偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

松浦理英子『ナチュラルウーマン』感想


『親指Pの修業時代』以来2度目。

ナチュラル・ウーマン (河出文庫)

ナチュラル・ウーマン (河出文庫)

主人公であるカルト漫画家・容子の19歳から25歳までの女性遍歴を描いた3部構成の連作。

1987年当時に同性愛を扱った作品を書いていただけでも凄い気がしますが、その扱い方が今読んでも古臭くないというか、過度に美化するでも問題提起みたいにするでもなく淡々と描いているから今読んでも普通に読めちゃうのも凄い気がします。


内容ですが、セフレみたいな関係の夕記子との関係を描いた「いちばん長い午後」、片想いの相手である由梨子との旅行の様子を綴った「微熱休暇」と続き、初恋の相手である花世との別れを描いたナチュラル・ウーマン」へ遡る構成になっています。

とりあえず、1話1話が単純にめっちゃ良いんですよね。
自分に恋愛だとかセックスだとかに関する経験がほとんどないため、なんら的を射た感想が書けないのが恥ずかしい限りですが、そんでも痛みを伴いながらというかほぼ痛いばっかなんだけどでもキラキラと輝くような恋の一コマ一コマに非実在の恋の思い出を掘り起こされるような不思議な感覚になったりしました。
そして、主人公である容子の視点からはドラマチックに描かれている恋愛感情と、その相手からの容子は身勝手だみたいな評との乖離にはかつての自分を思い出したり出さなかったりと、よく分からないなりにもちょいちょいエモさを感じました。

時間軸をいじった構成によって、表題作の「ナチュラルウーマン」を読むことで、前の2話での細かい描写の意味が分かったりして、種明かしというほど説明的ではないんだけど、なんとなーくなるほどなぁと思わされるあたりの計算されてる感じが、本書全体のどこか醒めた雰囲気にも通じてて良いと思います。

時系列の早い「ナチュラルウーマン」「いちばん長い午後」が解釈を付した思い出のように描かれているのに対し、「微熱休暇」がまだ解釈の付かない後に思い出になるであろう風景として描かれているのがなんか好きで、なんだかんだタコさんに全部持っていかれちゃいます。ロマンチック。

私には大人すぎた......あるいはある意味私には幼稚すぎる内容なのかもしれないけど、あんまり何が書いてあるのか分かんなくて、でも自分なりに楽しく読めたので満足です。