偽物の映画館

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浦賀和宏『記号を喰う魔女』安藤直樹シリーズその5


記号を喰う魔女 (講談社ノベルス)

記号を喰う魔女 (講談社ノベルス)



安藤直樹シリーズ。本書は、もう完全にぶっ壊れてしまっている人たちのお話。彼らの狂気に恐ろしくなる一方で少し憧れてもしまいながら読みました。
時系列としてはシリーズで最も前。安藤裕子の中学生時代、以前の作品でも少し触れられているエピソードを描いた外伝とか過去編という感じの作品です。

まず目に付くのは文体ですね。今まではわりと平易な言葉で読みやすかったのですが、本作はあの小林が終始ぶっ通しで語り手を務めているせいか、妙に難しい言葉が多く読みづらかったです。それだけならまだしも、誤字や脱字はいつもより多いくらいだったのもつらいところ。それでも一気に読めるのはストーリーの面白さを証明しているとも言えますが......。

内容はもはやミステリではなく青春バトルホラー、例えるなら高見広春バトル・ロワイアル』にカニバリズムを塗りたくって浦賀色にしたような雰囲気といえばなんとなく伝わるかと。なんせ1行目が「子供は親の食べ物じゃないよッ!」ですからね。全編に渡ってカニバリズムに溢れています。

そしてなんといっても今回は完全に小林くんの一人称で描かれる安藤裕子への恋が見どころで、そこからこれまであまり語られなかった安藤裕子という少女の人となりが見えてきます。まあぁ~~憎ったらしいですけどね!でもそんなところが可愛い。小林くんが夢中になるのも分かりますね。中学生なら好きだったよこういう子。と、思っているとどんどんエグいことになってって最終的に「まじかよ、ひくわー」と思いましたけど。しかし、『頭蓋骨の中の楽園』で彼はここに囚われていたのかぁ、と感慨深くなり、むしろ『頭蓋骨の中の楽園』への評価がますます上がりました。

『頭蓋骨~』『とらわれびと』でどんどんミステリっぽくなってきたかと思った矢先になんとも形容し難い本作が出てきたのでほんとに一筋縄ではいかんシリーズだなぁと思いましたが、シリーズファンなら過去作との関連もあって楽しいと思います。