偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

三田誠広『永遠の放課後』読書感想文

夏です。夏ですよ。July she will flyですよ!

夏になると読みたくなるのが、青春小説。
積ん読の中から一番青春っぽいのを探した結果が本書でした。

永遠の放課後 (集英社文庫)

永遠の放課後 (集英社文庫)


まず、章題が良いんですよ。

これ見ただけでもう胸が締め付けられませんか?


もちろん、内容もやっぱりエモいっすよ。

主人公は、ギターだけが趣味の大学生、笹森ヒカルくん。
本書は、彼が中学時代から抱き続けてきた親友の恋人への恋心と、彼が「青い風」というバンドの復活ライブに参加することで音楽の道を志すようになる様の2つを軸にした、青春恋愛小説です。


冒頭、中学時代の話から物語ははじまり、序盤は紗英という少女に恋をし、彼女の恋人らしい杉田という男共親友になってしまい、3人でギターを弾き歌うというような場面が描かれていきます。
三角関係の話ではあるものの、笹森くんは恋にも友情にも真摯で、その純粋さは切ないと同時に羨ましくもなってしまうものです。

中盤以降は、大学生になった彼が、ボーカルを亡くした青い風というバンドに加わる話なのですが、このバンドの中でも、死んだボーカルとリーダーの築地という2人の男が共にサイドボーカルのヒミコに惚れていたという三角関係が明らかになっていき、さらには笹森くんの両親もまた......というように、なんと3つもの三角形が現れてしまうなかなか凄い小説なんですね。
なんですけど、この大人たちもやはりみんな真摯な人たちなので、これだけこんがらがった人間関係が描かれるにも関わらずドロドロ感が一切ないのが一番すごいですね。
それだけに余計に切なくもなるんですけどね......。

また、この大学生になってからの、中学時代から遠くへ来てしまった感じというのも凄くリアル。
すでに大学生ですらない私のようなおっさんからするともう痛いくらい。
中学時代にカースト上位にいたなんでも出来る親友が、大学生になってなんでも出来ることはなにも出来ないことだと気付いてしまうくだりとかね、つらい。
一方主人公はもとから低いところにいるから案外如才なくマイペースにやってるけど、やはり自分がなにをしたいのかが分からない。
そんな、アイデンティティや存在意義、いわゆるひとつの「僕って何?」状態に陥る彼らの姿に親近感を覚えます。というか私なんてこの歳になってもまだそんなようなこと言ってますからね。はは。



で、それと、音楽の描写が良いです。
あんまり専門的なことは描かれず感覚的な描写が多いので、ギターとか触ったことない私にもライブの高揚感とかデュエットの緊張感や気持ち良さなんかも伝わってきて、読んでて楽しかったし「青い風」のアルバムを聴いてみたくなっちゃいましたね。
また実在の曲もいくつか出てくるんですけど、ビー・ジーズ(ステインアライブとかの路線になる前)やサイモンとガーファンクルといった知ってるけど超メジャーではない絶妙なチョイス。ああいう1970年前後くらいのアコースティックでスロウで切ないフォーク・ロックのイメージが作品の淡いトーンにぴったり合っていて、Apple Musicでそのへんの曲聴きながら読みました。

そして、詳しくは書きませんがラストも素敵。
なんかこう、まだ若い彼らにはその後があって、そういう意味ではここはゴールでもなんでもない通過点ではあるんですけど、でも一つの物語の結末としてはぴったり絶妙にここで終わりな感じなんですね。

『永遠の放課後』

このタイトルが改めて胸に迫ってきて、これまで読んできた物語が走馬灯のように脳裏を駆け巡り、その余韻の中であの名曲たちのメロディもまた頭の中に流れ出し......うん、最高でした。


なんていうか、私には中高の頃にこんな甘酸っぱい経験がなかったけど、恋愛経験自体はなくもないので、こう、「こんな学生時代を送りたかった!」という羨望と「わかる!!」という共感の両方でエモ散らかしちゃうんですよね。はぁ......。

とりあえず夏なのでまたいくつか青春小説を読んでいきたいです。