偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

飛鳥部勝則『堕天使拷問刑』800字レビュー

HPを消しちゃったんで昔の感想とかこっちに移して行こうと思います。とりあえず2、3年前に某所に書いた800字レビューシリーズを......。実際は1000文字くらいあるけど......。


堕天使拷問刑 (ハヤカワ・ミステリワールド)

堕天使拷問刑 (ハヤカワ・ミステリワールド)



両親を亡くした中学1年生の如月タクマは母方の実家に引き取られることになるが、そこは奇妙な風習と、不可思議な斬首事件の影響が残る呪われた町だった。町で差別を受けるタクマだが、入部したオカルト研究会で、親友や、思いを寄せる先輩に出会い、町での生活を楽しみ始める。再び残虐な斬首事件が起こるとは知らずに......。

著者の飛鳥部勝則氏は本格ミステリ怪奇幻想ホラーを得意としていて、作品の多くに謎めいた美少女が登場することもファンの間では密かな楽しみになっています。
本作はそんなミステリー・ホラー・美少女という飛鳥部作品の醍醐味を全て凝縮した作品です。



まずホラーとしては、因習残る町という横溝正史を彷彿とさせる和風なテイストに、聖書や悪魔崇拝などの洋風テイストも絡んだ和洋折衷な雰囲気。そんな雰囲気の中で、殺人の濡れ衣を着せられ、狂気を孕んだ町中の人々に追われるシーンはさながら地獄絵図のような恐ろしさ。ネタバレになるので言えませんが、ラストのとあるシーンもハチャメチャです。

ホラーとして混沌としすぎていて「ちゃんとミステリーとして解決されるのだろうか?」と不安になるほどですが、心配ご無用。ホラー描写の中に実はこれでもかと伏線を張りまくっていて、解決編ではそれらを丁寧に回収してくれます。また、個々の事件のトリックはそれぞれ「なんじゃそりゃ!」「んなバカな!」と良い意味で笑ってしまうような大胆なもの。そんな大胆なトリックが合計4つも出てくるので、物理トリック好きにはたまりません。さらに村の秘密や意外な犯人など、とにかく過剰なまでのサプライズが仕込まれていて、ミステリーファンにとってはたまりません。

そしてそして!忘れてはいけないのがヒロインの魅力。優しい先輩と、ミステリアスな同級生。それぞれ個性的な2人のヒロインに終始ドキドキさせられっぱなしで心臓が疲れちゃうほど。いや、正直に言いましょう、かなり興奮しました。だってこれ表紙の時点でズルいですよね。というわけで美少女好きにもやっぱりたまらない1冊なのです。

そんなこんなで、本書は著者らしさたっぷり濃厚な、最高傑作と言っても過言ではない作品。ハマったらクセになる飛鳥部ワールドを、ぜひ体感してみてください。