋に通い、少ないお小遣いで1冊ずつ伊坂作品を買い揃えては貪るように読み、長らく1番好きな作家であり続けました。
本作が上映されたのは高校受験前の1月末という大事な時期で、なのにこっそり友達と映画館に観に行って後で親に怒られた思い出があります(もちろん志望校にはきっちり合格して黙らせてやりました)。
そんな思い出のある作品なんですが、今改めて観ると香川照之竹内結子が出ていて色んな意味でなんとも言えん気持ちになりました......。

それはさておき、本作ですが、今改めて観ると若干こう、インディー感と大作感の噛み合わなさみたいなのは感じてしまいました。アヒ鴨みたいな雰囲気の中でオールスターキャストがそれぞれ見せ場を持ってたりたまに派手なアクションがあったりするところにちょっと引いちゃうというか。
まぁでもそういうハリウッド大作みたいなストーリーを卑近な感じでやるってのが魅力でもあるけど。
まぁそんでも「お前オズワルドにされるぞ」とか「痴漢は死ね」とかの伊坂作品屈指の名言が名優たちの口から発せられることでより印象的に心に残るのは最高だし、権力の横暴に立ち向かう武器は人と人の信頼......というメッセージもこのキャストでやられるとよりグッと来るし、ビートルズの「ゴールデンスランバー」の斉藤和義カバーも聴けるしでやっぱ良いよねぇ......。
ごめんなさい、中学高校時代に10回以上は観てるくらい思い入れのある作品なので逆に何言えばいいかもう分からん......。
しかし吉岡秀隆の舌足らずな喋り方と、濱田岳の舌足らずな喋り方と、堺雅人のちょうど良い情けなさと、香川照之の気持ち悪さ(こいつは本人もクソキモいおっさんだったので今後は極力観たくないけど......)が大好きだったなぁと、久しぶりに実家に帰って中学校への通学路をなんとなく散歩してみたような気持ちで観れました。さらば青春。さらば香川照之。死ね。

博士の異常な愛情(1964)


アメリカ空軍の将校が発狂し、ソ連に核爆弾を落とす命令を下した。慌てて引き返させようとする大統領たちだったが、戦闘機へ通信するための暗号が分からない。そして、ソ連には核攻撃を受けると自動的に作動する人類滅亡兵器が存在するらしく......。



東西冷戦の最中に製作された作品で、冷戦下の米ソの緊張関係をブラックコメディとして描いています。
先日『オッペンハイマー』を観たので(その感想もいずれ......しかし0.8%くらいしか理解できなかったので......)、その復習?的な感じで冷戦と核兵器を扱った本作を見返してみました。
大学時代に友達の家で徹夜映画会をして観たんだけど眠くてあんま覚えてなかったのもあって......。


一介の兵士が戦闘機の中で「核攻撃」の暗号命令を受けて「え、これマジなん???」ってなるくだりからして面白い。
そっから発狂してそんな命令を出した将校と英国空軍から出向してきた大佐(ピーター・セラーズ)の密室での会話劇と、大統領(ピーター・セラーズ)と閣僚たち、元ドイツ人のストレンジラブ博士(ピーター・セラーズ)があたふたする密室での会議とが交錯するという、いわば3つの密室劇が同時進行する構成。
そのそれぞれが「どういう状況やねん......」という感じで、それが3つ同時に観れるんだからそりゃ面白い。
そして()内に書いたけど本作には3人のピーター・セラーズがいて、ピーター・セラーズと言えば私の中ではピンクパンサーのイメージしかないので、こういうシリアスな雰囲気の中で抑えた可笑しみを醸し出すピーター・セラーズも素晴らしくてピンクパンサーファンとしても嬉しかった。しかし一人三役で全員違ったタイプの面白さなのが凄いよね。
コカコーラ自販機銃撃事件と勝手にナチ式敬礼がギャグとしては1番笑った。「男1人に対して性的魅力を持った女10人を」っていうクソすぎる政策にも笑う(ありそうで怖い)。でも1人のイかれた男の賢者タイムが核戦争に繋がるところが本作1番の笑いどころでもあり恐ろしいところでもあると思う。
そして、笑えるんだけど笑い飛ばす感じじゃなくて馬鹿馬鹿しい戦争への怒りを笑いに託して描いている真摯さが伝わってくるので笑いながらもところどころ真顔で「怖っ」と思える凄え風刺映画だと思います。
現在のキナ臭い世界を生きながら本作を観ると60年前の作品とは思えないほど差し迫った怖さを感じます。もちろん映像のカッコよさも古びない。凄いな......。

ブルジョワジーの密かな愉しみ(1972)

『昼顔』を観たのでせっかくだからとルイス・ブニュエル2本立てでこれも一緒に観ました。


ブルジョワたちのご一行が食事をしに友人宅やレストランを訪れるんだけど何故か毎回いろんなトラブルによって食べられない......という一連のくだりが繰り返され、その合間に出会った人たちから聞く奇妙な話(主にゴーストストーリー)が挿入され、後半はほとんど夢オチばっかになるという、まぁ変な映画。
全体の筋みたいなものはあんまりないんだけど、起こること全てがヘンテコでなんかよく分からないんだけど面白いってのが凄かった。

とにかくずっと飯が食えない!という状況は私だったらブチギレてるけどブルジョワの皆さんはあっけらかんとしたまま場面が変わって翌日になったりしてるのは、なんかトムとジェリーであいつら何回も死んでる(?)のに次の場面では元気に復活してるアレとかを彷彿してじわじわと笑えてしまった。
しかし良いもの食ってるし良いものを食ってるという事実を消費してるのであってお腹空いてるから食べてるわけじゃないみたいな揶揄にも感じられて面白かった。
あと、食事はまだしもセックスしようとするたびに友達がやってきて全然セックス出来ないのはさすがにイラついてて笑う。

そしてかれらは食事にありつく代わりに何故か行くところ行くところで変な奴に出会って変な話を聞かされる。
母の幽霊のお話とか、女の子の幽霊のお話とか、なぜかみんな幽霊絡みの話ばっかなのが「飯食えない」とのギャップで不気味だけどまた笑えるんですよね。しかも幽霊の話聞いてもすごい淡々としてて怖がりも疑いもしないノリもなんかおもろい。

あと、庭師に憧れる司祭が出てくるんだけどこいつが1番変人でなんかやることなすことみんな笑ってしまったし、最後の懺悔を聞くシーンは面白すぎて変な声出た。ブルジョワもおちょくりながらキリスト教もおちょくる全部が皮肉みたいなブラックコメディ、最高でしょ。

そしてところどころで田んぼしかないような田舎道を良い服着たブルジョワたちが歩いていくイメージ映像(本筋と全く関係ないからマジでイメージ映像という感じなんです)が挿入されるのも訳わからなくて好き。どんなに着飾ってたって人生なんて田舎の一本道みたいに退屈で陳腐なものだという暗喩なのか?

という感じでまぁわけわからんのだけどなんか面白くて、奇妙に印象深いシーンばかりの、アートともバカとも言えるような謎の映画でした。好きです。

昼顔(1967)


医師の貞淑な妻セブリーヌ。ある日、夫の友人から高級娼館の話を聞く。彼女は好奇心からそこで「昼顔」という名の娼婦として昼の2時から5時の間まで客を取ることになり......。


知らなかったけど、たぶんこないだ観た『哀れなるものたち』のレファレンス元でした。

とりあえず冒頭の馬車で走ってたら......というシーンからして異様で引き込まれる(この場面も『哀れなる〜』にあったな)。
全体に秋らしい風景やファッションの色合いから出る哀愁が主人公の満たされない寂しさを表しているようで良かったです。

ストーリーは、ハンサムで優しい医師の夫を持ち、金銭的にも恵まれた暮らしを送りながらも夫とのセックスが上手くできなくて満たされないものを感じる主人公が昼だけ娼婦のに二重生活......という感じで、気品とプライドある主人公がきょどきょどしながら娼館に入っていくところとか笑っちゃうし、いざ働き始めると変な客ばっか来るのがくだらなくて面白い。なんか変な客が社長とか教授とかだったりするのも面白い。ドMなおっさんが娼婦がちゃんとドSするように指導しながら怒ったりしてるあまりのバカバカしさよ......。しかし裸に黒いベールはエッ......素敵でした......。
まぁそれは置いといて、夫はすげえ良いやつっぽくはあるけど、女にとってのセックスは子作りのためのものとしか思ってなくて(自分は結婚前に娼館に行ったりしてるので)、そんな彼のことを愛しながらも性的な好奇心に引っ張られて冒険をする......けど結局客の男たちも自分の(妻相手には出来なそうな)フェチい欲望を満たすことばっかり。でもそれはまだ良い方で、更に悪いとあのチンピラのようになってしまう......という上手くいかなさは、男たちの滑稽さこそ笑えるものの絶望的でしんどくもありました。しかしキーパーソンとなるあのチンピラ役の人めっちゃ良い顔してたな。イケメンっぽいけど明らかに普通じゃない感じ、クソ野郎だけどカッコよかったわ......。
昼は性愛、夜は夫への愛で上手く両立させられたら結構良い感じなんじゃないかと思うけど、そんな上手くいかないよね......っていう。

終盤では知り合いが店に来たりストーカー化したチンピラに付き纏われたりと適度にサスペンス味も出てきて結構ハラハラして目が離せなかった。
ラストはなかなかエグいけどそれだけに印象的で、全体を通して白昼夢みたいな掴みどころのなさがありつつ生々しい人生の存在感もあって、不思議なインパクトのある映画でした。






































































ラストは夫は死んでるんですかね?
死んでもう子作りを求めなくなった夫を妄想の中で生き返らせて愛し続けるメリバみたいなオチっていう解釈でいいのかしら?
最初と最後とアジア人の客のシーンで鈴の音が聞こえたけど、あのアジア人も妄想ってことなのか?そこらへんがよく分からんけどまぁミステリじゃないし全部きっちり解釈せんでもいいよねとも思う。よく分からんぼやっとした雰囲気をそのまま楽しみます。

はなみ2024


去年も行った近所の花見スポットにお散歩に行きました。
もう半分葉桜になりかけてるけど、だからか花見に来た人が全くいなくて通学の高校生たちがチャリンコで走り去っていくくらいののどかな感じでちょっと本を読んだりパンを食べたりしてうだうだしてました。
































去年よりも良い写真が撮れた。そう、iPhoneならね。

穂村弘『野良猫を尊敬した日』感想

2017年刊行の穂村弘のエッセイ集。


穂村さんのエッセイを読むのもなんだかんだ久しぶりでしたが、本書は最近出た本だからか全体にちょっと若い頃より丸くなってる感じ(っても昔だってトキントキンに尖ってたわけじゃないけど)がします。
あと、歳をとって中高年あるあるみたいな話もちょいちょい出てきて、数年前からの浅いファンだけどなんか感慨深かった。
とはいえ言ってることはやっぱいつもと変わらず、自分のダメさをぼやきつつも、私たちが日常の中で確かに感じていながら見落としているサムシングを言葉にして思い出させてくれるような心地の良いエッセイ。

好きなエピソードとしては、「男の幻滅ポイント」と「水曜日を休みに」には笑った。
穂村さんのエッセイにはよくスピッツが出てくるけど、今回もスピッツ≒チューリップの話が面白かった。
あと、「めんどくさくて」「不審者に似た人」という2話続きのエピソードで書かれてることがまるっきりそのまんま私だったので共感とかを超えてなんでこんなに同じなんだろうと気持ち悪くなりました。
高校の部活の話は、穂村さんの通っていた高校がうちの母親と一緒(しかも2歳差だから1年間被ってるらしい)でうちの地元名古屋の高校なので、どこか親近感を覚えてよりエモかった。

この人のエッセイを読むと、なんか自分みたいなダメ人間でものほほんと生きててもいいんだなという気になれて癒されます。ありがとうございました。

須藤佑実『ミッドナイトブルー』感想

学生時代の部活の後輩に教えてもらったやつ。

ミッドナイトブルー:色の名称。「真夜中の青」と形容される、ほとんど黒に近い青のこと。

黒でも青でもない曖昧な真夜中の青のように、「恋」と言い切るのは躊躇われるような曖昧な感情を、切なさやノスタルジーを基調にして描いた7編の短編集。

全体に、語り口は軽妙で内容も重苦しくはないんだけど、どこか心に引っかかって余韻が後を引くようなお話が多く、雑な言い方にはなりますが少女漫画っぽさとサブカルっぽさの中間くらいの雰囲気でけっこう好みでした。
また、狐や幽霊など少し不思議なものが出てくるお話も多く、でもそうじゃない話もあって、ファンタジーに寄りすぎてないけどちょっとだけファンタジックな感じもいい塩梅だと思います。
表紙からしてそうですが絵もとても綺麗で、全話通して出てくる女の子がめっちゃ可愛いのでそんだけで読んでて幸せでした(いや、切ないけど)。全体にメガネの男と明るい髪色で垂れ目の女の率が高くて趣味が分かりやすいのもいいっすね。

以下各話一言感想。


「箱の中の想い出」
ある朝目覚めたら部屋に知らない女が......というえっちそうな導入から全然えっちじゃない爽やか切ない少女漫画風の話になってくのが良い。身も蓋もないというか、下手すりゃゲスくなりそうなラストだけど「箱の中」という概念が詩的なせいでなんか良い感じになってるのが上手い。


「夢にも見たい」
儚く切なくもロマンチック。現実には何も起きていないのに、確かに一瞬の交わりがある、いずれ忘れてしまいそうなその一瞬の美しさを浮世絵というモチーフに託して描くクライマックスのシーンが綺麗。むしろこの絵を描きたくてこの話を作ったんじゃないかという気がしちゃうくらい。


「今夜会う人」
日本昔ばなしみたいな雰囲気とBarのギャップが良い。
まさに狐につままれたような終わり方も切なすぎる物語にちょうどいい爽やかさを添えていて素敵。


「花が咲く日」
切ない片想いは好きだけど、ノリの軽さにちょっとついて行けず、あまり好きじゃないかも。


「白い糸」
これはエグい好きすぎる。
白鍋、雪、煙草の煙......白という色をモチーフにあの頃と今との間の空白を描くお話。
主人公の切ない片想いが描かれながら、終盤になって先輩が抱えてきたものも見えてくる構成が良くて、なんつーかこういう闇を抱えた年上の女って好きにならずにいられねえだろという気持ちになる。要は先輩がよすぎる......。


「ある夫婦の記録」
多様な夫婦関係のあり方を描いた作品ですが正直この関係性はだいぶ気持ち悪く感じてしまった......。しかし主人公(妻)の純粋さとやさぐれの入り混じった感じがエロすぎた。こんなセフレがほしいランキング第1位である。


「ミッドナイトブルー」
高校時代の天体観測と少女の死。残された3人は2年ごとに"同窓会"を行うが、主人公にだけは死んだ少女の幽霊が見える。
表題作に相応しい青春(とその後)を描いた傑作。
2年ごとの集まりを繰り返すうちにどんどん変わっていく3人と、いつまでも高校時代のままの幽霊少女のギャップがつらい......。それでもあの頃の気持ちは忘れずに変わらずに残ってて......。さよならも言えずにこの世を去った彼女とちゃんと別れられたという切なさ......にぐうぅ〜っと思ってたらあのラストシーン、あれはいかんよ、切なすぎるし美しすぎる......。
幽霊が出てくる時点でまぁファンタジーではあるんですけど、ラストにあの画を持ってくることで一気に世界が拡張されるような突き抜けた読後感があって、細部は忘れてもあのラストシーンだけはなかなか忘れられないと思う。