偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

浦賀和宏『時の鳥籠』安藤直樹シリーズその2


時の鳥籠(上) (講談社文庫)

時の鳥籠(上) (講談社文庫)

時の鳥籠(下) (講談社文庫)

時の鳥籠(下) (講談社文庫)



『記憶の果て』に続く安藤直樹シリーズ第2弾......というより、『記憶の果て』のB面のような小説といった方が本作の内容に近い気がします。というのも、この作品に安藤直樹は直接的にはほとんど登場しないからです。本作は『記憶の果て』に登場した2人の女の物語であり、『記憶の果て』への壮大なプロローグなのです。

若手救急救命医の甲斐は、急患で運び込まれ一度は心肺停止に陥った女性を救う。彼女は記憶を失っており、甲斐は彼女を自分の住むアパートに引き取ることにする。
甲斐に救われた女はやがて思い出す。自分がある少女を救うために未来から送られてきたことを。
一方、甲斐の友人である宮野は、人生の成功者である甲斐を羨みながら自らの悪癖を持て余す。

というわけで、上記3人のメインキャラの視点から物語は進んでいきます。前作では浦賀作品特有のつらさが安藤直樹1人に集中していたのに対し、本作では4人のメインキャラに均等に置かれているのでよりつらかったです。その分話の焦点も分散して最終的に何がしたかったのかいまいち分からなくなっている感もなきにしもあらず。しかし、全体のまとまりなんかどーでもいいんです!ただただ語りが面白い(つらい)のを楽しめばそれでいいのです!個人的にはやはり宮野くんにかなり感情移入しちゃいました。元カノとのエピソードもつらいですね。
また、「地球の夜にむけての夜想曲」が美しいです。本書全部読み返すのは長いし大変ですけど、ここだけこの先何度か読み返しそうな予感がしますね。好き です。

あと、今作では音楽についてかなり多く語られていて面白かったです。YMOは前から好きでちょいちょい聴いていたのですが、キャッチーな『Solid State Survivor』ばっか聴いてるので「『RYDEEN』はお子ちゃま向け」ってのにはショックでしたw ただ、改めて『BGM』や『Technodelic』を読みながら聴いてみるとやっぱいいわーと思いましたね。大人になったのかな。

ミステリとしては、トリック自体はちょっとちゃちいですけど、そこから浮かび上がる犯人の動機にはやられました。あまりに狂っていて、あまりに残酷でありながら、物凄い純愛に貫かれた動機には泣きそうになりました。