偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

チェイシング・エイミー


これ、ヤバいとは思ってたんだよ......。



チェイシング・エイミー [DVD]

チェイシング・エイミー [DVD]



製作年:1997
監督:ケヴィン・スミス
出演:ベン・アフレックジョーイ・ローレン・アダムス

☆4.0点



〈あらすじ〉

主人公のホールデンは、親友のバンキーと組んで漫画家をしている。ホールデンはコミコンに作品を出品しに行き、そこで同業者の美女アリッサと出会う。ホールデンは彼女に一目惚れするが、やがて彼女がレズだということが分かる。
だが、諦められない彼は、ある時アリッサに気持ちを告げてしまい......。





やっぱりヤッベェな!!

最初に言っておくと、モテない人、恋愛にトラウマやコンプレックスを抱える人、恋人の過去に嫉妬しちゃう人は観てください!いい勉強になる!
(とか言ってそもそも論、まともに恋人いたことねえけどな!)

さて、それでは内容に移ります。

2時間程度の映画で、ちょうど真ん中あたりを境に緩い二部構成のような形になっています。



前半は、恋愛に疎いオタク青年がレズビアンの女の子に恋しちゃうという切ないラブコメです。

まず、ヒロインのアリッサが可愛い!
見た目も可愛らしさとセクシーさが3:7くらいの童貞を殺す美人(といっても美人すぎないところが最高)ですが、何より声が素敵すぎます。8時間ヒトカラした後の子猫みたいなエッロい声......。童貞は二度死ぬ......。



さて、内容に戻りましょう。
この前半の段階で既になかなか苦しいものがあります。片思いの相手がレズビアンというのは私は経験したことがありませんがなんとも言えない気持ちになるでしょうね。
女とヤリまくってるのを平然と語る彼女にもにょもにょしつつ、「男とやってないなら処女だ!」という粗いけど心情的に納得しちゃう主人公・ホールデンの理論のどうしようもなさがそのまま私でした。今後、名前を訊かれたら「ホールデンです」と名乗ることにします。

この辺までで「それ俺じゃん」と思った人はとりあえずこの映画を見てください。そうじゃない人は今回は縁がなかったということで、今後のご活躍をお祈りします。

そんなこんなで、もにょもにょを抱えながらも、気持ちを伝えずにはいられない主人公は自分を見ているよう。雨の降る日の告白シーン、早口でたくさん喋る不器用さがまた自分を見ているようで......。そんな彼が「あたしの気持ち考えたの!?」みたいにキレられるところは、まるで自分を見ているようでしたね。もはやこの映画を2時間観るより鏡を見た方が手っ取り早い気がしてきますね。ともかく、そうして雨の中去ってしまうアリッサ。とぼとぼと彼女と反対方向へ歩いていく敗残兵ホールデン「恋って実らないものだよ。君にはもっといい人現れるよ」と画面のこちらから届かぬ声援を送っていると、後ろから走ってきて彼に抱きつくアリッサ。そしてキスの嵐。




............実るんか〜い!!!

画面に向かってポップコーンを投げつける真の敗残兵こと、私。はいはい、なんてありきたりなハッピーエンド。これで映画はおしまい、お二人ともファッキンエンドロールの後もファッキンお幸せになってどうぞ......などと拗ねますが、ふと気付くとエンドロールは流れず、そもそも映画を見始めてから1時間しか経っていません。

そうしたわけで、恋はハッピーエンドのままでは終わらず、本作は後半でさらなる牙を剥いてくるのです。




以下、後半の内容に触れます。ネタバレでつまらなくなる映画ではないと思うし、最後の最後は書きませんが、あまり予備知識を持ちすぎたくない方はここでお引き返しください。







というわけで、ホールデンの仕事場で裸で眠る2人のカットから後半戦がはじまります。

私が投げつけたポップコーンを片付けていると、相棒のバンキーがホールデンに卒業アルバムを見せながらこう言います。
「あの女、卒業アルバムに当時のあだ名"タコツボ"って書いてあるぜ」

......まぁ、詳しく説明しなくても、なんかヤらしい意味だと分かるでしょう......。そう、レズだと思っていたアリッサは実は男性経験も豊富だったのです。

......あまり書きすぎると楽しみを奪ってしまうので詳細なストーリー説明はこの辺にしておきますが、この「彼女の過去の男性経験を赦せるか?」という葛藤がこの映画の最大の見所になってくるわけなのです。


女とはいくらしてても「処女膜は無事」と耐えられたホールデンですが、色々な男たちとあんなことやこんなことをしていたと知り激しく動揺します。ちなみにこの映画が作られたのは20年前。そんな時からオタクは処女膜を大事にしてきたのかと呆れ返りながらも、20年前の異国のオタクに他人とは思えぬシンパシーを感じました。

そりゃ理屈では分かりますよ。今好きな人が自分を好いてくれていれば過去のことなんかなんでもいいじゃない。
でも、僕らきっと、生まれる前に神様が間違えて「嫉妬」の感情だけ入れすぎちゃったんでしょう。神様はきっと七味や醤油をかけるのが苦手なんだ。そんな神様のビンの傾け加減ひとつで僕らはこんな......うっ、うっ、、、

そもそも、自分に自信があれば嫉妬なんかしません。結局、コンプレックスが悪いのです。
それに気付いたホールデンは、コンプレックスを克服するために"ある手段"を思いつきますが......。


バッカ野郎!!むざむざ死ぬ気かオラァ!!!

かくして、見事死んだホールデン。正直、感情移入できない人にとってはギャグだと思います。でも、これ心当たりのある者にとっては地獄でしかない。そう、他人事と笑って済ましていい問題じゃないんだ!彼のこの行動、これを反面教師にすることでしか、我々は前に進めない!ありがとう、ホールデン。君の死を糧に俺たちは自分を戒めるよ。そう、彼に感謝したくなりました。


そして、最後の最後。めちゃくちゃ切ないラストで、自分に照らし合わせてちょっと目から体液がどぴゅっと出ちゃいましたが、そこにはどこか美しさもあり......。

ホールデンもきっと、あの出来事から学んだのでしょう。恋愛下手なオタクのガキの物語は、ほろ苦いどころかのリカちゃん人形の靴ような苦さを残しながら幕を引きますが、そこにはどこか美しさを感じます。どんなに苦い恋でも、折り合いを付ければ美しい思い出に出来る。それもこの映画がエイミーを追いかける我々に語りかけてくる一つの教訓ではないでしょうか。

......って、エイミーって誰やねーん!と観てない人は思うでしょう。そう、本作のヒロインは「アリッサ」です。「チェイシング・エイミー」というタイトルは、ある場面で間接的に描かれます。が、それをタイトルにしちゃうところがめちゃくちゃカッコいい。「チェイシング・アリッサ」じゃなく「チェイシング・エイミー」であることによって、この映画を「アリッサを追いかけるホールデンの物語」ではなく、「エイミーを追いかける観客ひとりひとりの物語」へと敷衍しているのです。あえてヒロインではないどころか直接的には登場すらしない女性の名前をタイトルにすることで画面のこちらにまでクリティカルヒットを食らわせてくるこのセンス、分かってはいましたが、この映画ヤバい。

そう、ドレスコーズの歌詞を借りると「これはもはやエンターテイメントではない!」
この作品は、恋愛コンプレックスを拗らせた我々の恋愛予行演習にして、傷を負った我々への口に苦い良薬の処方箋なのです。

だから、最後に言っておくと、モテない人、恋愛にトラウマやコンプレックスを抱える人、恋人の過去に嫉妬しちゃう人は観てください!いい勉強になる!