偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

綿矢りさ『かわいそうだね?』感想

ゆるやかにハマっている綿矢りささんです。

かわいそうだね?

かわいそうだね?

「かわいそうだね?」「亜美ちゃんは美人」の2編を収録した中編集。



表題作の「かわいそうだね?」は、百貨店で働く女性が主人公。
自分とは同棲もしていない彼氏が、自分より付き合いの長かった元カノを居候させる......というクソみたいなお話です。

しかし、ただクソみたいじゃないところが巧妙で、彼氏も元カノも海外暮らしが長いからそういうことは普通......というカルチャーギャップによって「いやらしい意味じゃなくてほんとに困ってるから助けてるだけなのかも」「でも嫌だわ」という葛藤に主人公も読者も突き落とされるんですね。

お話の8割くらいまではもうそのどっちつかずな気持ちだけでぐいぐい引っ張られちゃうから、シンプルにして強力なシチュエーション設定っす。

そして残る2割がエモエモ爆発のラスト!
あれはもう、でっかい感情を爆発させれば痛快という暴力的なまでにシンプルな仕組みで作られた読むデトックス
珍しく書き出し以上に印象に残るラスト1行に至って溜まっていた老廃物が全部排出された感じがします。

震災に絡んだ描写とかもあり、もっと深く読めば読めそうなお話なんだけど、とにかくスッキリしてしまったのでこれ以上のことは書けねえ!



併録の「亜美ちゃんは美人」は、もしかしたら表題作より人気があるんじゃないかと思うくらいあちこちで良い評判を聞く作品。

主人公さかきちゃんの視点から、高校で出会って大学、社会人になるまで付き合いのある親友亜美ちゃんとの関係を描いたお話。

タイトルの通り、亜美ちゃんは美人で、一緒にいるといつでも比べられて引き立て役になってしまうという。
たぶん男子より女子の方がそういう世界に生きてるんだと思います。私だって口には出さないけどそういう風に女の子2人組がいたら比べてどっち派かとか考えちゃうので、どっちかというと加害者目線でつらかったです。
自らテニサーなんていう性の巣窟に出向くのもどうかと思うけど、でもテニサーの場面はなかなかしんどかったですね。

そんなこんなで亜美ちゃんへの憎しみを募らせるさかきちゃんがとあるきっかけで変わる場面は、これは私にも経験があるので大きく頷きながら読んでました。
すると後半での意外な展開にびびるんだけど、そっからあの結末になるのは更に意外にして美しく、最後まで読んで一気にこのお話が好きになりました。

幸せって他人と比べるものじゃないんだなと教えてもらいました。勉強になったねぇ〜。