偽物の映画館

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トマス・H・クック『蜘蛛の巣のなかへ』読書感想文

教師のロイは、余命短い父親を看取るために故郷の町へ帰る。あるきっかけでかつて弟が起こしたとされる事件の謎を探るうちに、ロイは父の過去と弟の死にまつわる蜘蛛の巣のような謎に絡め取られていき......。

蜘蛛の巣のなかへ (文春文庫)

蜘蛛の巣のなかへ (文春文庫)


はい、クック先生。
本作は、以前読んだ『緋色の迷宮』の一つ前の作品。
『緋色の迷宮』では父親の視点から息子に対するフクザツな心境を描いていましたが、本作は息子が父親の過去を探っていく話。
ただどちらも主人公の世代は同じくらいな気がするので、2冊続けて読むとまた感慨が深そうな気がしますね。

さて、本作について。
本作は主人公のロイが20年ぶりに故郷の田舎町へ帰ってくるところから始まります。
本書の1行目でも触れられていますが、この「故郷に戻る」という導入は、ありがちではありなから、非常に魅力的です。
そもそも主人公のロイが故郷を出て都会で教師として穏やかに、しかし孤独に暮らしているのは、故郷の父親や、弟の死にまつわる事件から逃げるためでした。そうした父親への反発の源や過去の事件の謎が、いつものクックらしく仄めかしながら少しずつ少しずつ明かされていくわけですから、そりゃ面白いですよね。表向きは弟の事件に納得していない父親に付き合って事件の謎を追及しつつ、その陰では父親の過去をも探っていく、という。
また、父親や弟のこと以外にも、元恋人との気まずい関係や保安官の男との関わりなどもぼんやりとした緊張感があり、地味ながらいろんな方向への興味で引っ張ってくれます。
そして、そうした故郷の人たちのことを知っていくにつれ、徐々にですが確執のある父親のことを見る角度が変わっていくのが本作のキモであります。
クックは2000年あたりから作風がちょっと前向きになったみたいに言われています。本作も、つらい話ではあるのですが、父親への理解というところを主眼としていることに関して、優しさや暖かさが感じられる傑作だと思います。

以下ではネタバレありでもうちょいだけ感想を述べていきます。



















さて、ここからはネタバレ感想になります。

本作のキモは確執のある父親の過去を知っていくことで見方が変わっていくことにありました。
それまでは粗雑で無教養な父親に反発し、軽蔑さえして都会で知的階級として暮らしていたロイ。しかし、父親の恋愛と挫折を知ってその激しさに驚くわけです。
そして、もうね、なんといってもオトンの最後の激昂がめちゃくちゃかっこいいですよね!!!
なんか、もう、ネタバレ感想とか偉そうなこと言ったけど詳細な解説とか全然できないしただただクライマックスのかっこよさを叫ぶしかないのですが、とにかくかっこいい!
まぁ悪人なら殺していいのかとか色々議論はあるでしょうが、正直、私は悪人なら殺していいと思うので、痛快でしたね。とはいえ、人を殺すということにはやはり十字架を背負う覚悟が必要で、ロイが気を失っている隙にそれを実行して、背負ったままで死んでいったオトンがカッコ良すぎます。
そして、父も弟も死に、昔の彼女は深い傷を負いと、散々なつらい展開ながらも、オトンが自らの命を以って旧時代に幕を引いてくれたおかげでラストシーンにはある種どん底だから後は上がるだけみたいな切ない前向きさが感じられます。
そして、最後の「君が僕のために何をしてくれたか知ってるよ」みたいな台詞で感情になるのです。そう、I am 感情。うわ〜〜〜〜っ!!!

まぁそんなわけで、悲劇的な物語でありながら一筋の光を差し込ませてくれる優しい物語でもあり、なんかもう結局さすがとしか言いようがないですが、まぁさすがクック御大ですよ。読むたびにクックに惚れていく......。