偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

歌野晶午『間宵の母』感想

2019年のノンシリーズ作品。

間宵家の父、母、娘をそれぞれ主役にしたサイコスリラーの連作短編集のような形を取りつつ、最終話で長編としてつながる形式の作品です。

歌野晶午の魅力はやはり一作ごとに捻った設定やジャンルの越境などストーリーが凝っていて、決してオーソドックスなミステリは描かないところだと思います。
一方で、その趣向の凝らし方が行き過ぎると『セカオワ(アルハジ)』や『女王様と私』のような賛否両論分かれる問題作なんが出てきたりして、本作はわりとその路線な気がします。
とはいえ私はそっち路線も嫌いじゃないので本作も面白かったです。

まずホラー短編集としては、行ったきり戻ってこないジェットコースターに乗せられているような感覚とでも言いましょうか。
文体の平易さとストーリーの面白さの両面からリーダビリティがエグいのも歌の作品の魅力の一つですが、その読みやすさでぐいぐい読まされていくと気が付いたらヤバい場所まで連れて行かれててそのまま戻ってくることなく話が終わっちゃう、みたいな。
特に第二話が胸糞悪さとハラハラ感と何が起きたんだ感が絶妙に絡み合っていて、怖さと厭さが最高でした。

そしてミステリとしての解決なんですが、こっちはまぁ想像の範囲内に収まってしまったかなぁという感じではあります。着地点がタイトルでネタバレになってしまってるのでぶっ飛んでる感が薄れてるのももったいない気がしてしまいます。
とはいえイヤミス的な悍ましさはさすがで、サラッと読めて人間の醜さがしっかり味わえる良作でした。

小川勝己『ゴンベン』感想


小川勝己の2007年の長編。
2008年の『純情期』を最後に新作の刊行が途絶えてしまった著者の、現状最後から2番目の作品に当たります。
私の未読も残りはちょうど『純情期』だけ。寂しいっすね。

タイトルの「ゴンベン」とは警察用語で詐欺のこと。
大学生の詐欺グループが小さな仕事から始めて徐々に警察や大物実業家やヤクザを向こうに回すようになっていくっていうお話。

一応コンゲームっぽい感じではあるんだけど、詐欺のゲーム性みたいなところよりもやはり著者らしいドロドロとした人間描写の方に目が行ってしまいます。
主要キャラはもちろん、モブキャラ視点もちょいちょい入ってくるけどそれもまた読んでて楽しいという、初期の『葬列』『彼岸の奴隷』のような作風に原点回帰してる感があります。

ただ、それだけに比べちゃうとちょっと大人しくなったかなぁという感も否めなかったり。
エロはないし、グロも控えめだし、ヤクザさんの胸糞悪いようなバイオレンスもかつての作品に比べるとなんか耐えられそうだなと思ってしまいます(いや、無理だけど)。
ストーリーも細かい騙し合いが多くてデカい意外性とかはそんなにないかな、と。

とはいえもちろん読んでてめちゃ楽しいのでファンなら必読だし、ファンじゃない人が初めて読むにも刺激が抑えめなので読みやすいのかなとは思います。

梶龍雄『リア王密室に死す』感想

トクマの特選より満を辞して復刊された梶辰雄の第2弾!
前作『龍神池の小さな死体』は「発掘驚愕ミステリコレクション」枠だったのに対して、本作は「青春迷路ミステリコレクション」という枠からの復刊。
まだ1作ずつしか出てないから分からんけど、個人的には本作の「青春迷路」感が堪らなく好きだったのでこっちのシリーズがより楽しみになりました。



戦後すぐの京都。旧制第三高校に通う"ボン"こと武史が下宿先に帰宅すると、同居人の"リア王"こと伊場が密室で毒殺されていた。
部屋の鍵を持っているため疑いのかかる武史は、"カミソリ"、"バールト"、"ライヒ"ら愉快な仲間たちとともに真犯人を探すことにするが......。


そんなわけで、めちゃくちゃ面白かったです。

まずは京都の旧制高校の生徒たち同士の空気感が最高。
ドイツ語とかの変わったあだ名を標榜し、個性的であることを第一に考えているような学生生活にめちゃ憧れてしまいます。
こないだ『火垂るの墓』を観たので、あのすぐ後くらいの時期なのに随分楽しそうだなと清太の分まで恨めしく思ってしまったりもしましたがそんなことはどうでもいい。
とにかくそんくらい楽しそうな、もちろん物のない時代なのでバイトして食いつなぎながらの学生生活の大変さはあるけど、そんでもその分真剣に阿呆をやってる感じが素敵すぎるんすよね。
さらに、殺されたリア王と主人公は恋のライバルだった......という、嫌疑のかかった主人公には不利すぎる設定もまたエモい。恋のライバル!素敵💕
ちなみに「リア王」はリアリストすぎるって意味のあだ名でシェークスピアとは関係ないので、シェークスピア知らない人でも大丈夫です!(大学生の時借りてきて読もうとして「シェークスピアかぁ......」って辞めちゃった思い出がある)
恋のやり方も、若者らしい大胆さと、昔らしい奥手さとが同時にあって趣深いっすね。一目惚れだけで安易に好きになっちゃうのも、なんつーか「ミステリの恋愛要素」としてくらいならアリというか、分かりやすくていいと思います。

てな具合に前編はリアタイで青春を謳歌する彼らの物語なのですが、後編では一転して長い時を経て中年になった武史が息子と共に事件を回顧するうち見落としていた謎に直面する......というスリーピングマーダーみたいになるのが楽しい。
前編で曲がりなりにも解決された事件を蒸し返していく面白さ。拾いきれていなかった伏線が時間差で次々と炸裂していって真相が現れる驚き。犯人の正体も良かったですが、なによりあの脱力モノの変な密室トリックに笑いました。

そして、青春に置き忘れた恋の後日談が最高......。武史があることを知る場面は悪寒がしました。エモすぎて。

......て感じで、伏線回収の質と量、稚気に溢れるトリックとミステリ的な魅力満点+やや古臭さはあれど好みど真ん中の青春小説の側面も持つWで俺得な傑作でした。

思い出のマーニー

これめっちゃ好きなやつ。
観るの2回目ですがやっぱ良いよ〜。



夏休みの間、海辺の町の親戚の家に預けられることになった杏奈。
養女として育てられ、他人に心を開かない彼女は、海辺にある誰も住んでいないはずの屋敷で出会ったマーニーという少女と心を通わせていき......。


絵がなんか今風で、これまでのジブリより良くも悪くもさらっとしてる感じがします。
でも海辺の田舎町、夏祭り、たそがれ時の空と海の間を通って訪れる古びた洋館、その窓から漏れる煌びやかで儚い灯......などを表現するにはぴったりだと思います。いい意味で、観終わった後に変に印象に残らずふわっと消えていく感じが一夏の思い出という感じで最高なのよね。


ストーリーですが、マーニーと出会うこと以外は特に何も起きないと言ってもいいくらいなんだけど、その中で杏奈の心情とマーニーの魅力を丁寧に描いていくことでちゃんと起伏がついてて飽きずに観れちゃうのがすごい。
まぁあと、マーニーは何者なのか?何が起きているのか?といったぼんやりとミステリーっぽいところもあるのでそこの引きも強いっすね。

杏奈のキャラ造形が好きなんですよね。実の両親がいないことで拗ねて自分の殻に閉じこもってんだけど、その境遇も態度もすごく普通ってゆーか。
物語の主人公らしい劇的な悲劇に見舞われたわけでもないしどっぷり闇堕ちしてるわけでもなく。いやそもそもシータとかナウシカとかキキとか千尋とか雫ちゃん(最推し)とかが人間としてレベルが高すぎるだけで、普通の子供はこんな感じだよな、というリアルさにめちゃくちゃ感情移入させられてしまうんです。

一方もう1人の主人公マーニーは神秘的。全ての所作や言葉が秘密めいて美しい。本作をミステリとして観れば彼女が「謎」そのものなのですが、鉄壁のアリバイや完全な密室に劣らない魅力を放っています。
前半あたりではもうほんとただの憧れの存在なんだけどだんだん弱さとかも見せて人間味が出てくるとより一層惹かれてしまう。

あと途中で出てくるメガネの子がトトロのメイちゃんっぽかったので杏奈と並んでると5年後サツキとメイみたいな雰囲気になっててエモかったです。

最後、ジブリだからと油断してたのもあるけど思ったよりミステリで伏線回収もちゃんとしてて、そこまでも好きだったけど一気に大好きになりました。

プリシラアーンの主題歌も良かった。
ジブリ初の英語詞の主題歌らしく、他にも初のダブル女性主人公だったり、初かどうかは知らんけどミステリ要素もあったりと、とにかくこれまでと違うことをしようという意志を感じさせる傑作でした。

以下少しだけネタバレ感想。
















































ミステリとして観るなら、マーニーの正体が杏奈の祖母というのがどんでん返しというか、隠された真相となっています。
後から思えばマーニーの思わせぶりなセリフにも意味があったし、杏奈の瞳の色もストレートな伏線ですが、ジブリ=ファンタジーというイメージからマーニーのことも幽霊的な何かだと漠然と思っていたらイマジナリーフレンドでしかも知り合いだったというのもミスリードになってて初見時は気づけなかったです。

そして、それが明かされることで祖母から孫への愛情、世代を超えた孤独な少女同士の連帯、物語というものが存在する意義に至るまでぶわ〜っと隠されたテーマが目の前に広がります。
さらに、そこから杏奈が両親はいなくとも愛されていたことに気付いて養母を「母」と呼べるようになるという小さいけど大きい成長をして一夏が終わるっていう、めちゃくちゃ綺麗にまとまったお話なんですよね。好き。

火垂るの墓

1945年6月の神戸。
父は戦地にいて母は空襲で亡くした14歳の清太と4歳の節子の兄妹の生を描いた作品。


っつーか観たくなかった......。だから観たくねえって言ったのに......。

多感な子供の頃に『はだしのゲン』を読んで戦争の悲惨さというものを多少なりとも想像したことはあるのでこんな子供が戦争の犠牲になる......しかも冒頭で既に2人とも死ぬって分かってる......ような映画なんかつらくて観たくないに決まってんだけど、しかし素晴らしい映画でした。

序盤から空襲で母親が死ぬシーンとか子供向けアニメとは思えないほど容赦なさすぎるし、これが『トトロ』と同時上映されたってのが1番の驚きですよね。
ただ前線ではなく銃後の女子供老人の世界が舞台なので敵の攻撃の脅威とかよりも飢えや全体主義同調圧力が怖さの主眼になってます。

......というか、むしろ戦争の話ではない感じすらしますね。
というのも、主人公の清太は戦争中でしかも親戚の家に厄介になっているにもかかわらず、働きもせず家の手伝いもせずに夏休みみたいに毎日節子と遊び呆けているばかりなんですよね。
これに対して親戚のおばちゃんが嫌味を言いたくなるのは当たり前というか、むしろ嫌味程度で済んでいて優しすぎる気さえします。
だから「清太がクズすぎる」みたいな感想の人が一定数いるのはその通りだと思うんです。
ただ、個人的にはこれはクソ全体主義の奴隷になって生きるよりも人間としてのプライドを持って死ぬことを選んだ坊ちゃんの反骨精神のお話な気がするんすよね。
一緒にしちゃいけないですけど、私も「あいつはホモ」だの「お前はシンショー」だのつまんねえことしか言わないクラスメイトに合わせるなんて絶対出来なくてそのために若干イジメられるという不利益を被っても意地を曲げられないタイプの子供だったのでかなり共感しちゃうところがありました。
「お国のため」という空気自体がもう完全に生理的に無理でそういう理屈で生きてるやつなんか眼中にないみたいなとこ、好きすぎる。
もちろんそれで地域社会との関わりを断てば生きてはいけないってのが悲劇。
でもクソJAPAN帝国に小さな反旗を翻して2人だけで暮らした短い時間は蛍の光のような刹那の美しさに満ちていて泣くしかなかったです。
節子があまりにも可愛いから、終局に至ってから節子との思い出の全てを思い出して泣けてしまうんですよね。

ほいでラストシーンがまた非常に意味深かつ印象的でしたね。
その辺は下にネタバレで書いていきます。

ともあれ、観たことを後悔しかしてないってくらいの傑作でした。































































































冒頭で「僕は死んだ」と独白した清太と節子の霊魂(?)が、ラストシーンでは現代の神戸の煌びやかな夜景を山の上から見下ろしているという意味深な終わり方。

2人の霊魂があの時を繰り返し繰り返し追体験しながら現代に至るまで消えられずにあるという感じ?
我々現代人への戦争を忘れるなというメッセージだったり、完全に復興したように見えても戦争の傷跡はまだ残っている......みたいな見方もできると思います。
また、個人主義的な現代と、地域社会との関わりを断った清太たちとを重ね合わせているようにも。
逆に、経済成長ばかりを追い求めて過労死だの格差だのが問題になる現代に戦時下の社会から個人への圧迫を重ねているようにも......。

とにかく、戦争を知らない子供たちである私がしんどい気持ちにはなりながらもどこか昔のこと他人のこととして眺めていたのを最後に画面の向こうから告発されるような忘れがたいラストシーンでした。

カメラ買っちゃった、衝動で。

前々からぼんやりとほしいとは思ってたんですが(なんかフォロワーがやってて楽しそうだから)ついに買ってしまいましたカメラ。
ダチ公に教えてもらった初心者向けらしいオリンパスのペンってやつ。
初心者すぎて機能の良し悪しとか全然分からんのですけど、とりあえずお手頃で小さくて軽いので持ち歩きやすくていいっす。
出かける時は持ち歩こうと思います。

今日はその練習と、なんか最近めちゃくちゃ体重が増えてしまったので近所のお池を一周してきました。きつい。

全然綺麗に撮れへんけどこの色合いが好きなことは分かったわ。