偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

indigo la End『PULSATE』の感想だよ

はい、出ましたインディゴ感想シリーズ。
一年ぶりのアルバム、というか一年ごとに両方のバンドでアルバム出しつつ余技的バンドを増やしつつドラマにまで出たりM1の優勝予想したりラジオやったり休日課長や米津玄師らと毎日飲み歩いたりしてる川谷絵音。そのうち星野源みたいに倒れないか心配。

さて、今回のアルバムですが、うん、一言で言うと、おしゃれです。


PULSATE(通常盤)

PULSATE(通常盤)


もともとジャンルの枠に囚われるバンドではありませんでしたが、ついに完全に「ロックバンド」って感じではなくなりましたね。今作では弦楽器やピアノの音も目立ち、ジャンル分けするならR&Bやファンクの要素が濃いです......ってまぁジャンル名とか分かんないから他の人の受け売りですけどね!()

一方歌詞に関しても、「恋」「命」というテーマは今までの流れを汲みつつ、フィクション的な曲と私小説的な曲がくっきり分かれています。
というのも、詳しくはそれぞれの曲の感想に書きますが、今作では恋愛系の曲はほぼ女性目線で書かれているので作者の顔が見えづらく、完全なフィクションとして聴けるようになっているんですね。
一方で、アルバムの要所要所に挟まれている非・恋愛モノの曲では、作者本人の語りという雰囲気がより濃くなり、特にラストの曲「1988」は完全に「川谷絵音の独白」になっています。
こうした、物語の合間合間に作者の独白が入ってくるような構成が、通して聞いた時にメリハリを付けていると思います。
一方で、『幸せが溢れたら』のような統一コンセプトや、『Crying End Roll』のような整理整頓されたような綺麗な曲順ではないので、分かりやすいアルバムらしさは薄く、どちらかといえばプレイリストのような雰囲気も漂います。


まぁとにかく、音はよりおしゃれに、そして歌詞もこれまで語ってきたことの流れの中にありながらより洗練され、客観的に見ても最高傑作と言えるのではないでしょうか。毎度最高傑作を更新してくるのすげえ!

というわけで、以下それぞれの曲について書きます。
ではでは。




1.蒼糸

これまでアルバムの一曲目は疾走感のある王道ロックみたいな曲ばかりだった気がしますが、今回は弦楽器も入ったゆったりおしゃれなミドルナンバーなのでびっくりしました。どんどんおしゃれミュージックになっていきますね。けっ、おしゃれかよ!(語彙力)

タイトルの読み方は「あおいと」だそうです。ずっと「そうし」だと思ってました。
インディゴらしく赤い糸ではなく蒼い糸。
その正体は、「膨らんだストーリー 起承転結3文字目半の糸」とあるように、結の部首......「起、承、転、(コレ→)結」のことでしょう。川谷絵音がこういう言葉遊びを、しかもindigo la Endの方でやるというのは意外ですが、これが後で効いてきます。
歌詞を読んでいくと、いつもながらにブルーな、否インディゴブルーな切なさをまとってはいるものの、どうも失恋の曲ではないような、少なくともそうは言い切れないような雰囲気がありますね。

幸せか普通かわからない
普通か不幸かもわからない
でも両方あなたがいるなら
糸は吉に絡まるから

「糸」が「吉」に絡まる=「結」とのことですが、この「結」という文字は如何様にも解釈できるのがミソですね。これが失恋の歌ならば「結」とは気持ちの整理をつけて恋を完結させること。
しかしこれが失恋の歌ではないのなら、上手く行っていながらもどこかに残る不安の方に「結」をつけるということかも。もしくは「結」は結婚の「結」とも取れます。
ともあれ、ここの歌詞にあるように曲自体もハッピーかアンハッピーか分かんないですね。その時の自分の気分を反映できてどっちの時でも聴けるズルい曲です。

私のお気に入りフレーズは

大なり小なり誰もが間違う
経験とともに恋が下手になる
一番下手になった時こそ
本当に誰か好きになる

というとこ。それな、という感じ。





2.煙恋

読みは「けむりごい」。
「冬夜のマジック」e.pのカップリングの「夕恋」に連なる「恋シリーズ」だとえのぴょんが言ってました(夕恋は「ゆうれん」って読んでたけど、「ゆうごい」なのかな)。

煙草の煙に託して恋を歌った曲。
「蒼糸」では「経験とともに恋が下手になる」と歌われていましたが、この曲はまさにそんな主人公の歌ですね。
サビの静かに畳み掛けるような「愛されて惹かれて比べて疲れて振られて慣れた」というファルセットが印象的で、上手く行かない恋の経験の積み重ねから漂う諦念のようなものが現れています。この曲全体を覆っているのがこの諦念、気だるさ、しかしその裏に隠れた「混じり気のない気持ち」の熱さ。
そうした感情を表すように、前の曲に続いて弦楽器も入れつつ、R&Bなサウンドが、歌詞にとても合っていて、音・詞ともに気怠い美しさがステキな曲です。

この曲で特に気に入ったのは

暗い過去があってよかった 話題に困らない方でよかった

というフレーズ。それな、という感じ。




3.ハルの言う通り

昨年の夏に前のアルバム『Crying End Roll』がリリースされ、冬にはその流れを感じるシングル「冬夜のマジック」がリリースされました。
そして、今年に入って春に先行リリースされたのがこの曲。サウンド的にはギターもベースも音はしてるけどあまり目立たず、なんだか遠くで弾いているような聞き心地で、気怠さと切なさを感じさせますね。しかしその分ドラムははっきりと早めのテンポで打ち鳴らされていて、歌詞にあるように荒地を吹いて消えてく風みたいな印象がある音の曲です。

このアルバム中での曲順こそバラバラなものの、歌詞は(そしてタイトルも)「冬夜のマジック」で描かれた「冬」の後にある「春」という気がします。続編とまでは言わないけど、それに近い感じの。
ざっくり言うと、「冬夜のマジック」的な冬季限定の熱恋が終わったものの、それを引きずって春に進めない女性の歌。
この曲も具体的な描写はほぼないですね。

「バイバイ熱恋よ バイバイ熱恋よ」
からはじまるサビの、静かに畳み掛けるような早口がめちゃくちゃクセになります。
この人の歌はそもそもクセになりやすいけど、この語感の気持ち良さはその中でも屈指。それにしても、「恋傀儡」という言葉が最初なんて言ってるのか分からなすぎて勝手に「ためらうことなく回鍋肉〜♪」と買い物中の主婦みたいな詞に変えて歌ってたのはナイショ。しかし、言われてみれば、恋する気持ちって恋傀儡ですよね。恋傀儡わかる。語感が良いから言いたくなる恋傀儡。

待ち人から奪われないように祈ったのに

の、「待ち人」というワードチョイスのセンスもさすがですね。敵が待ち人ならもうどうしようもないという切なさと、自分は待ち人じゃないという切なさが、、、それな、という感じ。

そして、サビ終わりと、ラスサビ前、最後の最後が、それぞれこんな感じ。

何も言えずのままが美しいって
そればかり 思っていた春

手紙みたいな感情のダダ漏れ
落ちて流れて争って
結果何か寂しくなった
美は仇となり 溢れ返った

何も言えずのままが詞になって
結局傷付けると思うのは勘違いなの?

何も言えずのままが美しいと思ってたらそれが仇となり溢れかえって詞になって結局傷つける......という、失恋の体験を歌詞にして商売にしてるミュージシャンならではの表現が新鮮です。まぁしかし私も何も言えずのままがTweetになって結局傷つけたいタイプの人間なので、そういう点では現代人にとっては普遍的な感覚でもあるかもですね。「勘違いなの?」というところに、勘違いであって欲しくない、傷付けたい、というニュアンスがあるような気がしなくもなく......。
恋心ってフクザツですね......。

あ、全体にギターの音が目立たない曲ではありますが、アウトロでぎゃんぎゃん言ってるのがカッコいいです。




4.Play Back End Roll

ゆったりとしたバラード曲で、「ハルの言う通り」の激しく荒涼感の強いギターアウトロの後だと余計にほわんほわんほわんほわん(擬音)というこの曲のイントロが暖かく優しく響きます。

しかし歌詞の入りは「罪が消えてゆく」となんだか重たそうな感じ。そのイメージの通り、これまでの3曲でそれぞれひとりの主人公視点で歌ってきた"恋愛と失恋"からの流れで、一人称を使わず作者のモノローグのようなニュアンスで"恋と人生"にまで視点を敷衍した一曲です。

これまでの自分の人生のキャストたちをエンドロールにクレジットして何度も思い返すという意味のタイトル。
歌詞を要約するなら(歌詞を要約とはなんて無粋な)、恋と失恋を繰り返してきた男が恋愛の難しさを嘆きつつも人生の伴侶を探すことを諦められないというか、探さざるを得ないと諦めているというか、ゆるく決意しているというか、そんな歌ですね。
「男」と書いたのは何も女性を軽視しているわけではなく私が男だからで、つまりは「これは私の歌だ!」と思えてしまうくらいにわかりみが深いんですよね。
わかりみが深いとは言いながら、解釈しきれない余白が残ってそれを分かりたくて何度も聴いてしまうけど全ては理解しきれないのもこの人の歌詞に特有の魅力です。大好きな川谷えのぴょんのことを全て知りたいけど、ほんとに全て分かってしまえば魅力は失われてしまいますからね。




5.星になった心臓

音はこのアルバムでダントツに好きですこれ!最初はなんかちょっとスピッツっぽいなと思ったんですよね。イントロのギターの音色とかかな。でも一番が終わると急に謎の展開を見せるあたりは思っくそ川谷絵音の手癖全開で笑いました。「ん??どした??」という感じ。
さらにラスサビ前の間奏も凄く綺麗で、常連のコーラス隊の2人の弾むような、でも切ないふふふんが良いですね。まさに星が降るような美しさ。
イントロとアウトロが鏡写しになっているのも綺麗ですね。

で、音はって言ったけど歌詞ももちろん良いです。
ただかなり抽象性が高いのではっきりと何の話かは分かんないんですが()、たぶん「死」「孤高」「生きる意味」といった内容だと思いますね。
星というのは孤高の存在、上の方で輝いているもの、誰かを照らし温めるもの、そうしたイメージが語られ、漠然と「星になってみたいんだ」と歌われる。そして、「星になれたら あなたの心臓になって輝くよ」という。なんとなく、この「あなた」はこの世の人ではないような、もしくは神様とかそういう漠然とした存在?という気もします。
なんとも捉えどころがないですが、それもまた歌詞を聴く魅力のうち、と読解力の無さを誤魔化しておきましょう。
あと、あんまり作品と作者をそのままイコールで結びたくはないのですが、ABの歌詞なんか騒動後の川谷絵音という人を思わせるところがあり、むしろ彼のドキュメンタリーとして読むのが一番分かりやすく解釈できる気もします......。




6.雫に恋して(Remix by HVNS)

この曲のオリジナルについてはいずれ書くであろう『藍色ミュージック』の感想で触れたいと思うのでさらっといきます。
リミックスということでどうなるかと期待していましたが、こうなるか。
原曲の歌謡曲感バリバリな感じとは一転、音楽を聴いているのに静寂を感じるような、それでいてエモいアレンジになってて驚きました。「星になった心臓」がアルバムの中でも特異な曲だったので、そこから次に繋ぐ橋渡しとしてもちょうど良いですね。
といっても休憩タイムというわけではなく、夢の中で溺れるような不思議な聴き心地が気持ちいい、カッコいいリミックスです。




7.冬夜のマジック

おしゃれミュージック全開の本作にあって唯一普通にロックバンド感の強い曲がこちら。配信シングルとして出ただけあってかキャッチーですが、構成はなかなか一筋縄ではいきません。
冒頭で、

冬夜の魔法が解けるまで あなたを奪いたい

と美しい女性の声で歌われます。この部分はDADARAYのREISさんがゲストボーカルとして参加されているそう。
そして、この一瞬の女性視点パートの後、川谷絵音が登場して、男視点の歌詞を歌い上げていきます。

まず先に言わせてほしいのですが、最初の方の歌詞の「スピッツ スピッツ」という部分にはびっくりしながら笑いました。正確には「どっひゃああぁぁぁ今こいつスピッツゆうたぞ!?おいみんなこいつスピッツってゆったぞ!!」となりました。そりゃindigo la Endというバンド名がスピッツから取られてるくらい川谷絵音スピッツファンなのは知ってましたけど、そして文脈的にあのバンドのスピッツのことではないにしろ、しかし歌詞に「スピッツ」って入れるなんて!

で、他のバンドの話題が出たついでに言わせてもらいますが、この曲のサビが最後の最後まで温存される変わった構成は、サカナクションの「夜の踊り子」のオマージュだってえのぴょんインタビューで言ってました。どっひゃああぁぁぁ今こいつサカナクションってゆったぞ!!?という感じ。たしかに私も「夜の踊り子」を初めて聞いた時はあの構成に衝撃を受けましたからね。やりたくなるのは分かるけど。

それにしてもスピッツサカナクション両方へ同時にオマージュを捧げながら、indigo la Endの過去作「夏夜のマジック」(あと地味に「さよならベル」も)もセルフで借りてきてるこの曲は、スピッツサカナクション川谷絵音の大ファンの私としては一挙三得で、大好きな曲になりました。

で、そろそろ歌詞の内容に入りますが、「冬夜のマジック」というのはもちろん恋のマジックのことなわけですが、そんな魔法の渦中にいながら春になれば魔法が解けることも確信してしまっているというつらい歌です。
それが、別の言い方ではゼロから100という風にも描かれていて、余談ですがこれもスピッツの「みなと」という曲にも出てくるしサカナクションもいつかのライブでテーマとして掲げていたワードです......というのはまぁさすがに狙ってるわけでもないだろうし置いといて、、、

時間と時間が口説き合って
ゼロになるところを恋と呼んだ
100まで一緒にいませんか?

お互いの過ごしてきた時間、つまりはこれまでの人生があった上で出会って、新しくゼロから2人の時間を刻み始めるのが恋というもの......。素敵じゃないですか?さすがは恋の伝道師川谷絵音
しかし、「蒼糸」でも「経験とともに恋が下手になる」とあるように、恋というのは経験するほど別れを知り終わりの予感が強くなるもの。サビ前では君への熱烈な思いと、それと表裏一体の終わりの予感を繊細に歌い、「夜の踊り子」式に焦らした末のサビで

もうすぐ もうすぐ もうすぐ もうそこに
君がいない飾り付けた部屋が
当たり前に寒くなくてさ

と、鮮烈に少し先の未来を描き出します。もちろん得意の裏声で。
この人の失恋ソングはもちろんどれも切ないんですけど、この曲はいわばビフォア失恋ソングで、焦らすことでサビに切なさを凝縮させてぶっ放すというエグい技を使った、インディゴラブソングの新たな金字塔となる曲ではないでしょうか。




8.Unpublished manuscript

「冬夜のマジック」の最後のギターの音の余韻を引き継ぎながら、静かなギターの音で始まるこの曲。
ラブソングの金字塔に続いて命の歌の金字塔をと言わんばかりに、7分超の大長編の命の歌になっています。

見えないことが 実は見えてる
ズルいよ神様
僕にも見せてよ 命の項目だけでも

と、神様に向かって未来を教えてくれと懇願する歌になっています。
タイトルのUnpublished manuscriptは「未刊の文書」「未発表原稿」といった意味合い。
タイトルの意味は、神様だけが読むことが出来て人間には発表されていない"運命"という名の原稿......というところでしょうか。もしくは、この曲自体が川谷絵音自身の心の中の独白であり未発表原稿のようなものだという意味か......。
でも、サビで「Unpublished manuscript......」と渇望するように繰り返していることから、前者の方が自然には思えます。
7分超の大作ですが、ゲスで同じく大作の「いけないダンスダンスダンス」のような展開の広がりはなく、AメロBメロサビ......みたいなわりとシンプルな作りになっていて、しかしその分歌詞の切実さが際立っています。
「神様」とは言っていますが、具体的に神様の存在を信じて直訴してるというよりも、なにかこう行き場のない憤りや悲しみを神への祈りという形で言わずにいられない、というようなニュアンス。それも歌詞の切実さに拍車をかけます。さらに、終始静かに展開していた曲が、終盤ではボーカルとコーラスとを交えて畳み掛けるように訴えかけギターもまた叫ぶように鳴り出し......というエモーショナルな終わり方を迎える、これも切実感。
要は、そういった歌詞やサウンドや歌の切実さが印象的でついつい何度も聞いてしまう、その点やはりゲスとは違ったindigoらしい大作です。




9.魅せ者

一方こちらは、ギターのカッティングと波のようにうねうね動くベースが印象的なイントロで、思わず「ゲスやん」と思っちゃうような、ファンクな一曲です。やっぱベースとドラムが上手いとどんなジャンルでもこなせちゃうんですね。すげえ。

ただ、音はゲス寄りでも歌詞は女性視点の失恋ソングというインディゴの王道。
(たぶん)年上の「兄がいたらこんな感じ」と思うような男に「魅せるだけ魅せ」られながりも、きっと向こうも妹みたいにしか思ってないから「程よい距離で届かない」わ......っていう、誰にも知られない自分の中だけの失恋を描いた切なすぎる青春ラブソングです。
このへん、スピッツの「仲良し」という名曲のちょっとだけ大人になったバージョンという雰囲気もありますね。スピッツ厨はそう思うよ。

何とかなった想像をしてみるけれど
あなたじゃない あなたじゃない

というサビがキラーフレーズ。恋することと付き合うことはまた別で、めちゃくちゃ好きなんだけどあの娘と付き合ってるところ想像できひんわーっていう恋が私にもありました......。なんやねん!魅せるだけ魅せといて!という気持ちもすごくわかりみ......。
最後の大サビの

さようなら束の間の淡い淡い 私だけの話
恋なんてこれくらいのことしか書けません
最後まで読んでくれてありがとう

というところで、ちょっとメタ的というか、これがこの歌の主人公によって書かれたものだという視点が出てきます。
辻真先の小説で、「誰にもバレない犯罪が完全犯罪なら、誰にもその気持ちの存在を知られていない恋は完全恋愛と呼べるのではないか」みたいなやつがありましたが、この主人公の恋も、知られていない、知られてはならない恋でした。しかし、殺人鬼が現場に自分のマークを残すように、知られてはならない完全恋愛も、誰かに知ってほしいという気持ちが絶対に生まれてしまい、それが綻びの元となるわけです。だから、この主人公はこうして言葉にして我々に読んでもらうことで気持ちに整理をつけようとしたのでしょう。
私がこの曲を聴いたことで彼女の不完全な完全恋愛が少しでも報われますように......。

そして、リズムが伸縮するようなカオティックなアウトロがけっこう長いこと演奏されて頭がぐわんぐわんしてきたところで......




10.プレイバック(Remix by Metome)

......この曲の静寂なイントロに入るわけです。
前のアルバム『Crying End Roll』の収録曲のリミックス。
歌詞など原曲についてのことは前作の感想に書いたので割愛しますが、リミックス版もまぁ素敵ですこと。
こういう音楽にまるっきり疎いので、「〜っぽい」とか、「〜の要素を取り入れた」とか言えないしMetomeさんも誰か知らないのでほんとに書くことないですが、静謐で原曲以上に憂いを増した音がこのアルバムにぴったりです。
前作では3部構成のうちの第3部の1曲目として、再びアルバム全体の最初に戻るかのような効果を出していましたが、本作では最後から2番目の曲ということで、ここまでのアルバム全体のことをもう一度だけプレイバックさせるような、例えるならロックのアルバムでよくある「Reprise」というやつに(前作の曲の繰り返しという意味でも)近い効果を生んでいると思います。
前の曲がサウンドは賑やかで、最後の曲はしっとりバラードなので、そのつなぎという意味でもいい感じ。




11.1988

静かなピアノの音からはじまり、ゆったりとしたベース、ドラムに乗せて歌っていくしっとりしたバラード調の曲。
1988年は、川谷絵音の生まれ年で、彼には珍しく自分の歌を作ってみた様子。
川谷絵音は本作のインタビューで、「自分には"業"がなくて、なに不自由なく幸せに育ったけどそれはアーティストとしては負い目にもなる」みたいなことを(私のうろ覚えの意訳なのでちょっと趣旨がずれたらすみません)言っていました。
それは私も普段感じていることで、両親は健在だし恋人を亡くしたこともないし心身ともに健康でなに不自由なく暮らしている。それは素晴らしいことだし、そのことを嘆いたらバチが当たるけど、それでも失恋したら悲しいんですよ。でも、私みたいに幸せなやつがたった一度や二度女にちょっと振られたくらいで不幸ヅラすること自体も本当に大変な人に失礼だし、でも私だって悲しみたいからいっそもっと不幸な目に逢いたいわ〜〜みたいな気持ちは以前からずっとあって、それはまぁ私の気持ちだから川谷絵音の気持ちとは違うものではあるのですが、そういうことをこの曲に重ね合わせて聴いてしまいます。

ところで、最後の

1988 言葉で小さな命をつぐむ

という歌詞ですが、これが謎でして......。
「命を」ときたら普通は「つむぐ(紡ぐ)」と繋がるのが自然ですが、ここでは「つぐむ(噤む)」となっているのが気になります。単なる間違いなのか、意図があるのか。
なんしろどっちとも分からないので解釈が難しいです。ラジオに質問でも投稿してみようかしら。

この「言葉で小さな命をつぐむ」というフレーズが繰り返され、だんだん盛り上がっていくのですが、さぁいよいよクライマックス......というところでぶつっと曲が終わってしまう。
生まれ年を冠した曲なので、ぶつっと終わることでこの先も人生が続くことを暗示しているのかなんなのか。とにかくぶつっと終わってしまうのでまた最初から聴きたくなってしまい、一曲目の蒼糸を再生するという無限ループに落とされてしまうのでうまい終わり方だとは思います。