偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

今月のふぇいばりっと映画〜(2019.5)

こんにちは。
今月は割と新作多めでお届けいたします。





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怪怪怪怪物!
クーリンチェ少年殺人事件
ヘレディタリー/継承




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Search/サーチ  (字幕版)

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妻を亡くし、男手ひとつで娘を育ててきた主人公。しかし、その娘が失踪。親身になってくれる刑事とともに行方を探すが............というサスペンスを、全編PC画面だけでやってのけた異色作、です。


まず、本作の内容とは関係ないことですが1つだけ言っておきたいのが、全編PC画面で展開する趣向なら少なくとも2014年の『ブラックハッカー』で既にやってるから、「全く新しい手法!」みたいな煽りには反感を抱いてしまいます。観てないけど『アンフレンデッド』とかもそうらしいし。


まぁそれはそれとして作品自体はめちゃくちゃ面白かったです!

趣向はゆっても新鮮味のあるやり方ではありますが、ストーリーはむしろリアルで地に足のついた印象。
普通な主人公と普通な娘。母親がいなくてちょっとギクシャクした関係ってのも普通で、失踪事件だけは普通じゃないものの、映画の設定としてはありふれたもの。
決して奇をてらうわけではなく、趣向を目的ではなく手段として、「親が知らない子供のこと」という普遍的なテーマの現代における在り方を描いているのです。


だから、あんまり派手な展開はないものの、知っていると思っていた娘のことを実は何も知らなかった、という心理サスペンスとして地味にめっちゃ引き込まれるわけです。

で、展開はまぁ詳しく言わない方がいいですけど、ところどころでツイストも見せつつ締め方も引くくらい上手くて、引き込まれたままエンドロールまでは帰ってこられないこと請け合いの傑作でした。


惜しいのは、私がバカで英語が読めないから、字幕で出る部分しか分かんなかったこと。なんせ、PC画面上で展開される物語ですから、文字数が多い。母語で見れないことが残念です。




怪怪怪怪物!

怪怪怪怪物!(字幕版)

怪怪怪怪物!(字幕版)


もんもんもんもんすたー。なんなんなんなん七不思議。なーなふしぎっ!なーなふしぎっ!
すごいぞ強いぞ孫文パワー!
いじめられっ子の主人公はいじめっ子たちとともにボランティアに行き、そこで怪物の子供を見つける。いじめっ子たちは怪物の子供を監禁する。


てなわけで、主人公のおっぱいマンが初期の草野マサムネ風でした!やっとひとつわかりあえた〜そんな気がしていた〜♪
そう、おっぱいを触ってしまったことから全てが始まったのです......(違)。
それにしてもおっぱい触られる女の子のクソ小生意気な感じとかめちゃくちゃ可愛いですね。YEN TOWN BANDとか聴いてるのもステキ。

さて遅ればせながら映画の内容はというと、まあ面白かったです。
演出がめちゃくちゃダサいしエフェクトとかもめちゃくちゃチャチいし正直映画のレベルじゃない気さえするんですが、そんな徹底的な安っぽさこそが人間存在というものを的確に抉り出しています。
とともに、この安っぽいアホくささが、エグい話をポップに観やすくするのにも貢献してます。これ、フランスとかで撮ったら相当エゲツなくて目を背けたくなるような作品に仕上がりそうですが、なぜか本作はコメディみたいになってるのが不思議な魅力。

だって、老人をいじめるシーンとかなんか、やってることひっでえのにフリーザ様とか出てきたらちょっと笑っちゃわざるを得ない。でもここで笑っちゃうことで観てる私もいじめを黙認するサイレント加害者に名を連ねさせられるわけでございます。上手い。そして、主人公が自分がいじめられてる時以外はにこやかに老人とかいじめるのに加担してるのもリアルっすね。

グロ描写にしても、あえてオシャレチックにしたりコミカルにしたりして生々しいエグさはなくってポップな悪趣味さが強調されています。
そして、終盤で「お前の最期を見てやる」みたいな顔をするマサムネ......じゃなかったおっぱいマン!元気100倍おっぱいマン!クライマックスの彼のクレイジーな活躍は清々しく、チィパ チィパ チィパチィパでした。

そんな感じで狂騒的なスプラッターとして話が進みつつも、怪物の方が人間味を持って描かれて人間の方が怪物のように描かれている......という「人の心が怪怪怪怪物だったんですな」というお約束の風刺から、さらに実は怪物みたいな人間にもそうなってしまう理由が......みたいなところまで持ってきてからのラストシーンのやるせないインパクトが凄かったです。
B級ホラーでありながらメッセージ性も秘めつつあくまで徹底してエンタメとして作られた良作。とりあえずひとつだけ言っておきたいのは、スピッツファンの皆さんごめんなさい。でも主人公の目つきの気持ち悪さがすごい草野マサムネなんですよ!





クーリンチェ少年殺人事件


60年代の台湾が舞台。
夜学に通う小四は、同じ学校に通う小明という少女に恋をする。しかし、小明は、不良グループ"小公園"のリーダーで今は失踪しているハニーの女だった。
やがて、小公園とライバルグループ"217"との対立は激化し、小四や小明らもそれに巻き込まれて......。


4時間という長さとこのタイトルなので、最初は『人狼城の恐怖』みたいな何十人と人が死ぬ大長編ミステリかと思ってましたがまるっきり違いましたね。
当時の社会状況を背景に少年少女らを描いた青春群像劇......といった感じでした。

内容は、一番ミクロなところでは主人公の小四の、ヒロイン小明への恋心というのがメインになってきます。
そこから少し視野を広げると、不良グループの友人達それぞれの青春模様。さらに、グループ同士の対立や少年同士の中での社会。そしてさらにマクロなところでは台湾の歴史的、政治的な部分と、4時間もあるだけに様々なレイヤーのお話が1つになってます。
また、映像もリアルな生活感と、映画らしい陰影の芸術性が混ざり合って独特なよさがありました。ずっと観てれる。
という具合に、いろんな意味で見どころの多い作品なのだとは思います。

まぁ、ゆーても一回観ただけではせいぜい後半からなんとなく誰が誰か把握できてくるのが関の山で、知りもしない社会派的側面なんかは分かるはずもなく、きっと何度も見ることで少しずつまた見え方が広くなっていくのだろうと思います。

ただ、そんでも最も分かりやすいところの主人公の恋愛という点ひとつだけ見ても、本作は紛れもない傑作だと言い切っちゃえます。
主人公が、いかにして一人の人間を殺害するに至ったか。その過程が丁寧に描かれていくので、最後の"殺人事件"のパートは唐突ながらも説得力が凄かったです。
あえて卑近な言い方をしてしまえば、これって拗らせ童貞の末路、みたいな話であるわけですからね。私自身恋愛拗らせマンたったのが行き過ぎて恋愛を辞職した人間ですので、世間や家庭や学校の環境が平和でなかったらこうなっていたかもしれない......などと思ってゾッとするわけですよ。
なんせ、彼のあの気持ち、たぶん非モテ男子なら全員めっちゃ共感できると思うし、主人公に向けられる「何様のつもり?」というセリフもめっちゃ刺さるはずですから......。

なんて、俗っぽく安っぽい感想を書いてしまいましたが、要は重層的な社会派映画にして案外共感できるトラウマ恋愛映画でもあるというところで、恋愛拗らせマンにはぜひ観ていただきたい一本であります。




ヘレディタリー/継承


アニーの母、エレンが亡くなった。確執があった親子だったが喪失感は強かった。アニーは夫のスティーブンと息子のピーター、娘のチャーリーと悲しみを乗り越えようとするが、エレンの死後、家では不可解なことが起こるようになった。そして、一家を悲劇が襲う......。



これは、なんだったのか。分かりません。理解できている気はしなく、自分が理解できているかどうかさえ分からない。何を見たんだろうという戸惑いを抱えつつ、さらに強く残ったのはとんでもないものを見てしまったという興奮と恐怖でした。
1つだけ言えるのは、私が本作を好きだということ。


ここんとこ、オーソドックスなというか、古典的なというか、いかにもホラー映画でございというホラー映画が復権しているように思います。
本作も一見その一つ。謎の多かった母親の死によって現れる怪異。エクトプラズム、交霊会、そしてほにゃほにゃの存在と、今が本当に令和なのか疑いたくなるほどに古典的なホラー映画の道具立てを取り揃えております。
そしてデカい音でびびらせる演出なども少なく、あってもそこに必然性があったりとなかなか上品な怖がらせ方も乙なもの......。

......なんていう古き良きホラー要素を隠れ蓑に、とある決定的なシーン以降、本作は見たことのないような恐怖をバシバシと投げつけてくるようになるのです。

まず、その問題のとある決定的なシーンですが、ここはまだ若い私でもさすがにおしっこ漏らしたレベルで怖かったです。それは、びっくりとかグロいとかそういうのとは次元の違う、心理的な、あまりに心理的な恐怖。
ホラー映画の怖さってのは、自分には関係のないところで起きているからこそ無責任に怖がれる面白さでもあるわけですが、このシーンはもう冷や水を浴びせられたような、現実世界で最も怖い出来事なわけですね。一瞬のグロいシーンや怒号のような悲鳴などのホラーらしい演出もここではもっとエグく忌々しいものとして描かれています。

この奇妙な嫌悪感は何なんだろう?と思ったのですが、監督が本作を作る際に『ローズマリーの赤ちゃん』などの古典ホラーと一緒に『普通の人々』を念頭に置いていたと知って納得しました。
そう、この映画は家庭崩壊ホームドラマをホラーという鋳型に注いだもの。だから怖さの質が普通のホラー映画とは根本的に違うわけなんです。
なんせ、入り込んじゃいますからね。
起こる出来事自体は、ホラー映画では普通のことなんですよ。でも登場人物たちがきちんと人間として描かれていることで、怪現象も自分の身に起こっているかのような近さで感じられる。普段ホラーを見るとき、キャラクターたちに対して我々は俯瞰の見方で「次は誰が死ぬかな」とか「こいつうぜえな、早く死ねよ」などと考えながら見ますよね。でも本作にそれは通用しない。だから、怖さが本当に忌々しく起こってはならないこととして感じられるわけなんです。



あと、もっと根源的な、頭悪そうなことを言ってしまうなら、登場人物の顔が怖い。

まず主人公のアニーは完全に『シャイニング』のオカンの再来。しかもシャイニングのオカンは悪い人でも憑かれてるわけでもないのに顔怖くて役柄に合ってなかったのに対して、こちらはもうぴったし。度重なる悲劇に見舞われ怪現象に襲われと散々な目に遭ってるから顔が怖くなるのにも納得ができちゃって、そのことも怖いです。"あの"シーンなんかはつらすぎて思わず巻き戻してもう一回観ましたよね。つれえ。

娘のチャーリーも顔が怖い。
たしかローティーンの設定だった気がしますが、5歳くらいの幼女のようなあどけなさと、30代の女性のような妖艶さと、人生の終わりにさしかかった老女のような全てを悟ったような老成までもがこの少女の顔には同居しているのです。恐ろしや。

あと、地味に息子のピーターくんの気弱そうな顔も見てるこっちまで不安になって別の意味で怖いです。



で、ほとんど最後の方まで、だんだんエスカレートしながらこの異質の恐怖は続くんですが、最後がまたわけわかんないっすよね〜〜。
いや、なんとなーく何が起きたのかは分かるものの、たぶんこれかなり宗教的な知識が必要系と思われ、きっと知識があった上でここまでの伏線を回収すると見えてくるものがあるんでしょう。
ただ、わからなかったらわからないなりに、なんかもう超展開すぎて笑えてきちゃいます。ここまでガクガク震えて観てたのに、最後だけ「ぷふっ、なんぞこれ」とアイスコーヒー吹いちゃいましたよ。ウケる。



















































コッ