偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

浦賀和宏『究極の純愛小説を、君に』読書感想文

なんと、驚くべきことに今年に入ってから浦賀和宏の本しか読んでないです。
こんなんじゃどんどん根暗になっていくのでそろそろ他の人の本を読みたい!


究極の純愛小説を、君に (徳間文庫)

究極の純愛小説を、君に (徳間文庫)



樹海へと合宿に来た高校の文芸部の一同。しかし、謎の殺人鬼により部のメンバーはひとりひとり殺戮されていく。
八木剛は、密かに想いを寄せる草野美優を守ることができるのか......!?



面白かったです。

主人公の名前から分かる通り、こないだうち私も読んでいた「八木剛士シリーズ」とも深い関係のある作品。
もちろん、本作単体でも楽しめますが、自作をメッタメタにディスる自虐ネタが最高に笑えるのと、八木シリーズの結末の一部がネタバレされています。
また、八木剛士シリーズで重要なとあるファクターが本作の仕掛けの一つにもなっています。あるいは、本作は八木剛士シリーズへの著者自身による批評なのかもしれません......。
という感じで、読んでおけばまた違った感慨もあるので、読む予定がある方は先に八木剛士シリーズを読むといいかもしれません。



さて、本作について。

目次を見るからにもう一筋縄ではいかない構成だと分かりますが、その通り話がどこへ向かっていくのかわけわからんジェットコースターのような小説です。

まずは八木剛という意味深な名前の高校生が部活の同級生のGirlへの淡い想いと旅行カバンを背負って合宿へ向かいますが、そこに現れる殺人鬼!
恋もスラッシャーもドキドキするのはおんなじ!なので、初っ端からドキドキ2倍速でイッキに読み進められました。しかし、イッキに読めすぎて、途中で「あれ、まだこんだけしか読んでないのに展開早すぎない......?」とか思ったところから、グイッとツイスト、ツイスト、またツイスト。
本の長さとしては600ページ近くとかなり長めではありますが、そもそもの浦賀さんの文章のヒーダビリティの高さ+予測不能な展開のおかげであっという間でした。

後半の展開も、SFとミステリを組み合わせつつ、実在のホラー映画や有名アニメなんかをがっつり引き合いに出しつつメタな自作イジリをしつつっていうなかなかてんこ盛りな内容。
しかし、安藤や八木のシリーズのような鬱屈した内面語りやインモラルなアレコレは出てこないので、かなりさっぱりとしてて読みやすい。
代わりに、最後まで読んでみるとミステリとしてかなり凝ったことをしていることがわかり、最近よくある「あなたは必ず二回読む!」みたいな惹句を付けたくなるような作品でした。
なので、いわゆる初めての読者からファンまで幅広く楽しめるであろう力作だと思います。


以下少しだけネタバレ。
















ミステリとしての仕掛けは、本書全体が実はウラガシステム・マーク2によって記述されていました!というもの。
準備稿では作中作である文芸部のお話と同じように主人公の琴美が謎の殺人鬼に殺されてしまっていた。
それを改訂して琴美を救うが、作中作である文芸部の物語はまだハッピーエンドにならず......。
そして、決定稿ではようやく......という、まぁ、なかなかややこしいお話なんすね。
この辺の詳しい解説をする気力はないのでこの辺にしときますが、とにかくシリーズではあんなん(いい意味)なのに、シリーズ外の作品ではこういう捻りまくったミステリを平然とやっちゃえるのが凄え。


そして、八木シリーズを読んだ身としては、「八木剛と、彼が想いを寄せるヒロインを救う」という琴美たちに課されたミッション自体が、八木シリーズのあんまりにも救われない結末に対する著者の贖罪のようにさえ感じられて、思わず「ごめんよ、純菜......」と呟いてしまいました。
八木シリーズのネタバレにもなるので伏せますが、(ネタバレ→)童貞/処女であるかどうかで世界が変わるというファクターも八木シリーズをまんまなぞっています。
いわば本書は、救われなかったあのシリーズのキャラクターたちへの鎮魂歌であり、まさに八木剛士の墓であり、タイトルの「君に」は純菜のことなのかな......という感慨がありましたね。

ああ、純菜............。君を救いたかった......こんな汚れた世界から......。

浦賀和宏『生まれ来る子供たちのために』読書感想文


ついに決定的な破綻を来してしまった剛士と純菜の関係。さらに妹の美穂の身にも悲劇が。明かされる八木の出生の秘密。そんなことより、こんなもん書いた作者の浦賀和宏を俺は一生許さねえ!俺の復讐が始まるぜ!


生まれ来る子供たちのために (講談社ノベルス)

生まれ来る子供たちのために (講談社ノベルス)



はい、完結です。読了です。クソです。私の心はクソ模様です。クソ。うんこ。大好き。



えーと、本書は第1章で「とある姉弟」の物語が語られる以外は、各章にそれぞれメインキャラクターたちの名前が冠されています。
その章題の通り、彼らひとりひとりの内面をここにきてさらに深く深く抉り出していき、ひとりひとりの物語に結末を付けていく。
キャラたちに愛着があるだけに一章ごとに感慨深くつらい気持ちになりましたね。

そして、これまで張られてきた伏線の回収や、シリーズ全体に横たわった謎も解かれたり解かれなかったりして、ミステリっぽさも十分。

結末はまさかの×××でびっくり。
そのへん賛否両論分かれそうではありますが、ここまでやらかしたらこうでもしないとどうしようもないというか、どうせ綺麗にまとまるはずもないんだからこのくらいやってくれたほうがいいっつーか。まぁとにかく、良かったです......最悪です......よかったです......。


思えばシリーズの初期はまだ普通のミステリだった気がするんですが、どうしてこうなった......。
たぶん3冊目か4冊目あたりからは、八木剛士の鬱々とした、それでいてエロいこと考えるときだけ生き生きとした語り口に感情移入できるかどうかでかなり評価が変わってくるシリーズであったと思います。
で、私はもうほとんど完璧に感情移入してしまった......というか、なんなら普段思っていることがそのまま書かれていただけってぐらい親近感を覚えたので、同族嫌悪しつつものめり込んで読んでしまいました。
ただ、こんなクソ野郎に100%共感できるうんこマンは世の中そんなにいないだろうから本シリーズが浦賀作品の中でもあんまし人気ないのは分かる。ただ、浦賀作品に通底する青年の鬱屈を分かりやすくストレートに「そこまで書くか!?」ってくらいリアルな恥部まで曝け出した様は素晴らしい。私のようにハマってしまえば浦賀作品の中でもいっとう偏愛しちゃいかねないシリーズであったと思います。



......とりあえず、ネタバレなしにはこれ以上語れないので、以下ネタバレしながらシリーズ全体についてと本書の終わり方について書いていきます。
























というわけでネタバレ感想。



いや、まさかマルチエンディングとは......。

まぁ、一応、核戦争から何億年......みたいなのは剛士の妄想で、純菜側のエンディングの方が現実寄りっぽくはあるのですが、それも実際どうなのか......。煙に巻かれたような気がしなくもないですが、本シリーズのテーマの一つを「自我」とすると、こういう主観次第な終わり方こそ相応しい気がしますね。

何億年もの間絶えずレイプされ続けた純菜が一瞬正気に戻って「コロシテ」と呟くシーンはあまりにも泣いたんですけど、なんでみんなこういう時カタカナで喋るんだろう......。


そして、ミステリっぽい仕掛けとしては“力"を持っていたのが剛士ではなく妹の美穂だったというのは意外性抜群。それが明らかになるのが童貞/処女であるかどうかにかかっているのがまた......。
しかし、剛士の力が失われなかった時点でやはり彼だけが特別なのかと思ったら、実は彼だけが力を持っていなかったという皮肉なオチは、自己の存在意義を問うたシリーズの結末としては完璧なのではないでしょうか。青春小説としてのエモさの中にしれっとミステリセンスを垣間見せてくる感じ好き。 



シリーズ全体のテーマは、一言でくくるなら青年の鬱屈した心理。
細かく見ていくと自意識と性欲と存在意義と復讐と......ってな具合ですかね。
それがめちゃくちゃ生々しく描かれているのにびっくりしましたね。

普通、エンタメ小説って主人公の一人称でもある程度デフォルメがかかってるっていうか、自分に照らし合わせようとするとちょっと主人公が意識高すぎたりするんだけど、八木剛士という男は完全に実際の童貞高校生が考えるようなことを考えていて素晴らしい。
普通、、青春小説だとせいぜいヒロインとセックスしたいくらいなことしか描かれないと思うんだけど、彼の場合はとにかく童貞を捨てられるなら誰でもいい!なんていう潔さ。わかるそれなよくぞ言ってくれた!と喝采を送りたい。

あるいは、純菜をレイプした八木の気持ちだったり、八木が純菜をレイプしたことを知った南部がまず「羨ましい」と思う気持ちだったりも、とんでもなくリアル。
純菜の気持ちを想って胸が痛くなるのも事実ですが、それ以上にクズの八木と南部におもっくそ共感させられてしまうのが恐ろしいです。
普通、そんなリアルな心情を誰も言わないし書かないんすよね。
だから、私は今まで自分がどこか人の心を持たない異常者なのではないかと思ってるフシすらありましたが、本書を読んでつらかったけどある種「こういう醜いことを考えるのは俺だけじゃないんだ」という救われたような気持ちにもなりました。


他にもいろいろ言いたいことがあるはずなのですが、あまりのエモさで言葉にする能力の限界ってのと、言いたいことは全部本編に書いてあるってので上手いこと言えないのでこの辺で終わらせてもらいます。
ともあれ、今まで読んだ浦賀作品の中でもダントツに共感できるシリーズでありました。

それにしても、純菜......きみだけは救われて欲しかった......。

浦賀和宏『地球人類最後の事件』読書感想文


ついにあれをあれした八木剛士だったが、あれにあれされてあれれのれ。
そのあれはあれだったものの、剛士はついにあれをあれしてしまい......。

地球人類最後の事件 (講談社ノベルス)

地球人類最後の事件 (講談社ノベルス)

女なんて嫌いだ
アメリカなんて嫌いだ
女なんて 女なんて 女なんて嫌いだ
女なんてどっかに消えちまえ

はい。
夢中になって読んできた本シリーズも残すところ本書と次巻だけ。

本書でもシリーズ完結に向けてまずはこれまでのあらすじが独白によって語られます。小田渚の。
そう、今まで常に側にいるけどそんなに存在感の強くなかった渚ちゃんですが、実は腹に一物も二物も三物も持っていたことが分かり、この女マジで死ねよと思いながらもそれが案外面白く読めてしまいます。
彼女は他のメインキャラのように特別な"力"を持たず、オタク陰キャでもない、普通の人代表枠のキャラクターとしてこれまでも描かれてきました。そんな彼女が「普通」であるための思考は、私のようなオタクからすると「はぁ?」とキレたくもなるもの。でも実際私から見てもこういうやつおるし、普通であることの醜さまでもこうして描いてしまえるのが凄いっす。
あと、ミステリ論わろた。
......と、ただのこれまでのまとめだったら読み飛ばしそうなところを、こうやって語り手を変えるだけで新しい面白さが引き出されるあたり、浦賀和宏は若者に好き勝手語らせる天才だなと思います。



そして、一応の本題は剛士が連行された強姦殺人事件。
読者としては剛士時点で読んでいるので彼がやっていないらしいことは分かる(彼のことはもはや信用ならないとはいえ地の文だし)んですが、じゃあなんなのか。ハメられた?
さらにそこからやや意外な展開に進んでいき、地味に良い味だしてる某キャラの再登場からの意外にもシリーズで最もミステリらしい真相が明かされます。
皮肉にも、そのやり口が第1章で語られたミステリ論に通じてくるのが浦賀和宏らしい皮肉な味わいで面白い。



でもでも、またいきなりミステリになって驚いたことさえも霞ませるほど、ラストが衝撃。なかなか、ここまで生々しいリアルな感情がフィクションで描かれることなくね?ってくらい、脚色無しで本当のことが描かれています。よくもここまで恥ずかしげもなく心のエグいとこを暴き出せるな、と驚きます。まぁこういう描いちゃいけないことを平気で描くのが著者の作風ではあるんでしょうが......にしても......。
何より最悪なのは、自分がある人物に完全に共感してしまうこと。ここまで醜い心を描きながら、その醜さは私自身の鏡でしかないことへの絶望。というかもはや諦観。

畢竟、人間なんて自然現象の一つでしかなく、夢とか希望とか喜びとか美しい気持ちなんてものは全てフィクションに過ぎないのだな......と、そう思いました。

何はともあれ、ヤバすぎて寝ずに読み耽ってしまい翌日つらかったので、まずは浦賀和宏の名を恨みはらさでおくべきかリストにしっかり書き記しました。

いよいよ次巻で最終回。
たぶん死にたくなるんだろうけど頑張ります。

浦賀和宏『堕ちた天使と金色の悪魔』読書感想文


純菜との和解を果たした剛士ではあったが、彼女との間にはまだ埋まらない溝があった。
そこに現れたドイツ人留学生のエル・ビアンノは、命の恩人の剛士にとても優しい。
2人の女の間で揺れ動く剛士は......。

堕ちた天使と金色の悪魔 (講談社ノベルス)

堕ちた天使と金色の悪魔 (講談社ノベルス)

卵の殻を破った雛
初めて見たのさ ワンダーランド

さて、出番のなかった前作での分を取り返すかのように今回は八木剛士の独白に満ち満ちた一冊となっております。

前半は、前作のアザーサイドみたいなもんで、純菜が目黒野郎と夜を共にしていた頃の剛士の生活が描かれます。
これが案外コミカルでくそ笑いました。
なんせ、学校襲撃事件を起こしてから別の意味で校内で孤立した剛士が海外のポルノ女優にハマってエロエロな妄想を繰り広げたり、かと思えば我流喧嘩殺法"ヤギ・カタ"を開発したりと、よくもまぁここまでと思うくらい陰キャ男子高校生の実態を活写しているんですから。笑いながらも我が身を思って痛々しい気持ちでいっぱいです。よくもこんなことを恥ずかしげもなく書けるもんだと、浦賀和宏の肝っ玉のデカさに改めて感嘆。

しかしながらそんな剛士の元にも、金色の天使エル・ビアンノが舞い降ります。
彼女がとにかく可愛い。
こんな俺(剛士に感情移入しすぎて自分と同一視してきてる私のことです)にも優しくしてくれる、日本人にはいない美しさと可憐さを持った、しかも巨乳の美少女それ即ち惚れるしかねえ!!
そんな感じでカナブーンみたいにゆらゆらゆらゆら綿毛みたいに揺れる剛士くんの新学校生活は意外にもこのシリーズでも随一の青春っぽさ。

そして、後半で彼に訪れる転機。
もはやミステリ要素はゼロだし(なんで前作だけちょっとミステリぽくなったんや?)、今回は派手なバトルもなく、剛士がうだうだ語るだけだけど、でもアレだけでもう十分。
あれだけで、エモみを感じてしまうのです僕ら。

......と思いきや、最後の最後に続きが気になる急展開を迎え、まさにto be continuedと言わんばかりの終わり方。
正直本書単体では内容があるのかないのかよく分かんないけど、シリーズ全体の起承転結の"転"にあたりそうな一冊です。

浦賀和宏『世界でいちばん醜い子供』読書感想文



"彼"との関係に亀裂が入った。苦悩を抱える松浦純菜は、ひょんなことから憧れのロックバンドのヴォーカルに見初められて......。


世界でいちばん醜い子供 (講談社ノベルス)

世界でいちばん醜い子供 (講談社ノベルス)

「あなたあたしの青春だった」
「どうもありがとう それより踊りましょう
想いは冷める 気にすることないよ 誰だって同じさ」


衝撃的な前作から、一旦おあずけとばかりに剛士パートから純菜パートへ移った本作。
ところどころで剛士の前作のその後についても語られるものの、思ったほど前作の余波がなさそうなところに剛士視点POVであった前作と客観的視点との視差を感じます。


それは置いといて、そんなわけで本作は初の純菜視点の物語。
これまで八木の視点で読んできたので意識してなかったですけど、そういえば純菜ちゃんってニートでしたね。
学校にも行かず働きもせずにせっせと色んな男にちょっかいかける彼女のクソビッチ私生活をがっつり楽しめました。
で、これまで八木視点で読んでたから「なんで純菜みたいな美少女が八木なんかに身体まで許す気になるのだろう、ご都合主義が過ぎる、浦賀和宏って童貞なのでは?」くらいまで思ってましたが、こうして彼女の八木への気持ちを読んでみると案外共感出来ちゃっていろいろと納得がいきました。
これまでは八木剛士に自分を投影しながら読んでいましたが、一方でもう半分は純菜のような気持ちもあったことは事実。これで2人のどちらにも感情を移入しきってしまったので、今後の作品はエモさ2倍で読めちゃうかと思います。


で、本書のメインは純菜とメグローズのフロントマン・カツヒコとのデートの場面。これがすこぶる良いんすわ。
最初は八木への後ろめたさがあった純菜でも、金の力の前では無力。あまりにも贅沢にあんなコトやこんなコトをヤりまくっているのを読んで羨ましくなるより他ないですね。私なんか100円のとこしか行ったことないのに......。

そして終盤では突然の事件に突然の推理に突然の解決と、今さらミステリに原点回帰し、突然とある意外な秘密も明かされます。
急にどうした!?とびびりますが、前作の終わり方が酷かった(褒めてます)だけに、良くも悪くも綺麗にまとまった感はありますね。

そして次作では今回ほとんど出番のなかった八木剛士のあれからが読めるのでしょうか。引き続き楽しみです。

ジョジョ・ラビット

月曜日の仕事終わりに名古屋駅へ『九人の翻訳家』を観に行くつもりでしたが、仕事が終わるのが遅くなって遠出がめんどくさくなりました。
でも映画観る気満々な気持ちを満たしたくて、近所の映画館でとりあえず話題になっている本作を観ました。

これが今年初の映画館。

なんとなくふらっと観に行っただけで、ナチスドイツにも特に興味はなかったのですが、観てみたらやられました。
今年のNo. 1フェイバリットはこれだ!と気の早い宣言をしてしまうくらい、ハマりましたね。はい。




ナチスドイツに忠誠を誓う10歳の少年ジョジョヒトラーユーゲントに入るが、ウサギを殺せなかったことで臆病者のジョジョ・ラビットと渾名されてしまう。
そんなある日、彼は母親が自宅でユダヤ人の少女を匿っているのを見つけてしまい......。



そんなわけで、最高でした。

とりあえず、まずはそんなにネタバレせずに本作の魅力について書いてみます。


まず、何が一番良いかって、舞台設定は第二次大戦中のナチスドイツなのに、戦争とか反戦よりも、あくまでコメディ&少年の成長譚として描かれていることです。
爆笑というものではないけど、時々劇場内で私含め観客のぷっと吹き出す声や音楽にノる動きなんかがあって楽しく観れました。
オープニングからして、まるでビートルズのライブのようにヒトラーに熱狂する人々、ボーイスカウトにしか見えない軍事訓練など、題材の重さに見合わない爽快青春映画全開な演出でびっくりしました。

子供が主人公であり視点キャラということで、わざとこうした楽しげな描き方がされているんでしょうが、この時代背景でストレートに青春を描くことで、声高に「戦争反対!」とメッセージを叫ばれるよりもよほど観終わって反戦の気持ちが湧いてきましたからね。上手い。

映像も、そんな世界観を表現するためにカラフルで絵本のような暖かみとノスタルジーとアンティークっぽいくすみもあったりして、端的に言えばベリベリキュート💕です。
戦時中は嫌だけど、でもあの色使いの世界に住みてえ......。

そして、ヒトラー総統ご本人も主人公ジョジョの親友としてファニーにご登場します。
実は彼にはある秘密が......というのは見始めて4秒で明かされるのでわざわざ伏せることもないっすけど、ファニーでキュートでありながらも、時にびくっとするような差別的なことも言ったり、コミカルとシリアスのバランスが絶妙でした(演じているのが監督ご本人というのにもびっくり)。

そうした、コミカルさとシリアスさの融合というのが、作品全体の特徴にもなっています。
なんというか、コミカルとシリアスが切り替わるというのではなくて、コミカルだったりポップな場面の中に唐突にシリアスがスッと忍び込んでくるような。
コミカルなシーンや甘酸っぱいシーンから、突然悲劇に強制転換されるショック。
しかし、実際悲劇的な出来事など前触れもなく起こるものなのでしょう。ましてやここは戦時中。ファンタジックな世界観ではあってもこういうリアリティを時々ぶちかましてくるバランスの巧さにのめり込んでしまいました。



ストーリーの主軸になるのは少年ジョジョの成長。
詳しいことはあまり書くとネタバレになるのでアレですが、「ナチスドイツ」という特殊な舞台設定から描き出される「成長」というテーマのあまりの普遍性に驚かされます。
これはもっかい観ないとはっきり分かんないけど、たぶん「目」というモチーフが象徴的に使われてたり、他にも靴紐や蝶々など、印象的なモチーフによってテーマがすぅ〜っと染み入るように入ってきます。
また、シンプルにボーイ・ミーツ・ガールっぽさもあります。
トーマサイン・マッケンジーさん演じるガールの、年上の女の子感がすげえ堪らん......。いつもジョジョより一枚上手な、それでいてやっぱりまだ子供な、不安定さが透明すぎて、綺麗だ。


そんな2人を見守る周りの大人たちもまた魅力的です。
彼の母親を演じるのはスカーレット・ヨハンソン。めちゃくちゃ綺麗だし可愛いしやばい。画面に映るだけで眼福。その芯の強さ、常に忘れないユーモア、時に見せる弱さ、全てにキュンキュンしたThis is 恋。そのカッコいい生き様を見せてジョジョを育てる素敵すぎるママです。
そして、ちょっとアホっぽいけど実はかっこいい教官がサム・ロックウェル。あんま観たことないけど『プールサイド・デイズ』でもカッコいい変人をやってましたね。見せ場となるシーンがよすぎて悪寒がしました。
この2人の人気俳優がそれぞれ凄い存在感で、しかしジョジョの物語であることを邪魔することはなく名脇役として少年少女を支えているんですね。
そう、新鋭の若手俳優を支える実力派の名優たち。素晴らしい。

もちろん、主人公のジョジョくんは最高。
ナチスに傾倒しすぎて可愛げのない思想を振りかざすんですが、それがまた可愛い。絶妙に可愛さとキリッと感が同居した少年ですね。一発でファンになりました。ちなみにオフショットを見るとめちゃくちゃイケメン。今後が楽しみな俳優さんです。


そしてそして、ユーモアとシリアスとをくるくると切り替えながらキャラの魅力で引っ張ってくれる傑作でしたが、何と言ってもラストシーンが最高なんすよ。はっきり言ってこのラストシーンだけで更にお気に入り度がブチ上がりました。

......というのも、個人的にめちゃくちゃ好きな終わり方を、個人的にめちゃくちゃ好きな曲に乗せてやってくれてるからね。俺のために作ったようなラストです。
こことか賛否が分かれそうな気もするけど、私が観たいのはこれなんだ!と自信を持って言えます。

そんなわけで、今年の初映画館にして既に最高クラスの作品を観てしまったので嬉しさとこの感動を超えられるのかという不安とがありますが、今年もなるべく映画館に通いたいです。



......というわけで、ネタバレあんまなし感想は終わり。
以下では少しだけネタバレして語ってみたいと思います。
























はい、ネタバレ。



まずオープニングがアガりますよね。

ビートルズのアワナホーヂョーヘンのドイツ語版。
存在は知ってるけどあんま普段聴くことがないので耳慣れた声と演奏とメロディに耳慣れない言語が乗っている違和感に引き込まれました。それを、あの映像に乗せるセンスもまた素晴らしい。
あと、ビートルズの曲をそのまま使うのも凄いよね。許諾されるのに幾らかかるやら......。



で、本編ですが、戦時下という状況を利用した、ナチス信者のジョジョユダヤ人のエルサとの、なかなか究極なボーイ・ミーツ・ガールとして描かれてるのが素晴らしいっすね。
まさか2人の間に恋愛感情めいたものが湧いてくるなんて......まぁ、予想しなかったとは言わないけど、にしてもこの状況でこれはわりと予想外。
ジョジョが自分の気持ちに気付く場面の、お腹の中を蝶々が飛び回る演出がすごく好きです。
そして、街を歩くジョジョは低空飛行する蝶々を見つけます。それを追いかけて行くと......しかし、そこには首を縊った母親の足が。
ジョジョの甘酸っぱい恋心に、観客もジョジョ自身も気付いた矢先の出来事なので非常に衝撃的。にやにやしていたら急に真顔にさせられる落差が見事。

で、本作の1番のテーマってのはジョジョの成長なわけでして、それを象徴するものが「愛」。それは恋愛だけにとどまらず、友情や親子愛などまで含めた広いもの。
母親の死の場面は、ジョジョに愛の素晴らしさを語った彼女からの愛を、今度はジョジョが周りの人たち(たとえばエルサ)に振りまいていくんだという予兆とも思えて、より一層泣けるんですね。もちろん、スカヨハ演じる母親のキャラがあまりにも魅力的だったからこそですけどね。
ジョジョに対して自らの考えを押し付けることなく、あくまで愛の表現や自由に踊ることを実践して見せるだけという教育方針。カッコいいですよね。

で、そっからは、それまでヒトラー総統こそ神、ナチス最高!とか言ってたジョジョが、国に植え付けられたその思想に少しずつ疑問を抱き、自らの考え方を確立していくという、ある種アイデンティティ獲得の物語になっていくわけですね。エモい。

不器用さや照れもあってなかなかうまく出来なかったり、自分の気持ちに振り回されて酷い態度を取ってしまったりと、等身大の失敗を繰り返しながら、それでも徐々に(ジョジョだけに)エルサに心を開いていくのがまた可愛い。失敗も無視せず、それでも美しく描く真摯さに惚れました。

そんなこんなで、最後にビンタされるのにはあちゃちゃ〜となりましたが、その後でかかるエンディング曲でこれまでの全てが巨大な余韻の波となって押し寄せて、私の涙腺は決壊しました。

そう、エンディングは、ドイツ語版David Bowie「"Heroes"」
とにかくこの曲好きなんです。
この曲が使われてる映画というとまずはクリスチーネF。
また、最近では『ウォールフラワー』なんかもそうですね。あの作品ではこの曲の"Just for one day"を青春の短さに重ねていました。
それに比べると、本作ではこの曲の持つ皮肉とか刹那さを踏まえた上で、「ヒーローになれる」という前向きな部分が強調されて聴こえます。
じわじわと、音源よりも長いイントロが、静かに踊り始める2人の動きと同期して少しずつ大きな音になっていき、鳥肌が立ち、ボウイが歌い出した時にはもう泣いてました。

そして、サム・ロックウェル演じる大尉が、最初は小者感さえあったのに終盤で実は本作の影の主役と言っても良いくらいの活躍を見せてくれるのにも泣きました。
詳しくは描かれていませんが、恐らく彼はゲイで、また片目を失明した障害者でもあります。当時はそうしたマイノリティがどのように扱われていたことか......想像するしかないですが、きっと彼はプライドを殺して自分を出さないように生きてきたのだろうと思います。
そうやって虐げられてきた彼だからこそ、ゲシュタポ襲来のシーンでとっさにエルサを庇ったり、最後の見せ場であんな行動に出られたのでしょう。
それは、傷付けられたことを怨むのではなく、傷付いた分誰かに優しくできるんだというメッセージなんでしょうね。
エンディングテーマのHeroesは、きっとそんな彼に贈られた歌でもあるのでしょう。デヴィッド・ボウイもまた、性的マイノリティであり、片目がほとんど見えないオッドアイの持ち主でもありました。



他にも、母親の死のシーンなどで象徴的なモチーフとして「眼」というものが使われているようだったり、母親にパパが乗り移ったところは何だったのかとか、色々ともう一回観て確認したい部分は多いですが、とりあえず一回観た感想としてこんだけ置いておきます。
まぁとにかく傑作でした。はい。

浦賀和宏『さよなら純菜 そして不死の怪物』読書感想文


純菜を失った八木剛士には、もはや恐れるものは何もない。謎のスナイパー、チラシ配り姉ちゃんとの戦いで自信をつけ、目指すはクラスの連中皆殺し!!

さよなら純菜 そして、不死の怪物 (講談社ノベルス)

さよなら純菜 そして、不死の怪物 (講談社ノベルス)

ジャスコで買っちゃった武器を手に持ち
198円
全員殺せ


さて、詳しくは触れませんが前作で純菜の愛を失った八木剛士くん。
本作では過去最大にうじうじと悩みます。一冊の中でさえ同じような鬱屈語りが何度も繰り返され、人によっては読んでてうんざりするかもしれませんが私はこれすごい好きです。だって悩んでる時なんて同じ愚痴を何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も頭の中で繰り返してしまうものですよね。それをある種身も蓋もなくリアルに描くならばこうなりますからね。このうじうじうだうだぐだぐだこそが俺たちの青春さ。そうだろ?

各章題で「○○大作戦」と称して八木くんがいろいろなチャレンジをしていくので結構内容はてんこ盛りなはずではあるんですが、とにかく鬱屈一人称が通底しているせいでほとんど話が動いて感じられない......などと言うともはやディスってますが、それが面白い。チラシ配り姉ちゃんはちょっと可哀想だけど......。

そして、クライマックスになると、急にブラックホール並みの吸引力で読者を引き付けてきます。暴走機関車八木剛士。
なんというか、このシーンはPOVみたいに剛士の目を通して映像が見えるような読書体験でしたね。あるいは、それは私も中学生の頃に思い描いた光景だから......かもしれませんが。

そして、あそこで終わるのはずるい。
先がきになる。
と思いきや、次巻は一旦八木パートから離れるらしく、そのままこの先が読めるわけではないらしい。ずるい。