偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

西澤保彦『転・送・密・室』

昔読んだやつ。




「現場有在証明」

キャラ紹介も兼ねているため、ミステリ部分はかなり駆け足な印象。超能力の設定の説明が終わったと思ったらもう解決という感じで、いまいち乗りきれませんでした。とはいえ細かいネタなどはやはり上手いと思います。




「転・送・密・室」

タイムトリップに関する「過去に行くのはダメだけど未来はオッケー」という理屈がなかなか面白かったです。なるほどなるほど。
事件の構図は捻ってはあるものの想定の範囲内で、ラスト3ページくらいまではふーんと思いながら読んでましたが、最後の最後にごちんごちんと殴られましたね。超能力の絡め方と動機、驚きです。あと鰹のタタキの二種タレ食べ比べめっちゃおいしそう。



「幻視路」

聡子の性格の悪さと元カレ御土田くんのボケによるコント的発端がまずは楽しいですね。今回は聡子が自分が殺されるという予知夢を見るのが発端になっていますが、かといって死を避けようとするそぶりも見せないのが面白いです。ただ、それだと予知夢設定別にいらなくね?とは思いますが......。真相は捻りがあってなおかつ暗い気持ちになるもので、お話としては本書で一番印象に残りました。




「神余響子的憂鬱」

新キャラのチョーモンイン相談員・神余響子ちゃんが初登場しますがその響子ちゃんと神麻さんの2人のやり取りが最高です。一応ユーモアミステリの側面の強いシリーズですが、ここまで笑ったのはこの短編が初めてでした。事件の方はマザコン被害者のキャラが立ちすぎて真相とかボヤけてしまいますがまあ面白いと思います。




「〈擬態〉密室」

今回出て来る超能力は他人への変身ーー正確には「特定の誰か1人にだけ自分を別の人物だと誤認させる」というものです。そのため、「誰が誰に誰のフリをしたか?」という三重のWhoの謎になるのが面白いところ。その真相もそれぞれに意外性があって凄いです。




「神麻嗣子的日常」

神麻さんの非日常を描いただけのお話でいわばエピローグ、事件とかは起きないです。この際だから正直に告白しますが、私、神麻さんってあんま好きじゃないんですよ。だからなんだよこの女うぜえな......と思いながら読んでいましたが、そうは言いながらペースに乗せられてしまって最後はちょっとホロリとしてしまいました。そう、私もまた神余響子的読者なのです。しかしこのラストはどういうことでしょうか......。今後が気になりますね......。