偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

今月のふぇいばりっと映画〜(2018.12)

あけましておめでとうございます。
世間ではやれお正月休みだのなんだのと騒いでいますがね、私に言わせればそんなんはファッキューですよ。そんなわけで元日だけかろうじて休みで2日から仕事のブラック企業勤めですが今年も映画と小説と音楽はなんとか摂取していきたいのでよろしくお願いします。

では先月のふぇいばりっとを。






柔らかい殻
普通の人々
フィールド・オブ・ドリームス
メッセージ
時計仕掛けのオレンジ
ブロンド少女は過激に美しく
ドライヴ
エド・ウッド



柔らかい殻

柔らかい殻 [DVD]

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千街晶之氏が全映画でのオールタイムベストに挙げておられたので気になってたんですが、運良くイマジカでやったので。

とある田舎の村。主人公はいたずらっ子の少年セス。彼はある日友達と3人で未亡人にカエル爆弾を仕掛けます。その件で未亡人の家に謝りに行くことになったセスは、彼女が夫が自殺した話などをするのに怯え、彼女を吸血鬼だと思い込みます。
本作は、そんな少年セスの目から大人の世界を描いた、主観ではホラーミステリー、客観では田舎の厭な人間ドラマという風変わりな映画です。

どうも監督の本業は画家らしく、この作品の映像も絵画的な感じ。まさに絵に描いたような一種人工的な構図の取り方と、明るいのに不穏さや退廃を感じさせる色遣いから、他では見たことのない独特の雰囲気を醸し出しています。
特に吸血鬼おばさんの家へと向かうシーンの左右対称の美しさや、火事のシーン、そしてもちろんラストシーンなんかはかなり印象的で癖になっちゃいます。この映像美だけで傑作と言い切れますね。

そしてお話は暗いです。
生々しい大人同士の関係性が、子供の目を通すことで現実離れして見えてしまうというのは面白いですが、全て分かってる大人の観客からするといたたまれない気分になります。やっぱり狭い場所はこういう意味ではダメですね。恐ろしい。
しかし色んなことが起こるので、ついつい気になって厭だと思いながらも見てしまう魔力があります。恐ろしい。
こんなトラウマを植え付けられた彼が今後どんな人間になるのかと思うとそれも恐ろしいですね。
恐ろしくも美しいヘンテコカルトムービーでした。イマジカBSさんこんなマイナー作品やってくれてありがとう😊




普通の人々

普通の人々 [DVD]

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長男を事故で亡くした両親と次男の三人家族がだんだんと崩壊していく様をじっくり描いた家族ドラマです。

イケメン俳優レッドフォードの初監督作品。とはいえ俳優としてのレッドフォードもほとんど見たことないので、そう聞いてもそこまでテンション上がらなかったんですけど、それはそれとしていい作品でした。

ほんとに、タイトルの通り長男を亡くしたという経験以外は丸っきり「普通の人々」であるところの一家三人の葛藤だとかを、次男のコンラッドくんを軸に描いているだけのお話なんですよね。特別にキャラが濃い人もいないし、起こる出来事もコンラッドくんがセラピーに通ったり女の子とちょっと喋ったりするくらい。あらすじだけ見ると本当につまらなそうな物語なんですが、なぜかめちゃくちゃのめり込んで観ちゃったんですよね。

なんでそんなに良かったかっていうと、やっぱ緊張感のある演出のおかげだと思います。
例えば、最初の家族の朝食のシーンが分かりやすいんですけど、ママがご飯を作るけど、コンラッドくんは「食欲ないからいらない」って言うんですよ。するとママがいきなりちょいキレでせっかく作ったご飯を捨てちゃう。そんな、反抗期の息子がいたりすればどこの家庭でも起こるような出来事のリアルさ。このシーンだけでこの家族の姿がだいたい分かってしまう素晴らしい導入です。
あるいは、コンラッドくんが以前精神科で知り合った女の子と再会するシーンで、病院を懐かしむコンラッドくんと、病院のことなんか忘れて今を生きようと言う女の子との微妙だけどヒリヒリと感じられる断絶。また、家族写真を撮るシーンなんかもヒリヒリ感がヤバイですね。
そういう、人と人の断絶が形を持って現れてしまう時のヒリヒリとした緊張感を描くのがとても上手くて、それが些細な出来事でもサスペンスのようなフックになって観ている私の心をクイっと捕まえちゃうわけです。

そんな風に概ねは人との、というかほぼママとコンラッドくんとの断絶を描いた暗い映画ではあるんですが、その中に少しですが優しさもまた強く描かれています。
それは例えば、突き放すようで実は親身になってくれてるセラピーの先生だったり、コンラッドくんとクラスの美少女とのにやにやしちゃうような青春だったりセイシュン!Yeah!、息子のことが見えていなかったけどそれを反省してきちんと向き合おうとする不器用なパパの決意だったり......。
そういうところに普通の人々の普通の優しさや普通の幸せがほのかに垣間見られるので、見終わった後へんにどんよりすることなく、爽やかとすら言える観後感がありました。

あと、はっきり言ってママは完全に悪役でクソ親という描き方がされているんですけど、最後の方でママはママなりに苦しんでいたのだなと分かるシーンがあって、それだけであのクソっぷりを全部許せるわけじゃないけどちょっと見方が変わるのも、この作品自体に通底する実は優しい視点が感じられて素敵でした。


最後にひとつ作中で特に好きだったセリフを。

「感情は怖いものだ。痛みを伴う。痛まないものは死んだも同然だ」

はぁ、良いこと言うぜ......。




フィールド・オブ・ドリームス

フィールド・オブ・ドリームス (字幕版)

フィールド・オブ・ドリームス (字幕版)


野球が嫌いです。
小学生の頃、友達と野球をやってると私が打つ時だけ5ストライクまで許されたりボールを下投げしたりというルールが作られたりするほど下手だからです。
それでもその頃はみんな優しいからそういうルール作ってくれてなんとかやっていけましたけど、これが高校とか大学の授業になると私だけそんな訳にもいかないからチームのゴミ共にいじめられてツイッターに「死ね死ね死ね死ねゲロクズ野郎どもめFuck」などと投稿する暗い野球人生を送ってきたからです。

だから、見始めた時に本作が野球にまつわる話だと知って「あんまりガチなやつなら途中でやめよう」とホラーを見る小心者みたいなことを思ってしまったのですが、杞憂でした。
というのも、たしかに本作は野球が軸の話ではありますが、そればっかりではなく、わくわくするような奇妙な展開と、熱い人間ドラマがあるからです。


トウモロコシ畑をやってる主人公が、「"それ"を作れば、"彼"が来る」という謎のお告げを聞くところから物語は始まります。"それ"というのが野球場のことだと直感した主人公は、声に従って野球場を作ろうと奮闘します。
この辺まで見て「野球場を作るまで」のお話なのかと思いきや、なんと野球場自体はすぐ出来ちゃって、ここから物語はどんどんヘンテコな展開になっていくんです。
見ながらハッと我に返ると自分は一体何を見ているんだろうとか思っちゃうんですが、しかしそれでいてそれぞれのシーンがとてもエモいんですよね。なんかこう、どこがどうとは言えないけど、知らない人を訪ねてはだんだん心通わせていく感じとか、幽霊(?)たちの出てき方とか、なんか感動しちゃうんですよね。

で、そんな感動を作ってるのがたぶん脇役の魅力でありまして。
作家さんの気難しいのになんだかんだ優しいところの可愛さとか。
奥さんがめっちゃ綺麗だしめっちゃいい奥さんでこんないい奥さんおらんやろって思うけどあの豪快な笑い方にすごいドキドキしました💓これが恋か💓
あと、これが遺作となったパート・ランカスター氏がめっちゃいい味で、この役が遺作であること自体がもう一つのドラマであり、作品外部のことではありますか感動しちゃいました。

そして、最後にはきちんと物語が主人公のものになるところも粋ですね。今まで積み重ねてきたものが伏線ってほどじゃないけどラストで収束する気持ち良さ。ここまで来て初めて、この奇妙な物語のテーマがこのシーン自体であることに気づかされて鳥肌が立ちました。

野球嫌いでも楽しく見られて泣ける人間ドラマでした。時代背景やアメリカの文化を知ってればもっと楽しめたかもしれないけど......でも十分とても面白かったです!




メッセージ


世界12ヶ所に突如現れた巨大なばかうけ言語学者のルイーズは、彼らの"言語"を解読するために軍の研究チームに招待され、ばかうけに乗るインベーダーたちと交流をしていく。果たして彼らの目的とは......?


いやぁ、良かった......。
個人的に、SFもデニ・ビルヌーブも興味はありながらちょっとお高く感じていたのですが、まさかこんなに楽しめるとは......。

言語学者を連れてきて宇宙人とコミュニケーションを取ろう!っていうエイリアンSFと言語学SFのいいとこ取りみたいな設定がすでにわくわくで、静かな話でありながら知的好奇心という名のエンタメ性でガンガン引っ張ってくれます。
サピア・ウォーフの仮説とか出てくる時点で良いですよね。なんかこう、「吊り橋効果」とか「シュレディンガーの猫」とか、頭良さげなワードが出てくるとそれだけでウワーッカッコイーッってなっちゃう頭悪いタイプの人間なんでね......。

で、ミステリとかこういうSFって知的な面を追求するなら情報量の多い小説の方が向いてる気がするんですよね。本作の場合も異星人の言葉を解析していく過程なんかは映像で見てもいまいち伝わって来づらくて、そこらへんの知的興奮には情報量が足りない。
だけど本作が良いのは、そのへんはばっさりと割り切って言語の解析は面白いところだけ切り取ったダイジェストのような感じにしていること。そして、その分人間ドラマに振り切っていることで映画で見る感動があるような気がします。原作を読んでいないので分かんないですけど、たぶん狙ってそういう映画的な感動に寄せてるんでしょうね。
その甲斐あってラストはほんとに衝撃で、壮大な設定からひとりの人間の人生というミクロではありながらより切実なテーマを描き出していくあたりめっちゃ好みでした。でもでも、そこにはちゃんと謎が解けて見たことのないビジョンが見えるというSF的なワンダーもあるから「SFと見せかけて御涙頂戴か」てな醒め方もしない。少なくとも私みたいなSFちょっと興味あるけどズブの素人っていう層にも分かりやすく知的興奮と泣けるドラマが味わえる名作だと思います。




時計仕掛けのオレンジ

時計じかけのオレンジ (字幕版)

時計じかけのオレンジ (字幕版)


近未来、ロンドン。仲間たちと厨二病的なギャング団を結成して悪逆非道の限りを尽くしていた不良少年のアレックス。ある時警察に捕まっちゃって、「悪いことできなくする手術」みたいなのを受けさせられます。そしてアレックスは表面上はニコニコ好青年に。しかしそんな彼の将来に待ち受けていたのは......!?


てなわけで、ついに観ちゃいました。あ、間違えた。ついに、ビディーっちゃいました。
本作はアルトラがチョベリバなシニーだと聞いていたのでびくびくしながらビディーりましたが、案外分かりやすい筋立てとナウい映像美に見入ってしまいました。

......はい、さっきから私が使ってる変な言葉が作中に登場するナッドサットという言語なんですね。あ、チョベリバとナウいは日本の死語ですよ。
本作の舞台は近未来のロンドンシティでありまして、近未来だから当然現在とは言葉も変わっていて、独自の若者言葉が特注で作られているんですね。これがSFとしてリアル(だって例えば100年後とか考えて今と言葉同じなわけないですもんね)な上に厨二心をめちゃくちゃくすぐってくるんです!私が中学生だったら絶対これ見た翌日に学校で「ハイハイハイゼア!あそこのデボチカめっちゃホラーショーじゃんよ」とか言ってクラスメイトにトルチョックされますよね。あ、ホラーショーなデボチカ=マブいチャンネーです。
ちなみに、このナッドサット語ってふざけてるようで実は英語とロシア語を元にしたスラングとしてしっかり考えて作られているらしくて、原作者の頭どうなってんだとびっくりしますよね。

はい、いまんとこ言葉についてしか書いてないので内容についても少々。
まず映像やべえ。Blu-rayの良い画質で見たからってのもあるけど、セットや小道具や衣装の近未来的でいかがわしい存在感に、トリッキーなカメラワークや編集の面白さ、凄え。いわゆる「映像がいい」ということがいまいち分かっていない私のようなド素人が見てても単純に面白くて引き込まれる映像なんですよね。綺麗でいて気持ち悪く、気持ち悪いけど綺麗。

そしてストーリーも同じようにトリッキーで飽きさせない展開になっています。
前半はもう主人公のアレックスと愉快な仲間たちが繰り広げる悪逆非道の数々に吐き気がしつつも見入ってしまいます。暴行、強姦、3P......いや、3Pは別に犯罪じゃないし単純に羨ま......げふんげふんなんでもないです。
しかし、前半で悪役としての危険な魅力を発散していたアレックスちゃんの後半のゲップとえづきの量にさすがにちょっとかわいそうにならなくもない気がしなくもなくないですけど、ともあれ、だんだんと物語がアレックスの手を離れてもっと大きな世の中の仕組みのようなものへの風刺に変わっていくのが面白いです。終盤の展開なんかは近未来の話でありながらいつの世にもわりと普遍的なテーマを皮肉めかして描いていて印象的です。

と、そんな感じで、観る前は完全にアート映画(笑)だと思ってましたし、なんならこれ好きって言ってる人にも「かっこつけじゃん」とか思ってましたけど、これはふつうに面白いわ。実は誰が見ても楽しめるエンタメ映画だと分かりました。やっぱり見てみないと分かんないもんですね。




ブロンド少女は過激に美しく


おっさんmeetsガールbyジジイ!

主人公のおっさんが、電車で隣あった老女に自らの恋の思い出を語る。
叔父がやってるお店で、隣家に住む少女に一目惚れしたこと。しかし、彼女と付き合い始め、結婚したいと叔父に言うと「お前なんか出てけー!」と追い出されてしまったこと。そして、その後の苦しい日々と、......。


という青春ストーリーですが、監督がなんと100歳!まじかよ!100歳で映画って撮れるもんなのか!?生きてるだけですごいし頭はっきりして動けるだけでもすごいのに、映画監督??

という、監督のプロフィールへの驚きだけでかなり加点されているような気もしますが、それを抜いてもなかなか面白い映画でした。


「過激」というと、どうしてもYMOの「過激な淑女」みたいなイメージで、ブロンド少女を抱き上げて寝台(ベッド)まで運びたくなっちゃいますが、そういう露骨にエロい感じではなかったですね。
とはいえ、ブロンド少女が美しかったのは事実。ジャケ写がジャケ写のくせになんかやたらと写りが悪いんですが、実際にはもっと綺麗です。少女らしい可愛さと、大人っぽい色気との過渡期という、少女コンプレックス患者には堪らない女の子。そんな子に窓から目があって微笑まれたら、一撃必殺、その刹那に屈服してしまうに決まっています。まぁ扇子のセンスはよく分からなかったけど......。なんにしろ、おっちゃん、アンタは悪くないよ!
しっかし惚れるとこまでは分かるけど、なんとその後あっさり相愛になれちゃうのにはびびりました。まぁおっさんもロリコンだけど大人の色気はあるからな......。

そんなこんなで幸せになるかと思いきやその後は受難の日々なわけですが、本作の尺は60分。こういう静かな映画では退屈しそうなところがさらっと語られるので、展開が早くて飽きさせません。まぁ静かな映画を退屈とか言っちゃう時点で私のお里が知れるってもんですけど......。
とまれ、パッパッと展開していってラストも呆気なく「はい、THE END」という感じ。

しかしこのラストがいいんです。
序盤から落ちの予想はついていたものの、結局どうしてそうなったのかは分からないまま。観ている我々はモヤモヤしますが、このモヤモヤを主人公のおっさんも味わうのでしょう。そして、その度に後悔するはずです。一度好きになった人への気持ちは、どうあがいてももう完全に消すことは出来ないのですから......。でも、もちろんおっさんがああした気持ちもそれまでのお話を見ていれば分かるところで、結局おっさんの立場からするとどうしようもなくああなる運命だったとしか言えないような......そんな切なさがありますね。
一方でブロンド少女のことについては全てがこちらの想像に委ねられるので、どこまでどう想像するかで感想もかなり変わりそうな味わい深い作品だと思います。

なんせ2009年の映画とは思えぬような古めかしさですが、その分イマドキの映画にはない昔情緒がイマドキのキレイな映像で楽しめる良作だと思います。





ドライヴ

ドライヴ

ドライヴ


昼はカースタントと車の整備、夜は強盗の逃し屋という二足の草鞋で生活するキッド。
アパートの隣人のアイリーンに恋をし、息子とも仲良くなるキッドだったが、服役中の彼女の夫が面倒事を抱えて帰ってきたことで事態は一変し......。


世界一好き(or嫌い)な映画に出てるゴズリング先生が主役なのでこれは観なきゃとDVDを借りたものの、なんかその時無性に眠くて見ずに返した本作。
あれから数ヶ月......リベンジした私は驚かされました。しょっぱなから面白いやんけ!寝るな昔の俺!
いやぁ、実を言うとレフンの「ネオンデーモン」も嫌い(少なくともその時はそう思った)なので、やっぱつまんないのかなぁと思いながら観ましたがそんな不安は杞憂にThe End。

ストーリーはありがち、と言っていいくらいに分かりやすい。なんせ、寡黙なヒーローが愛する女を守るために闘う......なんて、古典的、類型的、x番煎じ......そんな部類のものですよね。
でも、映像や演出は独特だったから、作品全体としては陳腐には感じない、むしろ観たことのないような不思議な魅力が感じられました。

静と動で言えばアクションなんだから動のはずが、漂う雰囲気は完全に静的。そのギャップにヒリヒリとシリアスな緊張感が伝わってきます。これは本作全体にも言えることで、静がベースで時々瞬間的にバイオレンスが沸騰するから、緩急の緊張感がエグいです。
そして、雰囲気といえば映像の切ない雰囲気も堪りませんね。主人公が破滅に向かっていくであろうことが、画面の色合いから伝わってきます。夕陽や、夜の街に仄かに灯るオレンジが終わりを予感させ、テロップのピンクも刹那的なイメージを湛えています。
さらに音楽もいい。重ためというかシリアスな感じのテクノっぽいオープニング曲をはじめ、オシャレ感がありつつ本作特有の頽廃の匂いにもぴったり。
で、この辺がもうオープニングの時点でひしひしと伝わってきますから、コンディションさえ良ければオープニングで引き込まれるんですね......。前見たときはだからよっぽど眠かったんや......。


そして、バイオレンス描写がストーリーと絶妙にマッチしていてカッコいいんです。
例えば、ある人が頭吹っ飛ばされるあのシーン。突然これまでにないエグいグロテスクな映像を見せられることで、さぁクライマックスがはじまりますよという警鐘が私の頭の中で鳴り響きました。
そして、エレベーターのシーンが一番の名場面ですよね。わざとあんなグロい殺し方をするところに、これまでにも観てきた主人公のカッコ良さがぎゅぎゅっと凝縮されて、あそこでさらに彼に惚れました。まじゴズリング。

お話自体も、散々ありがちだとは言ってきましたが、ありがちというのはそれだけ普遍的に人の心を掴むものだということで、それを映像や演出としては今風の抑えたカッコ良さでやられちゃタマランですな。予想に反してなかなかハマっちゃいました。傑作。




エド・ウッド


「途中から4倍速で観たので乳の揺れる速度がとても面白かったです」(某Filmarksユーザーの『死霊の盆踊り』レビューより)


エド・ウッド
『プラン・9・フロム・アウタースペース』『死霊の盆踊り』などで知られる、史上最低の映画監督。
本作は、そんなエド・ウッド氏が、代表作『プラン9〜』を撮るまでの伝記映画です。

エド・ウッド作品はクソですが、彼の人生はドラマに映える、ということに気づいたティム・バートン監督が凄い。もちろん、単にバートンが個人的にファンということもあるのでしょうが。しかし、エド・ウッドにさして思い入れのない私でも泣いたし、本作を観終わったら彼の作品を観たくなりました......というのは、観たくなったというだけで実際には観ないですけどね。クソやから。

実績はないけれど、映画への熱い思いだけで映画監督を目指す青年エド。ある時出会った落ち目の元大スター、ベラ・ルゴシと共に、どん底からの逆転を目指すドラマ......
......といえばなかなか面白そうな感じがしませんか?
で、もちろんエド・ウッドだからヒットを飛ばせるわけもなく、「どん底からの逆転」は文字通り目指しているってだけで、結局は最後までどん底のまま。彼が日の目を見ることはありません。
それでも、どん底で苦悩しながらも映画を撮ることだけは諦めず、仲間たちと楽しんで撮影を続ける彼の姿には胸を打たれます。

そして、エド作品の完コピも本作の見所で、プラン9のツッコミどころ満載のシーンも、裏話として見れば笑えるし泣ける!ルゴシがただ歩くだけのあの場面に、あんな想いが込められていたとは......。もちろん、現代の技術で撮っているため、本家より映像は綺麗で、こうして見るとなかなか絵になるじゃないかとエド・ウッドを見直したい気持ちにならなくもなくなくなくなくなくセイイェーです。

ラストはプラン9を撮ってその反響あたりまでで終わるので、かの迷作『死霊の盆踊り』が出てこなかったりとやや物足りない部分もあるものの、一本のドラマとしてはたしかにあそこが一番の山場でしょうし、「エド・ウッド作品を見返したい」という余韻の残る名作でした。......いや、だから、見返したいと思うだけで実際は見ないですけどね。