偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

大柴健『君が死ぬ夏に』(全7巻)感想

微妙に話題になってた青春むずきゅんタイムリープ幽霊ミステリ。



高校生の主人公・山野智也の元に、中学時代から片思いを続けていた谷川沙希の幽霊が現れる。
彼女は10日から1ヶ月ほど後の未来からやってきたらしく、その時期に彼女は殺されてしまうらしい。
彼女の死を防ぐため、山野は未来の事件の犯人を探しはじめる......。


と言った感じのお話。

絵柄も含めていろいろあざといんだけど、でもめちゃくちゃ面白かったです。あざと面白い。
青春ラブコメとミステリを合わせてくるあたり私を狙ってますよね。あざてえ。


まずミステリとしてですが、正直設定を便利に使いすぎてるきらいはあります。
幽霊とタイムリープという二大オタクが好きなやーつを組み合わせることで、片方ずつでさえ便利なのがご都合主義の域にまで高められています。
とはいえこちとら『シックスセンス』も『バタフライエフェクト』も大好きですからね。大好きな二つが掛け合わさるとなればテンションも上がるってもんよ。

で、その辺のご都合感をさておけばとにかく面白かったです。
全体を通して大きなどんでん返しとかはないんだけど、本筋の未来の谷川さんの事件が二転三転しつつ、その容疑者たちとの間に起こる細かい問題をひとつひとつ頭脳戦で解決していく展開になっているので、常に何かしら推理してる感じ。
そうした細かいエピソードが一難去ってまた一難とばかりに繋がっていくところの"引き"も上手くて、派手さはないけどストーリーテリングが上手いなぁと思いました。


一方で青春ラブコメとしてですが、これはさらにあざとい!!!
なんやねん!え!??高校生で?夏休みで?バンドで?幽霊で?両片想い??
んなもんはサブカル拗らせのロイヤルストレートフラッシュやねん!役満やねん!
俺の本当の青春なんてのはクラスで話せる相手が1人もいないけど気にしてないフリして平然と自分の机で弁当食べてたけど内心恥ずかしくて修学旅行の班決めではとりあえずみんなが好きな人同士で組んだ後で一番人数の少ない班に機械的に入れられてたみたいなうんこだったのにこういう漫画や映画や音楽のせいで俺にもこんな輝かしい青春の恋と友情があったかのように思いたくなってしまってつらい。
谷川沙希は男の欲望を一身に引き受けたかのようなハイパーあざと美少女だからこんなの好きって言ったら品性が疑われるけどそれならもう俺は品性なんていらねえ!谷川さん!好きだ!僕と付き合ってください!!
てかてめえら両片想いってなんやねん!全員分かってるわ!自分らだけだぞ気づいてないの!てか気づいてないフリしてねえか!?こんなんどう考えたって好き合ってるやろ!むかつく!俺の谷川さんを返せ!!

全体に恥ずかしくなるくらいのむずきゅんの中に、しかし彼女の死が迫ることの緊迫感や切なさが良いスパイスになって、ベタ甘なのに甘すぎない上質なスイーツに仕上がってるんすね。

終わり方も、これ以上ないくらいズルいですよね。うん、ズルいよ。どっちもあるんだもん。

そんな感じで、7巻とお手頃な長さでがっつり楽しめる傑作でした。地味にオススメです。