偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ムーンライズ・キングダム


製作年:2012年
監督:ウェス・アンダーソン
出演: ジャレット・ギルマン、カーラ・ヘイワード、ブルース・ウィリスエドワード・ノートンビル・マーレイフランシス・マクドーマンド

☆3.7点

〈あらすじ〉
60sのとある島。幼い恋人のサムとスージーは駆け落ちをし、ボーイスカウトの仲間や大人たちが彼らを追う。



わかりやすくもエモいストーリーと、ウェス・アンダーソンな映像が魅力的な映画です。アンダーソン版『小さな恋のメロディ』と言われていますが、見てみるとまさにそんな感じ。



駆け落ち。
男子なら必ず100万回は妄想する、好きな女の子との駆け落ち。実際にしたことがなくても、全ての男の中に駆け落ちの記憶はたしかにあるはずです。私も14歳の頃に始めて駆け落ちをしました。それから今に至るまで、私の人生は全て駆け落ちの連続であったと言えるでしょう。
とにかく、本作はそんな妄想人類諸君には堪らない美しい映画です。

主人公のサムくんは孤児で、周りの友達がみんなアホに見えるタイプの男の子。
だいたい、男子というものは、"心の闇"とか"業 −カルマ–"といったものを欲しがります。しかしあまりに闇が深すぎるのはしんどい。そこで、不謹慎な言い方ですが、養父母はいて生活に不自由はないけど孤児、くらいの主人公はちょうどよく自己投影できる存在であるわけです。こういうオタク心のくすぐり方はさすがにうまいですよね。

一方ヒロインのスージーちゃんもなんだか男子の妄想を具現化したような可愛さがあります。クールビューティーなんだけどけっこうな変人で、エロい。完璧じゃないですか!アンダーソン様、この子を作ったのは正解だね。

そんな理想のカップルである2人の間の独特の空気感がすごく良かったです。
子供らしい可笑しさをベースにしつつ、誰も触れない二人だけの国を目指す決意の壮絶さ、厭世的な気分を共有する甘美さ、一緒に冒険するワクワク、はじめて性に触れる背徳、どこかで無理だと分かっているような切なさ、、、などといったシリアスを上乗せすることで、「こんなに真剣なのに笑っていいのだろうか」という笑いがある。こういう絶妙の気の抜き方が『小さな恋のメロディ』の清澄な空気感とはまた違う無二の心地よさを演出しています。
そんな可笑しみと愛しさと切なさと心強さと泪と男と女とが画面から私の部屋まで溶け出してきそうになる、「ムーンライズキングダム」でのシーンは、タイトルとして掲げるに相応しい名場面だと思いますおっぱい。


私としては2人の関係だけでお腹いっぱいでしたが、脇役の魅力もそのまま本作の大きな魅力になっていると思います。
スカウトの他の子たちの唐突な手の平くる〜〜は、この映画の中でも一番笑ったかも。まじかよお前ら、とびっくり。
そして、子供がメインの映画だからこそ、脇を固める大人たちの魅力も重要になってきます。本作にはなんとブルース・ウィリスエドワード・ノートンビル・マーレイフランシス・マクドーマンドといった映画初心者の私でも名前を知っているような超有名俳優たちが出てるんです。
彼らがそれぞれ脇に徹しながらも強烈な個性を出してくるので、そのへんも面白かったですね。大人たちの方がむしろ子供っぽいというか。大人びた子供vs子供じみた大人、みたいな?そういう点では私のような見た目は大人、頭脳は子供の精神的ボーイズ&ガールズには身につまされる映画でもありました。
でも最後のブルースさんの安心感はやっぱり大人!かっこいい!


まぁそんなこんなで、ヒステリックだがストイック、ヒロイック、ファンタジックでロマンチックな絵本的最強青春夏休み的神話でした。長めの感想書いて疲れてきたのか適当なこと言ってますけど、まぁ妄想人類は見てくれ!