偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

加藤元浩『C.M.B 森羅博物館の事件目録』全巻読破計画① 1〜10巻


Q.E.D 証明終了』の姉妹編で、名門校に通う実は武闘派の女子高生・七瀬立樹と、森の奥で私設博物館を営む謎の少年・榊森羅が遭遇した事件を解決していくお話です。......というと『Q.E.D』のまんまみたいですが、本作の特徴として怪奇現象や伝説をモチーフにした事件と、博物館に所蔵されるようなモノが出てくるということがあります。そのため『Q.E.D』に比べて伝奇ミステリっぽい味わいがあってこっちもなかなか面白いです。

では以下各話感想。採点基準は『Q.E.D』と同じ5段階です。

1巻


op.1「擬態」★★2

立樹の高校の生物室で右腕の一部を残して黒焦げになった死体が発見される。死体は立樹の友人の兄で生物教師の田崎先生なのか......?


第1話からインパクトの大きい焼死体を持ってくるあたり攻めてますね。
ただ、トリックは最初に考えるものそのままで、犯人特定の決め手も見せ場にはなっていますがあまりに不確実じゃないかなぁ、と思ってしまいます。



op.2「幽霊博物館」★★2

シングルマザーで博物館の警備員の立花は、夜勤の際に蛍光灯の点滅や不気味な音が鳴る現象に遭遇する。実は博物館には幽霊の噂があったのだ。
更に博物館で盗難事件も起こり......。


警備員の立花さんが綺麗で好きです。
あ、私の女性の好みの話じゃなかったですよねスミマセン。
幽霊騒ぎと盗難事件という2つの事件の雰囲気が違いすぎるのはどうかと思いますが、それぞれにちゃんとトリックが凝らされていて面白かったです。片方は豆知識で、片方は特殊知識に拠らないアイデアなのも良いと思います。豆知識ばっかとなんか騙されたような気がしちゃいますから。




2巻


op.3「青いビル」★★★3

壁面が赤と青に塗られた団地で、住人が石で殴られるという事件が発生。その事件について、警察に目撃者からの匿名の手紙が届く。しかし、手紙の内容はデタラメとしか思えないもので......。手紙の意味と、事件の真相とは......?


このトリックのためだけに作られたヘンテコな団地が趣深いですね。ミステリファンたるもの、トリックのためだけに作られた建物には燃えてしまうものです。
で、肝心のそのトリックは正直豆知識レベルですが、見せ方によってただの豆知識が島田荘司ばりの大胆な奇想のような効果を生んでいるのが素晴らしいです。
また、事件の中心になる、「目撃者からの投書」の扱いも見事です。ただ、投書にさえ振り回されなければ警察が森羅に頼るほどの事件ではない気はしますが......。



op.4「呪いの面」★★★★4

古物商から呪いの面を買うために集まったのは、面の造り主、民俗学者、舞踏家、そして成り行きから居合わせた森羅と立樹。その夜、面の造り主が死んだ。死体のそばには呪いの面が。果たして事件は面の呪いなのか......?


「呪いの面」なんていかにも博物館を舞台にしたこのシリーズらしい小道具ですね。そんなある種の王道さから、読み始めはさして期待もしていませんでしたが、真相にはやられました。
森羅が「呪いはあります」と言いますが、もちろん超常的な意味での呪いは出てきません。それでは彼の言う「呪い」とは何なのか?この謎を軸に、人の思惑の意外さが楽しめるお話になってます。
(ネタバレ→)面の秘密から即、彼女が復讐殺人を犯すと考えるまでがちょっと飛躍している気はしますが、(ネタバレ→)恋人なら分かるんでしょう。もしくは、確信してなくても少しでもそうなる可能性があれば実行すべきだと考えたのでしょう。静かな余韻が残ります。
また、心理的な面を重視の話ではありながら、殺人に使われた物理トリックも面白い......少なくとも私好みのものたったので、心理物理合わせて傑作と言ってもいいでしょう。




3巻


op.5「失われたレリーフ★★★3

大英博物館の理事ションベンタレが日本を訪れる。目的は森羅が持つ三賢人の指輪。彼は指輪を手に入れるため、「古代アステカのレリーフの失われた破片を見つけたほうが勝ち」という勝負を森羅に仕掛ける。森羅は指輪を守れるのか......?


森羅のライバルポジション(?)のションベンタレさんが登場。この感想を書いてる時点ではここまでしか読んでないので今後も出るのか分かりませんが、『Q.E.D』の「災厄の男」をマイルドにしたようなキャラと立ち位置は準レギュラー化しそうな気がしますね。
そんなライバルとの勝負という少年漫画らしい魅力が出てくるかと思いきや、ガツガツと勝負する気が全くないのが森羅らしくて微笑ましいです。
真相に関してはなかなか脱力系ですが、アステカ文明にまつわる薀蓄が面白いのでなんとなく言いくるめられてしまいますね。



op.6「都市伝説」★★★3

高校で、山奥、竹林、街路樹の柳から死体が発見されたという奇妙な都市伝説が相次いで流行する。噂の元を辿っていく立樹たちは街の楽器店の店主に行き着き......。


凄惨な殺人事件が起きた......という都市伝説が流布するという謎が、まずは魅力的です。そして真相もまずまず。都市伝説を絡めたミステリはよくありますが、こういうパターンは記憶になく新鮮でした。なぜ森羅があんなことまで知っているのかという彼の知識量への畏敬の念が湧くのは否めませんが。
真相が分かることでドラマ性が増し、私の大好きな『きみに読む物語』っぽい(よくあるっちゃよくあるからパクリとか言いたいわけではないです)ラストシーンに結実するのが綺麗ですね。
ちょっと大人な風味の異色作です。




4巻


op.7「ユダヤの財宝」★★★3

ローマでユダヤの財宝を調査していた男が奇妙な状況で殺害され、調査データは犯人に持ち去られた。
この件によって対立したイスラエルバチカンは事件の調査を大英博物館に依頼。C.M.Bの指輪を持つ森羅が調査員に抜擢される。果たして森羅は事件の真相とユダヤの財宝の秘密を暴くことができるのか......?


一冊ぶっ通しの長編です。財宝と殺人事件を巡って二つの国が対立するというスケール感は長編ならでは。これだけの背景を持った事件に挑めるのもC.M.Bの指輪を持つ森羅ならではと、『C.M.B』の長編だからこそ出来る壮大な物語です。
一冊通して描かれているだけあってゲストキャラクターも魅力的で、このエピソードのヒロインは正直立樹ちゃんより私の好みに近......いやそんな話はどうでもいい。
ミステリとして遺跡の謎から現代の事件の謎まで様々なネタを仕掛けつつ、お話としてもしんみりと余韻の残るものになっていて、ボリューム感のある一編でした。




5巻


op.8「グーテンベルク聖書」★★★3

森羅は、マウという少女に世界で初めて活版印刷された聖書・"グーテンベルク聖書"の一部ページの鑑定を依頼される。依頼を断る森羅だったが、その後、幻の50冊目のグーテンベルク聖書に纏わる事件に巻き込まれていき......。


森羅&立樹と、新キャラ・マウとのすっとぼけた交流が楽しく描かれる一方、犯人グループの内情もあらかじめ提示される、半分倒叙もののようなお話です。そんな中で森羅がどうやって犯人グループを出し抜くかがポイントになっています。その点に関しては、騙し合いとしては読めてしまいますが、森羅が真相に気づくための手がかりの配置が見事です。
最後の最後にまたマウのキャラの良さも発揮されます。次の話にも出てくるので、これからシリーズキャラになるのかなぁと期待が膨らみます。



op.9「森の精霊」★★★3

マレーシアの森の奥で男の首無し死体が発見される。男は幻の呪術師・サダマンを探すため、製薬会社に雇われたプラントハンターだった。
事件はサダマンの仕業なのか......?


op.8に書いた通り、続けてマウちゃん登場エピソードです。
首切り殺人というショッキングな事件もやはり魅力的ですが、それ以上に森羅が敬愛するサダマンという人の謎が魅力的。
事件の真相自体は予想の範囲内ですが、サダマンを通して森羅の人となりが垣間見られる重要エピソードと言えそうです。
また、マウちゃんの相変わらずな感じが微笑ましくもこいつ〜って思いました。




6巻


op.10「カノポスの壺」★★★★4

エジプトの考古学博物館でヒューズという青年が射殺され、肝臓を持ち去られる。これを皮切りに、射殺され臓器を持ち去られる事件が続く。犯人はカノポスの壺に見立てて事件を起こしているのか......?
エジプトで再開した森羅と燈馬が事件を追う!


『C.M.B』と『Q.E.D』、2つのシリーズがクロスオーバーするファンには作品です。

まずは両シリーズのコンビ同士の邂逅が嬉しいです。燈馬と森羅の会話では、燈馬のお兄ちゃんっぷりが新鮮でしたね。また事件解決のキーになる言葉を森羅に残していくという探偵の師匠っぷりもカッコよかったです。普段はアホの子なのにやっぱりお兄ちゃんという立場になると大人びて見えますよね彼も。
一方のヒロイン同士の女子会が可奈ちゃんファンにはやっぱり最高でした。この作者ヒロインのパターンこれしかないんかい!と思うくらいそっくりな2人なので、なんかもう初対面で双子コントみたいになってるのが笑えます。また、アクションシーンでも2人合わせりゃ百人力と言わんばかりに人間離れしたバトルを繰り広げているのにも笑います。

そして、事件の内容も、ファンサービス作品に相応しい豪奢で壮大でトリッキーなものです。
ミッシングリンクは特殊知識こそ要りますが知らなくても「なにそれカッケー」ってなりました。それが早い段階で明かされると、そこからはサイコスリラーにシフトチェンジしつつ、最後はきっちりサイコ感と意外性と両方見せてくれて大満足です。また、ピラミッドに関する森羅の解説も面白かったです。
キャラ、ミステリ、ペダントリーの三拍子揃った傑作と言っていいでしょう。




7巻


今までは1冊に1話か2話ずつ収録だったのが、この巻は4話入ってます。これ以降こういう1冊4話形式も増えていくようです。



op.11「飛蝗」★★2

飛蝗が大量発生した村で美しい鳥を見た少年は、鳥を捕まえてもらうため東京の森羅博物館を訪れた。森羅は殺虫剤が撒かれるのを防げるのか......?


ミステリーとしてみると特に推理らしい推理もなく虫害豆知識の域を出ないのが残念です。
ただ、飛蝗が飛び交う絵面はインパクトがありますし、害虫駆除及び道路工事の賛成派vs反対派の対立など、自然溢れる村が舞台の話ならではの良さがあります。また、終わり方も綺麗で、なんだかんだ短いながらも読み応えのある物語になっているので凄いです。



op.12「鉄の扉」★★★3

戦時中に使われていた防空壕で餓死した老人が発見される。防空壕は旧日本軍の研究所の役割も兼ねていた。戦時中の研究と今回の事件のつながりとは......?


これは面白かったです。マウのミステリアスなキャラと戦時中の秘密実験という題材のシリアスさがマッチしていて雰囲気がまず美味しい。
事件の内容も閉じ込められて餓死した男というわりとエグいもので、それが(ネタバレ→)ドアの死角にダイイングメッセージを書くというトリックとしては小粒なネタに説得力を持たせています。また、もう一つの物理トリックは豆知識寄りですが言われれば確かにと頷けるもの。
今まで以上に短い分量になりながらこれだけアイデアを詰め込んでくるハングリー精神が好きです。



op.13「イン・ザ・市民プール」★★★3

市民プールで東京にいるはずのないゲンゴロウが見つかる。発見時、中学生が生き霊を見ていた。二つの変事の関連とは......?


ハングリー精神といえばこれもそうなのかな......?
市民プールを舞台に、立樹の回りで色々な細かな問題が起こるという日常の謎の詰め合わせセットみたいながやがやした感じ好きです。お得感がある。それぞれの解決はやっぱりしょーもないですが、そのしょーもなさがほのぼの感やくすくす笑える方向へ活かされているので、細々した没ネタを見事に加工して商品化したような感じもしますね。ともあれ血腥い殺人事件などが多い中、こういう日常編もホッと一息つけて好きです。



op.14「ザ・ターク」★★2

外食チェーンの会長が開いたからくり人形展示会に出席した森羅たち。しかし、チェスを指す機械人形「ザ・ターク」と森羅が対局している最中に他の高価な人形が何者かに盗まれてしまう。C.M.Bの指輪の主なら事件を解決してみろと無茶を言う会長に対し森羅が出した答えとは......?


これはいまいち......。トリックは見たまんま。ドラマ性も薄く、からくり人形というモチーフが出てくる割にそこまでからくり人形に関する雑学なんかもなく、「ここが見どころ!」という点に欠ける気がします。ただ、マジックについての森羅の意見はふむふむと面白く読めました。


8巻


op.15「1億3千万人の被害者」★★★★4

鯨崎警部の元に「復讐を決行する
1億3千万人が被害者となるだろう」という脅迫状が届く。さらに数日後、冤罪の被害者となった男の息子が警部の元を訪れる。彼は「父が日本国民に復讐する気だ」と話すが、その真意とは......?

まさかの社会派大作です。
事件の真相そのものは誰もが予想する通りで意外性はありませんが、「1億3千万人の被害者」の真意にはやられました。やや大袈裟な気もしますが、集団心理の恐ろしさを見事に描き出した傑作と言っていいでしょう。



op.16「メテオライト★★★3

カザフスタンにあるロシアの宇宙研究所付近に隕石が落下した。両国は隕石の所有権を主張し合い、森羅に裁定を依頼する。しかし、肝心の500kgもある隕石そのものは跡形もなく消失してしまっていた!


真相はこれしかないというものですが、それを実現するシンプルにして盲点のトリックにはすっかり騙されました。また、森羅が提示する解決も見事で、一つの物語として気持ち良い読後感が味わえたので好きです。



op.17「櫛野村奇譚」★★★3

スキー場に遊びに来た森羅たちは、現地の老人に昔あった櫛野村という村の不穏な由来を聞く。その後、嵐に見舞われた森羅と立樹は、なぜか当時の櫛野村へ迷い込んでしまい......。


まさかの (といっても『Q.E.D』にもありましたが......)タイムスリップものです。タイムスリップしたことへの言い訳があるのにな笑いましたが、まぁ漫画なので細かいことは気にせず。
内容はよくある村もののエッセンスを取り入れつつ、(ネタバレ→)ラストの「久死」という解釈によって村の名前と森羅たちがタイムスリップのような現象に巻き込まれた理由の両方が見えてくるという特殊な設定ならではの



op.18「牡山羊の像」★★2

森羅は博物館を改装することに決める。友人たちと運送会社の手伝いで改装は順調に進むが、実は運送会社はヤクザに脅されて博物館の牡山羊の像を盗もうとしていた。森羅は彼らの企みに気づくことができるのか......?

倒叙ものですね。
(ネタバレ→)倒叙でありながら犯人側からのトリックを一点だけ隠しておくというサプライズのやり方は面白いと思いますしまんまと騙されました。ただ、それがメインで森羅が彼らの企てにどう気付くかという部分が弱いのは残念なところ。また、最後結局あの手を出して使ってくるあたりの何でもあり感がなくもないです。
お話としては、森羅が博物館を楽しんでもらうことに意識的になっていくのが描かれていて良かったです。




9巻


op.19「太陽とフォークロア★★★3

インカ帝国の首都にある、アンデス文明の中心地・太陽の神殿。その地下迷宮で大学教授が行方不明になり、道案内の少年がインカの宝を手に発見された。入り組んだ地下空間で果たして何が起きたのか......?


一冊の半分を使った長めのお話です。
長いだけあって地下空間の描写やインカの宝など神秘的な壮大さが楽しいです。こういう古代遺跡の探検みたいなのはこのシリーズならではですよね。
ミステリ的には細かいネタの積み重ねなのが話の壮大さに対してやや物足りないてますが、いつもながら伏線や演出は冴えていて面白かったです。



op.20「メタモルフォーゼ」★★★3

高校の図書室に飾られた、昆虫の"変態"を描いた希少な絵。森羅がその価値について解説すると、4日後には絵が盗まれてしまった。犯人は森羅の解説を聞いたメンバーの中にいるのか?そして人のいる図書室で絵を盗んだ方法とは......?


絵が盗まれるという地味な事件ながら、森羅の薀蓄で盗まれた絵の価値を語られてしまうと途端に大事件になってしまうから凄いですね。
トリックそのものは大したことないですが、組み合わせ方と見せ方でこうも見事に謎を生むのかと驚かされました。(ネタバレ→)職員室から図書室へ向かう場面の絵が2回も出て来ることに違和感は感じたのですが、なるほど、シンプルにして見事な伏線でしたね。
物語としての締めも方向性は言わないもののとても良かったです。変態というタイトルがちゃんと物語を貫いているあたりの作者の美学に惚れましたわ。



op.21「死滅回遊」★★2

旅行で沖縄を訪れた森羅たちは、スキューバダイビングをしに行き、コーチ夫妻の夫婦喧嘩に遭遇する。夫が海で亡くなった先妻の遺品を持っていたことが原因だったが、妻は遺品を見て夫にある疑いを抱き......。


うーん、これは......。
まぁ〜単刀直入に言っちゃうと(ネタバレ→)夫が先妻を殺したと見せかけて実は夫が先妻を殺してましたというのはどうなんでしょう......。確かに一度、夫は無実だったという雰囲気にはなりますが、その根拠が心情的なことだけだったのが弱いですよね。ちゃんと無実の確固たりそうや証拠が出てからそれをひっくり返すならまた印象も違ったでしょうけど......。惜しいですね。
と、ちょっとディスっちゃいましたけど、森羅が真相に気づくきっかけは(特殊知識が必要とはいえ)上手く出来てると思います。




10巻


op.22「その差六千万年」★★★3

モンゴル・ゴビ砂漠で、人間と恐竜が隣り合った化石が発見された。しかし、恐竜の絶滅と人間の出現の差は六千万年。あり得ないはずの化石は本物か?それとも何者かが仕掛けた偽物なのか......?


人間と恐竜が共生していた!?というロマン溢れる発端がまずは魅力的です。
当然、そんなことはありえないのでどこかにトリックはあるわけですが、そのトリックが明かされてもなおロマンが壊れないように上手く考えられているのが凄いし、さすがにこんな漫画描くだけあってロマンってものを心得てるなぁと感心しました。
森羅くんによる"解決"も同じく心得たもので、ただ単純にわくわくするお話でした。



op.23「釘」★★★3

学校そばの神社で藁人形を発見した森羅たち。人形には、半年前に轢き逃げにあった被害者の名前が釘で打ち付けられていた......。


真相は見え見えですが、「不幸のメール」からはじまって人間のダークサイドが不穏に描き出された人間怖い系怪談に似た読み心地です。
神社や公園が舞台で夏の風景が美しく描かれ、それもオカルティックな事件とぴったり合っていて一種異様の雰囲気が出てますね。ネタは小粒ですが話が好きな一編です。



op.24「地球最後の夏休み」★★★3

夏休みの終わりに海へ行った森羅たちは、海の家を営む謎の美女から15年前に近くの洞窟で起こった怪談話を聞く。実際にその洞窟を訪れた彼らが遭遇したのは......。


「釘」の夏を強調した感じはこの話の前振りだったのでしょうね。
これもミステリ的な真相は分かりやすいですが、(ネタバレ→)「4人が目を閉じ耳を塞いでいたなら......」という推理の根拠など、伝聞から真相を導き出す過程が見事です。
そして、作者はおそらく冬より夏派なのでしょう。夏の終わりへのセンチメント溢れる幕引きは、中学生の頃のあの夏の日々を思い出させてくれました。あの頃はあの頃で楽しかったなぁと今になってみれば思います。



op.25「ヒドラウリス」★★★★4

イタリア・ミラノ。マウの紹介で呪われたオルガン"ヒドラウリス"を見た森羅たちは、現地で最近オルガンを弾いて倒れたライターに出会う。


これは好き。
ずばり呪いのオルガンが主人公の物語で、物に込められた想いみたいな話に特有のなんとも言えないロマンがありますね。というかこの10巻の収録作はみんなロマンとか雰囲気の良さがありますね。そういうの大好きです。
ミステリとしてのネタも、ややこやしいように見えて現象としてはとても分かりやすいという物理トリックは好みにドンピシャですし、そんなトリックが仕掛けられた理由にも鳥肌が立ちました。
この短さでこの内容なら文句なく傑作と言ってしまっていいでしょう。





というわけで、『C.M.B』1〜10巻でした。
最初は『Q.E.D』のバッタもんくらいな気持ちで読んでましたが、だんだん伝奇的な魅力や、メイン2人のキャラの魅力が出てくると思い入れも強くなっていき、10冊読んだ今となっては続きが読みたくてしゃうがないです。
ただQ.E.Dの方もほったらかしとくわけにはいかないので交互にゆるりと読んでいきます。待っててね可奈ちゃん