偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

今月のふぇいばりっと映画〜(2018.10)

はい、それでは今月のふぇいばりっとのコーナーです。冷静に考えたらこのコーナー、今月じゃなくて先月になっちゃうんですけど、もうやりはじめてしまったので今更曲げるのもカッコ悪いですしこのまま突き進みます。

それでは"今月"のふぇいばりっとはこちら〜↓


サタデー・ナイト・フィーバー
ニュー・シネマ・パラダイス
カビリアの夜
プールサイド・デイズ




サタデー・ナイト・フィーバー

ディスコでフィーバーしながらコンドームの大切さを鋭く描き出すお話です🕺😹

最初は大嫌いでした。そう、クライマックスまでは、『グリース』と同じで大嫌いな映画で、なんならトラボルタもほんっと嫌いでした。
当時だったら別に気にならなかったかもしれませんが、今これを見たらいろんな差別的言動は平気でするわ男女関係は男上位のセックス本位だわ、そもそもキャラ全員イヤな奴だわと、まぁ時代の違いは仕方ないことではありますが、やっぱりちょっと生理的な不快感が強かったですね。
ただ、それでもBee Geesのディスコテックとダサかっこいいディスコダンスと夜の闇を照らす灯りの華やかさとそれとは裏腹の虚しさと切なさと心強さはステキでした。

で、クライマックスのダンスシーンまではそんな感じで不快が強かったのですが、その後の怒涛のイヤな展開、人間が簡単にぶっ壊し合う様を見ると、ここまでの不快感もこのカタストロフを描くための伏線だったことが分かり戦慄しました。
また、そんなことがあって無知の知を得たはずの主人公トラボルタが結局最後まで自分本位にしか生きれないという皮肉な気持ち悪さが後を引くラストも素晴らしかったです。そもそもなんで私が彼らのことをあんなに憎んだのかというと、畢竟それは同族嫌悪でしかなかったと思い知らされ、見終わってみれば闇の青春映画としてぶっ刺さる二度と見たくないタイプの傑作だったのであります。




ニュー・シネマ・パラダイス


映画監督のサルバトーレの元へ、故郷の母から「アルフレードが亡くなった」と電話が来る。その電話で、サルバトーレは幼少期に思いを馳せる。貧しく小さな村。唯一の娯楽施設「シネマ・パラダイス」。そして、大親友で父親が割りのような、映像技師のアルフレード......。

少年が大人になるまでの半生を切なくも優しく描いたドラマです。

とにかくアルフレードがいい人。そして主人公の幼少期がバチクソ可愛い。正味な話それだけ。それだけで最高。

前半ではまだ小さなトトが映画と映画館での交流で少しずつ人生に触れていくのがユーモラスに描かれます。
無学だから映像技師という奴隷のような仕事しか出来ないことを主人公のサルバトーレことトト君に説明して「ちゃんと勉強しろよ」と言い聞かせるところとか泣けました。トト君ちゃんと聞いてなかったけど。小学校の卒研の場面も泣きました。トト君は笑ってたけど。
子供って何も知らないからけっこう残酷だったり。でも、後から思い出してあの時のあの人の気持ちが分かったりすることもありますよね。
そして、村の人たちも良い味出してます。今の映画館で上映前に流れる「映画鑑賞のマナー」のコーナーに照らし合わせると彼らはもう最悪ですが、映画だけじゃなく映画館という場所を楽しむ彼らの姿はちょっと羨ましく思いました。

そして中盤からは学生になった青年期のトトのお話なんですが、ここで描かれる初恋というのがもう素敵なんですねぇ。まず女の子可愛いし、彼女と関わるシーンの全てが胸キュン。中でもキスシーンの美しさは夢のようです。観ているだけで幸せでいいなぁちくしょう!と思います。
で、私が観たのが実は「劇場公開版」ってやつで、これと別に「完全版」という長いやつもあるらしいですね。そちらではこの恋の顛末がわりと詳しく描かれているようですが、私が観たやつだと恋の終わりがとても中途半端になってます。といってもそれが悪いわけではなく、初恋なんてだいたいまともに終わるはずもないんですから、これはこれでリアルで良かったと思います。

そして、ラスト、詳しくは書きませんが、エモいということをよく分かってらっしゃいますよねあれは。最高でした。




カビリアの夜

カビリアの夜 完全版 [DVD]

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付き合っているはずの男に金を奪われ川に突き落とされる女性。流される彼女を見つけた人々が助けるが、意識を取り戻した彼女は礼を言うでもなく悪態をつきながら家に帰り、家でも悪態をつきまくりながら夜を彷徨う......。

この冒頭に、思わず「なんじゃこの女は??」と戸惑いと反感を覚えますが、実はその時点でもうヘデリコ・ヘリーニの術中にあったのです......。

彼女は娼婦のカビリア
本作は、彼女が男に騙され嘲笑われながらも生きていく姿を描いた映画です。
演じるのはフェリーニの奥さんだったらしいジュリエッタ・マシーナ。本作で初めて見ましたが、素晴らしかったです。ぎょろっとした目と、めっちゃ動く口元。決して美人ではないですが、その表情の激しい動きを見ているとこっちまで嬉しくなったり悲しくなったりしちゃうような魅力がありました。
彼女はとにかく純粋。だから男たちに辛い思いをさせられることばかりですが、それでも泣いて、悪態をついて、また生きていく。だから、冒頭ではなんだこの女と思っていたのに、気づいた時にはそんな彼女の虜になってました。

で、それだけに後半は先が読めてしまってフライングつらみを味わい続けたあげくお約束通りそのつらみは実現するのですが、それでもまだ歩いていく彼女の姿には人生を肯定はしないまま受け入れる強さを感じて泣けてきちゃいました。

とまぁ、全体の感想はこんな感じ。ただ、そんなことより本作は細部に宿るエモさが見どころ。俳優について歩く時の嬉しそうなカビリアの可愛さよ。舞台の上でロマンスを演じる彼女の美しさよ。マリア様を詰る切実さよ。そして、ラストの2人の表情よ......。筋だけ読んだらなんてことないお話かもしれませんが、そういう場面場面の良さがえげつない傑作なんです。だから文章で良さをうまく伝えられないのがもどかしいです。とにかくみんな観て!




プールサイド・デイズ


14歳の内気な少年・ダンカンは、母親の新しい恋人のトレントの「この夏は俺の家族と別荘で過ごすぞ」という言葉で、トレントファミリーとのバカンスに強制連行されます。しかしトレントトレントファミリーもクソ人間ばかりでまいっちんぐ。居心地の悪さに別荘から出てふらふら外を歩いていたダンカンは、カフェでオーウェンというめちゃくちゃな男に出会い......。


一夏のボーイ・ミーツ・怪しいおっさん&ボーイ・ミーツ・ガールを描いた陰キャ系青春コメディです。

陰キャラという言葉がいつからあったのかは定かではありませんが、少なくとも私が中学生の頃、つまりは10年前くらいには既にありました。おそらくその辺の時期に広く流布した新語だったのではないかと思います。
とまれ、そんな言葉が生まれてしまったがために、世のボーイズ&ガールズの個性というものは陰陽二元論に分けられ、それは即ち善悪二元論にすり替わって陰キャラは悪だから下に見ていいというルールが世界に蔓延ることと相成ったわけでございます。
かく言う私もご多分にもれず、キモい陰キャラとしての学生生活を送ってきたわけですが、この映画の主人公のダンカンもまたそんな陰キャラの1人なのでありました。

冒頭、母親の彼氏のトレントに「お前に10点満点で点数をつけるなら3点だ」と酷いことを言われ、トレントファミリーの女の子からは居るだけで「なにあれキモ」という扱いを受けるダンカンを見ていると往時の自分を見るようでいたたまれない気持ちになります。あれ、この映画コメディって書いてあるけど、全然笑えないんですケド......という。

しかし、そんな状況下でもやはり彼も男の子で、隣家の可愛い女の子に猛烈アタックします。
「あ、あ、あの、こ、こ、今年はあ、あ、暑いな、な、夏になりそうだねでゅふふ」
あっちゃーっ!やっちゃった......。
そんなこんなで何もかもうまくいかない夏。ふらふらしてると変な大人に出会います。
そう、彼こそがサム・ロックウェル演じる変人オーウェン。彼と出会うことで、変わっていくダンカンの成長と、彼のキャラクター自体が単身でコメディなのが本作の最大の見所なのです!

なんせ私のフィクション開眼が映画の「アヒルと鴨のコインロッカー」だったので、こういう若い人がおっさん?お兄さん?くらいのヤバい人に出会うというタイプのお話が好きなんですよね。
今作のオーウェンという男も、とんでもなくテキトーな変人のようでいて、ちゃんと彼なりに芯の通った人生哲学を感じさせるのでカッコいいんですよね。わざと道化を演じている感じ......というか、アホなのも本当かもしれないけどその裏に底知れないものを感じさせるというか......とにかく魅力的なキャラクターなのですよ。はい。

そんなオーウェンさんとその仲間たちとプールのバイトとして過ごすうち、ダンカンくんもだんだんとこのプールサイドデイズを楽しむようになっていきます。プールに来るパリピたちは真のパリピだから陰キャ陽キャラという陰湿な区別もせずみんな友達みたいな感じ。良いですね。
相変わらずトレントファミリーはクソだけど、クソに見下されて泣き寝入りする彼ではなくなっていく、その一夏の大きな成長が素敵です。
そして、最後の最後までトレちゃんはクソだけど、それにどう向き合うか......というところの答えがきちんと出た結末は切なくも静かな爽快感がありました。

「夏」という言葉に弱い根暗陰キャの方はぜひ見て欲しい作品です。