偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

浦賀和宏『姫君よ、殺戮の海を渡れ』昔書いたの

糖尿病の妹がキャンプに行った利根川でイルカを見たと言う。誰も妹を信じないことに憤った主人公は、妹と友人の飯野を連れてキャンプ場のある群馬県を訪れる。この子供3人での大冒険はやがて彼らの人生を大きく変えていく......。

浦賀和宏の作品は長いか短いか両極端なイメージがあります。本作は600ページ超えの長い方の浦賀作品。エモーショナルな心理描写に分量を割いた濃い物語になっています。
本書は大きく二部構成になっていて、第1部は主人公たちがイルカを探すという青春小説、そして第2部で浦賀和宏らしい奇妙な展開を見せていきます。

第1部は、兄妹、友達、そして淡い恋という青春小説全開のお話で、主人公の一人称での激しい心理描写がエモいです。心情を説明しすぎるのが嫌いな人には合わないかもしれませんが、私はエンタメなら分かりやすくキャラの内面を説明してほしい派なので、ハマりました。この一人称の激しさが、信頼できない語り手ならぬ信用ならない語り手とでも言いましょうか、彼が何をしでかすか分からないという意味でのサスペンスにもなっていて良いですね。なんせ自制心が無さすぎて喧嘩ばっかしますからね。
また、探してる側の執着が激しすぎて「いないものをいると思い込んでるだけでは?」という不安を抱いたまま読み進めなきゃいけないところは映画の『バニー・レークは行方不明』っぽい読み心地だ と思いました。
とはいえ、そんな不穏さを抱えながらもやはり子供の遊びの延長にある話なので一夏の冒険といった雰囲気が強いです。が、クライマックスに至って映像として印象的なシーンがどーんと展開するあたり、浦賀流エンタメ超大作という感じでこれまたエモかったです。さらに後日談で衝撃的な展開を見せ、そこから第2部に雪崩れ込むわけですが......。

第2部以降は展開自体が面白いのであんまり書けません。ただ、ジュブナイルっぽさすらあった第1部から一気に浦賀作品というジャンルに変わってしまうところに無常を感じます。そして明かされる衝撃の真相......は正直予想がついてしまいますが、そんなことはもはやどうでもよくて、クライマックスのどう考えても行き止まりの道を無理やり進むような展開に、「姫君よ、殺戮の海を渡れ」というタイトルを思い出します。絶望の中に強い爽快感があるようなタイトルがラストにぴったり。まさに「切なく哀しい衝撃のラスト」でした。

前半後半共に映像的な見せ場があるのが特徴で、エンタメ大作映画のような読み心地です。ジャンル分けするなら青春恋愛ミステリとなるのでしょうが、どう考えてもそんな暖かみのあるものじゃなく、そもそも恋愛小説ともミステリとも断言しづらい、そんな浦賀としか言いようのない作品でした。個人的には大好きです。