偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ピーター・スワンソン『そしてミランダを殺す』感想

2018年のミステリランキングの2位を席巻して(『カササギ殺人事件』が1位を席巻したので)話題になった作品。
文庫が出てて表紙もなんだかシャレオツだしタイトルも気になったので読んでみましたが、面白かったです。



空港のバーでリリーという名の美女と出会ったテッドは、酔った勢いもあり「浮気をしている妻を殺したい」と漏らしてしまう。
話を聞いたリリーは、ミランダは死んで当然だと論じ、彼女を殺すのに協力したいと言い出し......。


ミステリというよりはクライムサスペンスで、トリックどうこうや伏線どうこうではなくてとにかくプロットが面白い作品です。

冒頭の空港で出会った男女が流れでセックスしたりせずに殺人計画を立てるあたりからエレガントでワクワクしますよね。
そこから2人それぞれの視点からの物語が始まり、片やテッドのパートでは"ミランダ殺害計画"のリアルタイムでの進行が語られ、一方リリーのパートでは、読者の「リリーとは何者なんだ!?」という疑問に答えるかのように彼女の過去が少しずつ紐解かれていきます。

過去パートではリリーに感情移入しながら読み、現代パートはテッドの視点からリリーに惹かれていき......と、主人公のリリーの魅力を読者に充分に思い知らせたところで突然のツイストがあり、そこからは細かなツイストを繰り返しながら物語が展開していくのをただ見ているより他なく、気の利いたオチに至るまで一気に読まされてしまいます。

その展開自体が面白さのキモなので何も書けないのがもどかしいですが、とにかく読んでいて面白いのでサスペンスとして一級品だと思います。



また、本作の最大の魅力はやはり主人公リリーの存在でしょう。
社会のルールとは異なる独自の倫理で淡々と計画を立てて実行していく様は真似しちゃいけないけど痛快だしカッコいい。
終盤はちょっと首を傾げてしまうような部分もありつつ、そこにも落とし前は付いているのでまぁいいでしょう。
一方、敵役(?)のミランダもほんとにムカつくんだけど良い悪女っぷりで蠱惑的な魅力を放っています。
それに対して男どもが全員冴えないのがなんとも面白いですね。


ちょっとだけイチャモンをつけるなら、序盤の大きめのツイストと、中盤のとある仕掛けが意外だったけど終盤はそんなに意外性もなく消化試合のように感じなくもなかったです。

とはいえ結末は見事にキマっていたので終わりよければという感じで面白く読めました。
とにかく夢中になって読める娯楽作で、変にテーマとかメッセージとかがないのも痛快で好きです。


以下ネタバレで少しだけ。























第一部で主人公だと思っていたテッドが死んでしまったり、ミランダ=フェイスという細かい叙述トリックだったり、あの手この手で読者の予想を裏切ろうとしてくるサービス精神は素敵です。
それだけに、その2つのツイストに比べると終盤は予想の範疇で、キンボール刑事のくだりにはそこまで意外性も感じなかったのが惜しいところ。まぁエロポエムのせいで破滅するのは面白すぎますけど。

そして、リリーがこれまで殺してきた奴らはみんな殺されても当然と思える奴らではあったので彼女の活躍に痛快さを感じていたものの、キンボールを殺そうとしたのにはちょっと引きました。結局リリーも殺しがクセになってしまっただけなのか、と。
ただ、最後にまたオシャレなやり方で彼女の破滅も示唆されるので因果応報という感じで良いですね。皮肉な終わり方は好きです。
まぁリリーならそれでもなんとかしそうな気もしますが。