偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

米澤穂信『巴里マカロンの謎』読書感想文

実に11年ぶりの小市民シリーズ最新刊。
......といっても「冬期限定」ではなく4つの短編を集めた作品集です。

てっきり春夏秋冬の四部作だと思っていたので番外編とはいえ1冊余分に読めるのは嬉しいですね。ただ、やはり冬期の名を冠した作品もそろそろ読みたいところではあり......。
まぁ、こうしてシリーズが再開されたということは、続報もそう遠くないうちに聞けるのかとは妄想しちゃいますが。

巴里マカロンの謎 (創元推理文庫)

巴里マカロンの謎 (創元推理文庫)


というわけで、本作について。

時系列としては、春期(1年生の春)と夏期(2年生の夏)の間にあたる、1年生の秋から冬にかけて。
各話ともタイトルの通り、2人がいろんなスイーツに纏わる事件に遭遇するお話ですが、「小佐内さんが新しくオープンしたお店にスイーツを食べに行く!」というパターンは第1話のみ。他の話はちょっとずつシチュエーションが異なり、ミステリとしてのテーマもそれぞれ違うので、スイーツ的にもミステリ的にも1冊で色んな味が楽しめました。

また、新キャラも登場。なかなか良いキャラなので、冬期にも出るかはともかく、またこういう番外編くらいには出てきてほしいっすね。

そんな感じで、以下、各話の感想。





「巴里マカロンの謎」

名古屋までマカロンを食べに行ったふたり。マカロン3つのセットを頼んだ小佐内さん。でもお手洗いに行ってる間にマカロンが4つに増えていて......?


表題作ではありますが、個人的には一番いまいちでした。

カロンが1個増えるという謎が描かれるわけですが、作中に「三つのマカロンが四つになって、わあいって喜んで口に入れちゃうひとはあんまりいない」という一文があるのがもう、相容れないとしか言いようがなく......。いや、私だったらわあいって喜んで食うけどな......。減ったなら怒るけど増えたのに深刻ぶって謎解きしなくても......。なんて思ってしまった時点で「謎」への興味が1ミリも湧きませんでした。
真相も、飛躍してる割には捻りは弱い印象。
まずどのマカロンが増えたか?から始まり、途中でさらに謎が増える構成は面白かったです。





「紐育チーズケーキの謎」

とある中学校の文化祭に、チーズケーキ目当てでやってきたふたり。
しかし、小佐内さんは、男子生徒同士の争いに巻き込まれて拉致(?)されてしまい......。


いつもの上から目線で文化祭を見て回る小鳩がまず面白い。
チーズケーキに関するちょっとした講義も、良い。思わずコンビニに走りたくなりますね。
ミステリとしては、小佐内さんがどうなったのかというWhatっぽい謎と、小佐内さんはどうやってそれをしたのかというHowの複合で魅せてくれます。
トリックは小粒ながらもなかなか面白く、"犯人"の頭の回転の早さにぞっとします。
そして、意外とシリアスな真相が残す余韻も良い。これが古典部だったらまた違った後味になりそうですが、小市民の2人はあくまで小市民ですね。





「伯林あげぱんの謎」

新聞部で決行されたマスタード入りあげぱんのロシアンルーレット。しかし、誰もマスタード入りのものを食べたと名乗り出ない。誰かが嘘をついているのか......?


これは凄かったです。
オチこそ早すぎる段階で想像がついてしまいますが、しかし推理パートが圧巻。
全ての描写が伏線として回収され、ロジカルな推論の気持ちよさを味わうことができました。
また、オチは分かるとはいえ、どうしてそうなるのかまではハッキリと分からなかったので、あまりのことに吹き出してしまいました。終わってみると、出発点の光景が鮮やかに蘇りますね。





「花府シュークリームの謎」

秋桜が飲酒の罪で停学になった。しかし、本人は身に覚えがないと小佐内に相談し......。


「はなふ」ってどこかと思ったらフィレンツェ
第3話だけ1回休みだった秋桜ちゃんがまたも登場。
タイトルはシュークリームなのにいきなり善哉を食べるふたりに笑う。シュークリームも善哉もどっちも食べたい。
そして、タイトルがシュークリームなのに内容はややほろ苦め。
正直なところ、伏線はあるにしろちょっと偶然が過ぎる気がして謎解きにはあまり盛り上がれなかったけど、ラストシーンの美しさ(?)が良かったです。白昼夢の世界に誘われるような幻想的な結末。ステキ。

ドッグヴィル

ミッドサマーの影響で、村がヤバいという本作を観ました。そしてハマってしまい、ひとりラース・フォン・トリアー映画祭をしています。死にてえ......。




山奥の貧しい村ドッグヴィルに、マフィアに追われる美女グレースが迷い込んできた。作家志望の青年トムは彼女を匿うことを提案し、グレースは村人たちのお手伝いをしながら少しずつ村に馴染んでいくが......。



ネタバレなしVer。

まずはこのセットに驚き。
壁のないピロティみたいな空間を、白線で区切って「誰々の家」みたいに書いてあるだけの粗末な舞台。
舞台劇のような、とも言えるし、ナレーションによって心情まで説明されるところや時折入る俯瞰のショットも含めると、監督という神が心理実験のために作った箱庭のようにも感じられる。
冒頭でチェッカーかなんかのボードゲームをやるシーンがあるのも、村の人たちをコマとして動かす作者の存在を示唆しているようです。

序盤は閉鎖的な村人たちが徐々に余所者のグレースを受け入れて親しくなっていくという良い話。
でもでもでもでも、そもそもが匿う⇔匿われるという対等ではない関係なだけに、村の人たちは彼女に対して絶対的に優位。そうなれば、娯楽も少ない田舎のこと、どうなるかはお察し......という感じで。
お察しではありつつ、冷徹に心理描写を行っていくナレーションのおかげで登場人物の浅はかで醜い考えが手にとるように分かってしまう。......いや、手にとるように分かってしまうのは、自分も同じことを考えてるだろうからだと気付き、嫌な気持ちになります。そりゃそうだろ?ニコールキッドマンに対して完全優位な立場にあれば男なら絶対やるし、それを見た女なら絶対いじめる。それも、正当化して、もしくは、自らの正しさを疑わなず確信犯的に。
簡素なセット、地味な展開、3時間の長さでありながら、じわじわと確実に心を抉っていく描写のせいで目を離せないのもうんこ。

そして、ラストの「傲慢さ」に関する会話も刺さりますね。それすら、傲慢でしかないという。
そんでも、エンディング曲があれなのも皮肉っぽくもこれまでの鬱屈が反転してちょっとスカッとするのも事実。
なんせ、人間であることだけでもう醜さが内包されている。犬の村とは言いながらも、犬に人間ほどの思考がないのならば犬の方がいくらもマシだったり。でも何もかもどうしようもないことならばもうなにも考えずに、最高にアガる曲で踊れば良いのさというやけっぱちな気持ちにもなり。

なんせ、どんな感想を抱こうとて、本作のメタ的な視線によって私の感想さえも見透かされてしまうような気がして、何も言えねえわ。結構いろいろ言ったけど。


そんなわけで、あとちょっとだけネタバレありで書きます。↓
























グレースに対する村人たちの仕打ちが、あくまでも正当化の逃げ道を持って行われるという、彼らの弱さに同族嫌悪を抱きました。
トラックの運ちゃんの、「金を払ってもらわなきゃいけないけど金を持ってないだろうから、体で払ってくれてもいいよ」みたいな、そんでもって「やりたくてやってるわけじゃないから」っていう、浅ましさ。こんな部分が自分の中にもあると思うと絶望的。

それだけに、ラストでまさかの「ヤバいやつに手を出しちゃってリベンジされる系スリラー」になるのには正直ちょっと笑っちゃいましたね。
でも、グレースは最初は復讐するつもりはなかったんですね。彼らはこの環境にあったからあんなことをしたのであって、悪いのは環境だと言うのです。
これはニュースで見かける猟奇殺人の犯人とかでもそうですよね。虐待されてて、いじめられてて、だからそういうことをした、と。
だから同情の余地がある。ってのを部外者が言うのは簡単ですけど、本作では当事者のグレースが言っちゃうんですよね。
でも、パパはそんな彼女を傲慢だと言う。
それまで、私はグレースちゃんなんて良い人なんだ......と思ってたけど、こんだけ良い人であること自体も傲慢だとしたら、どうせいっちゅうねん......というね。

ともあれ、最終的に村は焼き討ちにされちゃいます。
村人の醜さに自分を投影していただけにいたたまれなさもありつつ、とはいえ主人公であるグレースに肩入れしてもいたので痛快でもあります。
環境が彼らをこんな風にしたなら、その環境ごと無くしてしまえばいい、と言わんばかりの解決は、敷衍すれば人類が滅びれば悲劇はなくなる、ということにも通じます。
そして、皮肉であるのは承知の上でエンディングのノリノリなあの名曲で踊りました。歌詞にニクソン大統領が出てくるとこでほんとにニクソンの写真が映るのには笑った。

今月のふぇいばりっと映画〜(2020.2)

はい、今月はこんな感じ。珍しく邦画も観てますね。
グエムルに関しては、パラサイトを観てから遡って観たやつですが、パラサイトの方はまだ感想書けてないんですね......。気力がない......。




ウォールフラワー
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来る
グエムル/漢江の怪物




ウォールフラワー

ウォールフラワー(字幕版)

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  • 発売日: 2014/09/03
  • メディア: Prime Video


高校入学と同時にスクールカースト下位に属してしまった主人公のチャーリーが、パトリックとサムという変人兄妹と出会い、カースト下位なりの青春を謳歌するお話。



エモかったです。

青春。

そのただ中にいる時はforever and everに感じられ、しかし後から振り返ってみるとJust for one dayくらいでしかなかった刹那い時間。それが青春。
それでもあの時私たちは確かに"Heroes"だったんです。

......そんなトンネルのシーンが素晴らしい。
先日観た某作でもそうでしたが、私は"Heroes"という曲がかかる映画に弱いんです。
ましてや、そこにいるのはエマ・ワトソンですからね。
私は小学校の頃にハリー・ポッターをけっこうリアタイで観てましたので、恐らく海外の女優で初めて恋をしたのは彼女だったと思われます。
(とはいえハーマイオニーのイメージに囚われず本作ではきちんとサムという少女になっていたので素晴らしい)
その可憐さと強い眼の美しさと、トンネルとヒーローズ。「この曲めっちゃいいじゃんなんて曲?」「知らない!」にはジェネレーションギャップを感じましたが(同世代)、主人公の青春の時間からあのシーンを切り取っただけでもうエモエモ傑作なんです。

で、そんなステキヒロインが出てくるんだけど単に主人公と彼女が紆余曲折の末に結ばれたりする話じゃないのがリアルでえげついっすわ。
マジ恋の相手にはクソみたいな彼氏がおったりとか、なんだかんだ自分も好きでもない女と付き合っておっぱい揉んだり、それでもやっぱり傷付き傷付けてしまったり......。能天気なラブストーリーによくあるあらかじめ決められた恋人たちではないリアルな恋愛模様には全然キュンキュンとはしなくてただ痛かった。だがこの痛みを忘れてしまった今の私はもうあの頃みたいに若くはないのだと思い知らされました。

一つ言いたいのは友達いない壁の花太郎です!みたいに登場しときながら主人公かなりリア充やんけ!という嫉妬ね。俺だってこんな高校生活を送りたかったさ。
あと、先生イケメンすぎて惚れたのと、パトリック先輩の放つ独特の魅力にも惚れた。




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  • 発売日: 2013/03/20
  • メディア: Blu-ray


マンションの部屋に暮らす若い夫婦(トヨエツと山口智子)。
夫が仕事で忙しく、無為な時間を持て余した妻はやがて身の回りのものを緊縛し始め......。



小学生の頃は「うどん」だと思ってました。
中学生の頃は「運動」だと思ってました。
高校生の時、これはもうシンプルにそのまま「ウンド」?と気付きました。

そんなアンドゥー。
「元に戻す、台無しにする、ほどく」といった意味の言葉らしいです。


岩井俊二そんなに観てないけど、彼の撮る女の子は全員可愛いという確信が私の中であります。本作もそれに違わず、今や唐沢の相方というイメージしかない山口智子さんがめちゃくちゃくちゃくちゃ可愛かったです。控えめに言ってマイエンジェル。

一方トヨエツは、もちろんくそイケメンなんだけど、キャラは割と自分に近いものを感じて共感と同族嫌悪の相半ばする気持ちで観てしまいました。

そんな2人の生活が最初はなかなか幸せそうに微笑ましく描かれていてにやにやキュンキュンとしていたんですが(嫁が可愛すぎる!)、ところどころで発揮されるトヨエツのデリカシーのなさに虫唾が走ります。この辺の微かながら強烈な緊張感はもはやサスペンス、いやさホラー。

そうこうするうちに、妻が精神を病んでいくのですが、不謹慎ながらこの病んでく山口智子がまた可愛いのなんのって......。
全身を縄で縛って亀頭を撫でるシーンとか、これ無修正で大丈夫なのかよってくらいえちえちでした💕

また、ほぼ2人芝居の中にもう1人だけ出てくる登場人物が田口トモロヲ精神科医
こいつがまた名探偵かなんかのように胡散臭くて素晴らしい解説役を務めてましたね。超越的なようでもあり、俗なようでもある、ステキに変なキャラ。

そして、ラストの精神疾患にパワーで挑むトヨエツがまたくそ面白い。いやいやお前のその精神疾患にパワーで挑むようなところがあかんねん!って思う。




来る

来る DVD通常版

来る DVD通常版

  • 発売日: 2019/07/03
  • メディア: DVD


イクメンの田原と愛する妻子を襲う怪異「ぼぎわん」。田原は友人の紹介で知り合ったライターの野崎と霊能キャバ嬢の真琴に相談するが......。



原作『ぼぎわんが、来る』も既読。
原作は、ややミステリっぽい技巧も凝らした民族学ホラー。作者も影響を公言しているように三津田信三っぽくてちょっとライトにした感じ。

映画化の本作は、おおまかな筋立てや構成は原作にけっこう忠実でありながら、仕上がりは全く違っていました。
原作の怪異自体の怖さは薄れ、『告白』なんかの監督らしい人間の怖さが前面に押し出されています。

でも、そういう作品としては、やはり抜群に面白かったです。
例えばで出すのもアレだけど、三津田信三の『のぞきめ』なんかは原作とぜんっぜんなにもかも改変した挙句クソ映画になってましたから、その点、骨格は保ちつつ換骨奪胎する手腕がさすがにさすが。
実際のところ、民俗学ホラーを映画にして小説と同じ雰囲気なんかなかなか出せないから、この路線で大正解なのではと思います。
個人的には、ほぼ、こちらの映画版の方が原作より好きなくらいでしたね。



もうね、とにかく出てくる人たちが素晴らしい。
ジャケットのビジュアル見ても原作読んだイメージにぴったりで嬉しく思いましたが、実際に中身を見てみると、原作以上にみんなダークサイドを抱えたやべえヤツになってて笑いました。
出てくるキャラクター全員に主力級の存在感がありますからね。柴田理恵があんなにカッコよく見えるなんてな......。

特に、原作の第2章に当たる部分はよりエゲツなく、よりリアリティがあって、こりゃもう俺は絶対絶対何があっても結婚なんてしないと誓いました。「くろきはな」とか読んでごめんなさい。怪異?人間??笑わせる!この世で一番怖いのは結婚と育児じゃ!!

ただ、そこまではめちゃくちゃ良かったんだけど、第3章の部分が、どうしても、ねえ......。
それまでドロドロしつつ感情移入しちゃう邪悪エモ映画だったのに、いきなりB級アドベンチャーホラーに堕してしまいますからね。マンションと儀式のミスマッチな映像の楽しさこそあれ、同じく祈祷シーンが印象的な『哭声』なんかと比べると足算しすぎてダサい。しかもドロドロの人間ドラマ部分も鳴りを潜め、松たか子が普通にかっこいいだけ。いやかっこいいけど、物足りなかったです。やけに長いし。

ただ、ラストの落とし所はなかなか良かったかも。唐突なあの演出にはやや引きましたが、綺麗に纏まってる。


うん、だから、クライマックスが蛇足というエンタメ映画としては珍しい感想になっちゃいましたが、そこまでは大満足。

あと、冒頭で握り潰したあの虫が、結婚式のシーンのBGMに効いてくる音楽の使い方がめちゃくちゃ好きでした。




グエムル/漢江の怪物

グエムル-漢江の怪物-(字幕版)

グエムル-漢江の怪物-(字幕版)

  • 発売日: 2015/04/02
  • メディア: Prime Video


漢江のほとりで父と共に売店を営むカンドゥ。彼はぐうたらダメ男だが娘のヒョンソのことは溺愛していた。
しかしある日、漢江に怪物が現れ娘を攫っていく。カンドゥは父、大卒ニートの弟、アーチェリー銅メダリストの妹と協力してヒョンソの行方を捜す......。



アカデミショウ記念遡行履修です。

いやはや、おもちろかった。
タイトルの通り怪獣映画ではあるのですが、それだけに止まらないジャンルミックスの闇鍋的魅力を備えた傑作です。


まずは冒頭が圧巻。
川辺でビール飲みながらレジャーシート敷いてピクニックしてる行楽客と、売店で居眠りしながら客のスルメイカの足を1本つまみ食いする主人公。
そんなどうしようもなく平和で気怠い日常の風景の中、橋の方を見つめる人。おもむろに集まる野次馬たち。主人公もまた、その1人。
と、そこには奇妙なモノがぶら下がっている。
そして、そいつは暴れ出す。
突如として日常の光景が惨劇に変わる。それでもそれが起きてからもずるずると日常の感覚を引きずっているように、緊張感の伝播には時差があったりもして、非常にリアルな没入感が素晴らしい。
怪物の造形も非常にキモいっすね。
魚と犬と虫と花と性器をよくかき混ぜて便所に流し込んだみたいな外見。ガッズィーラみたいなカッコ良さ皆無なところが逆にかっけえゲロ怪獣です!!
最近ドライアイの治療をしてるのに、こんなの見せられたら瞬きすら出来なくて目は渇く一方ですやん。

と、モンスターパニックとしての魅力を導入部で使い果たした感さえありますが、そこからが闇鍋の楽しさ。

「娘を取り返す」という至極まっとうに王道なテーマで一本筋を通しながら、英題の通りのあれ系パニック、さらに「ゴールデンスランバー」っぽい逃走劇、サスペンスの裏に忍ばせた社会風刺と、ところどころに振りかけられるユーモア。
そのユーモアがまた厄介で、なんつーか、絶対に笑ってはいけないシリーズなんですよね。
娘を想う真剣な主人公の気持ちが見た目滑稽になってしまって笑っちゃうみたいな、不謹慎系シリアス笑い。アウト〜〜!ってなってケツ叩かれそう。
病院のシーンとかね、なんか笑っちゃうよね。ごめんよ......ごめんよ、カンドゥ......。

また、怪獣が出てくる映画ではありつつ、怪獣の怖さだけじゃない心理的に嫌なシーンがちょいちょいあるのはさすが。とある場面では泣きそうになりつつショックで目見開いてまたもドライアイを悪化させたよ......。先生、目薬をもっとくれ......。


キャラもみんな等身大に感情移入できて良い。
ソン・ガンホ演じる主人公のカンドゥは三枚目なのに娘への想いだけはかっこいいという魅力的すぎるおっさんですが、ファミリーも負けてない。
弟くんの活劇のカッコよさよ!妹のペ・ドゥナの可愛さと、クライマックスのあのシーンの表情がもう......。そしてパパ!頼りないけど年の功みたいな、めちゃくちゃいい味出してる......。みんな寝てるのに滔々と思いの丈を語るシーン最高でした。あのシーンが一番好き!
あと、出番少ないけど娘さんの存在感も良かった。


クライマックスはちゃんとアクションとしてのブチ上がりも。
で、パラサイト見た時にちょっと後日談が長えなと思ったんですが、今回後日談長いことを覚悟した上で見たら、あの後日談があってこそな気がしてきました。パラサイトの後日談もまた見直さなきゃね。
なんせ、まぁ面白かったです。映画館で観たい。

ミッドサマー

アリ・アスター、待望の2作目。観てきました。
どうでもよすぎるけど、『アリー/スター誕生』という映画を「アリ・アスター」と空目しがちな今日この頃の俺だ〜。

で、はい、恐らく、コロナウイルスによる前倒し需要も込みだとは思いますが、それにしても平日のレイトショーでシアターの半分くらいが埋まってる、30人弱は観客がいる状態で、まじで大ヒットやんと実感しました......。なんせクソ田舎なもんで普段は貸し切りのことも珍しくないのに......。


前作『ヘレディタリー』を観た時から、デビュー作とは思えぬ確立されたヤバみ溢るる作風に惚れて注目しつつ、一方で『ヘレディタリー』の内容は全く分かってないという状態でしたが、本作もやはり「めちゃくちゃ良かったけど、あんま意味わかんなかった!」という感じでした。





なんかもう、ネタバレなしでは何も書けない上に、ネタバレありでも私如きうんこ平和ボケぬくぬくハッピー御曹司には的外れうんこなことしか書けないのでもはや書く意味ねえ気がするけどせっかく観たんでちょっとだけなんか書いとくわね。

まずネタバレせずに一言だけ言いたいのは、これホラーじゃないんで!!
ホラーだと思って観に行ってガッカリしてる人とかけっこう見かけて、悲しい気持ちになるので......。


では以下ネタバレしつつ、内容について。




























はい、私はね、今まで何不自由なく暮らしてきましたよ。

本作の主人公は、妹が自殺し、両親も後追い自殺し、悲しみのズンドコに沈みすぎて彼氏からも重く思われてしまってるダニーちゃん。
そんな彼女が主人公であり一応視点キャラ的な立ち位置ではあるんですが、どうしても私自身、家族を亡くしたり、メンタルを壊したり、手酷い失恋をしたり、クスリをやったりといった本作に出てくるような人生経験を何も積んでいないので、ダニーの気持ちが分かるとはとても言えません。
また、頭も悪いし教養もないので、作中に散りばめられた謎や伏線の意味も全く分かりませんでした。

だから、刺さったとは言えないんだけど、それでもめちゃくちゃ楽しみました。



その理由として、とにかく圧倒的な映像と演出、意外と説明的な部分も多いこと、色んな要素がぶち込まれていて少しずつツマめることなんかがあるかと思いますね。



前作でも、タイミングがおかしすぎて逆にキマッてるカットの繋ぎ方とかによって的確に不快感を与えてきやがった監督ですが、本作でも、冒頭の美しい歌声をぶった切って鳴るやかましい電話のコール音からして不快な編集が楽しめます。

また、村へ向かう際のぐるっとカメラが回り込んで逆さまになっちゃうとことか、千と千尋で言う橋みたいな、異界へ行きます合図だったり、案外分かりやすいとこも変なセンスで見せてくれて面白い。正直酔いましたが。
異界の合図といえば、夏至でほぼ常に明るいのも、我々の住むこの世界とは一線を画していることの表明のように思えます。



ストーリーは、前述の通り、ホラーではなくって異文化交流+恋愛映画という感じ。

主人公ダニーが大変な状況でかわいそうとは思いつつ、自分の経験値ではどう考えても彼氏のクリスチャンの方に感情移入する他なく、彼がクソ野郎だと言うことが描かれていくにつれて自己嫌悪でそれはそれで軽薄にどんよりさせていただきました。

つらい経験をしてない人間には、してる人間に寄り添うことなんてどうしても難しいし、そうやって他人に寄り添えない人間は他人に弱みを見せて頼ることすら出来ない。
それでいて、自己愛は強いから意外とクリスチャンの方がダニーを捨てることもできず、承認欲求のために彼女に依存してるような感じもする......ってのは全てこれを書いてる私のことですが、そうやって彼に感情移入しながら壊れゆく恋人関係を眺めていました。
彼の些細な言動に同族嫌悪を抱き、あるいは、他のカップルの婚約を祝福するダニーを見ているのが私にとっては1番のホラーだったり。



一方で、ホルガという俗世から隔絶された村の描写もまたすこぶる魅力的。
ドラマ『TRICK』を引き合いに出す感想やネタツイもよく見かけますが、スタンスとしてはあんな感じに、あくまでファンタジーとして楽しむべき。そのための、カメラぐるっと演出なんだろうし。
とはいえTRICKみたいなギャグは入らず(いや、でも笑っちゃうんだけど......)、浮世離れしつつシリアスに描かれるのがいい。

特に、彼らの死生観が印象的でした。
なんでも、人生は18年ごとのサイクルで春夏秋冬をなぞって巡り、72歳になって四季を終えると崖からダイブして輪廻転生!!Yeah!ということらしいですね。
美ジジイの末路にはさすがに戦慄しつつも、死にきれなかった時に一緒に嘆いてくれる村の人たちは優しかった。

この辺で、この村のone for all,all for one的な文化も見えてきます。
セックスにも許可が必要だったり子供の数まで決められていたりと、我々から見ると全体主義の管理社会みたいな感じでディストピアにも見えます。
しかし、個性を重んじるあまりに人との繋がりが薄れ、あるいは考え方の違いで殴り合い、老いて動けなくなっても機会に繋がれて醜く生きながらえさせられるこの現代社会を省みると、どっちがユートピアでどっちがディストピアなのか......と考えると、隣の芝は青く見えたりもします。
だから、本作は一方的な「狂気的な風習を持つカルト村」の話ではなく、異文化との出会いの物語なんですね。



とは言いつつ、どこかでホルガの文化に対して好奇心と軽視とを抱いてしまいますが、同じような気持ちで村を論文のタネにしようと目論んでいるクリスチャンたちはやられちゃったので「自分もあそこにいたら死んでた......」という恐ろしさがあります。

一方、最初は拒絶しながらも村の生活に馴染んでいったのがダニーちゃん。
最後には夏祭りのクイーンになってクリスチャンに裁きを下すまでに出世しますね。
この、村の文化を素直に受け入れるかどうかで迎える結末が変わってくるのが、そのまま他人を受け入れられないクリスチャンと感受性豊かなダニーとの違いを示唆したラストにも思えて、なるほどこれは一組の男女がその断絶を知って別れるまでを描いた『ブルー・バレンタイン』系の失恋映画だったのかと納得しました。

とともに、不幸のズンドコにいたダニーが新しい家族を作り救いを得る話......でもあり、我々の価値観を外して見れば心温まるハッピーエンドです。
この、価値観を揺さぶってくる感じがすごい。好き。あとヘレディタリーと同じくエンドロールがおしゃれ。


あと、タイトルの『ミッドサマー』というのは、もちろん夏至祭のことですが、ホルガでの人生のタームで言う夏のことでもあるんだと思います。
19歳〜36歳。
ホルガ出身の主人公たちのお友達は、この人生の夏の時期に外の世界へ出てアメリカの大学に通います。そこで、外の価値観を知った彼は、それでもホルガに戻ることを選んだ。
そういう、異文化に触れて自分のアイデンティティを確立していく夏の時期を描いた青春映画(いや、青"夏"映画?)でもあるんだと思います。



そんなわけで、ホラーやスリラーの手法を使いつつもアート映画のような映像美とメンヘラ青春恋愛ドラマと変な村モノが混ざったヘンテコ面白ムービーでした。
150分あったらしいけど没入してしまってほぼ長さを感じなかったっすね。
あと、モザイクのシーン、あれはもう、モザイクのせいで笑っちゃう以前に元から笑えるシーンなのでモザイクあってもなくても笑うのは一緒だよね。

あと、主人公ダニー役のフローレンス・ピューさんめちゃくちゃ可愛いしめちゃくちゃタイプ。ジャケ写の泣いてる顔ドアップだとインパクトしか伝わらないけど、ジェニファー・ローレンスみたいな色気がありつつ少女のような可憐さもあって惚れずにはいられない。こんな可愛い彼女がいながらクリスチャンというやつは......。



そんなわけで、なんだかんだ堪能。
ヘレディタリーも本作も監督の実体験が元になっているらしいですが(それが一番ホラーか)、次はどう来るのかが気になりますね。監督はさらなる悲劇体験を持っているのか!?

1917 命をかけた伝令


映画詳しくないんでわかんないですけど、アカデミーショーコーホ?とかいうのに選ばれた話題作ですね。

筋は、2人の軍人が遠隔地にいる味方軍に伝令書を届けるってゆうお話。
ほんとにまじで、「手紙を持って行く」だけというベリーシンプルなものですが、話題になったのが「全編(擬似)ワンカット」という撮影手法。
実際にはところどころにカットが入っているのですが、それを見せないようにしてワンカットぽくしてるやつ。ヒッチコックの『ロープ』の子孫ですね。



......友人と遊ぶことになって、その場のノリで映画館行こうぜ!1917観ようぜ!ってなって観ただけですけど、とはいえ話題作なだけにそこそこ期待してましたが、結論から言うと私はあんまりピンと来なかったですね。
そんな「好みではなさ」についてちょっと書いてみようと思います。




第一次大戦時、イギリス。
イギリス兵の若者・スコフィールドとブレイクは、将軍から重大な任務を命ぜられる。
それは、ここから遠く離れた戦地の前線にいる味方部隊の元へ、明朝までに攻撃停止命令の伝令書を届けろというものだった。
攻撃停止が間に合わない場合、ブレイクの兄を含む1600人の仲間たちが命を落とすだろう。
仲間たちの命のため、走れ、メロス!......じゃなかった、スコフィールドとブレイク!





はい、まぁあんまりハマらなかったなぁというのが正直な感想。

理由は色々あれど、一言でまとめるなら、「ワンカットじゃなくてよくね?」ってとこ。



まず、みんなが言うほど私は臨場感を感じれなかったですね。

なんせ、掴みが遅い。
ワンカットのため、冒頭は主人公たちが歩きながら話すのを延々と映すだけで正直退屈。もう寝ちゃおうかなと思ったところでようやく少しずつ盛り上がりそうな感じが出るものの、結局中盤に差し掛かってのとある衝撃的な出来事まで「本当にこれ面白くなるのかなぁ......?」という気持ちが拭えず。
また、面白くなり始めてからも、ワンカットだからカメラの動く範囲内でしか話が進まないことが分かってしまっていて、特に緊張とか臨場感はなかったですね。また、やっぱりワンカットワンカット言われすぎてるからどうしてもそこに集中しちゃってとても没入なんか出来なかった。

思うに、POVとかリアルタイムとかワンカットとかを使えば必ずしも臨場感が出るわけではなくって、むしろ『ダンケルク』とかみたいにカットを割って時系列を騙ったりする方が臨場感が出る場合もあるんじゃないですかね。


それと、本作のゲームっぽさもそれに拍車をかけてる気がします。
なんせ、冒頭でクエストをもらって、回復アイテムとかを拾ったりしながら色んなステージをクリアしてラスボス(大佐)を目指すっていう構成だし、何より映像が最近のゲームっぽい(ゲームまじで全くやらないからモンハンとかFFでも12くらいで知識が止まってるけど......)。
で、ゲームっぽさでいうと、主人公が自分のするべき動きを全て予め知っているように動くところなんかも、やり込んでる人の実況動画みたい。リアルに戦争を追体験するような生々しさは感じられませんでした。(とはいえもちろん主役の彼の演技は素晴らしいものでしたが)。
なんせ、視点人物はさすがに死なないだろという変な安心感のせいで邦題の「命をかけた」という部分も薄く感じました。(ネタバレ→)相方の方は「兄に会いたい」とか言ってる時点で死亡フラグビンビンやしな


あと、もひとつ分からなかったのはテーマ性。
まぁ、たしかに最後の方のセリフで色々と本作に込められたテーマっぽいものは語られていますが、ゆったらゲームっぽくて楽しそうくらいまでは思ったくらいなので、急にメッセージ性こめられてもなぁ......とちょっと引いた時点で見てしまいました。映像のドヤ感が強すぎて......いや、確かに映像はすごいんだけど、テーマの切実さにそぐわない感じがしちゃいましたね。



そんな感じで、私の趣味嗜好からは外れた作品でしたが、とはいえ確かに趣向はすげえし、厳密にはワンカットではない、そのたった一回のカットの前後で世界が変わるような演出もイカしてるし、敢えて言えばアドベンチャーとして"楽しい"映画ではありました。ただ、戦争映画が楽しくてどうなんだっていうだけで......。むしろ実話ベースじゃなくまるっきり架空のファンタジーとかだったら素直に楽しめたかもしれないな......という感じです。

あ、缶バッジさんよかった。コリン・ファースは出るって知らなくて全く気づかなかった......。

下村敦史『闇に香る嘘』読書感想文

第60回江戸川乱歩賞を受賞したデビュー作。

デビュー作らしい詰め込み具合と、しかしデビュー作らしからぬ巧さを兼ね備えていて、各選考委員が絶賛したというのも納得の傑作でした。

闇に香る嘘 (講談社文庫)

闇に香る嘘 (講談社文庫)


27年前、41歳の頃に視力を失った主人公・村上和久。
彼は病気の孫・夏帆のために腎臓を提供しようとするが、検査の結果、移植に不適合だと判明する。
失望しつつ、岩手に住む兄・竜彦にドナーになってくれるよう頼みに行くが、兄は検査を受けることすら頑なに拒否する。
兄は中国残留孤児で、日本に永住帰国した時には和久は既に視力を失っていて、帰国した兄の顔を直接観たことはなかった。
和久は、実家に住む兄は、本当に幼い頃に生き別れた実の兄なのか......?という疑心に囚われてゆき......。



まず、あらすじから分かるように、全盲、中国残留孤児、腎移植といった見るからに書くのが難しそうなテーマが積み重ねられているのがすごい。
巻末には、それらの事項に関する参考文献として、4ページ以上に渡って膨大な量の書名が挙げられています。
また、著者インタビューによると、「以前最終候補に残った時に、映像的な描写を褒められたので、あえてそこに頼らない設定を自分に課したかった」という理由で主人公を全盲にして映像が視えない作品を仕上げたそうです。
賞の応募作なんてものは、受賞しなければ日の目を見ることなく書き上げる努力が水疱に期してしまうもの。
そのことを何度も落選して分かっているはずの著者が、しかしあえてこれだけの手間暇をかけた労作を仕上げて勝負に挑んだ。
本作の内容もさることながら、著者のそのタフ・チョイスの姿勢にこそ一番感動しました。

と、いきなり著者の努力を褒めるという変な感想になってしまいましたが、内容についても触れていきます。



なんせ、上記の通り、語り手である主人公が全盲なため、当然読者も彼の周りで何が起きているのかを視覚的に知ることは不可能。そのため、一種のホワットダニットみたいなことになっていると言ってもいいのではないでしょうか。
それ以前に、そもそも日常のちょっとした外出ですらサスペンスになってしまったり、常に見えないことから来る不安感が漂っていてそれがページをめくる手を急がせます。
だから題材は重いのにラノベかってくらい読みやすくて良かったです🙆‍♂️


ミステリとしては、「兄は本物か偽物か?」という二択の謎がメイン。これまで兄と思っていた男の正体が分からないというのは、シンプルながら人生を変えるほどの大きな謎で引き込まれます。
さらに、点字で打たれた謎の暗号俳句など、細かい謎は話が進むごとにどんどん積み重なっていくから、本筋はシンプルでも飽きさせません。
まぁ、暗号の件に関してはおまけみたいなものでやや異物感がありますが、そこは江戸川乱歩賞の応募作に"点字の暗号"をぶちこむっていう遊び心を愉しみましょう。

そして、最後に明かされる真実はなかなか衝撃的。
いや、ネタとしてはミステリではよく見かける類のものではあるのですが、なんせ演出が見事。
読者に提供される情報がかなり抑圧されている中で、たった一つの事実から今まで"視えていなかった"ものごとが一気に繋がる。そのまさに視界が開ける感覚はまさにミステリの醍醐味。
そしてなんといっても伏線がすごい。
膨大な量の伏線によって真相を支えていて、なんとその大量の伏線が全て拾われた時に「あっ、あの時の!」とすぐ思い出せる。
「あっ、あの時の!あっ、あの時の!あっ、あの時!あっ、あの!あっ!あっ!」ってな具合に超高速で納得させられちゃうんです。伏線大好きミステリファンにとっては至福の時でしょ。


で、ストーリーも素敵です。
伏線が思い出しやすいということは、エピソードが印象的ということでもある。
主人公が兄について調査する過程で出会う残留孤児や戦争体験者の人たちがそれぞれに自分がどんな目に遭ったかを語っていくのが本書の見どころの一つでもあるのですが、それがまたいちいち読んでてつらくなります。
民間人だった人と軍人だった人、みたいに、色んな視点から多角的に描いているのも良い。

ただ、主人公自身は残留孤児ではないため、その辺の描写はあくまで他人の語る話の範囲。
代わりに、主人公は主人公で娘との確執を抱えていて、それが徐々に明かされていくんだけどそれもまたつらい......。自分のせいでっていうのがまた......。この辺は主人公の傲慢さにどれだけ感情移入出来るかにもよると思いますが、個人的にはリアルに身に染みましたね......私もあんな感じなので......。

しかし、(ネタバレ→)最後には謎も全て解けて、だいたいのことは丸く収まり、過去は悲しいけれど未来に対してはハッピーエンドになっている優しさが良いですね。可能な範囲で最大限みんなが幸せになれる結末といいますか



ただ、2つだけ難点を挙げると......。

1つは、ちょっと詰め込み過ぎな感じがすること。
色んな要素をそれぞれ丁寧にしっかり描こうとしてるのは素晴らしいのですが、そのためにかえって突き抜けて印象に残る点に乏しいような気はしてしまいました。
オール4的というか、乱立する題材のどれもが少しずつ心に残るけど、「5」がないというか......。

もう1つは、いっちばん最後の締め方。
主人公が自らの中にある感慨をあまりにもガッツリ説明してくれるので、読者が余韻に浸る隙間が見つからないというか。もう少しあっさりでも良かったかな、と。

とはいえ、それも裏返せば生真面目さの表れとも思えます。
なんにしろ、著者の他の作品も安心して読めるなと、そう思わせてくれる破格のデビュー作。下村敦史氏、ちょっと注目してみようと思いますです。

みなさんには、夢はありますか?

私には、あります。

いや、ありました。



ーーー私は今日、それを叶えてきました。






俺には夢がある
両手じゃ抱えきれない

(THE BLUE HEARTS「夢」より)






そう、、、
ミスタードーナツで、ドーナツ全部食う」!!!🍩

それが、幼少期からの私の夢でした。

幼稚園の頃、私はエンゼルクリームが好きでした。穴がなくて、クリームが入ってるやつ。
理由は、「穴がない分たくさんだから」。バカですね。
でも、毎回これを食べてたから他のが食べれなかった!

だから、私は誓ったんだ......いつか、ここにあるドーナツ全部食ってやる......と。































4人で行って、ナイフとフォーク持ってって、4等分してきちっと全員全種食べました。
まぁ、案の定途中で吐きそうになってアップルパイとか細かいやつは断念したりコラボ系は食べ残して友人の進藤くんにあげたりはしたんですが、それでも心は満たされました。

ああ、こんなバカな俺の夢に付き合ってくれる友達がいて幸せだなぁ。マブダチのちくわさんは来なかったから許さねえ。



でも、なんなんだろう。

夢が叶ったはずなのに......いや、たしかに満たされた気持ちもあるのに......でも、この虚しさはなんなんだろう。

それはきっと、食べすぎて気持ち悪いからとか、明日仕事行けるのかよという憂鬱とか、そういうものだけではない気がするんです。



夢というのは見つづけているから醒めずにいられるものなんだ。

叶えてしまえば、もう、それは夢ではなくなってしまうんだ。

そんなことを思いながら、赤い電車に乗って日常の世界へ帰る。






何てことはない
俺は夢を全て叶えてしまった

syrup16g「夢」より