偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

加藤元浩『Q.E.D 証明終了』全巻読破計画② 11巻〜20巻

遅くなりましたが、先日上げた記事に続きQ.E.D全巻読破計画を。今回は11〜20巻です。


各話採点基準↓

★1 →→→→→いまいち
★★2 →→→→まあまあ
★★★3 →→→普通に面白い
★★★★4 →→とても面白い
★★★★★5 →めっちゃんこ面白い




11巻


「寄る辺の海」★★★★4

40年前の子供の水死事故。事故の関係者一同に「あの事故について話したい」という手紙が届く。しかし関係者が揃った矢先、子供の友達だった男があの事故と同じ状況で水死し......。


まずは冒頭で可奈ちゃんの水着姿を拝めることに感謝しましょう。アーメン。
本編の内容も面白かったです。現在に起こる2つの事件にはそれぞれ違った切り口のトリックがあり、犯人に迫るロジックも明快です。特に第2の事件の(ネタバレ→)大自然が仕掛けた壮大な物理トリック......を下敷きにした心理トリックというのが見事です。過去の事件の真相はミステリ的な驚きはないですが人間ドラマとしての驚きは確かにあります。また、最後の燈馬と可奈ちゃんのやり取りも余韻が残っていいですね。飛び抜けたインパクトはないですがトリック、ロジック、ストーリー三点セットで楽しめる良作です。



「冬の動物園」★★★3

冬の動物園での殺人事件。幽霊になった作家志望の"僕"は、自らの死の真相を明かしてもらうため、生前に出会った少年探偵を動物園に呼び出す......!


幽霊が語り手という異色作です。霊の力によって動物園に誘いだされる可奈ちゃんの姿がなんとも可笑しく、前半はかなりコメディタッチになっています。ただ、解決編より前に明かされるとあるトリックにはやられました。そしてそれ以降はややシリアスに。
ここまでくると事件の方はその後そのまんまな解決を迎えるのがやや物足りないですが、あまりにも間抜けなのに哀愁漂う結末は好きです。




12巻


「銀河の片隅にて」★★2

TVの討論番組でUFO研究家が「宇宙人がいる証拠」として提出した噴飯ものの絵を、宇宙人否定派の大学教授が「興味深い」と言い話題になる。その後、絵は何者かに盗まれてしまい......。


一つのエピソードに大量のネタを仕込み、たとえネタの一つ一つが多少いまいちでも量で楽しませてくれるのがこの漫画の良さですが、今回はセコいネタが一つだけでミステリ的にはかなり物足りないです。確かにパズルとしては良く出来てますが、それをミステリのトリックにしちゃうと犯人の行動が怪しすぎてモロバレといった感じで......。
まぁ次の話(=「虹の鏡」)が長めの話なため分量も少なく詰め込めないのは仕方ないのですが。
ちなみに可奈ちゃんの最後の行動にはきゅんきゅんしましたし、次の話への繋ぎも良かったです。



「虹の鏡」★★★3

可奈の家で"あの絵葉書"を見た燈馬が失踪。可奈、優、ロキの3人は燈馬を探すためマサチューセッツへ。しかし、燈馬の足跡を辿る3人は、行く先々であの事件の関係者が変死を遂げるのに遭遇し......。


「魔女の手の中に」の続編となる話です。燈馬の行く先々であの事件の関係者が死んでいくという不穏な発端が魅力的。また、伏線の張り方もさすがで、特に絵として見せるあの伏線には驚きました。
ただ、(ネタバレ→)こんなことを言うとキャラの不幸を喜ぶようでいやらしいですが、アニーの死が燈馬の探偵役としてのスタンスに大きく影響していたというのが「魔女の手の中に」の感動ポイントだったのに、なんでえ結局生きてたんかーい!ってとこでちょっと複雑な気持ちになりました。まぁ魅力的なキャラクターなのでせっかく生き返らせたなら今後もぜひ再登場してほしいですね。
ともあれ、重要エピソードの続編として満足のいくエモいお話でしただよ。





13巻


「災厄の男」★★★3

燈馬は世界屈指の大企業の会長・アランからエイプリルフールの騙し合いゲームを挑まれる。レンブラントの絵を巡るゲームに燈馬は勝てるのか......?


メインのネタだけ見れば普段ならこういうのは好きじゃないんですけど、話の構成が上手いので気にならず普通に楽しめました。
「災厄の男」のキャラも良くて、普通に嫌なやつですけど、この漫画なら必ず燈馬が勝つと分かっているため、どこか憎めない小悪党という感じがします。
また、可奈ちゃんの悩みも にやにやしちゃいました。
というわけで色々面白さの詰まったお話でしたね。



「クラインの塔」★★2

燈馬はとある村にある栄螺堂・"黄泉の塔"の調査を依頼される。その塔では過去に、所有者が堂内で消失し、1年後白骨化して再出現したという曰くがあった。そして再び怪事件が......。


二重螺旋の栄螺堂というモチーフは雰囲気バリバリでいいです。そこで起きる事件も外連味ゴリゴリでいいです。ただ、トリックがあんなセコいことかよ!ってところで雰囲気とかが良かっただけに肩透かしでした。




14巻


「夏休み事件」★★★3

夏休み。剣道部が練習している体育館へ突如バスケットボールが窓を割って飛び込んでくる。避けようとした可奈は受け身を取り損ねて捻挫。しかし、剣道部員が外へ出てみるとそこには誰もおらず......。果たしてボールはどこから飛んできたのか?
更に、この夏休みには他にも怪事件が起きていて......。


夏休みの学校で起きるちょっとした事件を題材にした日常の謎系の話です。日常の謎とはいえ、起きる事件の数が多く、メインのバスケットボールの謎は不可解と、なかなかに外連味のある事件でわくわくさせてくれます。
解決の方も、一つ一つは小粒なもののたくさんアイデアが投入されていて楽しかったです。特に(ネタバレ→)けんすい遊びまでが伏線とは......。この作者は印象的でありながら読んだ時には伏線とは気づかないような見事な伏線を張りますよね。
最後の胸キュンなセリフもぐわーっ!と思いました。ぐわーっ!

青春したい。



「イレギュラー・バウンド」★★★3

市会議員の豊田氏が何者かに刺されて意識不明に、また彼が建設会社から受け取った政治献金100万円も消失。容疑者は、豊田氏が100万円を持っていることを知っていた建設会社の社員に絞られる。可奈は草野球で出会った建設会社の社員・里見を怪しいと睨み、調査をはじめるが......。


いかにもいい人な最有力容疑者里見さんや、いかにもヤな奴の被害者のキャラがいいですね。最後とかちょっともにょるけどほっこりしました。
ただミステリーとしてはちょっと分かりやすすぎる気がします。こうきたらこうだろというのが、論理ではなくパターン的に分かっちゃって、ほぼ全部予想した通りでしたから......。




15巻



ガラスの部屋★★★3

可奈の友人である夏美の祖父・大矢悦郎氏が刺殺された。被害者の趣味だった真空管に飾られたガラスの部屋は何を語るのか......?

ミステリーとしては、インパクトこそ弱いですが、推理をこねくり回す面白さと地味ながら鮮やかなトリックが合わさって読み応えがあります。また犯人の決め手も良くできてます。
また、お話としても被害者の最後のメッセージに笑いながらホロリときました。



デデキントの切断★★★★4

MITのドーン教授が燈馬に会いに日本を訪れた。過去に鍵のかかった教授の研究室を荒らされた事件の際、燈馬が呟いた「デデキントの切断」という言葉の意味を聞くために。しかし、燈馬は「忘れました」とはぐらかす。一体過去に何があったのか?


数学用語の「デデキントの切断」がモチーフになった作品ですが、当然ながら文系の私はそんな言葉知りませんでしたし、説明されても可奈ちゃんと同じで「どゆこと???」という感じでした。ただ、それが事件の中でどういう意味を持ってくるかは非常にわかりやすくて文系のバカにも理解できるので凄いです。
ミステリーとしてはたった一点のある事柄から全てに説明がつくというものですが、重い話なので真相に爽快感よりもショックが大きくなってます。そう、数学者の苦悩や業を描いた物語としての重厚感こそ、この作品の一番の見どころでしょう。余韻の残るお話です。




16巻


「サクラ サクラ」★★2

公園で花見の場所取りをする可奈は、隣に座った女性から会社で書類をなくした話を聞く。なくなるはずのない状況で書類はどこへ消えたのか?
一方、燈馬は、先輩の父親が社長を務める企業からヘッドハンティングを受け......。


まずミステリー部分はというと、燈馬くんが話を聞いただけで失せ物さがしをするという、日常の謎安楽椅子探偵。なんてことはない真相ですが、「そうやってものなくすことあるある〜」ときっちり納得出来る見事な答えにはなってます。
また、燈馬と可奈の2人の関係に一つの答えが出るエピソードでもあります。そう、このお話では、周りからよく聞かれる「燈馬はなぜ日本で高校に入り直したのか?」「燈馬と可奈は付き合っているのか?」という疑問に、燈馬本人が答えているのです!
「あの桜の花みたいなものです」という燈馬の言葉の真意が明らかになった時、「この2人をこれからも見守っていきたい」と思わされる、シリーズ上重要なエピソードです。なのでミステリー部分から採点は低めにしましたが、シリーズの中でも好きなエピソードの一つです。



「死者の涙」★★★3

休暇を利用して知人の住む村へ釣りに来ていた水原父娘と燈馬。その村でDVを受けていた女性が失踪する事件が起こる。捜索の末、女性は警部の知人の家のマネキン工場から遺体で発見された。しかし、遺体は最後に一筋の涙を流していた......。
犯人は誰なのか?そして、遺体の涙の意味とは......?


トリックは豆知識の域を出ないものですし、その割に豆知識としての説明も少なめでどことなく投げやりな感じもしてしまいます。
が、それより何より解決の後の信じられないもう一つの真相が......ミステリ的な意味ではなく物語的な意味でですが、衝撃的でした。と同時に、死者の涙というタイトルがじわじわと沁みてきてやりきれない余韻にこちらも涙しそうになりました。
............あと、水原警部がカッコよかったです。




17巻


「災厄の男の災厄」★★★3

"災厄の男"アランは、懲りずに燈馬ら優秀な人材を自らの会社に入れるためある策略を巡らせた誕生日パーティーを開く。しかし、その策略が裏目に出て、400万ドルが紛失する事件が起きてしまう。


出ました、災厄の男。相変わらずめちゃくちゃウザいんですけど、なぜだか彼の再登場を待っている自分がいました。秘書のお姉さん綺麗だし。
ストーリーはやっぱりアランが優秀な人材をヘッドハンティングするためにゲームを仕掛けるという前と同じパターンですが、今回は事件の構成の面白さで魅せてくれます。
当然今回も燈馬くんのが一枚上なわけですが、それでめげるアランでもないでしょうし、また登場してくれるのを楽しみに待ちたいですね。



「いぬほおずき」★★2

燈馬たちはひょんなことから日本の巨匠・大沢監督の新作映画の撮影を見学する。しかし、主演女優が主演俳優を小刀で刺すシーンの撮影で、模造品の小刀が本物とすり替えられていた!


巨匠監督の映画の撮影中に事件が起こる話です。監督や女優さんのオーラが凄くて普段の話よりもシリアス感が強く出ているのでぐいぐい引き付けられました。
トリックらしいトリックは取って付けたような感じで、正直なところわざわざ密室殺人が起こる意味もないように思ってしまいます。だって彼殺され損ですよね、つらい......。
しかし、それとは別に、華々しい世界にいる人たちの闇の部分が描かれる心理ドラマが大きな見所になっています。そうした心理の盲点を突いた小刀すり替えトリックにはゾクッとしました。ボカしますが、こういうの好きです。
また、虚構と現実のリンクした先に見える動機も見事。第二の被害者さえいなければ深い余韻が残る話なんですが、第二の被害者が可哀想すぎて............。




18巻


「名探偵"達"登場」★★★3

咲坂高校探偵同好会の面々は密室状況の部室でチーズケーキが何者かに食べられる"事件"に遭遇する。調査を進める探偵同好会は、学校で噂される幽霊に遭遇......。犯人は怪しい男女二人組(燈馬&可奈)なのか......?


女王様キャラの美女、エナリー・クイーン会長と助さん角さんの三人組、探偵同好会のキャラが立っててそれだけでミステリファンには楽しいです。ほら、私って美人好きだし。
それはさておき、ミステリとしても、一つ一つは小ネタながらいくつものトリックとロジックによる怒涛の解決編は見応えばっちり。(ネタバレ→)幽霊は燈馬と可奈、ケーキや部室荒らしは探偵研の面々それぞれと、登場人物全員が何かしらの"犯人"であるという構図もお見事です。



「3話の鳥」★★★3

水原警部の部下・笹塚刑事は、故郷で起きた13年前の心中事件のことをニュースで知る。事件は笹塚ら仲良し三人組がよく遊んだ秘密基地の近くで起きていた。しかし、笹塚はその当時のことがどうしても思い出せない。彼の記憶の中に事件の鍵が眠っているのか......?


子供時代の記憶の中の思い出せない"何か"......というホラーなんかによくあるような題材のため、いつもよりシリアス調の雰囲気が新鮮です。
真相は想像の範囲内ではありますが物語として印象深く、ミステリとしては小さいアイデアでもストーリー性で見事に面白いお話に仕上げた一編です。




19巻


マクベスの亡霊」★★★3

マクベス」の舞台の練習中、主演の大物俳優・山崎にイビられた若手俳優・河岡は山崎を殺してしまう。
アリバイ工作をして事故に見せかけた河岡だったが、それから山崎の亡霊に悩まされ......。


たまにある倒叙ものです。
犯人が分かっていながら犯行方法が部分的に隠されていることで小粒なネタですがハウダニットの要素もあり。そして、犯人特定の細っかいロジックにも感心しました。今だったら(ネタバレ→)スピーカーモードで話してたって言えば、言い訳はできると思いますが、当時は燈馬くんのおっしゃる通りですよね。
また、殺人を犯してしまった男が劇の通りに亡霊に悩まされるという物語も魅力的でインパクトのあるラストカットが目に焼きつきます。



「賢者の遺産」★★★3

ひょんなことから昭和初期にタイムスリップした可奈は、そこで燈馬くん......ならぬ塔場くんに出会う。
燈馬くんそっくりの彼は、進学資金を援助してくれるはずの富豪が亡くなり困っていた。見かねた可奈は塔場くんに富豪の隠し財産探しをけしかけるが......。


しれっとタイムトラベルしちゃって驚きますが、このへん漫画ならではの強みでしょう。というかそもそもがサザエさん時空なので、タイムトラベルくらいはすんなり受け入れられます。
ミステリとしては心理的矛盾から犯人を突き止めるのがメインになります。殺人事件の場合は物証なしの心理面だけの推理では不確実な感がありますが、兄弟間の遺産争いくらいなら物証より納得しやすくていいですね。
また、最後の富豪が遺したものの正体も非常によくできています。
ラスト1ページの強烈な余韻も見事で、作者のエンタメへの造詣の深さすら感じられます。




20巻


「無限の月」★★2

燈馬は中国の警察から、マフィア組織・西興社に関する捜査協力を依頼される。燈馬の友人である胡という男が西興社による関わっているというのだ。しかしその矢先、西興社の4人のボスが次々と殺されていき......。
胡の「φの場所で待つ」という言葉の意味とは?そして連続ボス殺害事件の真相は?


殺人の構図といい、数学にまつわるメッセージといい、外連味溢れる謎は魅力的です。しかし、そのわりにどちらも真相はあまり捻りがないように思えます。それでも、名犯人の姿は珍しくシリアスすぎるエンディングも相俟ってとても印象深くなっています。



「多忙な江成さん」★★★★4

エナリー・クイーンこと江成さんの祖母に恋人ができ、親戚一同は遺産の取り分が減ることを恐れ不穏な空気に。クイーンは祖母に悪いことが起きないようにと可奈に祖母の護衛を依頼する。
しかし、それからというもの祖母の周りで妙なことが相次ぎ......。


江成さん率いる探偵研究会再登場です。
いや〜、想定の範囲外です。言われてみればあからさまなくらいの伏線の山ですが、これは考えないよ〜。
何を言ってもボロが出そうなので簡潔にいきますが、連打される謎の乱れ打ちをそれを収束させるたったひとつの事実。複雑でありながら単純明快な構成。江成さんの多忙さへの笑い。そして何とも言えない粋なラストなどなど、全てが素晴らしい傑作です。






というわけで、11〜20巻感想でした。
個人的にベストはダントツで「多忙な江成さん」、偏愛枠としては「夏休み事件」を挙げておきます。
ミステリーとしてはもちろん面白いんですが、だんだん作者も書き慣れてきたのかストーリーとしてもグッとくる話が多かった印象があり、続きも楽しみです。と言いつつ、これから姉妹編のC.M.Bの方も読んでいこうと思うので、恐らく次回の更新はそちらになると思います。博物館の話とかワクワクすっぞ!
ってな感じでばいちゃ。