偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

狂い咲きサンダーロード

先日、映画秘宝のオールタイムベストみたいなムックが出ました。パラっと立ち読みしただけで買っていないのでうろ覚えですが、上位には「ゾンビ」「悪魔のいけにえ」「マッドマックス 怒りのデスロード」など妥当な作品が並んでいましたが、その中に聞いたことないけど強烈なタイトル・ビジュアルの作品が......。それが今回ご紹介するこの作品です。

 

 

狂い咲きサンダーロード コレクターズ・エディション [DVD]
 

 

製作年:1980
監督:石井岳龍
出演:山田辰夫、他

☆4.0点

 

〈あらすじ〉

トーリーはシンプルです。新道交法制定に伴い、暴走族グループたちが、片や「警察と仲良く愛される暴走族」を目指すエルボー連合(なんじゃそりゃ)を作り、片やスーパー右翼(なんじゃそりゃ)"国防挺身隊"に合併と、二分していく近未来の日本で、"魔墓呂死"の特攻隊長・仁がどちらの権力にも靡くことなく最後まで単身ツッパリ続けようとする。

 

「逆噴射家族」「蜜のあわれ」などで知られる(どっちも観てませんが)石井岳龍監督が学生時代に卒業制作として撮った作品です。学生映画でありながら劇場公開され、未だに絶大な支持を誇っています。この生い立ちからして伝説になるのに相応しいですよね。

 

学生映画らしく演技や編集の素人っぽさはありますが、その分、わけの分からない熱量が物凄いです。だってもう公式のコピーが「ロックンロール・ウルトラバイオレンス・ダイナマイト・ヘビーメタル・スーパームービー」ですからね!語彙が小学生かよ!

 

見始めてまずオープニングシーンにシビれます。
まずゾクの面々の格好が物凄くカッコいい。黒の革ジャンにリーゼントあたりはまぁカッコいいけど普通ですが、その中になんか口にトラバサミみたいなのはめてる人とかなんか顔を緑と赤に塗った人とかなんか大仏みたいなマスク被った人とか、"なんか変なビジュアルの人"がたくさん出て来て、特に意味はないですがワクワクします。そんな格好で落書きだらけの倉庫で無駄にドスの利いた声で喋る人たち。ずっとあの喋り方してて疲れないんでしょうか。恐るべき体力です。
そして流れ出す音楽も男臭くてロックでかっこいい。泉谷しげるの曲だそうで、イマドキの若者なので、泉谷しげるといえば妖怪の漫画描いてる人とよくごっちゃになる怖いおじさんくらいのイメージしかありませんでした。こんなカッケえロックミュージシャンだったのか......。この泉谷しげる及びPANTA&HALというバンド(頭脳警察の人らしいです、初耳)の曲は全編に渡ってうるさいくらいにずっと鳴っているのですが、そのうるささがこの作品の場合は邪魔にならないあたりズルいです。
またネオンライト風の文字で出るタイトルテロップもハイセンス!

 

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テレビ画面を写真撮ったので画質ゴミですが......。

 

からの間髪入れずに抗争シーンに突入!この辺の冒頭のスピード感あるヒキが絶妙で、何のグループと何のグループがどうして戦ってるのかさっぱり分からないのにテンションぶち上がります。
オープニングのことだけで長々と書いてしまいましたが、オープニングが最高なのでその後も熱に浮かされたように見入ってしまったのでやっぱオープニング大事です。

 

その後の展開は、まぁ人間関係はややこしいですが、要するに主人公が多数派に反抗してボロボロにされて復讐するというシンプルなものです。
凄いのは主人公がそこまで頑なに反抗する理由がはっきりと描かれないことです。楽しかった魔墓呂死での日々への愛着か、多数派への反感か、なんとなく意地張ってるのか、何なのか観ててよく分からないし、本人もよく分かってなさそうなんですよね。それが何ともリアルで、主人公の「よく分からない情熱」がそのままこの映画の「よく分からない良さ」とイコールになっている気がします。

なので、その情熱が行き着くクライマックスの戦いがやっぱり最大の見所です。
真っ黒なバトルスーツとヘルメットに身を包み、その辺のヤク中の小学生(なんじゃそりゃ!)たちと手を組んで国防挺身隊のやつらに復讐するために最後の特攻をするんです。シビれます。
実はこの辺低予算映画なのでアクションの派手さっていうのは冷静に観るとそれほどでもないんですが(ゆーて学生映画であんなに爆発とかしてるの凄えっすけど)、なんせこっちももう冷静じゃねえんだ、テレビ画面から5cmくらいの距離に噛り付いて見入ってしまいました。
そして、ボロボロになった主人公の最後......興を削ぐので書きませんが、彼の最後が素晴らしいです。

 

また、ここまで主人公メインで書いてきましたが、全てが終わってから後日談のように出てくる魔墓呂死の元リーダー健さんのその後も、何とも言えない余韻を残します。

 

とまぁ、興奮して長々と書いてしまいましたが、実はもっと簡単に二言で言い表せる作品です。
「熱量が凄え!」

「いいからみんな観ろ!」

 

 

 

......余談ですが、「バトルロワイアル広場」「バックブリーカー砦」「デスマッチ工場跡」などの印象的な地名がテロップで紹介されるのがシュールで笑いました。

冬の怪談 〜ぼくとワタシとおばあちゃんの物語〜

TSUTAYA FASもとまち店をご存知だろうか?愛知県豊田市の周囲に工場が多い場所に立地するTSUTAYAで、その土地柄から車で行くと混んだり道が複雑だったりとけっこう面倒なお店なのである。だが、そこには愛知県の他のTSUTAYAではなかなか置いてないマイナーなホラーの品揃えが多い。

 

ってわけで、そこでついつい借りちゃったのがこの作品なのでした......。

 

 

冬の怪談 [DVD]

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製作年:2009
監督:上野コオイチ
出演:矢島舞美福田花音

☆0.6点

 


アイドルにハマれないタイプの人間です。正直アイドルの追っかけとかしてる人の気が知れないと思います。でもそれはそれとしてやっぱり可愛い女の子を見るのは幸せなので、B級アイドルホラー映画なんかはたまに観たくなってしまうのです。

 

トーリーはめちゃくちゃで、霊媒師だった主人公の祖母が亡くなったことでいままで彼女を恐れていた悪霊(いわゆるゾンビ)たちが現れる。そいつら若手霊媒師の矢島舞美ちゃんが倒していき、主人公とその妹を守ろうとする、ってな具合の私の文章の下手さをさっぴいても見るからにつまらないお話です。

実際に、見てると台詞でめちゃくちゃ説明するという無粋なことをやってもなお説明がよく分からなくて話についていけないというダメっぷり。演出もボイスチェンジャーにかけたような気持ち悪い声、ひゅぅぅぅ〜んとかびょわぁぁぁ〜みたいな音、「明るさ」のツマミをぴいーっと下げただけみたいな妙に暗い画面など徹頭徹尾安っぽくて、ここまでくると素人臭さに親近感すら湧きます。
そんなつまらん映画でしたが、しかし70分飽きずに見ることができました。というのも......。

 

そう、今作に女子高生霊媒師役で出ている矢島舞美ちゃんですが、個人的に世の中の女性有名人の中でも鈴木咲や幼少期のアーシア・アルジェントや逢田みなみに並んでトップクラスに好きな外見なのです!
だから、どんなに映画の内容がつまらなくても彼女を見ていれば飽きることはありませんでした。どんなに映画の内容がつまらなくても。あとどんなに棒読みでも!いやまぁそもそも変人の役なので棒読みのがミステリアス感出てる気もします!そうです。私はあの子の味方なのです。
「ゾンビデオ」では高かった露出度が今回低めなのは("冬"の怪談
なので当然ですが)ちょっと残念。しかしそれゆえに際立つスカートとニーソの間に見えるふとももはバスの揺れ方よりも明確に私に人生の意味を教えてくれます。これを拝むために私は生まれてきたのだ。ふともも万歳。霊媒師の彼女ですが、攻撃方法は①十字架②お札③蹴り の3つだけ。そのためお話としてはくっそつまんないんですけど、あの綺麗な脚が美しい曲線を描いて繰り出す蹴りを見ているだけで幸せになれるので良かったです。

 

また、超絶美人の矢島舞美ちゃんには敵いませんが、中学生の妹役の福田花音ちゃんもめちゃくちゃ可愛かったです。自分ではロリコンじゃないと思ってたけどもしかしたらロリコンの気があるのかもしれません。あんな中学生の妹にめちゃくちゃ棒読みでも「ばっかじゃないの!」なんて罵られることができたなら死んでもいい。あんな可愛い友達の妹に朝出会って「おはようです」なんて言われたら私ストーカーになる。妹目当てで友達の家に通う。

 

また、超絶美少女の矢島舞美ちゃんと、ロリ系美少女の福田花音ちゃんには敵いませんが、ゾンビ化する主人公のクラスメイトの女の子も良かったです。具体的に露出するとかはないけど素人っぽい演技での色仕掛けが妙に生々しくて大いに性欲を刺激されました。ゾンビになったクラスのマドンナに食われて死にたい。いつか彼女が出来たらゾンビになって食べてもらいます。

 

そんな感じで、映画の内容は特に触れる気にもならないものでしたが、女性陣の美しさだけで見られるという点においてある意味とても模範的なアイドルホラーだと思います。また女の子ばっかり目についてしまいますが男共も超絶怒涛に童貞臭い主人公、なぜかラストでサイコサスペンス化する友人など、妙にいい味出してて印象に残っています。


見る価値ないけど男なら美少女目当てに見て損はない駄作でしょう。

フォロウィング

先日映画館で『スプリット』を観に行った際、クリストファー・ノーラン監督の最新作『ダンケルク』の予告編を観ました。圧倒されました。予告だけでこの迫力なら本編観たら私どぉなっちゃうの!?というわけで、絶対観に行こうと思いつつも、昔の低予算の作品が懐かしくもなり......これを借りて来たのでした。

 

 

フォロウィング [DVD]

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製作年:1998
監督:クリストファー・ノーラン
出演:ジェレミー・セオボルド、アレックス・ハウ、ルーシー・ラッセル

 

☆4.5点

 

〈あらすじ〉

自称作家志望の主人公の趣味は、街で見かけた人の後を尾けること。尾けるだけで何もしない。ただの人間観察。ある時、彼は尾けていた男に勘付かれてしまう。しかし、その男も人間観察のために泥棒をする変人で......。

 

 

2回目の鑑賞。恐らく大学1年生ぐらいの時に初めて観たんだったと思います。あれから4年経ち、今や社会人1年生ですが、この映画はあの頃と同じ興奮を味わわせてくれました。

Wikipedia先生で調べてみたところ、制作費は6000ドルとか。物凄く雑に1ドル→100円で計算すると60万くらい?映画の制作費についてよく知らないのでどれくらい少ないのかピンと来ませんが、次作の『メメント』でも既に900万ドル、最新作『インターステラー』に至っては1億6500万ドルというのを見ると数え間違いかと思うくらいの差ですよね。インステ約3万倍ですよ!?

でもでも、本作はそんな超低予算というハンデをものともしないどころか逆に武器にまでしてアイデアとセンスだけで戦っためちゃくちゃアツい作品なのです!

 

アツい、といっても、作品の雰囲気は冷たく硬質なフィルムノワールへのオマージュという感じ。
あえて白黒にしてあるのも、普通に撮れば出てしまうだろう映像の安っぽさを、クラシカルでシンプルなカッコよさに変えています。

そしてなんといっても凄いのが脚本の緻密さです。
メインの登場人物はたった3人。脇役を入れたって総勢5人だけ。時間も70分と中編並みのコンパクトさ。
そんな限られた予算、時間、キャラでここまで緻密なミステリが出来上がるとは......。

本作の最大の特徴はやはり時系列のシャッフルでしょう。
これは後の『メメント』でも(確か本作よりもより必然的に)使われている手法で、ノーランの「知的」というイメージの原点だろうと思います。
何せ時系列が全くバラバラになった状態で話が進むので、序盤は特に「これはいつなの?」「主人公なんでケガしてるの?」「そもそも何してるの?」などなど頭の上にでっかいクエスチョンマークが浮かびっぱなしです。
それゆえに、その謎が少しずつ解けていって、少しずつ物語の全貌が見えてくることそれ自体がカタルシスであり、話が進むたびに謎が少しずつ解けていくことで常に小さなカタルシスが連続している状態を味わえます。要は観てるだけで快感。
とはいえ、もちろんただバラバラの時系列の本来の構造を解いていくだけが本作の謎解きではなく、その果てにある意外な結末こそがキモなのです。なんならそれまでの描写も全てこの結末のための伏線だったにすぎません。ここに至ってついにドMなミステリファンたる観客は快感絶頂に至るわけです。少しずつ絵が見えていく興奮、そして最後のピースが嵌った時の快感、"パズルのような"という形容詞はこの作品のためにあると言っても過言ではありません。

ここまでパズル的緻密さに焦点を絞ってきたので、「ミステリ部分が凄いだけでストーリーつまんないんじゃね?」と思われるかもしれませんがそれは杞憂です。
確かに、アクションとか恋愛とか家族愛とか友情とかは描かれません。
しかし、狡猾な男の鮮やかな手口を味わうクライムサスペンスとして、また名もなき男の身に起こる悲劇として、本作は観客の興味を惹いて離さない優れた物語でもあるのです。エンドロールで主人公の名前が"The Young Man"となっているのも、都会の片隅で孤独に生きる我々のような凡人に起こり得る悲劇として恐怖を煽ってきます。

緻密な謎解きパズルにして、狡猾なダークヒーローの暗躍譚であり、孤独な現代人の恐怖譚でもある本作。ミステリ、フィルムノワール、どんでん返し、クリストファー・ノーランが好きな人には是非とも必ず絶対に観て欲しい傑作であり、どれだけ大作を撮ろうともノーラン作品の中でこれが不動のマイベストです。
いやでも『メメント』も同じく緻密だし『プレステージ』のてんこもりさも好きだし『インターステラー』の壮大さも『ダークナイト』の興奮も忘れがたく......嗚呼、I ♡ ノーラン

スプリット

「1番好きな映画は?」と聞かれたら、何と答えるか。映画好きなら時々出くわす難問でしょう。そんなこと聞かれたってミステリならアレがいいしホラーだとゾンビ系ならアレで幽霊系ならアレで人間が怖い系なら......なんていくらでも好きな映画のタイトル出てきて1番なんて決められませんよね。
でも、「1番好きな映画監督は?」と聞かれたら答えは簡単ですね。そう、M・ナイト・シャマランと答えるだけですから。

 

 

 

 


製作年:2017
監督:M・ナイト・シャマラン
出演:ジェームズ・マカヴォイ、アーニャ・テイラー-ジョイ

☆3.7点

〈あらすじ〉
主人公・ケイシーら女子高生3人がクラスメイトの誕生日会の帰りに誘拐される。誘拐犯は神経質そうな男......だったが、監禁部屋を訪れるたびに別人のような口調・雰囲気に変わる。やがて主人公たちは、彼が23の人格を持つ多重人格者だと知ることになる.....。

 

※致命的なネタバレはしていないつもりですが、本作とシャマランの某作の肝の部分に触れています。先入観なしで観たい方はご注意ください。

 

というわけで、ついに!シャマランの新作を映画館で観ることができました!感慨深いものがあります。
しかも、その作品がシャマランにとって明らかに"特別"な作品なのですからもう......。

さて、始めに言っておくと、「3人の女子高生vs23の人格を持つ誘拐犯」という宣伝文句で喧伝されている本作、また「どんでん返しの魔術師」というイメージを植え付けられてしまったシャマラン監督、これらの情報から本作に対して「どんでん返しの凄いサイコスリラーなのね」という期待はしない方がいいです。

なぜなら本作はミステリーではなく、(恐らくは)スーパーヒーローが誕生するきっかけとなった事件を描いた「エピソード0」だからなのですが、それは後述するとして......。

まず、私の思うシャマランらしさの中で、どんでん返しと笑いに関してはちょっと控えめだったかなと思います。
それでもダンスのシーンや女性人格のキャラ、パンツの子とブラジャーの子という登場人物の描き分けには笑いましたし、実は×××でしたという予想の斜め上から来るサプライズには納得させられました。驚かされるというほどじゃなかったのが惜しいところです。いかにも仕掛けて来そうな雰囲気を出しといてあれだけなのもしょぼいっちゃしょぼいですよね。

しかし、ホラー要素とドラマ要素に関してはさすがのシャマラン印でしたよ!
今回演出はわりとベタで、逃げ切ったと思ったらバンって来たり、意味もなくガシャンってしたり音系のどっきりが多かった気がしますが、もちろんメインはそこではなく多重人格の誘拐犯の存在でしょう。最初のうちはどんな人格がいるのか、今どの人格なのかという得体の知れなさ、中盤以降は彼らの言う"ビースト"の存在がそれぞれ不気味に迫って来ます。そしてラストではもちろん"ビースト"との追いかけっこにハラハラドキドキですね。

 

そして、本作の肝がドラマ部分、すなわち「スーパーヒーローの誕生」なのです。「アンブレイカブル」でも同じテーマが扱われていましたが、本作はあれをより分かりやすく、より現実に寄せて描いた第2の「アンブレイカブル」と言ってもいいと思います。
本作で24番目の人格として登場する"ビースト"の能力はさすがに現実離れしていますが、それでも女性や子供を含む24重人格というのは明らかにビリー・ミリガンの実話を下敷きにしていますし、精神が変わることで肉体に影響が出るというのも(あそこまでメチャクチャなものじゃなければ)実際にあることだそうです。プラシーボ効果なんかも似たようなものでしょうか?
このように、超人(スーパーヒーロー)となるケヴィンの能力がかなり現実にあり得そうなものになっていることで、苦痛を味わうことによって力を得るというテーマにもよりリアリティが出ていて、地下室での攻防のラストでの感動も高まっているように思います。主人公の少女にとっては、自分を虐待するものだと思っていた"ビースト"が自分の同類だと知る場面こそ何よりのどんでん返しでしょうね。
また、面白いのは本作がケヴィン→"ビースト"という超人の誕生を描いているのと同時に主人公の少女が彼に出会うことで超人として目覚めることを示唆するような終わり方になっていることです。
彼女が幼少期のエピソードでは超えられなかった壁をこの先超えてしまうのか......?彼女もまたスーパーヒーローになるのか......?それとも......?その答えが次回作「ガラス」にあるのでしょう。やるせないような、でも次作への希望を予感させる、絶妙な余韻のある結末だと思います。


そして、アノ人が登場するラストシーンはある意味今年観た映画で一番の鳥肌モノ。監督のツイッターで「アンブレイカブル」との関連は知ってはいましたが、それでもシビれました。まぁ、「なんかあの事件に似てない?」っていうほど似てるとは全く思えないのが玉に瑕ですが。

 

「ヴィジット」はシャマランらしさが(今までのどの作品よりも!?)横溢したファンには嬉しい傑作でしたが、本作は過去作との関連が日に陰に感じられるという意味でやはりファンには嬉しい作品でした。間違いなく"完全復活"したのだと実感しました。
単品としては正直そこまででしたが、シャマランなら必ず続編「ガラス」であっと言わせてくれることでしょう。あと2年も待つのはつらいですが楽しみに待ちます。

エターナル・サンシャイン

初投稿です!わっしょい!

記念すべき最初の作品は『エターナルサンシャイン』です。でーん。

 さて、私は捻くれ者なので初投稿のめでたさとは対極の話題からはじめますが......先日、失恋しました

はい、そんなわけで、なぁんかつらい恋愛映画が観たい気分になりまして、以前に一度観たことのあるこの作品を再び観たのですが......。

 

 

 

製作年:2004
監督:ミシェル・ゴンドリー
出演:ジム・キャリーケイト・ウィンスレットキルスティン・ダンストマーク・ラファロイライジャ・ウッド

 

☆4.3点

 

〈あらすじ〉

バレンタイン直前に彼女と喧嘩した主人公。謝るために彼女の職場へ行くと、彼女は主人公のことなど忘れたかのように、他の男とキスをしている。憤って友人に相談した主人公は、彼女が記憶消去手術で「ように」ではなく本当に自分のことを忘れてしまったのだと知る。ショックを受けた主人公は自分も彼女の記憶を消すため記憶消去手術を受けに行くが......。

 

 

というわけで2度目の鑑賞なのですが、(うろ覚えながら)内容を知った状態で見たことや、単純に前見た時より恋愛経験を積んだことで(←)当社比5千億兆万倍楽しめました。楽しめたっつーか、しんどかった。人は何故わざわざしんどくなるためにつらい恋愛映画を摂取するのでしょうか......。

 

まずは.....。
キャスト、良いです。変顔のイメージしかなかったジム・キャリーですが、普段はイケメンなんですね。なんせ彼の出演作はイカれたフリして精神病院に潜入したけど他のどの精神病者よりも素でイカれてる刑事ってのしか観たことなかったので(エース・ベンチュラ)こんな役も出来るのかと驚きました。

逆に正統派なイメージのケイト・ウィンスレットは髪の色が信号みたいにコロコロ変わるエキセントリックな役という意外性。

脇役も、今とイメージ違って気づかなかったマーク・ラファロ、少なくとも男から見たらめっちゃ可愛いキルスティン・ダンストトレインスポッティングに出てきそうなイライジャ・ウッドなどなど魅力的な面子が揃っています。

 

映像、めちゃくちゃ良いです。奇妙でポップで幻想的な映像が魅力のゴンドリーなので、混線する記憶というのはうってつけの題材なのでしょう。現実離れしていながら、映像自体が心理描写としてリアリティを持っていて圧倒されました。

あの映像の不思議さを描写できる筆力を持っていないので、これはもう観てもらうしかないですね。

 

でもでも、それより何より脚本が本当に素晴らしい!

キャストの良さも映像の良さも、全てこの脚本の魅力を最大限に引き出すためのものにすぎません。

それくらい良く出来た脚本で、私は作家でも脚本家でも何でもないただの一般人ですが、こんなお話を書ける発想力に嫉妬してしまうほどです。

この作品は、SFの道具を用い、ミステリーやコメディやホラーを小さじ2杯ずつくらいまぶした恋愛映画です。

SFとしての道具立ては、誰もが一度は考えたことがあるであろう、「つらい記憶を全てなかったことにしたい」という気持ちの比喩です。

そこに恋の不思議さ、不気味さ、滑稽さ、それぞれの要素が全てラブストーリーに寄与しているのです(不思議と不気味というワードチョイスは敬愛するスピッツより)。

また、脇道である受付嬢キルスティン・ダンストの物語も、何と言うか、何とも言えない、ぐわあぁぁぁ~~と叫ぶしか感想を表せないようなしんどい話で印象的です。

細部の幸せな記憶の描写も、幻想的な映像なのに実際にありそうなリアルさで、でもやっぱりロマンチックという絶妙なラインのいちゃつき具合で、こんな経験してみたいなぁと思わされちゃうこと請け合いです。ちくしょうめリア充爆発しろ。

そして「楽しもう」というセリフがヤバいです。たったの5文字でここまで胸を締め付けてくるとは......。監督に向かって負けましたと投了したい気分にさせられました。しんどいわー。

 

なにぶん時系列がめちゃくちゃなので1回見ただけでは頭がこんぐらがりますが、2回見れば起こったことは大体納得。しかし何度も見ればまた新しい発見がありそうな、とにかく緻密な構成の脚本なのです。なのです。

実際観終わってからもう一度冒頭だけ見返したら、あるわあるわ伏線の山。ミステリファンとしてはこういう何度も観返してはじめて気付かされる緻密さが堪りません。でも、もちろんただ緻密なだけではパズルと同じ。本作の恐ろしいのは、緻密なパズルのような構成からめちゃくちゃ心を抉られる物語が浮かび上がるところです。

 

好きな人の好きだったところはそのまま嫌いなところになるし、何度やり直したって同じ失敗を繰り返すだけかもしれません。切ねえつらえ死にてえ!

しかし幸せと不幸は常にセットでしか注文できないものでして。「ブッタとシッタカブッタ」で、シッタカブッタが不幸の谷を埋めるために幸せの山を切り崩していくと、最後には幸せも不幸もない平地になってしまうというお話があります。どんなにつらい恋でも幸せなこともある、つらさを忘れるために記憶を消したら何も残らない。いやいや、そんなことは分かってますけど、それでもつらかったらやっぱり全てなかったことにしたいのも人情人情 江戸前江戸前でありまして(水曜日のカンパネラ『お七』より)。

 

要するに、これを見終わった今、私という箱の中には恋をしたい気持ちと2度としたくない気持ちが同時に存在しているのです。これから箱の中身を観測しに行くとしましょう。

 

 

ブッタとシッタカブッタ〈1〉こたえはボクにある

ブッタとシッタカブッタ〈1〉こたえはボクにある