偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

駕籠真太郎『ブレインダメージ』漫画感想文

ヴィレバンをふらふらしてたら見つけたやつです。駕籠真太郎の見たことない漫画があったらとりあえず買っちゃいますよねシリーズ。




さて、本書は4話の短編を収録したホラーサスペンス短編集です。
一口にホラーサスペンスといっても、各編それぞれに様々な趣向が凝らされていて豊かなバラエティを楽しめました。
駕籠真太郎だから、もちろんバカではあるのですが、本書はかなりストーリー性を重視した作品が集まっている印象でした。そう、いつもの色々あってなんだかんだラストで内臓ぶちまけるだけのオチとかではないんです!この人も真面目にやれば普通に物語を作れるんだなぁという謎の感動がありました。
以下各話の感想を。



第1話「4人の迷宮」

無機質な部屋で目覚めた外見がそっくりな4人の少女。皆、直前の記憶がなく、どうやら何者か拉致監禁されたらしい。部屋を出ても、そこは部屋と同じく無機質な迷宮。そして、逃げようとする4人は仮面の殺人鬼に遭遇し......。

映画の「CUBE」や「SAW」を思わせるソリッド・シチュエーション・スリラーです。

いかにもな地下迷宮という空間、いかにもな殺人鬼の風貌と、サスペンスらしさ満点ですが、実際読んでいくとむしろミステリー風味の強さが目につきます。誰が、なぜ、こんな事をしたのか......というWhoとWhyですね。
それにまつわる伏線らしいものはいくつも張られているのですが、読者には最初は意味が分かりません。その意味が明かされる衝撃にして驚愕のラストで、我々読者はこう叫ぶのです......

馬っっっ鹿じゃねえの!!!?

ソリッドシチュエーションなんちゃらかと思いきやいつもの駕籠真太郎でしたっていうお話。
全ての伏線が、愛ーーー





第2話「呪いの部屋」

色々といわくのある部屋に越してきた女性が、案の定金縛りや誰かの視線などの怪現象に悩まされるお話です。

定番の、誰かの髪の毛が!ってのも。

この女の子がなんというか絶妙にエロいんですよね。別に絵が綺麗ってわけでもないですけど、最近のこの人の描く女の子は謎の可愛さとエロさがある気がします。はい。

ストーリーに関しては何を言ってもネタバレになってしまいそうですが、オーソドックスと見せかけてめちゃくちゃな展開になるという、カゴシン・ワールドの意外性が最も強い話だと思います。ただ、ラストでちょっと普段の作風に寄せすぎてるきらいはあります。凝った展開の後で良くも悪くも「いつもの」に戻ってしまうっていう。旅行から家に帰ってきた時の寂しさと安心感みたいなものでしょうか。

(ネタバレ→)
さて、ネタバレありで言いますと、まず序盤であっさり主人公だと思っていたキャラが死ぬ......というかまぁ死んでて退場するのが面白いですね。
シャワーシーンが多用されることからも、モロに某有名サスペンス映画へのオマージュになってて映画好きはキュンキュンします。
その後、駕籠真太郎らしい無駄にディテールの凝った機構と、駕籠真太郎らしいグロ系美少女が出てくるあたり最高ですね。やっぱり女の子は片眼が飛び出てるくらいが可愛いですよ、はい。
駕籠作品としてはいつも通りながら、ゾンビものとしてはかなり珍しい趣向なのが面白く、作者自身あとがきで言っているようにマンネリ化しつつあるゾンビものの新パターンとして斬新な驚きのある作品だと思います。





第3話「家族の肖像」

姉弟と両親、同居のおじいちゃんの平凡な5人家族。ある日から、ご近所さんなど一家と親交のある人が消失する事件が続くようになる。
そして、ついに彼らの一家にも消失の兆しが見え始め......。

駕籠作品には非常に珍しいことに、ほぼグロ描写がなく、日常が徐々に非日常に侵食されて行く様を(駕籠作品にしては)静かに描いた不条理ホラーになってます。
そんな大人しめな話ですが、それだけに主人公の女の子のエロさと可愛さがストレートに(眼や内臓が飛び出てなくても)出てるのがステキですね。というかさっきも書いたけど本当に最近のこの人の描く女の子は可愛いです。ゆったら絵も初期より全然綺麗になってきてますしね。
で、終盤で一家がちょっとずつ消え出すあたりからようやく駕籠真太郎らしい気持ち悪さが顔をのぞかせますが、これも直接的なグロではなく、(こんな感じ↓グロってかむしろエロい)

結局眼も内臓もぶちまけないままに静かな余韻の残るラストへと収斂していきます。まぁエロはちゃんと入れてくるあたり流石ですが......。
そんなわけで、地味ながら普通に面白い不条理劇で、こんなんも描けるんだなと、ある意味で意外な一編でした。





第4話「血の収穫」

友人とドライブへ行った主人公は、帰りの車でついうとうとしてしまう。しかし、眼が覚めると、友人は潰れ、周囲の車もまた潰れていた。
そして、彼女の前に事件を追う刑事や霊能者が現れ、彼女は事件に巻き込まれて行く......。

めちゃくちゃインパクトのある"潰れ"の絵で掴みはオッケー👌
オカルティックな事件と、地道な捜査とのギャップが異様な雰囲気を出してます。ここまでなら本当にシリアスなホラーサスペンスなんですけど、ここで主人公のオカンというクソみたいなネタキャラを挟んでからの霊能者登場に至って完全に駕籠ワールドになるのが惜しいというか安心感というか......。
タイトルの意味が明かされてからの無駄なディテールの描き方とか好きですね。
ラストもエスカレートちゃぶ台返しな感じがいつも通りで、ああ、本書はちゃんとしてるなぁと思ったけど間違いだった。いつもの駕籠真太郎だわという感じで、結局のところ感想とか特にねぇわ〜〜と思わされてしまいます。それがいい。いつまでも金太郎飴でいてくれ......!




というわけで、いつもより少し真面目な、でもいつも通りな、ファンには嬉しい作品集でした。『すべての時代を通じての殺人術』あたりが好きな方にはオススメしたいですね。