偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

法月綸太郎『怪盗グリフィン、絶体絶命』読書感想文

懐かしの、講談社ミステリーランド



「ライト・シング、ライト・プレイス(あるべきものを、あるべき場所に)」が信条の怪盗グリフィンの活躍を描いたお話です。


本書は3部構成になっています。
第1部はキャラ紹介がてら、メトロポリタンミュージアムゴッホの自画像のすり替えミッションの顛末が語られます。このへんまではまだそんなになんですけど、グリフィンの真面目でユーモラスで有能なところがしっかりと描かれていて彼を好きになるには十分。

続く第2部、第3部がメインストーリーなんですが、これが凄かったです。
仮にも子供向けの本なんですけど、サン・アロンゾという架空の国の近代史や政治的背景ががっつり描かれていて25歳でもちょっとややこしいなと思いながら読みました。子供の頃だったら投げ出してたかも。でもここがめちゃくちゃ面白い!
ない国を絶妙にありそうに、しかし絶妙に外したユーモアも漂わせながらこうやって描くのは凄いっすね。悩める作家のイメージだけど、こういうはっちゃけたやつも好きです。

全体の印象としては、ユーモアとアクションと陰謀と......っていうスパイ映画みたいな感じなんですが、もちろんそこは法月綸太郎先生ですのでミステリ的にも面白かったです。
仕掛け自体はシンプルながら、やけにこねくり回したロジックとエンタメとして気持ちのいい伏線回収は圧巻。

ジュブナイルらしい楽しさに満ちつつ、大人の読者も楽しめるし子供が読んでもちょっと背伸びした気分になれるんじゃないかな、という良作でした。


ちなみになにやらSF味の強そうな続編が出ているらしく、そちらもいずれ読みたいと思います。