偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

西澤保彦『殺す』

昔読んだやつ。

殺す

殺す


同じ学校に通う同じ学年のの女子高生たちが殺害され、靴下を持ち去られる連続殺人事件。捜査をする刑事たちは、すぐに同僚の異変に気付き......。

ミステリとしては特に変わったところもなく、犯人は予想の範囲内、ミッシングリンクも微妙、特に大したトリックもなしと、むしろいまいちなくらいです。が、キャラ描写が抜群に面白くて、それだけで一気読みできるのが本作の1番の見どころです。

登場人物たちは全員狂ってるってくらいにヤバイ人ばっか。警察小説ではありますが、そんな狂気の描き方がディープな社会派という方向ではなくポップでサブカル好みのする方向なのが面白かったです。
それぞれの人たちのセリフの端々に分かりやすくデフォルメされた気持ち悪さが滲み出ているのです。事情聴取を行う中でそうした壊れた人たちが続々と一定のペースで出てきてむかつきます。また、犯人の動機もそんなぶっ壊れの賜物です。納得も共感も出来ないけどどこか同情はしてしまいました。
そう、彼らはただ壊れているのではなく、それぞれに事情を抱えて抱えきれなくなってしまったのです!そうした、彼らの壊れた原因も分かるように描かれている場合が多いため、ただ単純に読んでむ かついて終わる問題でもないのがむかつきます。
そして、その中で主役である光門さんに関しては特に理由が描かれていないのも面白いです。壊れた人間博覧会とでも言いたくなるあれこれの末に、ついに真性のヤバい奴が出てきたぞ!っていう......。「若い奴はなにを考えてるのか分からん」という類型的な言い方は好きじゃないですが、そうとでも言わなきゃこいつの存在を受け入れられないような恐ろしさがあります。これだからイマドキの若いもんは。彼のふざけた理論はいっそ清々しいくらいで、私も退屈な日常を捨ててここまで壊れられたらとすら思わされてしまいました。

最近気づいたのですが、西澤保彦はミステリとして(ももちろん素晴らしい作品を書いておられますが)よりも壊れたり拗らせたりした人間の気持ち悪さが好きだなぁと思いました。