今回は2年前くらいから大注目してる、というか既にスピッツを抜いたら1番好きなバンドと言ってもいいくらいハマってるギリシャラブというバンドの新作アルバムの感想を雑に書きます!
スピッツのアルバムの感想は毎度1万文字くらいになっちゃうので、スピッツ以外はもっと雑に気楽に書こうと思うのです。
↑とりあえずこれがトラックリストなんですが、もはやこの曲名を見て気になった人は聴くべし、全くピンと来なかったら聴く意味ないと思うよ、だけで説明できちゃうくらい曲名が良い!
前作『ヘブン』が個人的には大好きで昨年のベスト2位に入れたくらいなんですが、本作はそんな前作の穏やかな退廃みたいなリラックスムードも半分くらい継承しつつ、今までになく奇を衒った中毒性全振りみたいな曲も入っています。
退廃的な気だるいムードと狂騒的なノリとが合わさった、いい意味で雑多な感じのアルバムになってます。
特に先行配信された「聖/俗」「聖者たち」「退廃万歳」がそれぞれ、「聖俗俗聖俗聖俗聖〜」って言ってるだけの曲、「ジャッカルハゲタカハイエナヘビジャッカルハゲタカハイエナヘビ〜」って言ってるだけの曲、「淫乱快楽不摂生淫乱快楽不摂生淫乱快楽不摂生」って言ってるだけの曲ですからね。
そういう奇を衒った感じの曲が、3、6、8曲目にスパイス的に差し込まれつつ、他の曲はメロディアスな高品質ポップソングであり......いや、奇を衒った曲たちすらメロディはめちゃ良い......。
そして、全曲3分くらいでキュッとまとまってるので30分の短さのアルバムだけど体感は10分くらい!そんくらい没入して一気に聴けちゃいます。音楽は読書と違って受動的なものなので一気に聴くというのも変ですが、感覚としてはそんな感じ。
そして、本作の発売日は偶然にも11月23日=勤労感謝の日!
勤労感謝の日に「退廃万歳」というコンセプトのアルバムを出すという超絶ロックなことをやってのけてるわけですね。
みなさんぜひ勤労への感謝と怒りを込めて聴いてください。
では以下各曲のざっくり感想を。
1.キス・ミー
変なアルバムタイトルだなぁと思ってたら1曲目の開始3秒で回収されるのには笑いました。
チューするのを「んーま!」とか表すこともあるように、「ま」の音は唇を一旦閉じなければ出せないのでキスを表すのにぴったり。
前作の1曲目はゆったりした「カフェオレ」でしたが、今回はちょっと元気いい(?)曲で、じわじわではなく一気に心掴まれます。
ベースラインはぶいぶいしててギターのカッティングもかっけえところに、まーまままーままという気の抜けた響きやカウベルの音で抜け感を演出し、サビ前の一瞬カオスなフレーズで尖ったところも見せる。これだけでギリシャラブの魅力を網羅したような素晴らしい1曲目です。
あと、2Bの「まーまっまー、まーままっ」っていうコーラスが可愛すぎる。
あ、あとギターソロの音色が綺麗で良いっすね。
歌詞でいうと、
止まない雨はないし
病まない人はいないよ
これは至言ですね。
数がものをいうのさ
快楽だけが人生
愛のことなど知らないよ
最後のここはアルバムやバンド自身を端的に表しているようでもあり、歌詞の面でも1曲目にふさわしすぎる......。
2.天真爛漫天国天使
泥沼の中にいるみたいなどんよりした音から始まり、短い中でリズムや曲調を変えながら陰鬱になったり戻ったりしながら、サビでは一気に天国に登ったようにチャキチャキした感じになり、そのまま終わるのがジェットコースターみたいで面白いです。
サビが天国みたいとは言ったけど、変な転調をしたりギターのカッティングや高めの音で動きすぎるベースからはなんかチープさが漂っていて天国は天国でも......みたいな印象の曲です。
歌詞は全体を見ると掴みきれないけどフレーズごとに見るとめちゃ良い。
みにくいものには火をつけて
綺麗な炎にすればいい
というなかなかショッキングなフレーズから始まり、グリコや大人の階段や口の中の国や脳みそキャベツ説など短い中に世界観が詰め込まれ過ぎてて、そもそもタイトルもめちゃくちゃだし、全体としては掴みどころがないけどワンフレーズずつはなんか刺さるっていう変な歌詞なんすね。
グーで買ってグ・リ・コ
あんまり進めないね
このままここにいてもいいの?
というところがなんか凄えいいんだよなぁ。停滞万歳。
3.退廃万歳
飲み過ぎて気分悪いみたいにでろでろしたヴァースから、ブリッジの「しゃばだばだー」のところでゲロ吐いて、サビではすっきりして美メロになったみたいなわけわからん展開が最高。
歌詞は
淫乱快楽不摂生
退廃万歳倦怠礼賛放蕩上等
散財万歳変態礼賛憂愁悠々良俗侵害
退廃万歳万々歳!
だけで、相当気を衒った曲なんだけど、サビのメロディの美しさだけで何回でも聴けるポップソングに仕立て上げているのがマジで凄え。
どーでもいいけどInstagramで歌詞ツイしたら中国語だと思われて「翻訳する」ボタンが出てきました。
タイトル通り退廃的な世界観を極限まで圧縮してコスパ良食い物伝えるギリシャラブのスローガンのような曲、なのかな。
4.タイムラプスの庭
ハードなギターリフに短いシンバルのバシッ、バシッてイントロが気持ち良すぎる、ギリシャラブには珍しいくらいの激しいナンバー。
ヘンテコな前曲からシリアストーンのこの曲への繋ぎもカッコいいですね。
タイトな感じで進んで行って退廃や倦怠や放蕩の気配は薄い......かと思えばサビではリズムチェンジしてしっかり気怠くなるのが流石(?)。
タイムラプスの庭っていうタイトルが良いですよね。冒頭の歌詞のこの世を超越した情景描写が最高です。
美しいままで歳も取らないで
くだらぬこの世を眺めている人はかわいそうだね
永遠の命って 予想通り退屈なものなの
みんな素敵になれるのに 命が二個あればね
この酷い世界で永遠に生きるのはつらいけど、命が二個あれば余裕を持ってもっと優しくなれる......みたいなことでしょうか。わかる。
5.ジャズ・エイジ
前の曲のしっとりした終わり方からこの曲のゆったり落ち着いたジャズっぽさへの繋ぎも最高。
オシャレなんだけど、ジャズっぽさの素となるブラスの音がちょっとちゃちいのが切なさを出してて良いっす。
あと大サビの2段階転調が印象的。
このアルバム全体に言えることですが転調が多用されるのがやっぱなんつーかTKサウンドっぽいチープさを出してて、このバンドの場合は歌詞の世界観にチープさが合うんですよね。
あくまで「チープ感」であって安っぽかったりショボいわけではない、というか。
歌詞も背徳的で狂騒と空虚さが背中合わせに併存してる感じがすごくいい。
白ワインのプールとか、マネキンとキスとか、スノードームを逆さにするとか、一つ一つのフレーズが素敵すぎる。
ジャズ・エイジ(Jazz Age)は、狂騒の20年代と呼ばれるアメリカ合衆国の1920年代の文化・世相を指す言葉である。
Wikipediaより。ジャズって今だとオシャレなイメージだけど、出てきた当時は白人音楽と黒人音楽を混ぜ合わせたまさに狂騒的な若者文化、みたいな扱いだったようです。
そういう、ある種「ええじゃないか」みたいな雰囲気がこの曲の歌詞にもあって好きです。
6.聖/俗
それにしてもこの曲のチープ感ったらやりすぎな気もするぜ。
入りの犯人の声みたいなボイスチェンジ低音とか、その後のシンセの安っぽさとか凄え。あ、安っぽい言っちゃった。この曲と「聖者たち」だけは安っぽいとすら言えるくらいチープなんすよね。
でもめちゃくちゃ好き。
初めて聴いた時からもう「なんじゃこりゃ!」と衝撃的で、脳みそをジャックされちまってます。先行シングルとして春頃リリースされたと思うけど、それ以来たびたび脳みそを占拠されてリフレインしやがる。
もちろんこれもサビが美メロなので奇を衒っているようで何回聴いても飽きないんすよね。
歌詞は大半が「聖俗俗聖俗聖俗聖〜」の繰り返しですが、よく聴くと「聖俗俗聖俗俗俗聖」ってとこもあって聖より俗のがちょっと多いのに笑います。
そしてそれ以外の部分が結構パンチラインばっかりなんすよね。
ぼくのことネックレスみたいに
首から下げて飾ってみて
趣味は悪いほどいいのさ
趣味は悪いほどいいに決まってる
ぼくらはもう、子供じゃない
だからこれは、遊びじゃない
言葉のわからない獣なら
きっとわかるのに
などなど。
中でも、
君は君のまま、君じゃなくなる
君は君のまま、ぼくになる
というところは曲展開も相俟ってドキッとしますね。
オタクに刺さるカッコいいフレーズだけ詰め込んだみたいな歌詞で写経したい度ナンバーワンです。
7.人口の天国
すっちゃっすっちゃっていうレゲエっぽいリズムで、スリーピースらしいシンプルなサウンドなのでポリスっぽさを感じるんだけど、ポリスはこんなに気怠くねえわ。堕落したポリス、みたいな。
聴いてると何もかもどうでも良くなってきます。
曲は短いのにアウトロが結構長くてカッコいいんすよね。
歌詞も何もかもどうでもよくなる感じ。
冒頭の
パラシュート パイナップル エメラルド色の太陽
というところにビートルズっぽいサイケ感がある気がします。ルーシーインザスカイみたいな雰囲気というか。
これまでの曲でも脳みそはキャベツだの脳みそを捨てればだのと言い続けてましたが、
ぼくらは人形失格
なにかものを考えたりして
ってとこにその根源がある気がします。
なにもいらない
ほしいものなら
この世のすべて
という退廃ジョークもお手のもの。
君は人造の天使 キスの雨を降らす
銀色に光る唾液で 骨抜きにされるしゃれこうべ
とか、意味はよくわかんないけどチョーかっけえよね(脳みそキャベツ並みの感想)。
8.聖者たち
動物の鳴き声みたいな音からのジャーンっていう入りが昭和のヒーローもののアニメみたいなアホくささがあって好き。
これも脳みそジャック系中毒ソング。
「淫乱快楽不摂生」「聖俗俗聖俗聖俗聖」に比べて言葉数が多いのでちょっと早口言葉っぽさもあって、ついつい言いたくなる度はナンバーワンかも。
「ライオン」が入る時と入らない時があるせいでメロディに対する文字のハマり方が微妙にズレる感じもめちゃくちゃ気持ち悪くて気持ち良い!
間奏のフォンフォンいう夜の風俗街っぽいシンセとか、軽薄さすら感じさせるベースラインとか、全ての音にいかがわしさがあってあまりに気持ち良い。なんとなく「カストリ」という言葉を思い出します。
ジャッカル、ハゲタカ、ハイエナ、ヘビ、ライオン、蠍に、パンサー、猿
と悪い人間を形容するのに使われるような動物たちを羅列し、
I Hate You やつら悪徳の獣たち
人間のふりしてる獣たちさ
と言い切ってしまう。それでいて曲名は「聖者たち」というのが絶妙。これが「悪徳の獣たち」だったら「動物の名前羅列してるだけじゃん!」と思っちゃうけど、「聖者たち」ってタイトルで一気に詩的になります。かっちょええ。
9.バースデイ
30分間の狂騒ももうすぐ終わりで、この曲は前作アルバムの「旅のボヘミアン」や「テレパシーでランデブー」あたりの雰囲気を感じさせるゆったりして心地よく懐かしく切ない印象の曲。滅びの予感を纏ったのどかさみたいな。
他の曲みたいにヘンテコじゃないので何書いていいかわからんけどめっちゃ好きなんですよね。
サビのカッティングとかカッコいい。ゆったりした曲でサビにカッティング入ってくるとカッコいいんです。サビだけじゃないけど「ライムライト」とかもそんな感じっすよね。あれも大好き。
お誕生日おめでとう
ケーキの蝋燭の火に映るぼくらの姿
裸だね、愚かだね
このなんというか、非生産的な恋人たちという雰囲気が他人事とは思えなくて好き。
狂ったサンデイ
奇妙なマンデイ
口づけチューズデイ
溺れたウェンズデイ
爆発サーズデイ
エロいフライデイ
お手紙サタデイ
ぼくらのバースデイ
口づけ→「チュー」ズデイ
溺れた→ウェンズデイ("水"曜日)
とちょっとだけ言葉遊びをしてるけど全部ではない抜け感とか、突然の「エロいフライデイ」の抜け感とかが好きすぎる。あと「愛の季節」にも口づけするなら火曜日ってあるけどなんか元ネタあるんかな。あったら恥ずいな。
曜日を順番に言ってく歌詞って、まぁ好きなんだけどちょっとベタでダサく感じてしまうけど、「エロいフライデイ」というガス抜き(?)があることで逆にオシャレになってるんすよね。
他の曲でもちょいちょいあるけど、こうやってふわっとユーモアを入れてダークな世界観をゆるくする天才だと思う。
10.愛のため、平和のため
ごめんなさいよく分かんないけどチェンバロ?かなにかそういう感じの音をポロポロと爪引きながら歌う静かな歌。
穏やかでありながら情感の籠った歌と聖歌のようなコーラスが美しく儚く切実で優しい。
曲自体が変だったり歌詞が奇抜だったりする曲ばかりのこのアルバムの締めくくりが1ミリもふざけていない真摯なこの曲なのが凄い。
ラブとピースより
ハグとキッス
愛のために、平和のために
この歌詞を書いただけでもう天川悠雅はポップミュージシャンとしてやるべきことをやりきったのではないか、ってくらい素晴らしいリリックです。
「キス・ミー」で「快楽だけが人生 愛のことなど知らないよ」と歌ったところから、退廃と淫蕩の9曲を経て、ハグとキッスこそが愛と平和というところに繋げるのがエモすぎる。
1曲目とリンクすることでアルバム全体を一つの作品としてまとめ上げてもいて、だからこそ1曲も飛ばさずに何回も聴きたくなっちゃうんですよね。
......という感じで、正直曲単位では前作に好きな曲がありすぎるんだけど、アルバムとして見れば断然本作が最高傑作と言ってもいいんではないでしょうか。最高です。みんな聴け絶対。