偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

浦賀和宏『彼女が灰になる日まで』感想

銀次郎シリーズ第4弾。



昏睡状態から目覚めた銀次郎のもとを現れた初老の男。「この病院で昏睡状態から目覚めたものは自殺する」と男は言い、かつての4人の自殺者のことを語り......。


2作目までは銀次郎自身に密接な関わりのある事件を描いてきたシリーズですが、本作なんかは一応関係者ながら実際のところは銀次郎は巻き込まれただけであって、事件を追うための動機付けが弱いような気がしちゃうし、内面描写もこれまでの作品に比べて少なくて、ミステリとしての骨組みを読んでるような気持ちになってしまうんですよね。

それでもオカルト絡みの連続自殺事件......という設定は魅力的だし、リアリズムの立場から描かれているのに時折(人間に)ぞっとしてしまうところも好きです。
浦賀和宏の作品じゃなければ、これはこれで十分面白かったと思うんだけど、どうしても浦賀作品にはぐちゃぐちゃした内面描写を期待してしまうだけに、その点はシリーズ中で1番淡白だったなぁとやや物足りない気持ちになってしまいました。
浦賀さんって、情念にまみれた一人称での描写は太宰治とか押見修造とかに近い青春のハシカ感があって天才だと思うんだけど、それを離れてミステリとしての説明的な描写になるとやっぱりあんま上手くないというか、人物の言動とかにも説得力が失われてしまって、結果本作では誰にもあまり共感できなくなってしまっていたと思うんですよね。

ただ、最後の黒幕の正体のくだりはほんと好きです。いや、薄々予想はしてたけど、それでもまじか〜、と。
(ネタバレ→)女々しくて女々しくて未練引きずり銀次郎vsヤンデレラスボスの聡美ちゃんとの壮絶なバトルが開幕する......というシリーズの今後が予想されてしまうだけに、著者の死によってそれが潰えてしまったのは残念に思います。
というか、何度も言うけど安藤直樹シリーズくらいは完結させてから死んでくれればよかったのに!
ともあれ浦賀さんの唯一の未読シリーズ、桑原銀次郎シリーズ、作品によってややムラはありますがやはり面白かったです。

残る未読は3冊ですが、やっぱもったいないので一旦置いときます。

浦賀和宏『彼女の倖せを祈れない』感想

銀次郎シリーズ第3弾。


銀次郎の同業者・青葉が殺された。
生前の青葉は政界を揺るがすような特ダネを掴んだと漏らしていた。そして彼のカメラにはコスプレした謎の女性の写真が。
青葉と因縁のある銀次郎は事件の調査を開始するが......。


前々作、前作と、銀次郎自身に関わる事件が描かれてきたシリーズですが、今回はそうしたパーソナルな部分からはちょっと外れた事件で、カリスマ政治家のスキャンダルなんかも絡んできて社会派っぽい雰囲気を醸し出してきます。
そして、シリーズでは唯一、銀次郎以外の人物の視点も入ってきて、どちらかというとその人物の物語に銀次郎がゲスト出演しているような印象の作品になっています。
とはいえ、今回も出番は半分ながらしっかりと酷い目に遭って主人公であることをアピールしてくる銀ちゃんが可愛いっすね()。

そして、後半から始まるもう1人の主人公の物語も浦賀ファンとしてはやっぱり好きにならずにはいられないもの。
政治、愛人、隠し子、セックスなど、どう考えても安藤直樹シーズン2で見たことある題材の再上映という感じではあるけど、そんでもやっぱ面白かったです。エロいし。映画館のシーンとかね。良いっすね。
年齢的にも精神的にもそれなりに大人である銀次郎の視点から外れたことで、浦賀作品の魅力の一つである若者の青い鬱屈が楽しめるのが良いと思います。

そんな感じでファンも満足のアクもありつつ、あの真相なんかは新規の読者層にもアピールしてる気がします。ある種の分かりやすさが。
気になっていたあの人も元気な姿を見せてくれたし、 こんなことになってもあと一冊続きがあることは分かっているので楽しみに読みたいと思います。

ラーメンズ第13回公演『CLASSIC』

落ち目の老舗ホテル「帝王閣」を舞台に、客やスタッフたちを描いた連作群像劇です。




収録内容
ベルボーイのホテル旅館化計画/マリコマリオ/受験/ダメ人間/ギリジンツーリスト/バニーボーイ/1313/帝王閣ホテル応援歌


ラーメンズのライブDVDを観るも早いもので3本目ですが、本作は前の2つよりちょっと落ちるかなっていうのが正直な感想です。

といっても個々のネタはやっぱり面白いんですけど、じゃあ何が不満かっていうと単純に期待しすぎた、ってとこですね。
なんせ、全体を通して一つのホテルを描いた連作ですから、ミステリファンとしてはどうしても各話間の細かいリンクとか、最終話で明かされる真相とか、そういうのを期待してしまいます。前作までにもミステリ的な要素が強いお話もちょいちょいあっただけになおさら。
でも、各話のリンクはなくはないけど普段とさして変わらない程度だし、最終話が応援歌なのも全体の構成としてなんとなく散漫な感じがしてしまいます。

そんな感じで、勝手に期待しすぎたわりには期待に達しなかったかなぁという印象の本作ですが、とはいえ個々のネタは面白く、いくつか特に気に入ったものもあったし、普通に面白かったです!

以下各話の感想。


「ベルボーイのホテル旅館化計画」

舞台設定の説明も兼ねたイントロダクション的な第一話。
スタッフの中では最弱くらいであろうベルボーイたちが革命を企てるという設定がいかにも好きそうな感じで微笑ましいっす。情けなくもロックンロールなお話ですね。


マリコマリオ」

タイトルから想像がつく通り、漫画家コンビの話。やっぱホテルといえばカンヅメ!私も作家になったらカンヅメやってみたいですねぇ。まぁよっぽど売れっ子じゃないとさせてもらえないだろうけど......と考えると彼らマリコマリオ先生は意外と売れてるのかしら?


「受験」

アホすぎてイラッと来つつも、なんだか絶妙に分かってしまうのが辛いところですよね......。私も学生時代には英語苦手すぎたので(いや、今も苦手だけど使う機会もないから苦手意識を感じることもない)、英語のつづりの理不尽さには思わずうんうんと頷いてしまったり......。


「ダメ人間」

「ダメ人間」ことチンピラっぽい風貌の小林さんが新鮮ですね。どっちかと言えば小林推しなのでいつもと違う一面が見られて嬉しいです(?)。
なんかもう半分くらいアドリブかと思うようなグダッとしたノリが心地よいですね。
最後だけなんか上手くオチたっぽくしてるのも好きです。


ギリジンツーリスト」

タイトルの通りなんだけど、まぁひっでえ。
ギリジンが歌わずに普通に喋り出すから何かと思えば言っとることがただただめちゃくちゃっていうだけのわけわかんないお話なんだけど、なんかもうここまでいくと音楽でも聴いてるかのように、意味のない小ボケの連発が耳にするする〜っと入ってくるんですよね。
もちろんいつものやつも途中でぶちかましてくれるし、ギリジンファンなら当然楽しめますけど、それにしてもわけわかんねえ。


「バニーボーイ」

小林さんがウザ可愛いの極みバニーボーイを演じるお話。
会話の噛み合わなさにイライラして脳みそを掻きむしりたくなりつつも、なぜかそれが快感......という気持ち悪い気持ちよさは、小林違いで小林泰三の小説なんかを思い出してしまいました。
これもなんかところどころぐだぐだなところが面白くて、酒飲みながら友達と話してるみたいな気分にさせてくれます。好き。


「1313」

映画みたいなタイトルからなんとなく展開が予想できてしまいつつも、ここまでアホみたいなことだとは流石に想像がつきませんでした......。
まぁどんでん返しと言えばどんでん返しだし、本作で一番ミステリっぽいんだけど、アホすぎて全然そんな気がしませんでしたね。
良い話っぽくなりそうなところを別にそんな良い話とも感じさせないし、なんだか掴みどころのないお話ですよね。正直そんなに好きじゃないです。


「帝王閣ホテル応援歌」

コントの中に歌が出てくるとかではなく、ほんとにただ応援歌。もちろん歌詞の内容とかで笑わせてはくれます。
エンディングテーマ的な位置付けかもしれませんが、個人的には今更ホテルの紹介をされるよりオープニングにこれがあった方が良かったのでは......とも思ってしまいました。
しかし歌が上手い。もしかしたら、かなり熱唱するから最初にやると消耗しちゃうので最後に持ってきてるってのもあるのかもしれませんね。
ラーメンズってなんとなくあんま下ネタとかやんないイメージでしたけど、これの終盤の歌詞とかかなり下品で好きです。
なんだかんだ歌で終わるってのも大団円感があっていいのかもしれません。

浦賀和宏『彼女のため生まれた』感想




高校時代の同級生・渡部に母を惨殺された銀次郎。
犯行後自殺した渡部の遺書には、かつて銀次郎が同級生の少女に乱暴をして自殺させたという、身に覚えのない出来事が書かれていた。
母の日の真相を暴き、自らの汚名を雪ぐため事件を調べ始める銀次郎だったが......。

『彼女の血が溶けてゆく』に続く桑原銀次郎シリーズ第2弾。
前作の大きなネタバレはしないように配慮されていますが、それでも前作を読んだ上でないと色々分かりづらい部分はあるので順番に読むのがおすすめです。


前作でもまぁまぁしんどい目に遭った銀次郎ですが、今回は冒頭から母親を殺されるという悲劇に見舞われます。
主人公が酷い目に遭うのはいつものこととはいえ、一般受けを狙ったこのシリーズでさえ著者のそういう性癖が出てるのはファンとしては嬉しいですね。銀ちゃんには悪いけど。

今作も前作同様地味な調査パートが大半を占めていながら、銀次郎自身にも深く関わる事件だけに、一人称の内面描写もより濃密になっています。
今回銀次郎がマスコミに書き立てられる側に回ることで、ライターという仕事への葛藤が深く描かれています。
さらに、本作は「親子」を描いた物語であり、銀次郎と両親をはじめ、主要な事件関係者は全員親子セットで登場して親子関係に何らかの悩みや秘密を抱えています。子を持たない銀次郎も、甥っ子との関わりの中で自分に子供がいたら......と考えることも増えてきます。
「生まれてこなければ良かった」という論調の過去作と比べて、本作はもう一歩大人になった視点での人生観が垣間見えて身につまされますね。

ミステリとしてももちろん面白いっす。
序盤から意外な展開や秘密を小出しにし続けて常に何かしらの驚きを与えてくれ、それでいて最後にはさらなるどんでん返しが待ち構えていて、相変わらず一瞬もつまらない時がない傑作に仕上がってます。
そして、地味な調査パートからの解決編の劇的さも前作と同じく。今作ではより切羽詰まった状況ではあり、サスペンス性も増していると思います。

あと真相とは全然関係ないですが一応伏せ字で、(ネタバレ→)銀次郎が毎度セックス出来そうで出来ないところに笑ってしまいました。
あと、シリアスな話をしてるときに急に銀次郎が「そばを下げてパスタを上げるな!」とか(心の中でだけど)言い出してそこも笑った。こういうギャグなのか本気なのか分かりづらいギャグも浦賀和宏の持ち味ですよね。


とそんな感じで、前作よりさらに面白くなって帰ってきたシリーズ第2弾でした。残るあと2作もすぐに読むつもりです。楽しみ!

ラーメンズ第12回公演『ATOM』

観てます観てます。


収録内容
上下関係/新噺/アトム/路上のギリジン/採集/アトムより


前のでも思ったけど、これなんか特に、ジャケがオシャレですよね。なんか海外のバンドのライブビデオみたいな雰囲気で「あれ、レディへのDVDなんか買ったっけ?あ、ラーメンズか」みたいな事件が起きがちになってる今日この頃です。

で、本作も各ネタは基本的に独立していてトータルコンセプトというほどのこともないんだけど、「アトム」と「アトムより」の微妙な接続のおかげでなんとなく一つの作品としてまとまっている感じがしちゃうのがいいっすね。緩くだけどアルバムとして作られてる感じが好きです。
シュールなのもあれば、SFやミステリといったジャンルものもあって幅広く楽しめるのも良いです。


冒頭の「上下関係」「新噺」はシュール系。
前者のなんか分かんないけどこの世界ではない別の世界線のこの国......みたいな世界観はSFっぽくて「ATOM」というタイトルの本作の幕開けにぴったり。
後者は落語のお約束を弄んだメタ落語で、その眩暈感を齎す入れ子構造にはミステリにおける四大奇書の一角『匣の中の失落』などを連想させます。いや、適当だけど。

表題作の「アトム」はシチュエーション設定の勝利とでも言いましょうか。
あの状況の2人が会話してたらなんでも面白くなるやろ、と言いたくなるような状況の妙。
もちろん、ひとつひとつの小ボケもベタで面白いです。
オチもバカバカしくて味わい深いですね。

ギリジンシリーズ既に好きなので「路上のギリジンも良かったっす。
J POPディスるくだりとか最高。2人の間だけでなんかふざけ合ってるのが可愛いですね。

「採集」は、これはもうドンピシャに好みです。
冒頭の状況設定がまるっきり分からないまま動きだけで笑わせてくるところからして楽しいです。
やがて明らかになる、上京した男が母校の夜の体育館で故郷に残った親友と再開する......という青春ドラマな設定がそもそも好き。
そこから当然のように恋バナになるのもめちゃくちゃ好きなんですが、それ以降まさかのミステリに変化していくあたりがほんっとに最高なんですよね。さっきまで笑いのタネだったものがいつの間にか伏線に変わって鮮やかに回収されていく様は圧巻の一言。
小林賢太郎のロングロング一人芝居で意識の流れを見事に切り取ってるのも凄い。
あらゆる意味で私好みでしかない傑作でした。これだけでもいいからみんなに見てほしい。

掉尾を飾る「アトムより」は、「アトム」と微妙な接点があり、この話があることで本作全体にまとまりが出来てくる感じがします。別に連鎖式短編集とかではないんだけど。
片桐さんのウザすぎるノリと、「大女優」には笑いました。
オチは星新一とかを彷彿とさせる、「ザ」という感じのもの。最後の話で王道をキメてくれるので、演劇一本見終わったなぁという満足感もあって素晴らしいです。

浦賀和宏『彼女の血が溶けてゆく』感想

死んでからなんかもったいなくて一冊も読めてなかった浦賀先生ですが最近彼女に『透明人間』を読ませたらとても面白がりながら読んでくれたのでそれを見てたら自分も読みたくなっちゃって読みました。
未読7冊のうちの一つ。


本作は桑原銀次郎シリーズの第1作に当たります。
似たタイトルで似た表紙で同じ出版社から出てる同じシリーズとしか思えない『彼女は存在しない』は実は無関係だったりします(※後に「彼女は存在する」という短編で両者が繋げられてるらしいです。未読ですが)。


フリーライターである主人公の桑原銀次郎は、週刊誌からの依頼で元妻で内科医の聡美が起こしたとされる医療ミスについて調査することになる。
調査過程で死亡した女性・綿貫愛に不審を感じた銀次郎は、聡美に着せられた汚名を晴らすために彼女が死んだ原因を探っていくが......。

といった感じの医療ミステリ。

驚くべきことに......といってもあらすじから察してはいましたが、本作では人間を食べたり近親相姦したり首をちょんぎったりクローン人間が出てきたりは一切しないのであります。
そういう、読者を選ぶ危険な魅力は封印し、自分のカラーを出すよりもプロの作家として一般に受け入れられるミステリ小説を書くことに専念しました、みたいな感じなんですね。

で、ファンとしては当然そこに若干の物足りなさを感じなくはないのですが、しかしあれだけクセの強い作家なのにこういう誰もが楽しめるような分かりやすいエンタメ作品も器用に書けてしまうことに改めて浦賀和宏は天才やなぁと思いました。著者本人が生きてたらこういうこと言っとけばリツイートしてくれたんですけど......。

そして、クセがなく読みやすいとは言いながらも、元妻への未練と仕事との間でうだうだと鬱屈する主人公の銀次郎の姿には安藤直樹や八木剛士の面影もちらりと垣間見ますし、聡美という女にこっちが勝手にむかついちゃう感じも純菜ちゃんのこととかを思い出してしまったりします......ああ、俺の純菜......。

冒頭の医学の講義だけは正直ややだるいし、中盤も地味な調査パートが続くのですが、それでも退屈する瞬間がほとんどなく一気に読めちゃうリーダビリティは健在。
そして、かなり劇的な解決編(?)は地味な捜査パートとの対比もあってインパクト抜群。
ミステリとしてはシンプルな真相と複雑な細部にやられっばなしだし、物語としてはエモーションが溢れまくってしまうし、両方の意味でのカタルシスに浸ってしまいます。

終わり方も浦賀作品にしてはかなりさっぱりしてて、ほろ苦くも悪くない後味で読み終えることができました。
彼女は存在しないに便乗してる感じはどうかと思うけど、それ以外はめちゃくちゃ面白かったです!

ラーメンズ第11回公演『CHERRY BLOSSOM FRONT 345』

同居人にシソンヌを布教して全作無事見終えたので、今度は逆に同居人が好きなラーメンズを布教されて観てます。


収録内容
本人不在/エアメールの嘘/レストランそれぞれ/怪傑ギリジン/小説家らしき存在/マーチンとプーチン2/蒲田の行進曲


さてそもそも私はラーメンズのネタを観るの自体はじめてで、テレビとかにもあんまり出てないからかろうじて片桐さんは顔と名前は知ってるくらいの認識しかありませんでした。

そんな、ほぼラーメンズ初体験だったわけですが、めちゃ面白かったです。というか、結構好きなのかもしれません。

やっぱまず脚本がいいっすね。
映画の小ネタもちょいちょいあるし、話がミステリっぽいのも多いし、小林賢太郎と趣味が合いそうなんですよね。
しかしミステリっぽい作り込まれたネタがある一方で、アドリブとしか思えないやつや没ネタをまとめたとしか思えないやつなど、勢いで押し切るやつもちょいちょいあって、知的なのかバカなのか......という紙一重感が良かったです。
そして演技力もすごい。特にセリフとかよりパントマイムっていうのか、シンプルなセットで小道具とかもないんだけどあるみたいに動くのが上手いんですよね。このパントマイムでなんか小道具が実際にあるよりもむしろ引き込まれてしまいました。



本作が第11回の本公演らしいですが、とりあえず今後もこれ以降のやつを順々に見ていこうと思います。

では以下各話の感想。
ちなみに私はDVD買ったけど全部Youtubeでも観れるみたいですのでよかったらぜひ。



「本人不在」

今回こうやって実質初めてラーメンズを観た、その1本目のネタがこのネタで良かったと思います。
大仰なパントマイムの構えから何かと思えばそれか〜という冒頭のちょっとした謎と解決を皮切りに、小ボケを繰り返しながらもところどころで今まで見えていた話が姿を変えていく様もミステリ的。
オチも意外性はないものの綺麗にまとまってるし、ミステリファンが楽しめるコントでした。
これはハマるかも......と初っ端から思わされましたね。



「エアメールの嘘」

卒業旅行という大きなテーマは軸にありつつも話があっちゃこっちゃへ展開する不思議な話でした。
その中でタイトルにあるエアメールの嘘の部分はやはりちょっとミステリーみを感じたりもしますが、むしろ映画ネタのところで大好きな映画の略称が面白おかしく使われていたのが嬉しかったです。小林さんもミステリ好きっぽいからあの映画絶対好きだよね。



「レストランそれぞれ」

タイトルにある「それぞれ」.の表現の仕方が斬新すぎるんだけど、あまりにしれっとやるから一瞬これが普通なのかなと思ってしまいました。
そして、その手法によって起こる"ズレ"を笑いに変えるあたりは地味に技巧的だと思います。
タイトルからも想像できるように群像劇っぽい構成になっていますが、いい話っぽい部分とシュールでわけわかんない部分の落差が激しくてそこも笑っちゃいました。



「怪傑ギリジン

出オチやんという感じだけどそこから訳のわからないことを一人で言い続けるのは圧巻(?)。
脚本はあるんだろうけど、どこまでが脚本でどの程度アドリブなのかが全然分からない、面白いという意味でのぐだぐだ感が最高っすね。ここまで作り込まれた話ばかり観てきたので箸休め的に観れるとともにこういうのもやるのかと驚かされました。



「小説家らしき存在」

からの、こちらはガチガチのミステリー/スリラー。
あまりにもくだらない作家先生の話の内容に苦笑に近い笑い方をしていると、いつの間にか周りの空気がシリアスになって、そこからは笑いとハラハラとの緩急がすさまじい。
オチとかどんでん返しとかがどうこうではないんだけど、この設定そのものにミステリのトリックに近い驚きがあり、それを軸に宙ぶらりんな状態のサスペンスを展開して行くのにぐいぐい引き込まれてしまう傑作です。



「マーチンとプーチン2」

からの、またシュールすぎて全然わけわかんないんだけどなんか面白い系のやつ。
アフォリズムのように短い冗談ともなんとも付かないものが連ねられていくだけのネタで、コントに組み込めなかった没ネタを集めたのでは......などとも思ってしまいますが、これはこれで楽しいっすね。詰め合わせ感が。
それにしても2ってことはこれより前の公園で1もあるんですかね。恐るべし。



「蒲田の行進曲」

タイトルの通り『蒲田行進曲』を下敷きにしているらしいですが、不勉強なもので観たことなくて、あらすじを調べてみてやっとこのネタの意味が分かったりなどしたわけですが。
でも知らなくても良いっすね、これは。
意外性の強い2人の関係性。下手すれば小林さんのキャラの気持ちが全く分からなくなりそうなところを、説明しすぎずにしっかり感情移入出来るように持っていくのが上手いっすね。
バカバカしさからだんだんと泥臭い青春ドラマのようになっていって、バカバカしさも照れ隠しなのかななんて思ったりもしたり。
しかし片桐さん演じるあほんだらのろくでなしのあの不思議な魅力はなんなんでしょう。好きです。