偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ブルー・バレンタイン

ここんとこ、500日のファッキンサマー、アバウトタイムと、時間ラブストーリーを観てきたので、ここらでこいつをぶち込んどこうかなと思いまして......。


町山さんのトラウマ恋愛映画の表紙にもなってるくらいのトラウマ恋愛映画ですね。

ゴズリング演じるディーンと、ミシェル・ウィリアムズ演じるシンディの夫婦。
2人が破局するまでの数日と、5年前の出会い愛し合った日々を交互に描いた夫婦崩壊映画です。



とりあえず、この構成がお見事というか、残酷というか、クソファックというか......。

とある普通の朝、ディーンと娘がシンディママを起こすシーン。子供っぽいディーンは一見いい父親。でもシンディの態度にはうんざりした感じが隠しきれず......。冒頭のこの現在の時間軸の日常描写だけでこの家庭に横たわる不穏な空気が察せてしまうのがすごい。
そんな不穏な現在パートはデジタルな機材で淡々と撮られています。2人が同時に画面に映ることすら少なく、これはまるで、実はどっちかが死んでて幽霊でした〜ってどんでん返しなんじゃないかって思うくらいに、"同じ世界にいない"感じが出てるんですよね。ザ・ン・コ・ク......っ!

一方の2人が出会った5年だか6年だから前のパートはフィルム撮影らしく、自主制作みたいな粗さが逆に温かみや人間味を感じさせます。ここだけ見たらビフォアなんちゃらとか、きみに読むなんちゃらみたいなロマンチックなラブストーリー風。
でも、ダメになっちゃってく過程と交互に見せられるせいで、このラブラブな時点で既に「ああ、これが後々効いてきまんがな......」と怪しい関西弁になっちゃうくらいの破局伏線がモロ見えに見せられちゃって切ねえすぎるんすよね。これまたさらに残酷。



なんせ、2人とも本当にいそうなくらいのリアリティでもって描かれてますからね。

幼い頃に両親が離婚したディーンは、家庭というものへの憧れが人一倍強くてロマンチストだけど、実際に家族の愛に触れてこなかったからその作り方が不器用で。
基本的に良いやつではあるんですが、なんも出来ないくせにプライドだけは高くて学がないしキレると暴れるし家の壁にペンキ塗るなんて簡単な仕事で低収入だし......って散々書いたけどだいたい私にも当てはまるからつらいよね〜。私はこんなイケメンじゃねえしな!

一方のシンディは両親の不仲のせいでヤケッパチで何人もの男と肉体関係を結んでしまい挙句の果てには元カレに中出しされ、と、まじあの元カレは死んだ方が......。
いや、話が逸れたけど、看護師として多忙にしてて頑張ってるからそりゃ夫がたらたらへらへらしてたらウザいのは分かるけどでもさぁ......っ!

とまぁ、ある種分かりやすいキャラ造形ではありますが、それだけに2人がそれぞれどういう気持ちでその言動をしてるのか、がだいたい伝わってきちゃいますからね。
こんだけ分かりやすく伝えといてそれをすれ違わせるなんていう鬼畜の所業、許すまじ......。



で、そんな2人の愛の始まりと終わりをこんな構成で見せられることで、「このシンディって女まじでうんこやな」「いやいやディーンの前頭部がこんなんだから」なんて具合に、どっちが悪いだの何がいけなかっただのと議論できちゃう、議論したくなっちゃうのが凄い。掌の上で弄ばれてる感。
これねぇ、迂闊になんも言えねえけどさぁ。100%俺の主観で言うなら、シンディはガチで意味わかんねえし、あんなに頑張ってるディーンでダメなんて贅沢言うなって思うし、何より元カレはやっぱり100回死んで欲しいですけど......。
でも巧妙な構成によってシンディの気持ちも分っちゃうんですよ。分かっちゃうから手放しで責められないし、ディーンにも生理的に不快なところは多々あるよな......とか思ったりもして......。



それではここで一曲、米津玄師で「こころにくだもの」

りんご〜レモン〜ぶどう〜メロン〜♪
いちご〜バナナ〜みかん〜キウイ〜♪


はい、果物って美味しいですよね。
でも、買ってきてもすぐ腐っちゃう。すぐ腐っちゃうのは甘いからなんですね。
恋も果物と同じで、甘いからこそ時間が経てば痛んで腐って崩壊してきちゃう。糖度が高いほど余計にね。
だから、どっちが悪いだの、あの時ああしてればだのといくら言ったところでね、恋なんてほっときゃ腐るわけです。何言ったって止まらんねえんだよな、と。


そんな、人知を超えた恋愛のワンダーを描き出した超絶ホラー映画でして。
これを観て私はどうすりゃいいんだと。
やっぱり結婚なんかしたくねえよ!と思わされるのも思うツボっぽくて嫌だし、かと言って結婚してえ!とはなるわけもないし......。
結局、本作をケーススタディとして、石橋を叩いて渡る根性と、最悪の場合への諦観だけ自分の中にインストールしとけばいいのかねぇ、なんていう、非常に悲観的な形でタメになるラブストーリーでした。

それにしても、きみに読む物語のゴズリングも似たような肉体労働者のダメ男をやってたんですけど、きみ読むはなんだかんだ美しすぎて神話の領域に達したロマンチックファンタジックなお話だったのに本作のリアリティといったら。
でもこの表裏一体のどちらも恋愛の一面の真実ではありまして、どちらの映画も愛さずにはいられなかったりなんかもして。
しかし、タバコ吸いながら娘を抱っこするのだけは心臓に悪いからやめてほしいです。