偽物の映画館

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浦賀和宏『松浦純菜の静かな世界』読書感想文

飲食店で突如襲撃され、妹は意識不明の重体、しかし自分は無傷で助かった"奇跡の男"八木剛士。
暴漢に襲われ、腕に大怪我を負った松浦純菜。
街で女子高生連続殺害事件が起こる時、2人は出逢い、犯人を探す......。


松浦純菜の静かな世界 (講談社ノベルス)

松浦純菜の静かな世界 (講談社ノベルス)


はい。
安藤直樹シリーズは、ちょうど読んだ時の気分にぴったりで一気読みしたのですが、なんせ作品数が多いのでこっちは寝かせてた松浦純菜シリーズ。
年始はこのシリーズを一気読みするのが目標でございます。


さて、シリーズ第1弾となる本作は2人の出会いと女子高生連続殺害事件を描いています。

そもそも2人がそれぞれに悲劇に見舞われているのに加え、本筋となる事件もあり、時系列が行き来しつつサブキャラの印象的な挿話も挟まれと、なかなか内容が盛りだくさん。
ただ、シリーズ化が前提っぽいとこもあって本作では回収されないことも多々多々あるので、単体で見るとごちゃごちゃした印象は否めないところ。
八木剛士の語りの鬱屈と松浦純菜の秘密がメインなようでいて、犯人のパートはそれはそれで別物として読み応えがあって、サブキャラの河野と理美のエピソードも映像として印象的で、それらが多少連関しつつもわりと独立した読みどころになっているので、ややごった煮感があります。
もちろん、そういう過剰さが魅力でもあるのですが。
ともあれ、これでキャラ説明などは一通り終わったと思うので次作以降の展開も気になるところです。



で、本作単体で言うと、本筋はけっこうオーソドックスなミステリ。
連続殺人が起きて、それを解決するという。
しかし、今まで描かれていた物語の裏にあるもう一つの物語が凄惨な醜悪さを持って眼前に現れる解決編の熱量は圧倒的で、単なる「ミステリの解決編」を超越した闇の読み応えがあります。
いくつかのエピソードは意外な伏線としてしっかり回収され、因果のやるせなさや恐ろしさを描いた物語として読み応え抜群。


しかし、そうした本筋を超えて1番の見所になっているのがやはり八木剛士の語り。
笑わない男・安藤直樹ほどの闇の深さはないものの、だからこそ私みたいな普通の陰キャが読んでもあるあるネタとして共感できて、とっつきやすい鬱屈でした。
妹さんの件は心中お察しいたしますが、それ以外はわりと普通の陰キャ君なので、同じ立場として読めますからね。
普通に女に悪口言われただけで「あんなやつ死ねばいい。いや許されるなら殺してやりてえ」って思うのも凄い分かるよ。私も中学生の頃自分をいじめたヤツとそいつの肩持った先公を殺す計画をノートに書いたりしてたからね。復讐は復讐の連鎖を生むだけだとか坂本教授に言われてもしゃらくせえとしか思えねえよな......。


一方で、純菜ちゃんのキャラクターはあまりはっきりとは見えてこず、まだまだ謎の女のままで終わっちゃってるので、今後2人がどうなっていくのかを楽しみに読み進めていきたいと思います。



余談ですが、浦賀作品にはあまりに「さとみ」という名前の女性キャラがたくさん出てきますが、何かの伏線?浦賀先生のタイプな名前?初恋の人の名前とか?などと妄想を膨らませてしまいます。