偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

友成純一『ホラー映画ベスト10殺人事件』読書感想文

ホラー映画批評家の庄内の身の周りで、彼の選んだ「ホラー映画ベスト10」になぞらえた連続殺人事件が起こる。犯人と目された庄内だが、彼の背後にも真犯人の魔の手は迫っていた......!





あらすじは見立て殺人モノのミステリのようですが、実は見立て殺人モノのスプラッタ......と見せかけて本当のことを言えばスラップスティックコメディです。

作中の時代は『悪魔のいけにえ』『ゾンビ』などが公開された少し後で、それらの作品の熱に浮かされたようにB級ホラーが次々と作られ、一方ではそうした作品へのバッシングも激しかったあの時代......ってそのころ私は産まれてないからよく知りませんけど......。
しかし、この頃のホラー映画についてリアルタイムで観ていた世代の話を見るとだいたい「当時はすごく怖かった」と言われてる気がします。
平成生まれの現代人からするとこの辺の映画は古き良き雰囲気を味わうもので、正直今観てそんなに怖いと思えないのでこれは非常に羨ましいですね。
なんにせよ、そんな良い時代の空気を味わえるのは、この時代を体験していない身としては貴重な体験です。

まぁはっきり言ってこの作品自体のストーリーはあってないようなものですけどね。
それでも、主人公の庄内が自らを虐げるクソ野郎どもへの殺意をぶちかますあたりは謎の爽快感がありますし、主人公も殺される人たちも大概のクソ具合なので安心して惨殺を楽しめるのも爽快です。
なにより、当時の映画評論業界の内幕やホラーに対する世間の冷たい視線を皮肉めいた語り口で覗けるのが楽しいです。
作中で「ホラーを見過ぎてこうなりました」と描かれる犯人の頭プッツン具合があんまりにもあんまりで、逆説的に「ホラー見たくらいでこんなんならんやろ」というホラーバッシングへの皮肉のように読めるのが痛快。
また、作中で語られる「ベスト10」入りした作品への評価はそのままホラー映画論としても楽しめるもので、選出された作品を観たくなること請け合いです。ただしホラー映画に興味ない人には何も面白くない気はします(......まぁホラー映画に興味ない人はタイトルの時点で読まないから問題ないと思いますけど......)

そんな感じで、スプラッタ系のホラー映画に最も活気があった時代を面白おかしく描いた、軽めの映画論+スプラッタコメディみたいなヘンテコな小説でした。