偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

アレン・エスケンス『たとえ天が墜ちようとも』感想

『償いの雪が降る』の著者の、邦訳としては2作目の長編です。


住宅地の路地で発見された女性の他殺体。
刑事のマックス・ルパートは、自身と因縁のある被害者の夫ベンを疑う。
一方、マックスの親友のボーディ・サンデンは、ベンの依頼で彼の弁護に立つことになり......。


というわけで、前作で既にファンになってたんですが、今作もやはり面白かったです。

青春小説風味の強かった前作に対し、今回は前作で脇を固めた大人たち2人が主役になる重厚な人間ドラマ。
しかし法廷サスペンスの側面もあるので、サラッと読めるスピード感もあります。

とりあえず、ミステリーとしては今回も捻りは少なめ。法廷でのやり取りでちょいちょい「なぁるほど」と思わされる分、前作よりは知的ゲームとしても楽しめましたが。

でもお話としてはめちゃくちゃ良いんですよね。
親友同士の2人が敵対することになるっていうのがもうエモいっすからね。
冒頭、2人の関係に亀裂が入る場面から始まり、回想する形で本編に入るので、常に友情が打ち砕かれてしまうヒリヒリ感を感じながら読むことになります。
また、それぞれに背負う過去もあり、現在の事件によってそれに向き合うことになるという葛藤も2人分描かれてお腹いっぱい。
そして、そんな2人の視点を交互に読むことで、読者もまた両方に肩入れしつつ、何が正しいのか?という難問にぶち当たります。
タイトルの「たとえ天が墜ちようとも」という言葉の意味が、2人の主人公に、そして読者にも突きつけられるんですね。

また、前作のヒロインであるライラちゃんもちょい役でカメオ出演して元気な姿を見せてくれるのも嬉しいところ。ジョー君も出ては来ないけど元気そうで何よりです。

クライマックスのシーンはなんとなく前作もこんなような感じだった気がしつつ(アメリカの映画とかってだいたいこんな感じよね)、裁判の緊迫感とはまた違うハラハラがあるし、あのなんとも言えん結末も、忘れ難い余韻を残してくれます。

惜しいのは、警察の捜査が杜撰なのと、そのせいで裁判が五分五分に見えないこと。ちょっとそのへんで人間ドラマを優先しすぎてるきらいはあるかと思います。


まぁでもなんにしろ本作でますます著者のファンになってしまいました。
日本で2冊目である本書が刊行されたことを考えると、この先もまだまだ邦訳が出そうな気はするし、楽しみに待ちたいと思います。

ルビー・スパークス

2016年10月。
その時私は彼女が出来たことがなくて、好きな女の子にはフラれて、もう恋なんてしたくないような、早く次の恋をしたいような、そんな気持ちでいて......あの頃から私は恋愛映画を貪るように観るようになったんだと思います。

そんな時に出会った思い出の一本をこの度観返してみました。


わりと内容に触れてるので気になる方はご注意を


ルビー・スパークス (字幕版)

ルビー・スパークス (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video



傑作と称される1作目のプレッシャーから長らく2作目を書けずにいる青年作家のカルヴィン。
夢に出てきた女の子"ルビー・スパークス"のことを書くと、ある日創作であるはずの彼女が目の前に現れる。
かくして理想の恋人を手に入れたカルヴィンだったが......。





Back to the 2016年



リトル・ミス・サンシャイン』の監督だからというだけで気まぐれに借りてきたが......エグい。

作家の主人公が小説に描いた理想の女の子が、なんと実体化して彼女になっちゃう!?というラブコメ......の皮を被った最恐ホラー......と見せかけて......。

完璧に自分の理想の女の子だもん、初めてのキスのシーンは甘美よ。そこから続くデートのシーンも嗚呼、こんな女の子がいたらなぁと。だって一緒に『ブレイン・デッド』観てくれる人なんている?私には強いて言えばヘビースモーカーで授業サボりまくる髭の汚ねえ後輩くらいしかいねえよ?そんな奴にパンティ咥えられてもなんも興奮しねえよ?パンティ咥えてる顔エロかったなぁ。

というわけで序盤はキュンキュン度10000%のラブコメ......なのがおかしいんだよそもそも。そう、男が10000%もキュンキュンするような女の子がいるわけねえんだよ!ああ、そうさ、いねえよ!だって自分で書いてんだもん!

内から生まれ出た彼女が外の世界と関わって思い通りじゃなくなっていくのが切ない。釦を掛け違えていくように2人の間にはズレが生じていく。恋愛ってそんなもんなんでしょうけどね、経験のない奴にはそれが分からんのです。ということで彼女を思い通りにするために主人公は禁断のアレをしちゃうんだけど、そこからの展開は元カノからの一言が全てを表している。そしてこれは私に向けられた言葉でもあったのです。個人的にグサッときた。

※以下ちょっとネタバレかも。






そんな破綻の予感がジワジワと大きくなって行き着く果てが、あの地獄のようなクライマックス。今年観たどの映画よりも怖くて震えながら観てた。ヤバすぎる。エゲツない。

でもね、ここで終わっててくれたらまぁ怖かったなーで終わるんですよ。

ラストが......ああ、やめてくれ、俺に救いを、希望を、再生を見せないでくれ!だって俺は書けねえよ!っていう気分にさせられました。創作への憧れを持っている恋愛下手にとってこのラストは地獄。
でもね、映画を観て恋愛の失敗を疑似体験出来たから実際に恋した時に活かせるよね!ああ〜〜恋したいなぁ〜〜♡って、したくねえよ馬ぁ鹿!


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Now 2020年

あれからの話だけど 何人か好きな人が 出来たり出来なかったりしたの

というわけで、上記が本作を初めて観たあの時の感想そのままコピペ。
あれから、私も何回か恋をしたり破れたりしました。
そうこうして今では可愛い彼女がいるわけで、さぁ私も多少の恋愛経験を積んで成長したからもうこんな映画怖くないと思って満を持して観てみたら、やっぱりめちゃくちゃ怖かったです。
あれからたくさんホラー映画も観ましたが、未だに本作が人生で一番怖い映画ですね(二番目は「ヘレディタリー/継承」)。

なんつーか、昔は彼女が出来たらもっとマトモな人間になれるんだと思ってたし、彼女が出来たら非モテマインドは消えると思ってたけど、全然そんなことはなくて、相変わらず恋愛下手でこういう恋愛下手が出てくる映画に感情移入しちゃうんだなぁと忸怩とも諦念ともつかぬ気持ちになりました。結局俺は一生非モテなんだよ......。


欲しい気持ちが成長しすぎて 愛することを忘れて
万能の君の幻を 僕の中に作ってた

そんなわけで、本作のテーマは恋愛における相手の偶像化、つまりはa.k.a LOVE PHANTOMなんですよ!ちくわさん!

「理想の女の子を生み出す」という設定こそファンタジーですが、実際のところ恋愛において相手に理想を投影してしまいがちなもので。
もちろん、相手を美化することは恋の楽しさも生み出すもので、本作の前半ではそういう「理想の恋人との理想のデート」がニヤニヤしちゃうくらい甘ったるく描かれているわけでして、ゾーイ・カザンのめちゃくちゃ美人ではないけどとびきり可愛い感じなんかはオトコノコの夢を体現してて素晴らしくて......。
そういう偶像化の一見美しく見えてしまう部分を描いているからこそ、後半がよりリアリティを増すわけですね。
あと改めて観返してみると、ほんとに最初の方からもう「偶像」とか「理想」とかいうワードが伏線のように登場してたりもしました。


「君」は7画で 「僕」は14画で 恐いくらいよく出来てる
僕は僕の半分しか 君のことを愛せないのかい

というわけで、美化された相手への恋というのは一見楽しくも結局はオナニーに過ぎないということが、「小説を書けばルビーを意のままに出来る」というまさにオナニー的な着想によってファンタジックかつリアルに描かれていく後半はホラー映画として圧巻。

悪化し行くルビーとの関係を修復するために、「微調整」くらいの気持ちで彼女を「書く」カルヴィン。
しかし、それによるズレが彼女を少し人間じゃないもののようにしてしまっていく、それでも彼女には感情があって......というのが切なくも、でもそうしちゃうカルヴィンの気持ちはもちろん非モテ男子として分かるし、それが自棄を起こしたように行き着くところまで行き着いてしまう衝撃的な書斎のシーンは2度目に観てもやっぱり画面から目が離せないほど怖くて、恋なんていわばエゴとエゴのシーソーゲームってニーチェか誰かが言ってたけど相手からエゴを奪ってしまえばそれはもう虚しい1人シーソーでしかなく、あまりに苦くて痛いけれども最後にせめてああしてくれたのが救いではあって......。


私以外私じゃないの 当たり前だけどね

しかし、最後の最後に救いを見せてくれるんですよねぇ......。

かつて観た時は、恋したさと恋したくなさがせめぎ合っていたのでこんな救いなんか見せられたら困っちゃうよ〜という感じでしたが、今わりかし冷静に観ると、これが素敵なんですよね。
独りよがりだった自分に気付き、再び恋という難問に挑むカルヴィンくん。
そう、恋というのは大なり小なり誰もが間違うもの。
だからこそ、映画の中ではしくじり先生的大失敗と、それでもまた始まる希望を描いて欲しい......というのはロマンチストすぎるのかもしれないけど、私の大好きな恋愛映画って某作も某作も、エグいけど最後は前向きなやつなんですよね。

私もこないだ彼女に一回フラれてヨリを戻したので(別名:痴話喧嘩)、今はこういう破壊と再生(?)みたいなのがすんごい沁みるんですよね。

そんなわけで、素晴らしい恋愛映画は何度観ても素晴らしい。全ての恋する人にオススメの名作ですよ!

日記 11/3

祝日だったのでオフ会に行きました。

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今池ガスビルの燻製合鴨カレーみたいなやつ。スパイスがいろいろ入ってて食べたことない味。美味しかったです。

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池下のケーキ屋さん。
ケーキ屋さんでケーキを1つに決めるのが悲しいので、3つ食べました。サバランと紫芋モンブランと苺チーズなんとか。
でも対面のちくわさんの選んだやつのがだいたい美味しくて悔しいのです。また行きたい。

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ケーキ屋さんの前。
こんな場所に住みたい。

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歩きながらパシャパシャ。
写真は下手だけど知らない景色を見るのが好きなのでつい撮っちゃいます。

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夜のお店。食べるのと喋るのに夢中でこっちはあんまり写真撮ってなかった。



みなさん昨日は楽しかったです。ありがとう。
私はちくわさんの幸せを願ってますよ。

ジョーカー

ついに観ました。

ジョーカー(字幕版)

ジョーカー(字幕版)

  • 発売日: 2019/12/06
  • メディア: Prime Video


アメコミ映画に興味なくてジョーカーのこともほとんど知らないんですが(ノーランのやつは見たけど)、全然知らなくても普通に楽しめました。
というのも、本作はあくまで"ジョーカーの誕生秘話"であり、本編にはジョーカーもバットマンもほぼ出てこないんすよね。

参照元のひとつ『キングオブコメディ』はまだ観てないですが、もうひとつの『タクシードライバー』っぽさは感じました。
バトルシーンもないので、アメコミっつうよりニューシネマな味わいなんですよね。

善良だけど孤独で貧しく虐げられている男が、友人に銃をもらったことをきっかけに稀代の悪役"ジョーカー"へと変貌していく......という。うん、タクシー運転手のトラさんを彷彿せずにはおられません。

巧いと思ったのが、後にジョーカーとなる主人公のアーサーが、そんなにめちゃくちゃ酷い境遇にはいないところですね。
もちろん私なんかとは比べるべくもないほどつらい目に遭っていらっしゃいますが、それでもどこか自分と重ねられるくらいのところにいる。でも、ジョーカーになっちゃうのも納得するくらいにはつらいっていう。
そもそも映画なんか見てるようなやつは友達もロクにいないキモいオタクに決まってるので、そんな映画ファンの大多数の共感を得られるちょうど良い塩梅だと思うんですよね。
私自身も思う壺だなとは思いながら、中学の頃一瞬だけいじめられて不登校したことを思い出して、あの時私も「笑うな」って言われたなぁ、あいつぶっ殺したいなぁとむくむくと思い出し怒りが湧いてきたりもして......。

なんで、アーサーが初めて人を殺すシーンはもうすっきり爽快痛快でいけいけやれやれとめっちゃ応援しちゃいました。
終盤の印象的な射殺シーンもまじ最高で、あいつらを殺せなかったあの頃の私に代わってアーサーがやってくれたようなカタルシスがあります。
彼が光を浴びて階段を踊りながら降りる場面の解放された多幸感たるや!(ちなみにこのシーンはゲスの極み乙女のマルカという曲のPVでオマージュされてます。観てね)


また、もう一つ巧いのが、全編に渡ってアーサー視点が貫かれていること。
ちゃんと確認したわけではないですが、たぶん彼が出てこない場面ってないですよね。
こんだけアーサーに寄り添って日常から非日常まで全部観せられては、感情移入しない方が難しいです。
もちろん、ジョアキン・フェニックスの演技もめちゃくちゃ良いですしね。すごいつらそうに発作で笑ってしまうとこなんか、観てて泣きそうになります。


そんで、映画を観る私と同じようにジョーカー誕生に熱狂する民衆に埋め尽くされた地獄の街ゴッサムの光景から一転してのラストシーンが非常に恐ろしいのですが......以下ネタバレ。






























いやぁ、こんだけ感情移入させといて、突き放すようなリドルなエンドですもんね。
結局何なの?どうたったの?的な。
そういえば、ダークナイトのジョーカーもジョーカーになったきっかけについては嘘っぽいことばっか言ってましたからねぇ。
近くの部屋の女の人と付き合ってたのが妄想だったっていう信頼出来ない語り手的なくだりを見ても、本作の内容自体が全部妄想説あり得ますしね......。

ともあれ、これまで熱狂していたのが、ここで一旦自分の熱狂を客観視させられて、その危うさにゾッとするっていう......。
でもこのラストシーンがなければ確実に人殺してましたからね。恐ろしや。

ちなみにラストがジョーカーの誕生であると同時にバットマンの誕生のきっかけでもあるのがエモい。

二階堂奥歯『八本脚の蝶』感想

編集者として国書刊行会に勤め、2003年の4月に、25歳の若さで自らの命を絶った二階堂奥歯氏。
本書は、彼女が死の2年前から綴っていたブログを書籍化したもの。
2006年に単行本として刊行されたものの絶版となり幻の本として語り継がれていました。その時から気にはなっていたのですが、今年になって河出文庫から文庫化されたのを機に読んでみました。
ちなみに元のブログ自体は現在でも残っているので、内容を読む機会はこれまでもあったわけですが、やはり紙の本で読みたかったのでね......。

八本脚の蝶 (河出文庫)

八本脚の蝶 (河出文庫)


「自殺者の死の直前2年間の日記」ということをどうしても意識してしまうのですが、内容は別にメンヘラ日記みたいなものではありません。

稀代の読書家で1人の乙女でもある奥歯さん。

物欲の赴くままに本を買い、ものすごい速さで読んでは咀嚼して血肉にしていく様は、同じ読書家と名乗ることさえ恥ずかしくなるような......それはもう量でも質でも私などはまるっきり太刀打ちできない、彼女に比べれば私なんか本を読んでいるとさえ言えないのではないか......と思ってしまうほどの読みっぷりに尊敬と畏怖と嫉妬を覚えます。奇しくも私は今、亡くなった時点での彼女と同い年なので、余計に......。

私は就職してから年に多分365冊を超すぐらいの本を読んでいる。学生の時はその倍、小学生の時はその三倍は読んだ。

というから凄まじいですね。
そして本書にはそんな彼女が読んだ本からお気に入りの部分が数多く引用されていて、彼女の世界のほんの一端を垣間見られるような楽しさがありました。

また、日記の話題にはコスメやファッションなど"乙女道"についてのものも多く、趣味人として好きなものを追求する様はとにかく読んでいて楽しく爽快。
なんだか気の合うフォロワーのツイートを読んでいるような感覚で読めちゃうんですね。


なんというか、個性ってどこからともなく湧き出てくるものではないと思うんですよね。
人との関わりや、読んだ本とか、そういうものによって作られる。その点、二階堂奥歯という人は多くの変人との関わりと凄まじい読書量によって唯一無二の個性を手に入れたのだろうな......と思いました。


読み進めるうちに、そんな奥歯さんにどんどん魅せられていって、なんかもう恋に近いくらいの気持ちを抱いてしまっていて......。
だから、後半に進むにつれて徐々に苦悩が吐露されるようになると、彼女の物語の"結末"を既に知っているだけに、もう読むのをやめようかと思い、読み終えるのを先延ばしにするために映画を観て時間稼ぎをしたりと読むことに抵抗してしまって、それでも最後まで見届けたいという思いでなんとか読み終えたという次第......。

それ以来、私はもう何をしていても奥歯さんのことばかり考えてしまって、仕事も手につかないし他の本を読み始めても上の空になってしまい、ただ最後の日の言葉たちを思い出しては泣きそうになり、もうこの人の新しい言葉に触れることはないのだと思うと悲しくて、でも最初のページを開けばそこにはまた活き活きと人生を楽しむ奥歯さんがいて............。
だから、きっと私はこの先も何冊もこの本を買って何度も読むんだろうという気がしています。




ちなみに、巻末には生前の奥歯さんを知る人たちの文章が載っていて、大半は彼女に恋するおっさんのセンチメントなのでやや辟易しますが、「二階堂奥歯」ではない彼女の姿が垣間見られてまた泣けたりします。

ルトガー・ハウアー/危険な愛

無軌道でワイルドな芸術家のエリックと、彼がヒッチハイクで出会ったGirl・オルハとの恋を描いた純愛映画です。

ルトガー・ハウアー 危険な愛 [DVD]

ルトガー・ハウアー 危険な愛 [DVD]

  • 発売日: 2007/01/26
  • メディア: DVD



こないだうちハマってて師と仰ぐまでになったポール・ヴァーホーベン監督の、観れる範囲で一番古い作品。

ホーベン先生の作品はどれも酷く悪趣味で品性下劣でクソ以下の最低映画なんですが、そんな中に一本筋を通して流れる純粋なエモーションがあるのがめちゃくちゃ好きで、原点とも言える本作はそんな純粋さが最も分かりやすく現れた一作なんですね。


冒頭からして、夜の闇に紛れて鈍器で男を撲殺して女を銃で撃ち殺す主人公の映像のカッコ良さがもうガンギマってて一目惚れみたいになっちゃったんだけど、そっから主人公の傍若無人な振る舞いと、しかしなんかワケ有り気な感じ......そこから回想で本筋のエリックとオルハの恋物語が始まるんですが、これが非常に美しいんですよ。
いや、もちろんヴァーホーベン先生なので、絵面は汚いっすよ。うんこもゲロも出てくるし2人とも本編の半分くらいは裸ですからね。しかも彼らのやることなすこともうワイルド過ぎてめちゃくちゃですしね。色んなとこでやりたい放題やって迷惑かけまくってる。近所にいたら最悪だと思うんです。
......思うんですけど、でもその愛だけは強く透き通ってるから、どんなに破天荒でも感情移入しちゃうんですよ。

あと、やっぱルトガー・ハウアーの野性味あふれる色気はヤバいし、うんこを躊躇なく手で掴めるところなんか、実社会の法則を超越してる感じがしてカッコいいんですよね。打算がないというか。
そしてオルハ役のモニク・ヴァン・デ・ヴェンさんもめちゃくちゃ可愛いしエロい!
他に出演作があんまりないのが惜しいくらい、魅惑的なヒロインでした。おっぱいも素晴らしい!エロい!女王陛下のシーン、エロ過ぎて勃起しながら爆笑しました!
やっぱ恋愛映画ってヒロインに惚れられるかどうかが好きか嫌いかの分かれ目ですからね。


まぁそんな感じで、しょっちゅう喧嘩もしながらも愛し合う2人の姿にニヤニヤして、それだけに冒頭でも示されている通り、終わりの予感が常に漂っていて一抹の切なさもあり、話が進むにつれどんどんその切なさが増していく......んですが、しかし終盤はかなり意外な展開になって驚きました。
しかしそれこそが本作の1番の美しさでもあり......。

というわけで、以下はネタバレ↓





























はい、ネタバレです。

美しい雨の中でのキスシーンが本作のハッピーパートのクライマックスとなり、その後のパーティーのシーンが地獄のように真っ赤な映像で描かれていくのが凄まじいです。
2人の表情によるやり取りの、これまでと一転して冷え切ってるあたりはヒリヒリと心理的に痛く、さらにはビジュアル的にえげつないゲロまで加わって、忘れ難い厭ぁ〜な一幕になってます。
このいきなり現実から乖離してしまったような映像は、あるいは実際に客観的な現実ではない......エリックの被害妄想による認知の歪みが生じた映像......なのかもしれませんが......。

ともあれ、帰宅して八つ当たりしてあのクソ女ぶっ殺してやる!......という妄想をするに至り、冒頭の殺人シーンの意味がようやく分かります。

見始めたときはてっきり最後にこの冒頭に戻ってきて終わるのかと思ってたんですが、物語はまだまだ続くよ残酷なまでに......。

罵倒、暴力、強姦......最低なんだけど、気持ちは分かるだけにつらい暴走機関車エリックさんの大活躍に胃が痛くなります。
この辺が本作で2番目にしんどいくだりで、あんまり酷いので一旦休憩挟みましたよ。

からの、しかし別れ話が決まってからは一転、凪いだように穏やかな、しかし死にたくなるような切なさも湛えた顔つきの2人に変わります。

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あんなに激しく愛し合った、互いが互いの片割れのような2人にも終わりが訪れてしまう......。
思い出が美しいだけに、別れはより残酷で、あぁ、愛は無常、人生は無情......。



しかし、それでもまだ物語は終わらない。

それから幾星霜(?)の時が流れ、2人は再開するわけですが、オルハの様子がなんかもう全然おかしいっていう、カフェの場面がめちゃくちゃホラーで......。
病に臥せるオルハを見守り続けるエリックの姿にはもうかつての破天荒さはなく、彼女とのつらい別れを乗り越えたことで大人になったことが伺われ、それだけに再会がこんな形になってしまうのが悲しい。
一方のオルハはもうすっかり子供に返ってしまったかのようでそれもまたつらい。2人出会った日に「その赤毛綺麗だね」なんて言われてたのが悲しい伏線となって観客の胸に突き刺さります。
なんというか、普通に都会の病院なんだけど、サナトリウムもののような悲しい美しさがあって、泣いちゃうよ〜。泣いちゃいますよ......。

ラストのあっけないくらいの静かな死と、あの像と、ゴミ収集車に飲み込まれていく鬘と、、、あくまでもドライな描写が逆に悲しみを強調します......。



そんなわけで、冒頭からは想像のつかない場所まで連れてこられて半ば呆然としてしまいますが、激しすぎる恋が終わり、やがて愛に変わっていく様を美しく切り取った、生搾り果汁100%の純愛映画でした。
ヴァーホーベンの作品でもダントツで一番好きだし、ただの変態おじさんじゃなかったのかと見直しました()。

甲斐田紫乃『超能力者とは言えないので、アリバイを証明できません』感想


本屋さんで平積みになってて気になったので。



冴えない大学生の主人公とその一族が、曽祖父の遺言状開封のために孤島に集まる。
そこで遺言状と弁護士が消失する事件が起こり......。


タイトルからは西澤保彦のSFミステリみたいな感じを想像しちゃいますが、実際のところはミステリ要素は味付け程度のライト文芸といった趣。そもそも、アリバイとか関係ないからタイトルに偽りありですしね......。

事件の真相も実に順当だし、なにより超能力が全然オチに絡んでこない!
ガチのパズラーじゃないにしても、それなりに伏線として機能するかと思いきや、全くそんなことはなく、謎解き要素はミステリと名乗らないでほしいレベルに薄いです。


ただ、ミステリだと思わずに読めばさらっと読めてそれなりに面白いお話ではありました。

私はてっきり主人公がテレポートでも出来るもんだと思ってたんですけど、そういうちゃんとした超能力ではなく、めっちゃしょーもない能力なんですよね。
そんで、しょーもない代わりに能力者がたくさんいて、彼らのトホホな超能力エピソードには哀愁さえ漂います。

また、超能力を抜きにしてもキャラ立ちはなかなか。
複雑な家系図の一族のわりにキャラを覚えるのに全く苦労しなかったあたり、ラノベとしてはとても上手いんだと思います。
ただ、キャラが良いだけに群像劇形式で全員がさらっと描かれるのはやや物足りなく、もう少し掘り下げて欲しかった気も。
あと、主人公のパパのあの秘密のくだりは要らないんじゃないかなぁ......世界観にそぐわない気がするんだけど......。

まぁそんな感じで、ミステリ読者には勧めないものの、箸休め的にさらっと読むにはオススメの一冊です。